浴衣→水着で告白/川勝正幸< /font>

「水中メガネ」を聴くなり、鳥肌が立った。
  僕はチャッピーの所属事務所グルーヴィジョンズと親しいし、チャッピーのマネキン は持ってるし、松本隆主宰のホームページ『風 街茶房』の編集もやっているので、冒頭の発言は仲間誉めと取られるかもしれな い。でも、身内こそが一番厳しい聴き手であるとの自負を持って、この原稿を書いて いるつもりだ。
 振り返れば、チャッピーは大胆にも、新人で、かつ、優秀なソ ングライティング・チームにプロデュースを任せてきた。「Welcoming Morning」のpal@popしかり、「 Good Day Afternoon」のCOILしかり。
デザイン集団グルビのこれまでの仕事 関係から、まずは渋谷系の人々にお願いするのでは?という大方の予想を裏切って。 しかし、ファースト、セカンド・シングルと外資系CD店チャート、ラジオ・チャート をいい感じで上っていったのは、ご存じのとおりである。
 さて。サード・シン グル「水中メガネ」は作詞が松本で、作曲が草野正宗。これまた、全く噂にも上らな かった新しいソングライティング・チームへの発注なり。なんてったって、この二人 も今回が初対面であったのだ。しかし、松本さんは草野さんの書く曲に、筒美京平先 生(太田裕美の『木綿のハンカチーフ』をはじめ、松本さんとのコンビで数々のヒッ ト曲を生む)に似た資質を前々から感じていたというし。
草野さんは「チャッピ ーが歌い、松本さんが詞を書くなら」ということで、自分のバンド以外にはめったに 曲を提供しないにも関わらず、PUFFYの「愛のしるし」に続き作曲。しかも、曲だけ 参加、というのは初めての試みだという。
 このような音楽的な赤い糸とチャッ ピーの強いオーラのおかげで生まれた「水中メガネ」だけあって、詞とメロディは絶 妙なコンビネーション。パスタとソースが美味しく絡んだ、映画『グレイト・ブルー 』のボンゴレの如く。スピッツの『花鳥風月』の続編に入ってもなじみそうな仕上が りである。それでいて、「水中メガネをつけたら わたしは男の子」「水中メガネを はずせば 見知らぬ女の子」と、チャッピーが女の子だけでなく、コーネリアスや松 田優作やソリマチにメタモルフォーゼすることもできる、キャラクターを越えたキャ ラクターであることを解った詞の世界になっている。さすがバイト先の喫茶店のマス ター、松本隆。バイトだったチャッピーのことをよく見ている。おっと。今の発言に は説明が必要ですね。実はチャッピーと松本さんの付き合いは短くない。98年の秋に 立ち上がった松本隆のホームページは『風 街茶房』というだけあって、コンテンツのページはカフェの店内の写真。松本さ んも喫茶店のマスターのコスプレをしているのだけれど、なんとここでウェイトレス として写っているのがチャッピーのマネキン。そもそも「水中メガネ」の詞も、風街 茶房のマスターが「昔バイトだった女の子が歌手デビューしたんだから、一肌ぬいで もいいよ」と男気ある発言をしていたという話を、長年松本ファンだったグルーヴィ ジョンズの伊藤弘が小耳に挟み、今回の依頼となった次第なのである。
 そんな 幸せ者の伊藤君は、「水中メガネ」と「七夕の夜、君に逢いたい」のあまりの出来の 良さに気をよくして、「チャッピー、紅白いけるかも」と皮算用中。「まず、チャッ ピーのマネキンが浴衣で"七夕"を歌って、早変わりで水着になって"水中"と、メドレ ーでしょう」と、ステージの画を頭の中で描いているらしい。