SHITDISCO
どんなバンドだって、パーティのことならまかせてくれと言いたいだろう。
けれどもSHITDISCOのパーティみたいなものは他にない。使われなくなった鉄道トンネルのなかを半マイルも発電機を運び、ライトシステムをインストールして、山ほど集まったレイヴァーたちに一晩中プレイするようなバンドを、いったい何組ご存知だろうか?空間を占拠してしまうグループを、他に知っているだろうか?社会秩序を乱したとフラットを追い出されたせいで、eBayで買ったトレーラーハウスにサウンドシステムを搭載させるなんてことを、あのホラーズはするだろうか?
 グラスゴー出身のシットディスコ(造語の才能がある4人だ)がその名を広めたのは、昨年行ったヨーロッパでのプレイだった。彼らはNMEのレイヴ・ツアーでクラクソンズのコアなファンたちを魅了し、すっかり意気消沈したschmindieファンにアドレナリンを打ち込んだのだ。

 アートスクールへ通っていた彼らが子供の頃から好んでいたのは、トーキングヘッズやプロディジー、ガールズ・アラウド、ドナ・サマーといったアーティストだった。ベーシストのジョー・リーヴズ、二人目のベーシストのジョエル・ストーン、三人目のベーシスト(そしてキーボードの名手)ジャン・リー、ドラマーのダレン・カレンが、シットディスコを結成したのは2003年。グラスゴーの、今は山の手と化したウエストエンドの、無人住宅からスタートした4人は、従来のギグのシーンを避け(グラスゴーのSauciehall通りではそのほうが賢明だろう。彼ら自身の言葉で言えば「堕落しきったローマ」ということだ)代わりに予想以上に人の集まるフリー・パーティを開催していた。

 彼らがいわゆる“ギグ”をするのは、アフターパーティのとき以外滅多にない。クラクソンズやザ・ラプチャーと居間で行ったジャムや、ツアーバスでのポロ・ゲーム(そのせいでドラマーのダレンは腕を折ってしまった)はすでに伝説と化している。しかしバンドにはデビュー・アルバム『KINGDOM OF DEAR』で描かれたもっと奥深い面が存在する。
 ディスコ‐パンク『DISCO BLOOD』のサビの部分「あのディスコの感じが離れない/血のなかに入ってしまった」は、かなりわかりやすいといえる。そこで表現されているのは、エイズに犯されていることを知った人間の苦しみだ。シットディスコをよくよく眺めてみると、絶え間なく続くパーティが実は政治的なステートメントであることに気がつくだろう。ベーシストのジョーは楽曲『REACTOR PARTY』についてこう語っている。「原子炉でパーティを開くっていうロシア人の考え方から着想した。漠然とした政治的野心だ。政府が資金を提供した場所でパーティを開くんだから」
 
 そんな挑戦的な態度が、SHITDISCOの外へ向かう力となっている。「パーティ音楽をプレイすることの根本には政治的な考えがある」とジョー。「選挙に行ってもすべてを変えることはできない。だからパーティをすることが政治的なステートメントになっているんだ。仕事には行かないし、するべきこともしない。その代わりに延々とパーティをやるってこと」つまり、投票所へ無駄に足を運んで、同じような腐敗しきった無能な政府に一票を入れるのか、もしくは日々を楽しく過ごすのか、という選択だ。

 強烈なデビュー・アルバムに収録された嵐のようなトラックには、カルト文学の影響をふりかけたものもある。病的なベースラインでファルセットのコーラスを砕く『3Dセックス・ショー』―ポップなメロディとダークなリリシズムの衝突を映すサウンド―ではヨーロッパのセックス産業をゾッとしながら見つめているが、ミシェル・ウェルベックの、ある意味エロティックな文学が、ジョエルに大きな影響を与えたという。一方、楽曲『フィアー・オブ・ザ・フューチャー』では、膨れ上がったテクノロジーの支配する社会と次々と下される奇妙な命令に対するフィリップK.ディックの嫌悪を表現している。しかし彼らにとって最大の文学者といえば、偉大なるドクター・ゴンゾ、ハンターS.トンプソンをおいて他にない。この作家も正気すれすれで際どい生き方をした人物で、バンドの考える「異様ないかさま社会に対する不信感」と同じ気持ちを持っていた。(『KINGDOM OF FEAR』とはトンプソン最後の自伝のタイトル)

 この喜び/恐怖は、ポスト‐パンクの攻撃性とポップテイストの高揚感の間に存在する彼らのサウンドで、繰り返し表現されている。ジョーが言う。「何かがおれたちのサウンドをいろんな方向へ引っ張っているんだ。TVオン・ザ・レディオの考え抜かれた精密さはいいね。おれたちには、パンクの要素を減らしたポップなアプローチだってある。シットディスコって名前が、どんなサウンドかってことを一番あらわしていると思うよ。とはいえこのアルバムでは“シット”の部分が減って、もっとポップ・ディスコな感じになっているけどね」
 
 さて次のステップは?
ジョーが言うには、80年代hi-NRG系のザ・フラーツみたいなガール・グループを手がけるつもりらしい。「おれたちの持つダークなポップをやりたいんだ」とのこと。
 シットディスコは究極のターボレイヴァーで、へそ曲がりのディスコ―パンクの天才で、やがて誰も目にしたことのないポップ界の魔人と化すことだろう。