INTERVIEW

最新作「パブリック・エナジーNo.1」でアブストラクトなエレクトリック・ファンクを大胆に取り入れ大きな変貌を遂げたスピーディーJことヨケム・パープに電話インタビューを行いました。最近ギターまで購入したという彼。何が彼をそうさせているのか?電話越しの彼はとてもフレンドリーでシャイな感じでした。




-まずはあなたの音楽的なバックグラウンドの話から聞きたいんですが、1982年あなたが自身の音楽を作り出した頃、あなたは専らヒップホップを聴いていたとの事。具体的にはどういうアーチストから、どんな影響を受けたんですか?

ヨケム・パープ(以下JP):特定のアーチストから影響を受けたということはないよ。プラス8が出しているバイオグラフィーでも僕が相当ヒップホップに影響を受けたように書いてあるけど、実際そのころもヒップホップ以外の音楽、例えばロック等も好んで聴いていたし。確かにヒップホップの持つ雰囲気は好きだし、当時新しいヒップホップのレコードがレコード屋に並ぶとそれを買ってはいたけどね。1982年頃に僕が作っていた音っていうのはとても実験的なもので、当時サンプラーは持っていなかったからテープレコーダーなんかを使って、全然ダンサブルとは言えない音を作ってた。

-じゃあ、特にヒップホップだけから影響を受けたという事ではないんですね。

JP:うん。影響はヒップホップのみならず、すべての音楽から受けている。

-ヒップホップはブレークビーツを基本にした音楽ですよね。そしてそのブレークビーツ自体も変化を遂げ、現在ではドラム・ン・ベースに大きく寄与している要素だと思うんですが、まずそのブレークビーツの変貌に関してはどう思います?

JP:人の音楽からビートを含む音をサンプリングしてくるブレークビーツというものは、僕自身あまり関心がないから、そういうことを今まで考えたことがないな。 サンプラーがこの世に現われてから、多くの人達がそれを使って楽曲を作り出したよね。実際サンプリングという作業によって面白い音楽を作った人間もいるとは思う。

-けどもそれによってとても安易に音楽を作る人間が増えたことも確かですね。

JP:そう。 僕自身が作品の中で使っているサンプリングというのは、ほとんどすべてが自分で作った音をそうしている。とても複雑にモジュレイトした音は再現するのがとても難しいからね。

-ではドラム・ン・ベースという音楽に関してはどう考えていますか?

JP:そうだね、今ではドラム・ン・ベースで面白い音を作る人間も増えてきているよね。けどそれと同時にだんだん形骸化という側面を持つようになってきたのも確かだと思う。「こうやってこうやればドラム・ン・ベースのできあがり!」って紙に書いて説明できるようなドラム・ン・ベースが多く存在していると思うし。

オリジナルのスタイルを持ったドラム・ン・ベースはもちろん好きだけど、そういう公式通りの作り方で作られたドラム・ン・ベースは逆に嫌いだね。

-あなたが面白いと思うドラム・ン・ベースのアーチストというと?

JP:そうだなぁ、スクエアプッシャー、ミュージック、フォテックあたりかな。

-ミュージックはあなたの新しいEP「ニ・ゴ・スニックス」のリミックスもやってますね。

JP:そう。

-この「ニ・ゴ・スニックス」ってどういう意味なんですか? どう発音したらいいのかもよく判んなくて困るんですけど(笑)。

JP:はは。意味はないんだよ、何にも。

-えっ、じゃぁどうやって考えついたんですか?

JP:ううん... いやぁ、タイトルっていつも困るんだよねぇ、曲を作ってる時にタイトルは考えてないし、それを仕上げて、マスターをレーベルに渡して何か月も経ってからその曲がどっかに登録される時になって急にタイトルを付けなきゃいけなくなるから。思い浮かんだ言葉を適当にあてていったんだ。作品を登録することは必要みたいだし、そうしないとお金も入って来ないからね。(笑)

-「ニ・ゴ・スニックス」はアルバムには収録されていませんね。今後アルバムからのシングルカットは予定していますか?

JP:アルバムからは「パターン」が次のシングルとして6月にリリースされるよ。未発表の曲をカップリングする予定。 

-ところで、今回の「パブリック・エナジーNo.1」ですが、ヘヴィーなエレクトリック・ダブって感じで、これまでのあなたのアルバムを聴いていたファンたちにとっては驚きだと思うんです。中にはすごく難解だと感じる人もいると思うんですけど...

JP:そうだね(苦笑)。ただ、僕はいつだって過去にやったことの繰り返しはやらない。常に変化し続ける存在だと思うんだ。そうでないとやってる自分が退屈してしまうからね。

-すると今回の「パブリック・エナジーNo.1」はあなたにとっての実験的かつスタイルに囚われない新たなアプローチということですね。

JP:いや、「新たなアプローチ」っていう表現は正しくないと思う。僕はこれまでも、そしてこれからもずっと変化をし続けるんだから。このアルバムは昨年の夏にレコーディングされて、それから半年以上が経ってるから、今の自分はまた違う音を作っているよ。

-確かにあなたの音は変化し続けていると思いますが、今回の変化はこれまでになかったほど大きなものではなかったですか? リスナーの立場としてはそう感じたんですが...

JP:聴く側にすれば確かに大きな変化に思えたかもしれないね。けど自分としてはそうは思っていない。前作「Gスポット」から2年の時間が経っているし。あと、個人的には新しく家を買ってそこにスタジオを作ったから、それも何かしら作用しているのかもしれないけど。

-このアルバムのコンセプトを教えて下さい。

JP:コンセプトはない。僕はこのアルバムのために5時間分の曲を録りためていたから、そこからアルバムにフィットするだけの曲をセレクトしたんだ。

-では「ニ・ゴ・スニックス」などもその中の1曲なわけですね。

JP:そうだね。もちろんこの曲がトップ40になると思ってシングルにしたわけじゃないんだけど(笑)、個人的に気に入ってる曲だから。

-「パブリック・エナジーNo.1」というタイトルをつけた理由は?

JP:僕自身かつて「パブリック・エナジー」という名義でリリースをしていた。2・3年前はそうやって別名義でリリースするのが一つのファッションのような感じだったからね。けど、もうそうすることに何ら意味が見い出せない。もし誰か自分以外のアーチストとのコラボレーションとかだったら話は別だけど。同じ人間が同じスタジオで録音しているんだから、それを別々の名前にするのはいささかナンセンスだと思って、それでこのアルバムを「パブリック・エナジーNo.1」とすることでこのスピーディーJとパブリック・エナジーを一つにしようと思ったんだ。

-では今後パブリック・エナジーをを含む別名義でのリリースは一切行わないということですか?

JP:そう。

-ではあなたがそういった別名義でのリリースを行っていた「ビーム・ミー・アップ」レーベルの活動は今後どうなるんでしょうか?

JP:レーベルは1年前から休止状態にしているんだ。ディストリビューターの問題なんかが主な理由なんだけど。

-今回のアルバムが「パブリック・エナジーNo.1」ということは、No.2が発表されるんでしょうか?

JP:かもね。(笑)

-ジャケットのアートワークも素晴しいと思うんですが、これには何かコンセプトがあったんですか?

JP:いわゆる「テクノっぽい」ジャケットにはしたくなかったんだ、コンピューター・グラフィックを多用したような。だからジャケットには写真を使おうと思って、とうもろこし畑に僕のロゴマークを入れたものにしたんだ。

-ライブも予定されていますよね。どんな内容ですか?

JP:アルバムの内容とはまた異なって、もっとダンスフロア・オリエンテッドなものにする予定。トラッシュ・ライト(Trash Light)という会社を運営しているライト・アーチストのロバート・ブロックランド(Robert Blokland)がステージ用のオブジェを手掛けてくれている。

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-その際DJもやっていくんですか?

JP:いや、DJはやらない。今は音楽を作ることの方に力を注いでいるからね。

-では最後にあなたのオールタイム・フェイヴァリットの一枚を挙げて下さい。

JP:うぅ〜ん、今は思い浮かばないな。一枚じゃなくちゃいけない?

-じゃぁ、複数でもいいですよ。

JP:うぅ〜ん、うぅ〜ん、やっぱ浮かばないや。(苦笑)

-オーケイ。じゃあ もうひとつだけ、日本のファンに何かメッセージがあったら。

JP:このアルバムを楽しんでもらえれば嬉しいね。



1997 (C) SONY RECORDS, a group of Sony Music Entertainment (Japan) Inc.



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