PUFFY『Splurge』全曲解説
1.「Radio Tokyo」
 作詞・作曲: Butch Walker
ブッチ・ウォーカーの作詞・作曲・プロデュースによるオープニング・チューン。
シンプルで直球、1曲の中での緩急の振れ幅が大きくドラマチックな、アルバムの幕を開けるのにもライヴの1曲目を飾るのにも誠にふさわしい、言わば「今のアメリカのロックどまんなか」な感じの楽曲。
なお、ブッチ・ウォーカーは2004年にアヴリル・ラヴィーンのシングル"DON'T TELL ME"をプロデュースしたことで一躍知られるようになったが、元々マーヴェラス3というバンドのメンバーで、現在はソロ・アーティストとしても活動している。
プロデューサーとしては、他にSEVENDUST、SR71、GOBなどを手がけた実績あり。
ちなみにブッチは元々、自らのソロ・アルバムのタイトルに『Hey! Album』と付けるほどの奥田民生のファンであり("Hey! Mountain"からいただいたそうです)、「タミオがプロデュースしたPUFFYを自分がプロデュースするなんて夢のようだ!」と喜びながら、レコーディング・スタジオでカレーうどんをすすっていたという。

2.「ナイスバディ」
 作詞: PUFFY 作曲 : Andy Sturmer, Andy Thompson
2005年7月にリリースしたシングル"はじまりのうた/ナイスバディ"としてリリースされた曲。ダイハツ「ムーヴ ラテ」のCMソングになった。
作曲・プロデュースは、民生&PUFFY周辺の仕事ではおなじみ、元ジェリーフィッシュのアンディ・スターマー。
PUFFY定番というかアンディ定番な、疾走感がありつつも肩の力が抜けた、軽やかな1曲。勢いが出れば出るほどリキんだり感情的になったりするのとは逆の「歌い飛ばす」みたいな方向へ向かう、AMIYUMIの歌いっぷりが心地いい。
2番のサビの、《知らない街にたどり着いたら 何かちょっとあがる》というあたりが「PUFFYだなあ」と思わせてくれて、何かちょっとうれしい。
これを民生じゃなくてPUFFY自らが書いているところが、この曲の、というか今のPUFFYのキモ。

3.「Tokyo I'm On My Way」
 作詞・作曲 : Dexter Holland
オフスプリングのデクスター・ホーランドが書いてくれた曲を、国内ロック・シーン有数の人気プロデューサーであり、東京事変の音楽的中枢でもある亀田誠治がアレンジ。
おそらくデクスター的にはスカコアなイメージで書いた楽曲を、亀田が「スカだけどロックだけどポップス」みたいな、何だか不思議な方向へと力技で導いている。
日本でリリースされるシングルとしては珍しく、1曲の中で3種類のビートが入り混じっている(大サビでテンポが半分になって、曲の最後でテンポが倍になる)のも聴きどころ。
当アルバムの先行シングルとして5月24日にリリースされた。
デクスターは、他のアーティストに曲を書くのは楽しいチャレンジだ、と思いこの仕事を受けたそうだが、ブッチの"Radio Tokyo"にしろこの曲にしろ、つい"Tokyo"という言葉を使ってしまうあたり、米国白人ミュージシャンの「日本のアーティスト」に対するイメージの安直さがうかがえる。
いい曲だけど。

4.「Shall We Dance?」
 作詞: PUFFY 作曲 : Butch Walker
これも1曲目と同じくブッチ・ウォーカーのプロデュース。
詞はPUFFYなんだけど……すいません、いつの間にこんなにいい作詞家になってたんだPUFFYは、と耳を疑ってしまいました。
いわゆるパーティ・チューンなんだけど、日本語をのっけるための配慮ゼロの豪快なメロディに、カタカナ英語や大阪弁やダブル・ミーニングなどを駆使して、絶妙なセンスで言葉を付けている。
面白い。
なお、曲調も勢いに満ちた8ビートで気持ちいい。

5.「恋のエチュード」
 作詞・作曲: 草野正宗
"愛のしるし"以来となる、スピッツ草野マサムネの書き下ろし。
プロデュースは、おなじみDoctor Strange Loveの根岸孝旨。
ベースは根岸、ドラムもおなじみ古田たかし、ギターは民生、キーボードは柴田俊文がプレイしている。
日本語を心地よく歌うために開発されたかのように1節1節が短い、そしてAメロとBメロの2種類しかなくてどっちがサビなのかわからないメロディも、単語一つ一つは平易なんだけどつなげると意味がさっぱりわからない、でもイメージはなんだかものすごく伝わってくる歌詞の世界も、もうほんとに王道マサムネワールド。
PUFFYの二人も、心なしかていねいに歌っている。ような気がする。

6.「女マシンガン」
 作詞: ギターウルフ/セイジ 作曲 : Jon Spencer
まず、タイトルを見ただけで誰が書いたのか一目瞭然、というのはやっぱりすごい才能なのだなあと痛感しました。
そう、ギターウルフのセイジさんが作詞、その盟友ジョン・スペンサーが作曲。
つまり、日本のロックと洋楽ロックを代表する「自分にしか歌えない曲」を書く強者2人にPUFFYが挑んだのがこの作品。
曲の骨子はオールド・スタイルなロックンロールだが、ジョン・スペンサーの作るやたらくぐもった音と、セイジさんの書く字あまりとかまったく気にしない歌詞が、PUFFYの「歌い飛ばし唱法」と妙な調和を見せている。
全編にわたりセイジさんも一緒に歌っている、というか叫びまくっているのも聴きどころ。
なお、PUFFYとギターウルフは、2003 年8月に、PUFFYの存在を一躍全米に広めたカートゥーン・ネットワークのアニメ番組"Teen Titans"のテーマソングをPUFFYが歌った時、そのビデオクリップにセイジさんが出演して以来の付き合い。
全然関係ないが、今セイジさんはMUSIC ON! TV『ナンバーワンTV』金曜日のレギュラーVJを務めておられますが、一回の放送につき缶ビール350ml/24本入りが、3箱空になるそうです。
ロックンロール。

7.「Sunday in the park」
 作詞・作曲: Charley Drayton , 奥田民生
キース・リチャーズのバンド、エクスペンシヴ・ワイノーズのドラマーであり、民生のアルバムにも度々参加して一緒に曲を作ったりしているチャーリー・ドレイトンと、民生の二人で作詞・作曲・プロデュースした曲。
アコースティック・ギターとドラムとベースが同じフレーズを延々とループさせる淡々とした曲調にのせて、日曜の公園、青空、時間はたっぷり、いろんな事一日中考えよう、あくせくするなよ、というようなことが歌われる楽曲。
《言葉がとぎれて 無口になれば そこから ゆっくり 本当の時がはじまる》なんてあたり「民生だなあ。いいなあ」と思わず唸ってしまうが、実はこれ、まずチャーリーが日本語で歌詞を書いたんだけど、それがあまりにもものすごかったので民生が大幅に手を入れて完成させたそうです。
PUFFYの音楽性としては珍しく、どこか宅録っぽい密室性を感じさせるアレンジも面白い。

8.「モグラライク」
 作詞・作曲 : 奥田民生
PUFFY10周年を記念して、彼女たちの育ての親・奥田民生が書き下ろし、プロデュースをし、全楽器を演奏し、今年(2006年)4月12日にリリースされたシングル。
快走する8ビート、シンプルの極みみたいなルート弾きで押し切るギター(でも音が微妙にヘン)、そして抑揚がほとんどなくて棒読みみたいなメロディ、その変わらないメロディの裏で変わっていくコード――と、2006年型のOT式ロックンロールの究極みたいな、とにかくかっこよくて、とにかくよけいなものがない名曲。
《誰も見てないよ 誰も聞いてないよ まちがえてしまうよ だから手を動かし続けよう》《まだまだ見えないよ どこにも見えないよ 考えてしまうよ だから手を動かし続けよう》 という感動的な歌詞が、あまり感情移入せずに淡々と歌うPUFFY唱法によって、却って引き立っている。
オチもちょっと感動的。

9.「missing you baby」
 作詞 : PUFFY  作曲 : Andy Sturmer
アンディ・スターマーのプロデュース楽曲。
古きよきアメリカン・ポップスみたいなかわいくきれいな曲調で、あっという間に終わる(2分28秒)。
アルバムの中のアクセント的な役割の1曲。
LAでアンディがトラックを作り、それを東京へ持ってきてヴォーカルを録り、またLAに持って帰ってミックス、完成した。

10.「早春物語」
 作詞 : PUFFY 作曲 : Hellgren , Myhr
かつてアンディ・スターマーがプロデュースした、スウェーデンはストックホルムのバンド:メリーメイカーズが作曲とプロデュースと演奏を担当した、シンプルなロックンロール・チューン。
という我々が知らないミュージシャンのペンによるものとは思えないほど、すごくPUFFYな感じのする、PUFFYのためにあるような曲。
特に、ポップだけどぶっきらぼうなサビのメロディなんて、もう王道PUFFY。なお、作詞もPUFFY。 《甘えあったり見つめあったり手をつないだり》《空仰いだり咲き誇ったり嘘をついたり》と、《たり》で韻を踏んでいるところが、2004年にリリースされたYOSHII LOVINSON(2006年より吉井和哉と改名)のデビュー・シングル"TALI"と同じ手法である。
吉井への、PUFFYからの挑戦状的な意志が籠められていると思われる。嘘です。偶然だと思います。

11.「モグラ」
 作詞・作曲: 甲本ヒロト
甲本ヒロトが書き、GOING UNDER GROUND、シュノーケルなどのプロデュースで知られる上田ケンジがアレンジした曲で、シングル"モグラライク"のカップリング曲。
ヒロト的には、ザ・ハイロウズ活動休止後、初めて発表する楽曲ということになる。
こういう、ちょっと童謡っぽいモチーフでロックンロールを書く、というのはヒロトが元々得意とする手法。
なお、当初から「"モグラ縛り"でシングルを」という意図があったわけではなく、アルバムの中の1曲というつもりでヒロトにオファーをかけたところこの曲が届き、「民生とヒロト、日本のロックを代表するこの二人が同時期に"モグラ"をテーマに曲を作ってきた……何かある!」という判断の下、この両曲を収録したシングルをリリースすることが決まったという。
なお、モグラ→掘る、ということで曲全体にドリルの音がいっぱい入っているが、土を掘っているというよりもコンクリか何かの硬いものを砕いている音のようにきこえるのは私だけだろうか。

12.「らくだの国」
 作詞・作曲 : 斉藤和義
吉村由美のソロ曲。作詞・作曲・プロデュースは斉藤和義。
しかしこれ、民生やマサムネの曲とは正反対で、言われないと斉藤和義の曲だとわからない。
さらに、例えばこの曲がラジオかなんかでかかって、それを何の予備知識もなく聴いたら、相当熱心なファンじゃないと吉村由美が歌っているってわからないと思う。
メロディのクセや言葉のクセなど、いつもの斉藤和義っぽさをあえて封印して書いたかのような曲を、いつものあの声を一切使わずに吉村由美が歌っている、という曲なわけです。
しかしこうして聴くと由美の声って、アニメ『一休さん』のエンディング・テーマ(♪母上さま〜ってやつ)を歌ってた人の声に似てる。

13.「Security Blanket」
作詞 : 大貫亜美 作曲 : 横山健
続いて大貫亜美のソロ曲は、横山健の作曲・プロデュース曲。
明るい、ドラマチック、ラウド、ヘヴィ、どポップ、でもちょっと切ない――と、「バカッ速くない」という一点を除けば、もうKEN YOKOYAMAどまんなかな陽性パンク・チューン。
かっこいい……のだが、聴いていて気づいた。
この曲も、もしかしたら、言われないと大貫亜美が歌っているとわからないかもしれない。
吉村由美のように、普段と違う歌い方をしているわけではないのに。
PUFFYの二人がソロで歌うのは、別にこれが初めてでも何でもない。
PUFFYのデビューは96年だが、早くも97年にはそれぞれのソロ・アルバムを2枚組にした『solosolo』をリリースしている。
その時はそんなこと感じなかった。
つまり、10年の月日を経て、が歌唱面において、二人が共にマイクを持った時にしか生まれない「PUFFYという人格」ができあがっている、というのが今のPUFFYということなのか?

14.「はじまりのうた」
 作詞 : PUFFY 作曲 : Andy Sturmer , Bleu
2005年7月にリリースされたシングルで、映画『劇場版ポケットモンスター アドバンスジェネレーション"ミュウと波導の勇者ルカリオ"』の主題歌。
カップリング"ナイスバディ"と同じく、作曲はアンディ・スターマーとBleu(2002年PUFFY北米ツアーのオープニングアクトをつとめた)、プロデュースはアンディ・スターマー、基本的にはシンプルな8ビートのロック・チューンだが、かすかに浮遊する鍵盤やいちいちドタバタと手数の多いドラムが、いかにもアンディ。
というか、いかにもジェリーフィッシュ。詞はPUFFYで、《あたらしい幕開け 遠回りしたけど やっとめぐり会えたんだ》で始まり、《どんどん 勇気わいてわいて だんだん 勇者みんなみんな》で終わるあたり、映画にふさわしい内容を、と心がけたと思われます。
しかし《水 草 電気 虫 鳥 ガス 岩 炎 地面 飛行 エスパー ノーマル 格闘 みんな 友達だから》というあたりの、「《草》とか《鳥》はいいけど《電気》とか《ガス》とか《格闘》が友達って意味わかんねえよ!」とつっこみたくなる投げやりさが、PUFFYらしくて好ましい。
というか、よく知らないんだけど実はポケモンてそういうもんなの?《電気》ってキャラがいたりするの?

15.「Basket Case(Bonus Track)」
 作詞・作曲 : PRITCHARD MIKE, WRIGHT FRANK E III, ARMSTRONG BILLIE JOE
ボーナス・トラックで、グリーン・デイの1994年の大ヒット曲のカヴァー。
PUFFYがアメリカ・ツアーのアンコールでずっと演奏してきた曲、ということで、ツアー・バンドと共に録音された。
なお、グリーン・デイのビリー・ジョーもPUFFYの大ファンで、昨年幕張でPUFFYがライヴを観に行ったところ、楽屋に招待されたという。
でもその場で二人ともあんまり感激せずに、「ふーんこれがグリーン・デイか」みたいな淡々とした態度でいたんだろうなきっと、と思うと、終わったことながら心配になります。