teamwork
AICT-48 / 2,520yen (TAX Incl.) / 1998.2.27 on street!
liner notes
by KEN=GO
 共作、チームワークという作業にマイクが開眼したのはここ最近のことではなくて、彼のキャリアでは比較的初期にヒットしたMARMIONがマルコス・ロペスとの共作だったのを思い出してみればよくわかる。その後も(裏方的作業ではあったが)DJヘルのファースト・アルバムを手伝ったり、卓球やトビーとシングルやリミックスで共作したりという実験を経て、とうとうアルバム全部を友達との共作で作ってしまうという挑戦に至ったわけだ。
 98年に来日した際、すでにこのアルバムの計画がある程度決まっていて、インタヴューで共作することの面白さみたいな話を聞いたら、結構マイクらしい答えが返ってきたのを覚えている。その頃ちょうど公開直後だった映画「フェイス・オフ」を引き合いに出して、マイクは共作というのはあの映画の中でのジョン・トラボルタとニコラス・ケイジの関係に似てると話してくれた。あの映画では、刑事と悪者だったふたりが、手術で顔を入れ替えてしまうことで、外見上は自分の敵になるという複雑で難しい役作りを要求されていた。「共作も、自分のエゴだけを出してオレがオレがと主張すると失敗する。相手へのリスペクトがないと。相手になりきって、相手の良さを見つけるくらいのつもりでやらないと。そうやって二人の中間で新しいモノが生まれるんだ」と。
 たしかに、ここで聴ける曲は、いずれもソロでも活躍してるひとたちとの共作であるにもかかわらず、この部分はこのひとのテイストで、この辺はマイクのテイストみたいに単純にふたりの別々の曲を貼りあわせただけの出来に聴こえるとか、もしくは一方のひとの個性だけが際だちすぎているようなことはない。それは実際にアルバムを聴いてもらえばわかるだろうし、また、ここに参加しているひとたちのソロの作品を聴けば余計にはっきりわかるはずだ。

 それから、このアルバムの裏テーマ(?)になっているのは、たぶん遊び感覚なんだと思う。ジャケットがスクラブル(プレイヤー各自に配られたアルファベットを組み合わせていかに難しく長い単語を作れるかを競うボード・ゲーム)だったり、アーティスト写真が全部パズル状になっていたり、曲のいくつかがゲームをテーマにしたり、ゲームのSEをサンプルしているというように、アルバムのあちこちからその楽しげな制作過程の様子が漂ってくる。実際、ロンドンでクロード・ヤングとの録音中のスタジオに遊びに行ったフロッグマンUKのスタッフの話によれば、ふたりはずーっとゲームをやってたらしい(笑)。

 マイク自身が、今回の参加アーティストについて解説してくれているので、アーティストについての言及は必要ないかと思ったが、ほとんどの解説がジョークに終始していることもあって、もう少しちゃんとした解説をしてくれという依頼があったので、改めて全員のキャリアについてさらっとおさらいしよう。

 クロード・ヤングはもともとデトロイトで活動していたアーティスト/DJで、日本でも何度かプレイしているので、そのスクラッチバリバリのヒップホップ系で派手なプレイを聴いたことがあるひとも多いのでは。現在はロンドンに引っ越して、ヨーロッパを中心に活動してる。日本では、ソニーからリリースされた『攻殻機動隊』のゲームのサントラにも彼の曲が収録されている。そういえば、『DJF 』の第5弾は、このひとになるかもしれないという噂もある。

 ヒューメートはトランス全盛期に台頭したドイツのアーティストで、活動初期はベルリンのMFS、現在はハンブルグのスーパースティションから作品をリリースしている。彼の曲で最も有名なのは、マイクも触れている“ラヴ・スティミュレーション”だろう。美しいこの曲は、大胆にアレンジを施したポール・ヴァン・ダイクのリミックスの完成度も手伝って、世界中で大ヒットした。最近はトランシーではあるが、もっとミニマルなテイストの曲を手掛けている。

 ポジティヴ・シンキング名義でMFSからいくつかのシングルを発表しているヨハネスは、マイクの旧友のひとり。あまりにもリリースされた作品が少ないので、これまではどういう活動をしているアーティストなのかほとんどわからなかった。しかし、MFSファンの間ではとても支持の高いアーティストで、特にアップテンポで綺麗な“ヴィンテージ”や“インフィニティー”の2曲は、よくフロアで聴ける曲だった。

 ポールMは、キッド・ポールと言った方が古くからのテクノ・ファンには通りがいいだろう。かつてはベルリンを代表するDJだった彼は、現在ではあらゆるDJ活動をやめて、曲作りとレーベル運営に集中している。ローティーンでDJになり、毎晩毎晩クラブでプレイしていた彼は、疲弊しきってDJに魅力を感じなくなってしまったのだという。僕はベルリンで何回かキッド・ポールのDJを聴いたことがあるが、滑らかなつなぎでぐいぐい踊らせるそのテクニックは素晴らしかったので、ちょっともったいない気もする。トランス・クラシックとしてあまりにも有名(最近も何度もリミックスされて再リリースされてる)な“カフェ・デル・マー”が実は彼の作品なのはあまり知られていないが、最近の彼の作風はもっとハウシーなテイストで、地味ながらいい作品をリリースしている。

 マイクがこれまでもことあるごとにフェイバリット・アーティストとして名前を挙げてきたクウェーツァーは、もともとオランダのアーティストで、初期はゴー・バンという名門レーベルからヒットを飛ばしていた。マイクが好きそうな、構成と作りのしっかりしたトランシーなテクノが上手いアーティストで、日本での知名度はあまり高くないが、10年近く活躍しているベテランだ。

 トーマス・シューマッハは最近日本にもやって来たし、今一番注目されてるアーティストだから、知っているひとも多いはず。日本では電気グルーヴの『リサイクルドA』にリミキサーとして参加したことで有名になったが、それ以前にもイギリスの名門ブッシュからリリースした強力なシングルのヒットで、フロアではかなり注目されていた。アナログにも関わらず1万5千枚以上売れたという“ホェン・アイ・ロック”は、まさにクラシックという名にふさわしいフロア・キラーだった。マイクが解説で書いてる「彼がノリノリのときには、邪魔をしないであげて欲しい」っていうのは、その歌詞からの引用。

 最後は説明不要のトビー。マイクとは義兄弟というほどの仲。マイクのベスト『マルチ・マイク』をDJミックスしたことや、ブラザーズ・イン・ロウ名義でも共作したことは記憶に新しい。今年はソロ・アルバムを作ると意気込んでいるし、ますます活躍してくれることでしょう。


 そうそう、ドイツ版には収録されていない、日本のみのボーナス・トラックがここには収録されているんだけど、これもなかなかオモシロイ。僕や佐藤大やタサカといった日本人数人が、日本語と英語で喋ったセリフをサンプリングして作った曲で、日本のファンへのプレゼントだから、日本の友達とのチームワークにしたということらしい。これ、ボーナス・トラックだからといって一切手抜きなしの曲だから、日本盤を買ったひとはラッキーだったかも。自分の声が使われてるのは、僕的にはかなり恥ずかしいんだけどね(笑)。

(KEN=GO→)

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