1975年Chelmsfordという町に生まれたスクエアプッシャーことトム・ジェンキンソンは幼い頃から父親の影響でジャズ、ダブを聴いて育つ。彼は12才の頃からドラマー、ベーシストとしていくつかの地元バンドを転々とする。

「ウチの親父は本当にたくさんのレコードを持ってて、オーガスト・パブロやチャーリー・パーカー、マイルス・デイビスなんかをクサる程聴いてた。ドラムを叩いていたから、特にアート・ブレイキーやバディ・リッチはよく聴いた。 けど、ロックがどうしても好きになれなくて、当時自分に合ったバンドを見付けるのにすごく苦労したんだ。」(英NME誌1996年4月6日号)

12才で最初に加わったバンドは何とフラッシュ・メタルのバンドだったという彼は、特にベースを練習するようになり、14才の頃には彼の興味の対象はスタンリー・クラーク、ウエザー・リポート、チック・コリアといったジャズ、フュージョンのアーチストに移っていった。

15才になったトムはある日エレクトリック・ミュージックとの運命的な出会いをする。それまで「エレクトリック」というだけで聴く耳を持たなかった彼がLFOの名曲、"LFO"を聴いた時、その信念は根底から、しかも一瞬にして覆えされたのである。

「エレクトリック・ミュージックなんてクズだと考えていたんだ。 生の楽器を使わず、キーボード上だけで作られた音楽に聴く価値なんかある訳がないってね。 ところが15の頃、LFOの"LFO"が僕のその考えをカンペキに変えてしまったんだ。」(米URB誌 1996年8/9月号)

1994年、トム・ジェンキンソンは「ステレオタイプ」の名義でノッシング・クリアー・レーベルより彼の初めての作品"ステレオタイプEP"を発表。この頃の作品は、初期のエイフェックス・ツインに通じる実験的なハード・エレクトリック・ビートに、美しいメロディーが乗ったものだった。 翌年1995年には「ランブル1」という名義での"クロットEP"(500枚限定でレーベル一枚一枚に手書きのメッセージが記されていた)、そして「スクエアプッシャー」名義での初のシングル"コナンバーEP"がスパイマニア・レーベルよりリリースされた。

「コナンバーEPを出した頃、僕は自分で街中のレコード屋を回ってそれを売ってたんだけど、最悪の反応を示すのは決まってドラム・ン・ベースを扱っているショップだった。 中には"もっとおとなし目にしてシンプルなものにした方が売れるよ"なんて注文を付けて来るヤツもいて。けど、僕にとっては"そうでないこと"がポイントなんだよ。」(英MUZIK誌 1996年4月号)

この頃から彼の名はにわかに脚光を浴びだす。 1996年に入ると3月に「デューク・オブ・ハリンゲイ」名義のEP"オーロイ・ロード・トラックス"をスパイマニアから発表、4月には「トム・ジェンキンソン」の名でロンドンのレコード・ショップ「アンビエント・ソーホー」のショップ・レーベル、ウォーム・インターフェイス・レーベルが出した企画盤"ドラゴン・ディスク2"(250枚限定/後に再発)の中に2曲を提供し、そして5月には同じくウォーム・インターフェイスからEP"バブル・アンド・スクェーク"(250枚限定/後に再発)をリリースした。

この頃までにはニンジャ・チューン(米URB誌のインタビューでリミックスの仕事は引き受けたくないと言う彼はこれまでに2つだけ他アーチストのリミックスを行っているが、その2つがDJフードの"スクラッチ・ユァ・ヘッド"、ファンキー・ポチーニの"カーレック"と両者ともニンジャ・チューンのものである。)、ワープ、リフレックス、R&Sといったレーベルが彼を巡って争奪戦を行うが、トムは自分の尊敬するリチャード・ジェイムスが主宰するリフレックスとまず短期の契約を交し、「バブル・アンド・スクェーク」と同じく5月にリフレックスからEP"スクエアプッシャー・プレイズ"をリリースした。

「エイフェックス・ツインは天才だよ、僕にとってはまさに"希望の光"ってところだね。彼の"セレクテッド・アンビエント・ワークス・ボリューム1"を聴いて、僕は音楽に対する考え方を変えられたんだ。彼は僕に(音楽においての)目的と姿勢を与えてくれた。 彼は自身をシッカリ持っていて、そういう彼の姿こそが僕の理想なんだ。」(英MUZIK誌 1996年4月号)

1996年6月にファースト・アルバム"フィード・ミー・ワイアード・シングス"をリリース。 彼に影響を与えてきたジャズ、ダブ、エレクトリック・ミュージックといった異なるスタイルの音を「トム・ジェンキンソン」というフィルターを通して入念に精製され、昇華したものが、ここで初めて一つの作品集として具象化された。

彼はアルバムリリースと同時期にワープ・レーベルと長期契約を結び、翌月にはEP"ポート・ロンバス"を発表。ここではそれまでに増してアブストラクトな実験的側面を強めた音作りを行っている。



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