ここで選曲されているトラックの多くは、あえてカテゴライズするとしたら「ミニマル・テクノ」の部類に入るものが多い。しかしのジェフ・ミルズ系のストイックなものとは違い、幾分アッパーなテイストのものをセレクトしている。また、終盤にはブレイクビートものも織り交ぜ、その懐の深さを見せてくれている。ここに多少端折った形にはなるが、幾つかの曲を紹介してみよう。
まずカール本人によるスクラッチからスタートする「ブラックアウト」は、93年頃に活躍していたプログレッシブ・ハウスのアコーン・アーツというユニットによるもので、そのメンバーであったマーク・ウィリアムスが昨年あたりから活動を再開して復活したもの。この曲は2ヶ月程前にリリースされた最新盤だ。2曲目はミニマル系のレーベルでは重要な存在である「プライメイト」からのデヴィッド・スクゥイランスによる曲。続く3曲目、トーマス・シューマッハによる「フェン・アイ・ロック」は昨年末からのスマッシュ・ヒット。トーマス・シューマッハは、電気グルーヴの「かっこいいジャンパー」のリミックスを手掛けているアーティスト。現在イギリス・マンチェスターのレーベル「ブッシュ」の代表格的なアーティストになっている。このリミックスはトーマスと同じくドイツに住むヨハネス・ハイルによるもので、ヨハネスは先日「リアリティー・トゥ・ミディ」というフルアルバムを発表し、注目を浴びているところ。また、トーマス自身もマイク・ヴァン・ダイクと共同製作したシングルがスーパースティションから発表されたばかり。5曲目のクリスチャン・スミスは、かつてニューヨークでニューロマンサー名義で活動していたアーティストだが、スエーデンに留学して以降、近所に住んでいたというスエーデン・テクノ・シーンの中心人物カリ・レケブシュとの親交を深め、最近めきめき力をつけてきている。彼の作品はミニマル・シーンのみならず、ワープ・ハウス系のDJに受け入れられるアッパーなものが目立つ。「ゴールドラッシュ」は彼自身のレーベル「トロニック」からのリリース。6曲目と8曲目はともにインフューズによるもので、プライメイトからのシングル「クロストークEP」に収録されているA面とB面の曲だ。良質なミニマル・トラックをリリースし続けているプライメイトらしく、颯爽たるスピード感に溢れている。そしてデイヴ・エンジェルのレーベルとして知られ、透明感のあるトラックをリリースしているローテーションからの曲を挿んでの10曲目は、プライメイトのオーナーでもあるサミュエル・オナーヴァスのトラックで、2枚組のシングルとして発表され、現在注目度の高いスエーデンのジョエル・ムルやトーマス・クロームによるリミックスも収録されている。12曲目には日本人アーティストであるカズシ・マツイがピックアップされている。彼は以前にもスティーブ・ストールのレーベル「プロパー」のコンピレーションにも参加していて、これはブッシュからリリースされた最初の作品。金属的な響きが気持ちいいトラックで、このCDでは曲の最後までのほぼフルコーラスが収録されている。ちなみにブッシュからは、ワタル・キシダという日本人アーティストもリリースしている。14曲目のテンス・チャプターは、これまた懐かしのレーベル「ゲリラ・レコーズ」で活躍していたユニットで、最近また活動を再開したようだ。ラストのレス・ライダー&スティーブ・バーンズのトラックは、アッパーなサンプルとブレイクビーツをフィーチャーしたチューン。そしてここでこのCDは終了する。もっと聴きたいぞ!
さて、全体を通しての印象だが、さすがはトップDJ、カール・コックスの一言に尽きる。流れのある展開、丁寧なミックス。特にミックス・テクニックに於いては、どれも「超」がつく程のロングミックスをしていて、非常に丁寧に音を重ねている。例えばジェフ・ミルズのような素早いフェーダーさばき、次から次へと繋いでいくスピード感のあるものとは違い、ダイナミックさは無いものの、曲をじっくり曲として聴かせ、寸分の狂いもないピッチ・コントロールで落ち着いたプレイをしている。もちろんそのどちらのスタイルがいいと言うわけではないが、どちらも世界トップ・レベルのプレイとして、既発売のジェフによるMIX-UP
vol.2と聴き比べてみると面白いと思う。 |