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各アーティストからのコメント
by 佐久間英夫


 いや〜、遂にやっとベースメント・ジャックスの作品が日本でリリースされることになった。おめでとうございます!これほどまでにクラブ・シーンを中心にヒットをガンガンに飛ばしていながら、しっかりと日本で紹介されてこなかったのは恐らく彼らぐらいのものではないだろうか。ベースメント・ジャックスはまさにUKクラブ・シーンの最終兵器とも呼べそうな、そんな超期待の新鋭中の新鋭でなのである。

PHOTO ベースメント・ジャックスは1994年にサイモン・ラトクリフとフィーリックス・バートンによってサウス・ロンドンで結成された。当時サイモンはサルサ、サンバ、ファンクなどパーカッシヴでトライバルなラテン音楽に傾倒、またフィーリクッスはシカゴ・ハウスにどっぷりとハマっており、その二人の持ち味が物の見事に融合されたのがこのベースメント・ジャックスだといえるだろう。サイモンの自宅スタジオでレコーディングを始め、自分達のオーガナイズしていたブリクストンのメキシカン・レストランでのパーティでそのトラックをプレイしたところこれが大評判。すぐさま自分達のレーベル、アトランティック・ジャックスを同94年に設立しシングルを続々とリリースしていくことになる。

 その作品はまたたくまにDJを中心に一気に世界中のクラブへと飛び火した。ハウスが基本ながらもヘヴィでボトムの効いたビートはテクノ・シーンのDJ達にも熱烈に支持され、ケン・イシイやジェフ・ミルズなどベースメント・ジャックスのことをフィバリットに挙げるアーティストはとても多いのだ。もちろんハウス界ではアーマンド・ヴァン・ヘルデンやアシュレー・ビードル、カシアス、スターダスト、ダフト・パンクなどトップ・クリエイター達がこぞってベースメント・ジャックスのことをリスペクトしている。日本でもクラブ・ミュージックにちょっと精通した方ならナショナル・チャートにも入った"Flylife" や"Samba Magic"などのヒット曲を耳にしたことがあるのではないだろうか。またペット・ショップ・ボーイズなどビッグ・アーティストのリミックスも手掛け、まさに今大爆走を続けている状況なのだ。

 そんなクラブ・シーンの現場では超ビッグである彼らを大手のレコード会社はみんな狙っていた。なんとか獲得して大きく売り出したい、そう思っていたに違いない。激しい争奪戦の結果、見事にベースメント・ジャックスを手にしたのはプロディジーでお馴染みのXLレコーディングスだった。XLレコーディングスは周知のようにUKクラブ・シーンの黎明期からハウスやラガ・テクノ、ジャングル、ビッグ・ビートなどあらゆるダンス・サウンドを送り出してきた老舗中の老舗だ。ベースメント・ジャックスのカラーに見事にマッチしたレコード会社ではないだろうか。またXLとしてもベースメント・ジャックスはプロディジーに続くビッグ・ネームになると確信したのだろう。破格の契約となったという。そしてこうして今やっとみなさんの手にこのファースト・アルバム「Remedy」があるというわけなのだ。



PHOTO さて、このベースメントジャックスのサウンドを聴いていただければお分かりように、実に様々な音楽的要素が所狭しと取り入れられている。ラテン、サンバ、ソウル、ファンク、ジャズ、Pファンク、マンボ、シカゴ・ハウス、ラガ、ガラージ、ディスコ・・あらゆるダンス・ミュージックの範疇をミックスしてベースメント・ジャックスのフィルターを通すことでこういった音になるのだ。確かにこういったテイストのハウス・サウンドというのは世の中に大量に氾濫している。そこでベースメント・ジャックスが一歩抜きん出ているのは彼らの異常なまでのサウンドひとつひとつに対するこだわりと、天然ともいえるグルーヴ感のセンス、またとことんまで盛り上げる展開を追求した結果であろう。ベースメント・ジャックスはこれでもかってくらいに盛り上げる。ちょっと周りが躊躇してしまいそうなこともガンガン実践してしまうのだ。この冒険こそがベースメント・ジャックスがベースメント・ジャックスである所以ではないだろうか。

 さらにそんな彼らの音楽性をはっきりと表現しているのがライヴ・パフォーマンスである。ぼくは運良くイギリスのシェフィールドで彼らの強烈なライヴを目の当たりにすることができた。そのパーティは大規模なもので、クラブが三つのスペースに分かれていて、地元の有名なテクノ・レーベルWARP、今や爆発的大人気のビッグ・ビートの総本山SKINT、そしてベースメント・ジャックスのライヴという強烈な組み合わせ。その時ぼくはWARPのコーナーで行われるアンドリュー・ウェザオールのDJやプラッドのライブをレポートすることになっていたのだが、隣のスペースから聞こえてくるバキバキに盛り上がったラテン・ビートに誘われて行ってみると超強烈なベースメント・ジャックスのライヴが繰り広げられていたのである。ついついWARPよりベースメント・ジャックスが気になってそのライヴに釘付けになってしまったのだ。そのライヴ・ステージはというと・・。

 まずはサイモントとフィーリックスが軽くDJ(ライヴ用につくられたホワイト盤?)でスタート。そしてしばらくするとパーカッショニストが登場して彼らのDJに合わせて生パーカッションを叩きまくる。それからステージに二人の美人セクシー・ダンサーが上がり、リオのカーニバル系のド派手な衣装で踊りまくり!さらにしばらくして黒人の司会者(?)のような人が出てきて、客を煽り立ててラガ系のMCを紹介。このラガMCがすごく個性的でとにかく延々と語尾を上げながらMCする(このアルバムの3曲目のMC)。あまりににもクセが強くてしばらく耳からはなれなかった。さらにさらにもう一人別のラガMCが登場して盛り上げる。こんな感じでとにかくもう完璧なるお祭り騒ぎで強烈な空間を作り出していた。なんていうか、ちょっとぼくらが持っているイギリス人アーティストのイメージっぽくないっていうか、スカッとヌケまくった爽快感があった。今年の夏にはベースメント・ジャックスの来日ライヴも実現するようなので、是非とも強烈な彼らのステージを体験してもらいたい。



JACKET XLレコーディングスからのデヴュー作であり、ファースト・アルバムである本作「Remedy」はおそらくクラブ・ミュージック・シーンにとってまた大きな衝撃になることは確実であろう。またシングル・カットが決定している「レッド・アラート」に参加しているヴォーカリスト、ブルー・ジェイムスにも注目してもらいたい。UKガラージ・シーンを代表するようなソウルフルで張りのあるすばらしい歌声である。そして彼らの十八番ともいえるトーキング・モジュレーター、あるいはヴォコーダー的なメロディ、ラテン・フレイバー、トライバル・パーカッション、フィルタリング、ラガMCなどリスニング・ミュージックとしても聴き応えが十分にある。出来ることならなるべく大音量で踊りながらこのアルバムを楽しんでもらえれば幸いである。

 先日ナンバー1になったNYのアーマンド・ヴァン・ヘルデンやダフト・パンク、スターダスト、カシアスといったフランス勢がハウス・シーンで盛りあがる中、UKハウスの連中がちょっと元気が無いようにも感じられたが、ここにきて遂にベースメント・ジャックスという最終兵器が登場した。まさに彼らはとうとう表舞台に出てきた最後のビッグ・ネームである。恐らくこのアルバムをきっかけに彼らがますます活動の場を広げることは確実であろう。世紀末、そして来るべき21世紀にむかってベースメント・ジャックスはダンス・ミュージックが地球上に存在する限りひた走りつづけるのだ

(佐久間英夫)

Basement Jaxx とは? 各アーティストからのコメント 「REMEDY」ライナーノーツ
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