Kenta Dedachiがついにリリースするメジャー1stアルバム『Midnight Sun』。既に話題を呼んでいる「Beau」「Sparkling Lemonade」という先行曲はもちろん、これまでに発表された「Tattooed Hollywood」「Fire and Gold」「Strawberry Psycho」「Jasmine」「Stay with me」といった珠玉のシングルの数々も余さず収録されている。
インディーズ時代のアルバム『Rocket Science』(2019年)以降の歩み――まさにコロナ禍の最中でのKenta Dedachiの心の揺れ動き、その中から生まれた曲が総決算されているのが『Midnight Sun』だと言っていいだろう。『Midnight Sun』は、歌い手としての変化や表現者としての成長、音楽的挑戦、さらにいま現在のKenta Dedachiの姿といった、あらゆるエレメントが刻み込まれた作品に仕上がっているのだ。
ここでは、シングルを除くアルバムの曲について、Kenta Dedachiが語った言葉を直にお伝えしよう。
――『Midnight Sun』はメジャー1stアルバムです。メジャーデビュー後の変化は感じていますか?
それほどないのですが、アーティストとしての僕をサポートしてプッシュしてくれるチームのメンバーが増えて、以前よりブラッシュアップされた作品を作れていると感じています。それが楽しいし、自分もより成長できているなって思います。
――アルバムにはどんなプロデューサーが参加しているのでしょうか?
KOSEN(Colorful Mannings)さんとRenato(Iwai)さん、そしてRounoさんという以前「Ambiguous」のリミックスをしてくれたプロデューサーの方と作った曲も入っています。それと「Green Eyed Monster」は、トラックメーカーでトランペッターのKibunyaさんにサウンドプロデュースしてもらいました。なので、トータルで4人の方に参加してもらっています。
――コンセプトやストーリーは事前に考えていましたか?
聴いてくれた人をハッピーにする曲や何かしらのエモーションを与える曲を作りたいとずっと考えていたんです。たとえば、「Sparkling Lemonade」は「ハッピーでいこう!」という気持ちがスプラッシュしていますが(笑)色々なエモーションが入っていますね。
――前作『Rocket Science』は「これから冒険に出よう!」という希望に満ちあふれた作品でしたが、本作は迷いや悩みも率直に表現していると感じたんです。
やっぱり、パンデミックがあったから書けた曲もあるんです。「Green Eyed Monster」のような内省的でダークな曲もあります。「New Beginning」のように「ここまで落ちたら、あとは上に行くしかない!」という思いを込めた曲もありますし。
――アルバムタイトルからは「暗闇の中の希望の光」というイメージが浮かびました。どんな意味で付けましたか?
“Midnight Sun”というのは、「真夜中だけどすごく明るく光っている太陽」という意味なんです。北極や南極では太陽の動き方がちがうので、暗闇が何十日も続いた後に太陽が照り続ける日が来るんですね。暗闇が続いた後に昇ってくる太陽が“Midnight Sun”です。なので、暗闇の中に太陽が出ているのではなくて、すべてが太陽に包まれている、すごく明るいイメージですね。
――2曲目の「New Beginning」は、現在のKentaさんの思いをストレートに表現した曲だと思いました。
18歳の頃は雑誌を読んで「これからこんなことをしよう!」と色々な想像を膨らませていたのに、20歳になってすぐにパンデミックになっちゃって、アメリカにいられなくなって……という、自分の気持ちをそのまま歌っている部分はありますね(笑)。歌詞にある“holy ground(神聖な場所)”は、好きな言葉なんです。この曲では、何も思い通りにいかない、自分で何もコントロールできない、どん底のような場所をあえて“holy ground”と呼んでいて。「どん底に落ちたからこそ新しいことを学べる」、「こんなに低いところまで来たんだから、あとは上に行くしかない」と考え方を転換して、「自分を成長させてくれる試練の場所」として“holy ground”を歌っているんですね。暗い面も前向きに捉えて未来への希望を持つ、という歌詞になっています。
――アルバムの折り返し地点に置かれている、Michael Kanekoさんが参加した「Better days」は重要な曲だと言えそうですね。
めちゃくちゃ気に入っている曲です。ドラマチックな曲を作ろうと思って書いたのですが、歌詞のストーリーもメロディもおとぎ話のような雰囲気もすごく気に入っています。「メリーゴーランドで回っていたような、過去の日々は楽しかったよね。でも、そのメリーゴーランドが止まったら、僕たちの関係も止まっちゃった」というような歌ですね。
――“Better days”というのは、その過去の日々のことなのでしょうか?
そうですね。過去は良かったけど今はちょっと枯れてしまって、2人とも良かった頃のことを思いながら今を過ごしている、という切ない曲です。いつも希望のある言葉を入れたくなるんですけど、マネージャーさんが「時には悲しい気持ちのままの曲を書いてもいいと思う」と言ってくれて、すごく嬉しかったんですね。それで、自分のバブルの中から抜け出せた感じがしました。今までになかったクリエイティビティを発揮できた気がして。ストーリーテリングなどを含めて、自分がこれからやっていきたい音楽、作っていきたい曲のモデルになる曲だなって。ライブで歌ったら感情入れまくりで、絶対楽しいはず(笑)。ライブのイメージも既に湧いて来ています!
――7曲目の「Green Eyed Monster」は、3月のワンマンライブ「Transit Jam」でも演奏されていました。
僕の弾き語りのデモをKibunyaさんに渡してアレンジしてもらった曲ですね。これは、心の中のenvy(妬み)の曲なんです。“Green Eyed”というのは、シェイクスピアの『オセロ』に出てくる妬みを表した言葉で。パンデミックでLAの学校に帰れなくなって、「何もかもうまくいかない」という気持ちになった時期があるんですよ。でも、Instagramを見ると、友だちはビーチに行って遊んでいたり、旅行に行ったり、外ではマスクを付けずに過ごしていたり……。それを見て、「いいな~」って。僕は一人だけ日本に取り残された気分になって、一時期はそのことしか考えられなくなるくらい妬でしまったこともありました。その時に、「この気持ちをダイジェストして乗り越えよう!」と思って書いた曲なんです。
――そして、12曲目の「Dandy Lion」はシンプルな弾き語りだからこそ、Kentaさんの魅力が凝縮されているように感じました。
色々な曲が出来上がった後に、「1日スタジオを空けておくから、『セルフプロデュース』で1曲作ろう」と決めて録った曲です。アルバムの中で、最後に〈ふう〉って息をつける休憩場所みたいな曲ですね。
――ラストの「Rewind」は、Renatoさんと初めて作った曲だとか。アコースティックギターやカホンの音が活かされた、オーセンティックなサウンドですね。
アコギはConrado Goysといってブラジルの有名なギタリストが弾いてくれて、素晴らしく音がいいんですよね。聴くたびに最高だなって思います。「つまづいた時はこれまで通ってきた道で経験してきたことを思い出して前に進もう、一人じゃないよ」と歌いかけるテーマで書いた曲です。書いたのはパンデミックの前だったので、辛いことに直面しているというより、前に進む時の緊張感を感じている時にちょっと後ろを向いて、「みんなが助けてくれたよね」「色々なことあったけど今ここに来られている」と思って前に進むイメージなんですね。「New Beginning」の重さとはちょっとちがう、軽くてピースフルな感じがアルバムの最後にいいなって思っています。自分でもほっとする曲です(笑)。
――『Midnight Sun』は、結果的にどんな作品になったと思いますか?
色々な曲が入っていて、「よくこれがアルバムになったな」って思います(笑)。でも、自分にとってすごくスペシャルなものになりました。パーソナルな曲もあって、曲を書いた当時の心境を思い出したりもしますが、アルバムにできたことで乗り越えられた、前に進めた感覚があるので嬉しいですね。たくさんのストーリーを書いて様々なトライを重ねたので、ここには色々なKentaがいると思います。この2、3年で自分のことをかなり知ることができました。
――Kentaさんが自分のことを知っていく過程が表れていますよね。
あからさまに(笑)!
――このアルバムもまたKentaさんの新たなデビュー作と言えそうです。
そうですね。ただ、たとえば歌い方とか『Rocket Science』から変わったところも色々あるんですけど、自分の中心にあるものは変わっていないなって再確認しました。
『Midnight Sun』の音楽的充実には驚かされる。曲ごとに異なるプロデューサーとコラボレーションした結果、現代的でポップなダンスミュージックがあれば親密な弾き語りもある、というサウンドの振れ幅の広さがあまりにもカラフルだからだ。その一方で、自身の感情を切々と歌ったリリックからストーリーテラーとして人々の人生や恋愛模様を映し出したドラマティックな歌詞まで、各曲が描く物語も様々。
しかし、神聖な響きを持つ「Midnight Sun」のイントロダクションから幕引きを飾る最後の「Rewind」まで、一本筋が通っているのは、やはりKenta Dedachiの歌とソングライティングが軸になっているからだろう。そして、音楽的にもテーマ的にもこれほど多彩だとついうっかり忘れてしまいがちだが、それらを歌いこなし表現しきることができるのは、主役であるKenta Dedachiの歌の力の強さゆえ。揺るぎない根幹として作品の中心を貫くKenta Dedachiの歌――そんな彼の不変の魅力を存分に伝えているからこそ、『Midnight Sun』は強い説得力のある感動的なアルバムになっている。