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ROCKIN'ON BUZZ 9月号
テキスト=鹿野淳
撮影=HIROMIX

今、ここに暴かれるエレクトリック・ニュー・フロンティアの実像-FUJI ROCKのトリを奇妙にこなした"テクノもののけ大王"エイフェックス・ツインことリチャード・D・ジェイムスと、その霊峰を拝むことなく涙をのんだ"動脈硬化ドラムンベース"スクエアプッシャーことトム・ジェンキンソン。

世界に誇る変響オタク師弟コンビが日本のお宅で無邪気に言い放つ、"セックス、ドラッグ&コンピューター・ミュージック"



-用意はいいですか?

T(トム・ジェンキンソン)「(取材用マイクに向かって)ブヒーブブブーッ!」

-な、何すんの!?いきなり。

T「おう、(缶ビール片手に)チアーズ!」

-あのさ、もしかして完全に酔っ払ってるんだ?

T&R(リチャードDジェイムス)「いや全然」

-まあいいか。まずリチャードに質問なんですがフジ・ロックのステージはどうでした?

R「イってた」

-はあ?あなた、ライヴ中に犬小屋の中でコンピュータいじくりながら、とうとう一度もステージに出てこなかったんですがあれは一体何をしていたんですか?

R「だからマスかいてたんだって」

-やってたのか、お前はっ!噂によると、そのイッてた犬小屋の前で、つまりステージ上で踊り狂っていた変人の中にトムが混じってたというんだけど........。

T「俺もマスかいてた」

-だってステージにいたんでしょ?

T「だから楽屋でシコシコと.......。いや、えーとマジな話、確かにステージにいたよ」

-おまけにちんぽ出してる人間が一人いたけどさ、あれ、あんたの弟だったって聞いたんだけど。

T「弟は熊のぬいぐるみ被ってた方。ちんぽ出してたのはコーニッシュって奴」

-なんかよくわっかんねえなあ(笑)。トムに質問なんだけど、フジでステージできなかったってことは、あんた要するにリチャードのダンサーとして富士山くんだりまで来たってことになるんだけど、それでいいわけ?

T「リキッドルームでギグやったじゃん」

R「それに二日目の版は俺がトムのダンサーやる予定だったからいいんだよ、別に」

T「リチャードは昔、俺のライヴでMCやってたしさ。90年代頭のレイヴの頃の話だけどさ」

-あのう、二人は.........。

T&R「キーギギギギー、ドッッピユーン」

-マイクで遊ばないでくれよおっ!トム、あんた目が据わってるけどホントに大丈夫?

T「もうベロベロ.......。嘘々、この程度じゃ全然酔わないって」

-よく二人で飲みに行ったりするんですか。

T「ゲェーッ、ゲゲゲゲッ」

-吐くなよぉぉぉぉ。もう二人のためにこっちは8ページも用意したんだから真面目にやってくれなきゃだよ。

T「わかった。えーと何?二人でよく飲むか?........うん、まあね」

R「一ヵ月に一回くらい。つまり三十日に一回」

T「満月の夜には必ず」

-.......これがテクノの秘境といわれるエイフェックス・ツインとスクエアプッシャーの実体かよ。あなた方は一日三時間もベースを練習するトム・ジェンキンソンと一日に四曲も作るリチャードさんなんですけど、高尚な音楽談義に花を咲かせることはないの?

T「だって高尚な人間じゃないもの、僕は」

R「ヒッヒッヒ」

T「........はっきり言って、二人ともそれなりにIQが高い人間だと思うけど.......、ただ知的な言葉で音楽を語ることに意味を感じない。大抵結論は下らないし」

TOM&RICHARDR「大体、二人で音楽の話なんかしないよな」

T「そうそう。心が通じ合ってるからESPでコミュニケーション図ってるんだ。言葉は無用」

R「そもそも音楽の話するの嫌いなんだ。言葉にすると音楽がだめになっちゃう」

-やっぱり音楽ってのはすごい個人的なところで作られてる秘め事って感じなのかな。

R「いや、そういうんじゃなくて........。単に言葉が音楽を殺してしまうと思うんだ」

T「話す意味なんてないじゃん。.........何か突然シリアスになってんな、俺たち」

-「リチャードは希望の光だ」とまで言ってるトムにとって、エイフェックス・ツイン及び、リチャードの音楽はどう映り、どんな影響を受けたのですか。

T「気の利いた、いい音楽だと思った。最初聴いた時はアシッドで頭がトリップしてたから頭がぐるぐるまわってただけだけど。あのさ、よく知的な音楽をやろうとして古臭くしか聞こえなかったりするじゃん?俺はリチャードの音を聴いて初めて、ああ音楽を作るということはカッコつけなくていいんだなと思ったんだ。とにかく90年代初頭ってインテリとされているエレクトロニック・テクノ・ミュージックっと、キメてる奴がやってるブレイクビーツっていう二つの流れがあって、俺は両方とも好きだったんだ。で、ちょっと単純化すれば、リチャードのはこの二つを融合させてたんだよね。それで人がどう思おうと好きなことやってていいんだな、って。もしかしたら誰か気に入ってくれるかも知れないし。ま、気に入ってくれなくても、どってことないや、みたいな」

-じゃあ、リチャードに聞きたいんですが、あなたはこのハイパー・ドラムンベースの上で、ジャコ・パストリアス並みにブイブイ嬉しそうにベースを弾く男を見て何を思ったのですか。

R「うん、君が言った通りのことを思ったよ(笑)。ジャコ・パストリアスは思いつかなかったな。もっとも当時はジャコ・パストリアスって誰だか知らなかったけどさあ。」

-どういう意味であなたのレーベル、リフレックスからデビューさせたのか、経緯を教えてください。

R「素晴しい音楽だと思ったから、ぐふっ」

-で、具体的な経緯は?

R「忘れた」

-.........あのさ、飲んだ分だけでも語ってくれよ。

T「おう。95年の10月頃にテープ渡したんだ。初めて会ったのはもっとずっと前、クラブで僕がストレートなテクノをやってた頃。といっても単に友達どうしで盛り上がるためのもんだったんだけど。ま、とにかくそこにリチャードが遊びに来たりしてて、次第にコーンウォール=エセックス同盟が成立したってわけ。コーンウォール(リチャードの出身地)とエセックス(同トム)はイギリスでもっとも重大なニ大都市でさ」

-嘘つけ。ええと、リチャードあなたはこの変な眼光で変に目の据わった男と、そいつの変な音楽を聴いてどう思いましたか。

R「一発で意気投合した。ホント言うと俺が初めてトムの家に遊びに行った時、こいつはやたらアガってた(笑)」

T「そうそう(笑)」

R「ベロンベロンになっちゃって、寝室でスケボーやり出して、ぶっ倒れて機材壊した(笑)」

-最低だな、あんた(笑)。二人の中でお互いに酔っ払いであるということ以外にシンパシーを抱く部分を教えて下さい。

R「だからセックス・ライフ........第一、俺たち、酔っ払ってなんかないぜ。少なくとも俺は素面だっ」

T「俺だって超ノーマルじゃん、酔っ払い呼ばわりすんなよ。えーと、何だっけ質問は?ああ、シンパシーね、シンパシー感じるのは実に絡み合った多層的なレベルにおいて、だな」

-...........(ホントかよ)..........。

T「いや、マジだってば。だから馬鹿騒ぎのレベルでもシンパシーを感じるし。というのは俺たちは馬鹿話ばっかしてるからさ。」

-...........(うんうん)..........。

R「ぐふっ(笑)」

T「それからシリアスなレベルでも対等に話し合える。これは本気で言ってるんだぜ」

R「なあ、一言いっときたいんだけど、俺にとっては今のシチュエーションってとんでもなく異常なわけよ。突然日本の家まで連れて来られてさ。靴まで脱がされてさ。そこ、わかっといてくれよ」

T「異常過ぎてノーマルに話なんかできないよな。もっとも俺は今、実にノーマルな状態なんだが(笑)。とにかく俺たちは極めてノーマルな神経細胞を持ったノーマルな人間二人組なんだ。一言で言えば単に気の合うダチだってことだ」

-真面目に説明して欲しいんだけど、音楽的にシンパシー感じるところって何なの?

R「うーん、わかんないな」

T「基本的に二人とも信じられないくらい退屈かつ世界から見放された街の出身だということじゃない?お遊びで曲作って、自分たちでシーン作ってくくらいしか楽しみがなかったんだよ。友達も喜んでくれたし。最初は適当にレコード聴いて『くーっ、カッコいい』とか思ってただけで。そのうちもっと自分の趣味に合う感じに変えちゃえと思って自分で作り始めた。よく車にレコード積んで、友達と町外れに出てって、音楽に合わせて、踊ったり、飲んだり、ラリったりしてたな。リチャードなんかたった十人の観客の前でギグやってたって悲しい話もあるしな」

R「ヒッヒッヒ...............はぁ」

T「つまり俺たちの故郷ってのはホントにうらぶれてて......」

R「泣くなよ、ボケ」

T「涙を抑えてんだよ、アホ」

-(笑)あの、リチャードは本当に喋んないんですけど、いつもこんなにシャイなんですか。

R「うん、..............元々超恥ずかしがり屋でね。こういう仕事始めてからは少しはましになったけど、まだまだだよな」

T「俺は昔ヘヴィメタ・バンドにいたから全然シャイじゃないぜ。ヘヴィメタ・バンドって世界で一番恥ずかしいもんな。シャイだったらまずやってらんないな。ラリってタマキン出してるくらい恥ずかしいよな」

-まあね。

R「この発言カットすんなよ。これが俺たちの真実の姿なんだから」

-あなた方の音楽がかつてない不思議な音楽として聞こえてくるのはイタズラを起こそうとする気分がそのままピュアに音楽になっているからではないか、と思うわけですが、どうでしょうか。

R「女にモテたい、それだけだよ」

-嘘つけっ。女にモテたいと思って作るような音楽じゃないだろ、これは。

R「まあな、大体、名前が売れるまで、俺の音楽がいいって言ってくれる女なんて皆無だったもんな。コーンウォールには女のファンが三人くらいいたけど、別にどってことない女だったし.........」

T「結局、あらゆる人間の行動は生存本能と結びついてるわけだ。俺たちが音楽をやるのも生存本能の表れなんだよ。昔だったら森を駆け巡って狩りをしてたりするところを、二十世紀の今だから音楽をやるんだよ。この世のすべてが遺伝子の教えに基づいて動いてるんだ。俺たちの音楽もその文脈にあるわけ。生存するには女にモテなきゃならない、だから音楽をやる。それだけだよ」

R「ヒッヒッヒ」

T「すべては性交本能だよ、これホント」

R「お前、いい加減にしろよな(笑)」

-(お前もいい加減にしろよ状態の鹿野)あのお、女にモテたいならトムの大好きなハマーとかジェームス.ブラウンになればいいと思うんだけど、あなたたちの音楽には無邪気な自分が無邪気で居続けたいっていうメッセージがすごく入ってると思うんだけど。

R「でも、メッセージ性のある音楽なんてやってる気なんてないよ。好きな音楽作ってるだけで。誰もやってないような音楽をやりたいし.........。それが結構簡単なんだなあ、というのも誰も彼もがおんなじような曲作ってる昨今だから」

T「さっきからイタズラっ子とか無邪気とか何言ってんだ?ちなみにリチャードはいじめっ子ではあったけどな」

-ああ、それすっごいわかる。蛙に爆弾つめたりしたでしょ?

T「オェーッ」

-じゃあ、イタズラ少年じゃなくて、ラッド的とか?

R「全然ない。イギリス人のラッドの連中ってホントいらいらするよ」

T「ラッド的な人間が入れ込んでいるのがノーマルな音楽なんだよ。ハウスとかガレージとか、ドラムンベース、テクノ.....。何でもいいけど、ああいうもんを聴いてる連中はみんなラッド。うんざりする」

-二人の音が無性に攻撃的に聞こえてくるのは二人のイタズラ心とユーモアセンスがヴァイオレントだからだ、と思うんだけど。

R「いや、単に退屈してるからだよ。退屈だから何かしたいじゃん」

T「時代状況からして何もしなくてもパンが食べられる時代じゃない?イギリスだったら毎週木曜日に失業保険受け取りさえすれば後は何もしなくても生きてはいけるんだよ。僕らが曲を作ったりするのは絶望とか音楽がないと生きていけないとかいう切実なもんからじゃなくて、単にすべてに飽き飽きしてるからなんだよ。することないんだもん。それにしてもお前の七面倒くさい質問を通訳してる彼女、可哀相だよな。よくやってるよ」

R「なあ、そうだよな、うんうん」

-問題をそらさないでください。ただ自分たちも無邪気なイタズラ心から音楽をやってるっていうのはあてはまるわけですね。

R「いや、少なくとも俺はそういう気はない。考え方としては面白いと思うけど、個人的には別に実践してないよ」

T「俺はあるよ。他人を小馬鹿にするために音楽作ってる気はする。ただこれ以上は説明しない。さっきも言ったろ?俺は自分が聴きたい音を作ってるだけ。.........ついでに音楽を言葉で説明するなんて意味ないよ。もしかしたら君の解釈は全部当たってるのかも知れないけど、僕は自分の音楽を言葉で理解したいとは思わない。自分は音楽を作ってる、僕にわかってるのはそれだけだ。あのさ、こうやって質問をカスってばっかいるから僕らが単細胞なアホだと思ってるかも知れないけど、イギリスのプレスはなぜ音楽をやるのかなんて聞いてこないんだよ。イギリスだと、ただ音楽をやる、楽しむ、それで通じてるみたいだしさ。まあ、なぜ?と疑問を問い掛けることは重要なんだろうな、おそらく。つまり誰もなぜ?って言わなかったから、保守党が十四年も政権を握るなんてことになっちゃったんだろうしな」

-はははは。あなた方の場合、ドラムンベースのみならず、すべての音楽にとって「異端の音」であると思うのですが、断絶感や孤独感を感じませんか。

R「だからいいんじゃないの?誰かとつるんだりしたくないし.........。」

T「なあ、便所どこ?」

-あっちです、(ほっ、一人になった)。

R「ダチと一緒に音楽をやるってのはアリだけど、音楽的に誰かと軍団組んだりするのは全然興味ないな。つるむと段々似てきたりするじゃん。聴いたことあるような音とか出したくないし........、新しいことにしか興味ないもん」

-そういった意味で人々の裏をかく、すべての物事を裏切りたいという特徴があるんじゃないかと思うんだけど。

R「僕の音にそういう要素があることは知ってる。あとダチや他の人が僕のサウンドを気に入ってくれることも知ってる。でも音楽やるのは他人やダチを喜ばせるためじゃないし、人の期待を裏切りたいからでもない。あくまでも自分のためだって」

-逆に聴き手や世界に対して愛情を持って音楽を作ってるという意識はありますか。

R「ない」

-あーそうですか(笑)。僕はあなたみたいな音楽がベスト・テンなんかに入ったら音楽界にとってすごくいいと思うんだけど、そういう野心はないの?

R「うーん、とりあえずノー。..........ただ入ったら実は嬉しかったりはするだろうな。でもそういう野心はまったくないし、一位になろうと思って音楽を作るなんてアホだとしか思えない」

T「(トイレから戻り)なになに、何の話?」

-チャートに入ることについてどう思いますか?

T「僕はリスナーを絞りたくないし、沢山の人が聴いてくれるにこしたことはないけどね。ただNMEチャートなんて信じてないしな。俺のレコードが載ってた例しがないもん」

R「俺も見たことない」

T「チャート作って喜んでる連中って完全に俺たちと違う種類の人間なんだよな」

R「チャートのレコードなんてクズばっかりだから、むしろ俺たちのがチャート・インしたら逆に心配になるよ。.........この間考えてたんだけど俺が音楽やってんのは巷に溢れてる音楽がつまんないからなんだよ。で、巷に溢れてるってのはメインストリーム、つまりチャート系ってことだ。仮に俺の音楽がメインストリームよりも売れたとしてら、それはそれで自分の音楽がイヤになっちゃうんじゃないかなあ」

-だからそうやってチャートを塗り替えればいいじゃん!

T「そういう問題じゃないんだって。俺たちのだって実際はチャート並に売れてんの。でも絶対にチャートには上がらないんだよ」

-何それ?

T「だからぁ、イギリスのクソ音楽誌は絶対に俺たちのレコードなんてレヴューしないし、チャートに載せたりしないんだよ。俺たち、レコード売って飯喰っていけるくらいはちゃんと売れてんだよ。でも絶対チャートに載ったりしないの。どういう仕組みかわかんないんだけどそうなんだよ。多分、チャートってジャンル別に作られてて、俺たちのは世間のジャンルにはまんないからかもな。ドラムンベースとかテクノって感じでもないし」

R「でもマジな話、お前、チャート・インなんかしたらどう思う?俺はビビっちゃうよ。なんか人格改造されたんじゃないかと心配になるよ」

T「あり得るな。とにかくチャートってのはDJ中心に作られてんじゃん?で、自分のレコードがクラブでかかってんのなんて一回しか聴いたことないし、そん時は俺の友達がまわしてたしさ。ホント、俺のレコードを外で聴いたのなんてその時とリキッドルームだけだな」

R「イギリスの音楽誌なんて腐ってるしな」

TOM&RICHARD-被害妄想じゃなくて?

R&T「(一斉に)違う違うっ。だから俺たちはノーマルなんだよっ!」

-悪い悪い。いや、この質問の本質はさ、あなたたちの音楽は別に冷たいものじゃなくてすごく実は人々にとって優しいものじゃないかと思うんですよ。ただあなた方の場合は人々に愛を与えようじゃなくて、自分を愛することから始めようって聞こえてくるんですよ。

T「セルフ・リスペクトってことな。それはずばり当たりだ。俺たちは自分たちが才能に溢れてるって自覚がある。で、俺たちの才能で他の人間が楽しんでるなら素晴しいと思う。でもこれは人を喜ばすために音楽を作ってるのとは違うだろ」

R「そうそう」

-じゃあ、話題を変えてあなたたちのエレクトリック・ミュージックと他の音楽の関連性と意味合いを聞かせて欲しいんですけど、まずジャズはあなた方にとってどういう意味をもたらしていますか。

R「........ジャズって何?俺、音楽をジャンル分けしないんだよね。好きか嫌いか、それだけ。人がジャズと呼んでる音楽に対してだって、俺がいいと思うかどうか、それしか意味がないもん。トムなら答えてくれるよ、この質問。」

-ジャズのフリー・インプロヴィゼーション的なものがあなた方の音楽にすごくフィードバックされてる気がするんだけど。

R「そうなのかね?そういう風に考えないからわかんない」

T「リチャードってホントに音楽のジャンル分けしないんだ。フリー・インプロヴィゼイションも単に彼の心の自由さからきてるものなんじゃないの?俺も同じだよ。何がジャズで何がロックで、とかどうでもいいし、大体コンピュータが鳴らしてるのか、生身の手が演奏してるのかもどうでもいいもんな。結局、何の意味もないじゃん?どれが手作業でコンピュータかなんて作った奴に聞かなきゃわかんないんだしさ。作った奴が嘘つく可能性だってある。好きか嫌いか以外に考えることなんてある?.........いや、ホントのこと言うと、リチャードん家には山のようにジャズのレコードがあるんだ。マジで。でもリッチはそれがジャズだって知らないし興味ないんだ。それにしても何で世の中って何でこう名前を付けたがるんだろう、全然理解できないよ」

R「カテゴリーを意識して音楽やってたら、枠にはまっちゃうじゃない?枠にはまった途端にクソ音楽になっちゃうよ」

-今度はブレイクビーツについて聞きたいんですが、90年代の今、ロックバンドも8ビートもブレイクビーツを導入してるし、ドラムンベースも突き詰めればハードコア・ブレイクビーツであると。そういう中であなたたちもブレイクビーツを多用していますがどんな有効性があると考えてのことですか。

R「単にドラム買う金がなくて他人のを盗んでくるとタダですむから。カッコいい他人のビートを盗む、その考え方自体いいじゃん(笑)?いや、最初の頃はホントにそういう理由でやってたんだけど、今はドラムなんて幾らでも買える。でも俺はドラムが叩けない。で、いいドラマーの音を勝手に頂戴する。そんだけ。ふあっはっはっは」

T「結局、生ドラム使ってるアルバム一枚とっても、使われてるのは全部同じドラム・セットじゃない?ところが俺たちのアルバムの場合一曲ごとにドラマーもドラム・セットも違うんだぜ。ヴァラエティに富んでてカッコいいだろ?いや、マジで。俺の音源はレコード・コレクションとドラム・マシーンだけなんだけどさ。まともなマイクだってないし」

R「いずれにせよ、他人のモノ盗んできて、自分の好みに料理して出すってのはコンセプトとして優れてるよな、うん」

T「サンプリング元のドラマーが俺たちのレコード聴いたら嫌がるだろうな。そういうの大笑いじゃない?」

_じゃあ、自分たちはコンピュータ・ミュージック世代、サンプリング世代の申し子でありパイオニアであるって意識はあります?

R&T「言えてる言えてる」

R「昔のコンピュータ・ミュージックって脳味噌が崩れそうに変で、そういうところがよかったのに、最近少ないよな。理解を超えた変な音楽、すっごく好きなのにさ」

T「そうそう。変な音楽ってはまるよな」

R「最近笑っちゃうのは結構年寄りなミュージシャンとかがコンピュータ使ってて、それなりに知的な人たちなのにいまいちノリがつかめてないんだよね。単に育った時にコンピュータがなかったからだと思うけど。あーいう奴らはやらん方がまだマシだ」

-今の世の中、セックス、ドラッグ、ロックンロールじゃなくてセックス、ドラッグ、コンピュータ・ミュージックの時代だと思うですけど。そういう状態をどう思いますか。

R「あ、それいいフレーズ」

T「俺はわかんない」

R「そうか?俺はコンピュータの上で女とヤリたいけどな」

T「上に乗ってか?」

R「おう」

T「.........お前、完全キれてんな」

-だからあ、セックスとドラッグと同じような快感をコンピュータ・ミュージックから受けられるじゃないかってことなんだけど。

R「うん、そうじゃない?」

T「俺は昔はギターとかベースとか生楽器の方が断然いいと思ってたんだよな。ただの箱みたいな楽器が人の感情とかに訴えられるわけないと信じてたし。初期アシッド・ハウスを聴いてから考えが変わったけどね」

R「今度、裸のムチムチ女を前にレコード作ってみようかな。ダブルでイケちゃう、みたいな。どう思う?」

T「お前、さっきからホントに女の話ばっかな」

-パンツに手が伸びるぜ、まったく。じゃあ、最後の二問です。

T「どんどん質問して。酔っ払う以外にすることないから」

-おう。十年後に自分たちがどんな音楽を作りあげているのか、というのをお互いに討議してください。どういう存在で自分たちがいたらいいかという意味合いも含めて。

T「十年後なんて想像できないよ。人間の想像力を超えてるって」

-じゃあ、五年後。

R「コンピュータが音楽を作るようになってる。作曲ソフトができててさ。ホテルのベッドサイドに"FM、AM、ミュージック"ってボタンがある妙なところがあったけど、あれが音楽の未来じゃないの。"音楽"ってボタンを押せば、何かしら流れ出すっていう。結局、大衆の趣味って最悪だしさ。いや、音楽が好きらしいってことはわかるけど、とりあえず大したもんじゃないだろ。だから"音楽"っていう一つのジャンルだけあればいいんじゃないの。それが望ましい方向とは思わないけど」

T「俺たち、あ、リチャードの方が進んでるけど、もう既に作曲ソフトとか開発してるもんな。すっげえ、面白いんだ、これが」

R「まさに未来の音楽の姿だよな。レコード入れれば勝手にサンプリングして勝手に新曲がでてくる、そういうソフトができると思うよ」

T「三年前、モーツァルトの曲をコンピュータ解析してモーツァルト風の曲を作る実験があったんだけどこれは失敗したって本で読んだことがあるんだ。これも十年後には完成してるんじゃないの。」

-でもそういう世界でのあなたたちの役割は何ですか?何を糧にミュージシャンと名乗るの?

R「そんなことは関係ない。今まで馬鹿にされてきたコンピュータ・オタクが世界を牛耳るようになるんだからさあ。超オタッキーで頭が壊れた数学者なんかが王者になるんだよ。ま、俺なんかはオタクとノーマルの中間くらいだけどさ」

T「パワー・シフトだよね。歴史的にもロシアじゃ権力を握ってたのは貴族だけど、二十世紀には民衆に移ったとかあるじゃん。音楽の世界も同じ。前世紀から今世紀にかけてクラシックからポップスに移行して、段々楽器が機械化してきた。これからは作曲も演奏もすべてコンピュータの手に移ると思うね」

R「学校行ってた頃、クラスで人気のある奴はロックンロール的というか、スポーツができてカッコいい、でも自己顕示欲も強い、みたいな奴だったんだ。でも俺はオタッキーな奴に陽があたるべきだとずっと思ってたんだよ。愚鈍で馬鹿だと思われてたオタクに女が群がる時代がやってきたんだよ!ビル・ゲイツとかさ」

T「............お前、急に力強く何言い出すんだよ!!」

R「いや、マジマジ」

-そりゃ都合のいい時代だ(笑)。読者から質問がきてまして、戦車に乗ったり、ハエがブンブン飛び回るようなサウンドを作ってるお二人様を見ていると、美しきテクノを作るには奇人でないといけないのでしょうか、とあるんですが?

R&T「ノーーーーーー」

T「何か勘違いされてんなあ。俺たちって超ノーマルなんだよ。街歩いてても普通だし、パブ行ったって一杯飲んだらさっさと帰るし。あと音楽やるのにドラッグは必ずしも必要じゃないよ。アシッドも酒もいらない」

R「そうだよな。それから戦車は面白いから持ってるだけだよ。三千ポンドもしなかったし。普通の車買うより安いんだよ」

T「ノーマルだと思ってる連中は世間の"ノーマル"の鋳型に自分を押し込めて安心してるだけじゃん。俺たちは自分に正直なだけだよ。単に人間の本来の姿であろうとしてるっていうか。銀行で一日中勤めてるなんて馬鹿みたいじゃん。わかる?」

-こうやって話を聞いてますと、あなたたちは自分が見てない世界を見ようとする野望がすごく強いってことがわかります。あとクライマックスに達したマスターベーションってのは素晴しい音楽を作るんだということがわかりました。勇気が出ました。

R「その通りだ。オナニーって最高だよな」

T「な。いやマジな話、オナニーってのは自分を知ることじゃん。自分の肉体の構造を理解することなんだからさ。なんで罪の意識を持つんだ?つまりオナニーはセルフ・リスペクトすることなんだぜ?素晴しい音楽と一緒だ」

-最後ですが.......。

T「残念だな。こんなインタビューだったら一日でもしてられるぜ。じゃあ、最後に俺がまとめてやるよ。アルコールは極めて有意義な飲み物だが脳機能を鈍化させる。俺はインタビュー中にウォッカを半瓶あけたから、もう頭が働かない。だからインタビューもおしまい」

-そうか。気をつけて帰ってくれ(笑)。

T「ああ、面白かった」

R「まあな(笑)」


以上がこの洋楽アーティストにいたって珍しい対談という企画の一部始終である。代官山にあるスタッフ宇野の家を取材場所に選んだ時からある種のハプニングは望んでいたのだが...........いやいや、これがテクノ・モーツァルトとされる現代音楽のインテリジェンスの結晶とまでうたわれたエイフェックス・ツインともっともエキセントリックなミュージック・モダニズムの再構築として孤高の評価を集める若きベース仙人スクエアプッシャーの素顔なのである。だが、このうたかた語録の中にこそエレクトロ・ミュージックの無邪気なピュアネスが潜んでいると僕は思いたい。実際に彼らは「やっと俺たちの真実の姿がプレスに暴かれちゃうんだなあ」とホッとしたようなつぶやきを真顔で残して去って行ったのだから。このくだけたフューチャー・イズ・ライト・ナウ語録こそが、リアリティーなのである。翻弄されまくった僕は、自信をもってそう言う。

 あ、健闘してくれたお二人へ。僕は二人が緊張していたあまりに酔っ払った"フリ"をしていたことは、とっくに気付いていたんだぜ。

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