昨年『Feed Me Weird Things』で鮮烈デビューを飾り、ドラム&ベース界に殴り込みをかけた一匹狼、スクエアプッシャーことトム・ジェンキンソン。短いインターヴァルで届いた新作『Hard
Normal Daddy』でも、極上の生ベース+ドラム&ベースを聴かせてくれる。ジャズの未来をも担う、ジャズモポリタンへの質問状。これぞ必読インタビューだ!
JAZZMOPOLITAN ?
(『bounce』5月号〜スクエアプッシャー ・インタビュー / テキスト=
池田義昭)
このところ日本でも盛り上がりつつある最先端ダンス・ミュージック、ドラム&ベース。いままでクラブなんかに寄りつきもしなかったロック野郎も、思わず踊ってしまうからもう大変だ。あの高速ブレイクビーツの〈ジャカジャカ〉サウンドは、あくまでレゲエ・ベースあったジャングルから、テクノやジャズ、ロックなどの要素を吸収してドラム&ベースとして進化したのであーる。そんなドラム&ベース・シーンの中で、いま、本国イギリスのみならず日本のアンダーグラウンドにおいても一番「凄い!凄い!」と騒がれているのが、このスクエアプッシャーだ。なにしろ、ジャコ・パストリアスを彷彿させるバカテク生ベース&細かすぎるほどの打ち込みドラムは、ダンス・フリークのクラバーはもとより70年代プログレ・オヤジまでも虜にしてしまった。先ごろセカンド『Hard
Normal Dddy』をタイミングよくリリースし、来日の噂もちらほら聞かれ、ドラム&ベース・シーン同様もう爆発寸前のスクエアプッシャーことトム・ジェンキンソンにインタビューしました。
---セカンド・アルバムを作り終えての感想は? また前作『Feed Me Wired Things』との違いは?
「前作はイギリスで出たのが昨年の5月で、今作はその後すぐの6〜8月に作ったんだ。前作があれこれ12インチを集めたコンピレイション的なものだったので、今度はもっときちんとアルバムらしいものを作りたかったんだ。並べた曲がお互いを引き立て合うような形で。そこが1枚目と2枚目の違いかな」
---前作同様、あなたの音楽の特徴としてドラム&ベース+生ベースというのがありますが、ベースはどれくらいの割合で弾いているんですか?
「半々かな。でも、明らかに〈生ベースです〉っていうんじゃない扱い方をしてる部分も結構ある。ベースの音というよりパーカッション・サウンドとして聴こえるところもあるしね。だから、それを考えれば半々よりずっとベースを使っている割合は多いよ」
---あなたの音楽はダンス・ミュージックというよりはジャズやフュージョン彷彿させます。作るにあたって、何か意識していることはありますか。
「いや、そういうのはないんだけど。でも、やっぱりギグで多少は踊れそうな曲っていうのは意識して作ってるんだよ。だってそうでもしなきゃ、みんな目をおっぴろげて茫然と立ち尽くすようなことになっちゃうからね。だから一応ダンス・ナンバーは作るけど、自分ではダンス.ミュージックだと思っるわけじゃないんだ。ダンス・ミュージックになれたらいいとは思ってるんだけど。だって踊るっていうのは、音楽を聴いて喜びを表現するのにとってもいい方法だと思っているから」
---あなたにとってジャズとはどういうものですか?
「ジャズのどういうところが一番好きかっていうと、純粋な実験性なんだ。限られた枠組の中に収めておくんじゃなく、既存の作曲方法やアレンジ方法の概念をぶち破って広げていくっていうところがね。楽器をどのように使うかとか、そういうことも含めて。ジャコ・パストリアスなんかベースでパーカッション・サウンド鳴らしてね。そうは言っても、ジャズ・ミュージシャンのほとんどは全然自由なんかじゃないわけだけどもね」
---子供のころはどんな音楽を聴いて育ったんですか。
「父がダブ/レゲエのレコードを山ほど持っててよく聴いてた。あとラジオで気に入ったのをエア・チェックしまくってた。ま、いわゆるポップ・ミュージックだけどもね」
---パンクやニュー・ウェイブは?
「パンクは一度もいいと思ったことはなかったな。アナーキーな音楽は大好きなんだけど、パンクはピンとこなかったんだ。メロディーやコード進行がない音楽だって僕は好きなんだよ、でもパンクに限っては……ゴミみたいにしか思えなくて(笑)。やろうとしたことは評価するんだけどね。70年代の澄ましきったプログレをぶっ壊そうとかね」
---リスペクトするミュージシャンは?
「ジャコ・パストリアス。エイフェックス・ツインのリチャード・D・ジェイムズ。あと……大勢いて答えられないよ……ああジョン・マクラフリン」
---どうしてベースなの?
「それはね、なんだかよくわかんないんだけど、TVで音楽番組を観て、そのときベースの音がすごくいいと思っちゃったんだよな。それと、ダブ/レゲエの影響もあったかもね」
---いまの時代、音楽、特にテクノやドラム&ベースなどの新しいジャンルは移り変わりが激しいわけですが、それに関してはどう受け止めていますか?
「自分としては何年も意味を持ちうるものを作りたいよ。今の流行の作品を出して、いますぐお金を儲けるっていうのじゃなく、僕は気に入ったらずっと気に入ってるってタイプだからね」
---基本的に自分の聴きたい曲を作っているということですか?
「基本的にはね。もちろん他の人に聴いて欲しいと思ってるよ。ただそのための唯一の方法は、自分が好きじゃなきゃってことなんだ。流行もの仕様で攻めるなんて僕には無理なんだ」
---リチャード・D・ジェイムズとのコラボレイションの噂があるんですが。
「もう終わったよ。かなりキてるよ。でもリリースはされないんじゃないかな。もっといろいろ一緒にやってからだね」
---いま、あなたの音楽は日本のクラブでもウケているんだけど、日本についてはどんな印象をもっていますか?
「全然見当もつかないな。うーん、イメージだと巨大な交通信号とかあって……とにかくすごく遠い国って感じ。地球上で想像できる限り最もエキゾティックな土地だな。最も未来的っていうか」
---じゃあ、一日も早く日本に来ていろいろ発見してくださいね。
「うん。ありがとう」
dram'n'bassfromsquarepusherschool
これぞスクエアプッシャー流儀
『bounce』5月号〜スクエアプッシャー 〜 /TEXT= 池田義昭
フロアライクなドラム&ベース(メタルヘッズ・レーベルなど)とは異なった、スクエアプッシャーに代表される変則ビートのドラム&ベースは、まずテクノ・シーンで広がりを見せた。エイフェックス・ツインはスクエアプッシャーの影響を受けたのか?
彼は、大胆にも変則ビートを取り入れたアルバム『Richard
D.James Album』をリリースした。同様に変則ビートを用いた、マイク・パラディナスのミュージックや、ルーク・ヴァイバートのプラグもテクノ・シーンで活躍する人たちである。
それ以外のところでも、ヘッズ系レーベル、ニンジャ・チューンからのニューカマー、アモン・トビンはジャズ的なフリーキーさと緊迫感を注入した、スクエアプッシャーとは比較されるであろう、変則ビートのドラム&ベースを作り出した。この種のドラム&ベースは、ダンス的なものと比べて、踊りやすさにしばられない分、より前衛的で独創的な魅力を感じることができる。
音楽的側面からみたら、ドラム&ベースの進行形と呼べるかもしれない。
しかし、重要なのは、あれこれと区別することではなく、刺激的なビートを作り出すこの手のアーティストの存在を知ることだ。
Jazzmopolitan dram'n'bass!
〜スクエアプッシャーで連想するジャズあれこれ〜
『bounce』5月号〜スクエアプッシャー 〜 / TEXT= 大塚有尋
とりあえずセカンド・アルバムが早々に届いたことに感謝。
曲によっての異なった音楽的アプローチには、最近注目されている他のアーティストたちと共通する感覚の柔軟さが感じられます。全作同様1曲目はやっぱりやってくれましたねえ。どうにもこのクロスオーヴァー・ジャズなフレイヴァーは拒めないなあ。
ドラム&ベースが切り開いた新しいジャズ的表現というより、70年代後半のある種のサウンドにいまのグルーブを加え、音楽的配慮(それにしてもこの人、かなりローファイですよね。ライブ観たときもそうだったけど)をしつつ、シュミレイトしたって感じかな。
そんなに革新的?と訊かれたら返事に困っちゃうし、ジャズ的部分をノスタルジーだといわれても強くは否定できない。ベース・ラインのイマジネイションにしてもそんなに特別ではないしね。だけど、こうゆうカッコイイ曲作る人ってしばらくいなかったじゃないですか!
というわけでついつい思い出してしまうのは、まずジャコ・パストリアス。
ウェザー・リポート時代の『8:30』に収録されている“Teen
Town”でのプレイは今聴いてもスゴイね〜。“Coopers World”の頭のローズ風エレピってジョー・ザヴィヌルですよねえ。
あと疾走感とキメならシャクティ・ウィズ・ジョン・マクラフリンの『Natural
Elements』とリターン・トゥ・フォーエヴァー・フィーチャリング・チック・コリアの『Hymn
Of Seventh Galaxy』。トム.ジェンキンソンくんがここまでやってしまったら、今度は日本からの新しい才能の登場を期待したいな。
ブレイクビーツなウェザーやマハビシュヌ、まってます!
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