GAME

95年の年末に劇場でロードショー公開された映画『攻殼機動隊』によって、士郎正 宗という作家の存在が、急速に一般的なモノとなったのは周知の事実である。そんな 士郎とアニメーションの関係を調べて見ると実は、87年の春にまで溯る事が出来る。 初のアニメ化となった作品は、『ブラックマジック・M-66』。そこで彼は、演出・脚 本、絵コンテ、そして監督までを担当している。そう。この原作は、彼にとってマン ガ家デビュー作であると同時にアニメーションとしてもデビュー作なのである。当時 のアニメ業界は、俗にOVA(オリジナル・ビデオ・アニメーション)と呼ばれる市 場が大きくなりつつあった時期であり、多くの実験的な作品が発売されていた。そん な中でもマンガ家が、いきなりアニメの監督をする事は珍しかった(ちなみに、この 作品で今回のゲーム中に使われたアニメ部分を担当する事になる北久保氏と出会って いる)。しかし、彼自身、この作品について画集『イントロデポ1』の中で「この企 画で僕はとっても勉強させてもらった」と語り、その後、次々とOVA化された『ア ップルシード』や『ドミニオン』といった作品では基本的に原作者としての参加に留 まっている。そう。彼が、アニメ作品を監督したのは『ブラックマジック』だけである。  そして、ここまでの時点で映像化された彼のアニメ作品が、彼のマンガのファン達 を完全に満足させる事は出来なかった。映像的な面だけならまだなんとか技術力で補 えるところもあるが、あのページ欄外や設定資料で巧みに綴られる「彼の言葉」によ って補足される複雑な世界観を時間的に制限のある映像媒体で伝える事が難しかった からだろう。そう。彼の独自性を影で支える魅力は、彼の絵だけではない。

(C)SHIROW MASAMUNE
/ KODANSHA LTD.
(C)1997 Sony Computer
Entertainment Inc.
/ KODANSHA LTD.
「僕は欄外の注が好きなんですよ。いろいろと書いてあって、情報量が他のマンガの 数倍はありますから」

士郎アニメ作の中で初めての成功作となった『攻殼機動隊』を監督した押井守は、 映画のパンフレットに掲載されたインタビューでこう語っている。そう。この『攻殼 機動隊』では、大胆にも絵柄は必要最低限な部分を除いて押井色(『パトレイバー』 シリーズに代表される独特のタッチ)に変えられたが、物語の根底に流れる世界観の 部分に注目した事で意外な程、士郎的なモノに仕上がった。彼自身、実は『攻殼機動 隊』こそが自分の作品の中でもかなり「アニメにするの難儀とちゃうかぁ(パンフレ ットに掲載されたメッセージより)」と思っていた様なのに、である…。それにして も、もともと原作のある作品を大胆に自分色に染める事で知られる押井守(彼の出世 作である『うる星やつら2』を見ると分かる)が、今まで誰も(本人でさえ)出来な かった士郎的なアニメというモノを最初に成功させたというのは面白い。

その上、この作品では、CGを多用した画面作り等、実験的な試みが数多く使われ おり、完成度の極めて高い作品としてアニメ業界のみならず一般の映画ファンからも 評価された。『ブレードランナー』に始まり、この原作が描かれた80年代後半に絶頂 気を迎えたサイバーパンク・ムーブメントが、育てたヴィジョン。そのヴィジョンで のアニメに於ける1つの到達点が、この映画である。

そして、この映画『攻殼機動隊』は、日本のみならず海外で大きな成功を納め、ビ ルボードの売り上げチャートで一位を記録。現在、海外で広がりつつあるジャパニメ ーション・ブームの火つけ役ともなった。そう。彼にとってこの『攻殼機動隊』は、 メジャー誌初登場の作品であると同時にアニメの世界でも初のメジャー入り作品とな ったのである。ただ様々なエピソードの集合体である原作を1つの方向に流れる話へ と変える為、原作では重要なキャラクター(?)たちであるフチコマが登場しなかっ たり、変更された絵柄についてもファンの中には馴染めないと感じた人もいたのも事 実ではある(まるでそんな声に答えるかのに今回のゲーム版『攻殼機動隊』では、フ チコマが主人公となり、絵柄的にも原作に忠実なデザインになっている)。いずれに してもこの映画の成功こそが、今回のゲーム化への原動力ともなったのだ。

この様にして、これまでの彼とアニメの関係を考えてみると、必ずしも相性がいい とは言い切れない部分も多い。しかし、マンガでの彼が試行錯誤の連続(画集に見ら れる絵柄の変化はそのいい証拠である)の末に今の評価がある様に、アニメの世界で ももう一度、彼自身の監督作品が見てみたいと思う人は多い筈だ。

TEXT : DAI SATO


BACKabout GHOST IN THE SHELL
MEGATECH BODY CD
GAME
HISTORY
EVENT
LINK

1997 (C) Sony Music Entertainment (Japan) Inc.