「エンドロール」で常田真太郎(スキマスイッチ)をプロデューサーに迎えた理由。

鈴木圭介
そもそもの接点はね……。常田は、隣の中学出身なんですよ。で、最初は10年くらい前、2002年の頭、フラカンがメジャー・レーベルの契約を切られたばかりの頃。俺が一番、精神的にダメな時、どん底の時で、とにかく、人と一緒にいないと……ひとりでいるのが怖かったから、いろんな人と飲みに行ったりしてた頃。酒飲めないのに(笑)。
その頃に、新宿ロフトでイベントに出たんですよ。ヘルマン(&ザ・ペースメーカーズ)と、バックホーンと、サンプリング・サンってバンドと、フラカン。で、客席でライヴを観てた時に、話しかけられたんですよ。「実は僕、天白中学の隣の神沢中学なんです」「そうなんだ?」って。そん時は俺、もう人恋しくてしょうがないから、「じゃあ今度、一緒に飲みに行こうよ」って、その数日後にふたりで飲んだんですよ。その時は常田、まだデビュー前で、スキマスイッチって名前もその時初めて知って。それで、2回ぐらい飲みに行ったのかな。1回目は一晩ぐらい飲み明かして。まあ、ほとんど、俺の話をきいてもらってるだけだったんだけど(笑)。
それで、そうこうしてるうちに、スキマスイッチ、バーンと売れちゃって。「あれ? あいつじゃん!」って。で、しばらく連絡なかったんだけど、『脳内百景』(2006年)のレコーディング中にね、電話があったんですよ。留守電に入ってたんだけど、あっちはもうバーンて売れちゃってたし、「なんか連絡しづらいなあ。もう距離も開いちゃったしなあ」って思って、電話を返さなくて。それで、ずっと空いてたんだけど、久々に再会したのが……『ap bank fes.』に出た時か(2010年夏)。打ち上げがあって、そこに常田が来てて。「ああっ、久しぶりだねえ! ごめん、あの時、畏れ多くて電話を返せなかったんだよね」とか話をして。で、その時彼は、俺らが出るから見に来てくれた、って言ってて。「あっほんとに? じゃあ今度、手伝ってよ。弾いてよ!」とか言ったら、「もちろん! ガチでやりますよ!」って言ってくれたんだけど、「そうは言っても無理だろうな」とか思ってて。で、月日はまた流れ、その次に会ったのは去年の大晦日ですよ。


グレートマエカワ
「COUNTDOWN JAPAN」ね。俺たちがピンチヒッターで、一番でかいステージに出た時の(笑)。(※体調不良で出演キャンセルとなったCoccoの代わりに、12月29日のEARTH STAGEに急遽出演した)

鈴木圭介
「『ap bank fes.』以来だねえ」って、また話して。で、またその時も「弾いてよ!」「いや、頼まれたら俺、本気でやりますよ!」って。

グレートマエカワ
ちょうど常田がスタジオを作ったタイミングで、「そこでやりますよ!」って。

鈴木圭介
「ストリングス・アレンジとかも全部やれますから!」って。でもまあ、その時もそこまで現実味はなく、「いつか一緒に何かやれたらいいな」ぐらいの感じだったんですよ。
で、このアルバムをレコーディングしてる時に、"エンドロール"って曲が、もう、全然できなくて。歌詞がねえ……曲のテーマも、かなり揺れたんですよ。今までで一番、歌詞を書き直した曲で、もう30回ぐらい書き直して。最初はもっと、原発問題のことをストレートに歌った曲だったんだけど、どうもこう、座り心地が悪くて。「いまいちだなあ」って延々と書き直しながら、「最終的にこれ、形にならないかもしれないなあ」って言ってて。
完全に歌詞先行で作ってたから、曲も、全然いい具合にできなかったんですよ。メンバーにも歌詞を配って、「ちょっと曲をつけて」ってやってみたりもしたんだけど、それもうまいこといかなくて。で、レコード会社のスタッフに相談したんですよ。「曲ができないから、誰かと合作とか、コラボレーションとか、どうですかね?」って。


グレートマエカワ
アレンジ的なものを、手伝ってもらうとかね。

鈴木圭介
そう、前に「感情七号線」の時に、亀田(誠治)さんにアレンジを手伝ってもらったような。「あ、それありじゃない?」「ただ、誰とやりたいかっていうアイディアは、まだ全然ないんですけどね」って、家に帰ったら、「……待てよ」と思って。「常田がいたな。ありだ!」と思って。常田だったら流れもいいっていうか、ただ売れてる人をプロデューサーにひっぱってきたとかじゃなくて、俺のことも知ってるし……最初に飲んだ時、俺、全部さらけ出したから(笑)。

グレートマエカワ
フラカンのこともよく知ってくれてるし。

鈴木圭介
そう。それで、帰って2時間ぐらいして、深夜にディレクターに電話して。「実はスキマスイッチの常田くんっつうのがいるんですよ」「あ!それおもしろいかもしれない!」って。あと、常田くん、アレンジもできるけど、言葉もできる。スキマスイッチ、常田って、作曲&アレンジのイメージだったんだけど、歌詞も書くんですよ!俺、歌詞も煮詰まってたから、それもぜひお願いしたくて。で、オファーしたら、うまいことスムーズにいったんだけど。とはいえ、あっちもちょうどアルバム作ってるタイミングだったから、すっごい忙しくて、ほとんど一緒にはやれてないの。

グレートマエカワ
ミーティングを1回して、そのあと1回スタジオみんなで入って、その次はもうレコーディング。

鈴木圭介
そのミーティングで、まず歌詞を見せて。それがねえ、ものすごく、おもしろかったんですよ。歌詞の、いわゆるテクニックを持ってるんですよ、彼は。まず最初に言われたのが、「歌詞のここの箇所とここの箇所、時間軸、ずれてますよね」って。

グレートマエカワ
「季節が違いますよね。これ今の歌なのか、過去の歌なのか、曖昧ですね」って。

鈴木圭介
そんなこと俺、考えたことなかったんですよ。時間軸とか。「はっ……言われてみればそうだね」って。あと、「こことここは合わせた方がおもしろいですね」とか、「こことここ、つなげられますよね」とか、そういうのが見た瞬間にパッパッ出てきた。

グレートマエカワ
1回読んだだけでね。ちょっとびっくりしたね、あれ。

鈴木圭介
「うわー!」って思って。もう鳥肌立ったもん、ほんとに。で、曲ができたばっかりだったから、それも渡して「あとで聴いてみて。いつものように四畳半フォークみたいな曲だから、もうがんがん変えてもらっていいから。オーバー・プロデュースぐらいでいいから、好きなように考えてくれない?」って。そのあと、1回一緒にリハに入って。まず書き直した歌詞を見てもらって、また打合せして、それから曲を、5人でアレンジを作り直して。曲の頭の部分は一緒なんだけど、後半は相当作り直してくれて。
レコーディングの当日も、俺と常田は先にスタジオに入って、そこで歌詞を見てもらって、また書き直して。それがねえ、すごくおもしろかったというか、勉強になったというか。ものすごい説得力があったんですよね。今まで全然意識しなかったような……自分は、テクニックとか、全然持ってなかったから。これまで、ディレクターとかに歌詞のダメ出しとかは受けてきたけど、テクニカルなことは言われたことがないんですよね。「こっちの方がおもしろいじゃん」とか、「ここの歌詞いまいち」とか、そういう言い方だけで、「なぜ?」っていうのがわかんなかったんですよ。そうすると、「結局は、こっちの方が好きとか嫌いとかっていう好みの問題じゃん」っていうのが、心の中にずっとあって。それでスタッフともめたこともあったし。
でも、常田の場合は、「ここはこういう言葉の方がよくないですか? なぜならば、こことここがこうだから、ここはこうした方が、こっちの言葉がこんなふうに活きますよ」って、全部論理的なの。全部テクニックなの。で、逆に誉められることもあったわけ、無意識に書いたので。「ここがすばらしいんですよ。なぜならばこことここにこうつながってるから、これは圭介さんにしか書けない」とか。で、彼がすごい気に入ってくれたフレーズがあって、「ここだけはレコード会社のスタッフに言われても絶対に変えないでくださいね。これは絶対他の人には書けないから」って。そういうのもすごいうれしかったし。
だから、すごい自信につながったのと、そのあと歌詞っていうものに対する考え方がすごい変わった。他の人の歌詞も……それまでは、歌詞っておもしろいおもしろくないでしか見てなかったんだけど、他の人の歌詞を見るのがすごくおもしろくなって。そうやって、「なるほど!」っていうのが、アルバムの最後に書いた曲でわかっちゃったから、それ以前に書いた曲が……「ああっ! 最初に常田とやっとけばよかった!」って。


グレートマエカワ
言っちゃった(笑)。

鈴木圭介
だけどまあ、それはそれで、テクニカルじゃなかったから書けた歌詞でもあったのかな、っていうのもあって(笑)。いや、でもねえ、意外に俺みたいな人、けっこう多いと思いますよ。曲はさあ、けっこうがんがんディレクションされるんだけど、歌詞ってそんなでもないんじゃないかな。「なんかいまいち」とかじゃなくて、論理的に直してくれる人がいるっていうのは、みんな、あんまり経験ないんじゃないかな。俺、歌詞の中で「ここいまいちかなあ」って思ってたとこ、全部指摘されたもん。しかもねえ、うまい言い方でくるんですよ。俺の戦意を喪失させないような。

グレートマエカワ
基本的に合うんだよね、圭くんと。

鈴木圭介
うん。最初の段階で、俺の名前を全部きいてもらってるような人だから。全然年下なんだけど……アニキっていうとあれだけど、精神的には明らかに俺より大人だし、強いんですよ。打たれ強いというか。「歌詞は、どんだけ直しを入れられても、僕は何べんでも書き直します」と。「歌詞は、書き直せば書き直すほど絶対よくなると思うんです」っていうのが、彼の持論なの。俺、逆だったんだよ。最初に書いた歌詞が一番よくて、いじくり回せばいじくり回すほどダメになるっていうことが、何度もあったの。時間かけずに書いた歌詞が、あとあと残っていく曲になって。"深夜高速"とかもそうだし。迷わず作った歌詞が一番いい歌詞だって思ってたから、それ言われた瞬間に「おおっ……なるほど」と思って。だから、俺が今まで直してダメだったのは、直しが足りなかったというか、甘かっただけなんだなと思って。そういうのが、彼とやったことで、パアッと拓けたっていうか。
あと俺、精神的なアップダウンの波が激しいからさ。だから、ああいう、揺るがない強さを持ってる人に弱いんだよね。


グレートマエカワ
俺もさ、常田くんの歌詞のジャッジを横で見とってさ、まずその時点で、よかったなと思ったもん。これ、これからの鈴木にとって、すごいいろいろ広がるんだろうなって。たとえば、俺とかさ、(湯川トーベン)さんにベースのことをきいたり、竹安がアビさん(Theピーズ)にギターのことをきいたり、あるけどさ。でも、ヴォーカリストってそのへんちょっと違うじゃん。

鈴木圭介
プレイのことは話すんだけどね。倉持さん(YO-KING)とか曽我部(恵一)とかに、「発声とかやってる?」とか、そういう話はみんなとするんだけど、歌詞のこととか曲のことは、みんな言わないし、俺もプライドがあってあんまりきかないし。

グレートマエカワ
だから、これまで歌詞のことをディレクターに言われたり、俺たちに言われたりすることはあったけど、それとは全然違う次元で。すごいことがここからはじまったな、このあと全然変わるんじゃないかな、っていう出会いだったね。

鈴木圭介
昔、レコード会社のスタッフにしごかれたこととかもあったんだけど。でも、「これ、よくない」とか「つまんない」って言われるだけで、なぜつまんないのかは言われないんですよ。それが自分では、どうも理不尽にしか思えなくて、「結局好き嫌いじゃねえか」っていう。そうなってくると、よくないのが、その人の顔色をうかがうようになる。「あの人、こういう曲好きなんだよな」っていう曲を作るようになってる自分に、その時気づいちゃって、「ああ、もうダメだ俺、負けたな」って思った。それ、メジャー・レーベルを切られる寸前のことで、結局切られたんだけど、だから、切られてよかったの、結果的には。『吐きたくなるほど愛されたい』を作ってた時だったんだけど、あのまま行ったら、負けたアルバムを作っちゃっただろうし。
だから、なんでダメなのかがよくわかんなかったんですよ。っていうのが、常田に会ってガラガラと壊れて。すごい出会いだったと思いますね。


文:兵庫慎司(ロッキング・オン/RO69)