ルドルフ・ブッフビンダー
ルドルフ・ブッフビンダー(1946年12月1日、チェコのリトムニェジツェ生まれ)は、オーストリアのピアニスト。5歳でウィーン国立音楽大学に入学。最初の公開演奏会は9歳の時で、11歳で著名なピアノ教育家ブルーノ・ザイドルホーファーのマスター・クラスに入門を許可された。1966年にヴァン・クライバーン国際ピアノ・コンクールにおいて特別賞を、1967年にはベートーヴェン・ピアノコンクールで1等を獲得した。1961年、ウィーン三重奏団の一員としてミュンヘン国際音楽コンクールで第1位を獲得。室内楽奏者としては、ヨーゼフ・スークやヤーノシュ・シュタルケルらとたびたび共演。2007年からはオーストリアのグラーフェネック音楽祭の芸術監督を務めている。
レパートリーは幅広いが、何といってもハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、ブラームスを中心とするドイツ・オーストリア音楽の本流が専門。ブッフビンダーにとって最大の関心事はピアノ音楽界における《新約聖書》、つまりベートーヴェンのピアノ・ソナタ32曲の解釈であり、世界各地で全曲演奏を実現している。ドイツで最も権威ある『フランクフルト・アルゲマイネ』紙によって「ブッフビンダーは我々の時代における最も重要で有能なベートーヴェン奏者」と評された。
ブッフビンダーはレコーディングにも積極的で、これまでドイツのテレフンケン・レーベル(→テルデックを経て現ワーナー・クラシックス)を中心に100点以上のアルバムを制作している。中でもハイドンのピアノ・ソナタ全集(1977年のフランス・ディスク大賞受賞)とベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲および変奏曲全集(1976年~1981年)は、ブッフビンダー初期の記念碑的レコーディングである。ディアベリのワルツによる変奏曲をすべて録音したアルバムや、ヨハン・シュトラウスのワルツのピアノ編曲を集めたアルバムなど、ユニークな企画力が光るものもある。室内楽では、シュタルケルとのベートーヴェンのチェロ・ソナタ全曲(ワーナー)や、アルバン・ベルク四重奏団とのドヴォルザークのピアノ五重奏曲(EMI)が名演として名高い。
近年はライヴ・レコーディングに注力し、ウィーン交響楽団を弾き振りしてのモーツァルトとベートーヴェンのピアノ協奏曲全曲(前者はカーリヒ→プロフィール・レーベルでセット発売されており、後者はORF[オーストリア放送協会]レーベルで発売)はウィーンにおけるブッフビンダーの高い人気と実力を世界に知らしめたセットである。さらに、同じウィーンの名門オケ、ウィーン・フィルとは、2006年のモーツァルト・イヤーにモーツァルトのピアノ協奏曲6曲(第14番、20番、22番、23番、24番、25番)、さらに2011年にはベートーヴェンのピアノ協奏曲全曲を弾き振りで共演し、映像収録されたその演奏は世界各地でTV放映され、また映像作品として発売されている(ユーロアーツおよびCメジャー・レーベル)。
自筆譜を所蔵しているブラームスのピアノ協奏曲2曲については、1998年~99年にアーノンクール指揮コンセルトヘボウ管とライヴ録音(ワーナー)したのみならず、2009年のメータ指揮イスラエル・フィルとのライヴもCD化されている(ヘリコン・レーベル)。また2004年のザルツブルク音楽祭で絶賛を受けたバッハ、ベートーヴェン、シューマンのリサイタル(オルフェオ)、1991年から2004年にかけてウィーンで演奏した協奏曲やソロを集めたライヴ・アルバム(ORF)も発売されている。
ブッフビンダーは、音楽以外にも文学、彫刻に取り組んでおり、情熱的なアマチュア画家でもあると自負している。自筆譜や初版譜、稀覯本の収集にも熱心なことで知られている。自伝『ダ・カーポ』(Da Capo / Rudolf Buchbinder. Aufgezeichnet von Michaela Schlogl. Mit einem Vorwort von Joachim Kaiser. Styria, Wien / Graz / Klagenfurt)を2008年に出版している。

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