人気コラムニストLiLyによるスペシャル・コラム到着!
全世界トータル・セールス6,500万枚以上、グラミー賞8冠、9曲のシングルと4枚のアルバムで全米No.1を獲得し、「ハリウッド殿堂入り」を果たしたキング・オブ・エンターテインメント=Usherの最新作『ハード・トゥ・ラヴ』国内盤アルバム発売を記念して、<フリースタイルダンジョン>(テレビ朝日系)で審査員も務める作家/コラムニストのLiLyよりスペシャル・コラムが到着した。
HARD II LOVE / Usher
「青春時代の粋ッた記憶と、
今の自分の限界と。
〜No Limit feat. Young Thug〜 」by LiLy
https://www.youtube.com/watch?v=3w0yqAdJ1iY
なつかしい、なんて言ったら怒られそう。現在進行形で進化しつづけるスター相手に、「なつかしい」は失礼なコメントだ! と思われるかもしれないけれど、その形容詞は実は、スター本人にかかっているわけでもない。
たとえば「Usher」とたったの一言ナマエを出せば、私の女友達は誰もが「ヤッバ! 」と熱い息を漏らすはず。その熱に含まれるのは、Usherの音楽とセットで記憶されている自分自身の青春の記憶。
「Usher…、ヤ、ヤバイ・・・・・・ッ」。
私たちを襲うのは、アーティスト名ひとつで胸に込み上げてくる“ノスタルジー”のあまりのキラめきに、「ヤバイ」としか言えなくなるソレである。
曲を聴くと当時の想いがフラッシュバックする、というのは良くあるけれど、Usherに関して言えば、その名を口に出すだけで、昔からの友達との思い出アルバムの同じページを共有するところまで一気に飛べる。
例えば、20代からのクラブ友達とは、アリシア・キーズとの“My Boo”がかかった瞬間にDJブースの前で抱き合い歓声をあげた、明け方の渋谷NUTS。
10代の頃に留学していたフロリダの友達とは、車内のラジオで流れまくる“MyWay”のビートにノリながら、私たちもうオトナだから! ってな気分で飛ばしたハイウェイ。
もうひとつ挙げるとしたら、クラブで知り合ったイイ感じの男がDJをしているというので、注目すべきアーティストを聞いたところ、「Usherを激しくオススメされて死亡した」という女友達の珍エピソードも懐かしい(笑)。
確かそのガールズトークをしたのは、渋谷のカフェだった。誰だって知っている/誰だって大好きなカレーライスを一度は食べた方が良いと男にカッコつけて言われたら、一体どんな顔をすれば良いのか問題が勃発したのだ(懐)。
—————そう、現在30代の音楽好きにとってUsherは、数々のヒットソングと共に青春に色濃く染み込んだ、ほとんど“常識”みたいに“みんなが好きなアーティスト”。
そんなUsherの4年ぶりとなるアルバムが出るので、三曲選んで三本エッセイを書いて欲しい、という執筆依頼がきたので、私は二つ返事で引き受けた。音源と紙資料が送られてきたので、ワクワクしながらすぐにクリック。
早く聴きたいからだ。もちろんだ。みんな大好きなのがUsherだ。そう思いながらZIPファイルをアンフリーズ。
ニューアルバムタイトルは、まさかの「HARD II LOVE」(愛しにくい!?)。ジャケット写真は、本人を彷彿とさせる崩れかけた石像で、Usher自身の欠点を表しているという。確かに、筋肉美×ベビーフェイスにハットの“イケメン”枠のスターとはいえ、今までも心のナイーブな部分を歌ってきたR&Bシンガーだし、「意外」というわけでもなかったけれど、タイトルとJ写を見た段階でのほんとうに正直な私の第一印象は、
Usherも、色々あってちょっと、疲れちゃったのかな・・・・・・。
また、怒られるかもしれない。でも、若くしてデビューし、すぐに世界的スマッシュヒットを飛ばしまくってR&B界のキングとなり、俳優デビューもしてそちらでも成功し、プライベートでは二児の父親に。世界中に大騒ぎされまくった離婚劇を経て、再婚も。
そりゃ、いくらスターとはいえ人間なんだから疲れるっちゃ疲れるでしょう、と私が思った理由は他でもないーーーー
私自身が限界スレスレまで疲れていたからだ!!!!
当時20歳だったUsherが歌う“My Way”を愛車に流し、女友達と共に調子にノッていたフロリダの女子高生(18歳)だった私は、もうすぐ35歳、二児の母なのである。
届いたばかりの資料を見ていたのも子供たちを寝かしつけた後のキッチンで、新曲を聴くことに対してドキドキはしていたものの、その夜も例にもれることなく“もう私ダメかもレベル”で疲れ果てていた。
だからかもしれない、17曲入りのデータの中から、直感的にまず“No Limit ”をクリックしていた。Feat.に記されたYoung Thugの名にフロリダ時代の自分がウズいたこともあり(笑)。
すると、どうだーーー。
再生から5秒と経たぬうちに、クらった。HIPHOPファンなら、きっと感じてくれるはず。声が聴こえてくるよりも先に、まずはそのトラックのカッコよさに、呑み込まれるようにして身体からエネルギーが沸いてくるアノ感じ。
ビートにノッて、肩が自然と揺れてしまう。Usherのシャウトと共に、指がタバコを挟んでいて、Young Thugのラップに混じってカチャッと火をつけている。換気扇の下で、気づけば私、まるでここがクラブかのように踊っている。
「Make you say uh, no limit
Got that Master P, no limit baby」
もう、体内に残っていないように思われた“力”みたいなものが湧き出てきて、心地よく身体を揺らすのだ。たまらなくなって、リピート。深夜のキッチンにひとり、再リピート。ゆるく踊ることが気持ちよすぎて止められず、何度もリピ。
あぁ、なんだろう、この感じ。
誰も見ていないというのにカッコつけて音にノりながら、この行為が、ちょっと泣きそうなくらい心地よい理由に気づいてしまって、Usherに私は更に酔う。
十代の頃の、根拠などない全能感。二十代の頃の、クラブにいる時の女としての無敵感。そして今、キッチンにて、自分の限界を知ってしまったような気分で疲れ果てていた三十代の自分。
ひとりの女の約20年間のメモリーレーンを「Usher」が一本線で繋いだ上での、「限界などない」というメッセージが、染みるのだ・・・・・・。
特別な思い入れなどない新人アーティストに「ノー・リミット!」と歌われたところで浸透しようもない“心の奥深いところ”から、グワッと“底上げ”される感覚を味わった。
今でも最先端の音楽を率いて世界を魅了する、スターと呼ばれる人間の圧倒的な実力に、勝手に“ノーリミットソルジャー”気分(笑)だった頃の少し昔の自分に、同時に励まされるようにして、瞬く間に私は元気になった。
(ノーリミットソルジャーといえば、のマスターPの名をリリックに挟み込む演出も、私の中のダーティ・サウスを大喜びさせた!)。
「この曲を、僕が歌っているからとかそんなものを越えて、“自分のもの”にしてもらえたら一番嬉しい」とはアーティストがインタビューでよく言う台詞だが、この観点から考えると、「あなたの名前を聞くだけで自分の記憶がなつかしい」はディスどころか賛辞だと私は思う。
個人的な思い出から切り離すことが不可能なくらい、アーティストとリスナーの距離が近い何よりの証拠だから。もちろん熱狂的なファンはまた別として、その距離感にいるリスナーを巻き込まずには、大ヒットは生まれない。
また、「同じ時代を生きることができて嬉しい」は、表現者にとって最大の賛辞のひとつだが、その意味もここに通ず。「過去」を共にしたアーティストの「新曲」でしか、感じることができない「今」というのがあるからだ。
昔は粋がって、何処までも行ける気がしていたこともあったのに、気づけば自分の限界が見えてきた———。そんなふうに思って疲れちゃっているオトナなアナタ、是非深夜に聴いて、ひとりで粋ッて踊って欲しい。
「Give you that black card, no limit
Just know when you roll with a nigga like me」
ブラックカード並みにノーリミット。俺みたいな男と一緒だとこうだってこと、忘れんなよ! か。たまらん。
LiLy 作家/エッセイスト
81年生まれ。N.Y、フロリダ生活を経て上智大学卒。在学中から音楽ライターとして活動し、25歳の時に作家デビュー。著作は全20冊。新刊は、「ここからは、オトナのはなし」(宝島社)。テレビ朝日で放送中の『フリースタイルダンジョン』では審査員を務める。
【最新リリース】
アッシャー
ニュー・アルバム『ハード・トゥ・ラヴ』
<国内盤CD>
発売中!
トラックリスト
01. ニード・ユー
02. ミッシン・ユー
03. ノー・リミット feat.ヤング・サグ
04. バンプ
05. レット・ミー
06. ダウン・タイム
07. クラッシュ
08. メイク・ユー・ア・ビリーバー
09. マインド・オブ・ア・マン
10. FWM
11. ライバルズ feat.フューチャー
12.テル・ミー
13.ハード・トゥ・ラヴ
14.ストロンガー
15.チャンピオンズ
国内盤ボーナストラック
16.グッド・キッサ―
17.シー・ケイム・トゥ・ギヴ・イット・トゥ・ユー feat.ニッキー・ミナージュ
●iTunesリンク
https://itunes.apple.com/jp/album/id1147225416?app=itunes&ls=1