ポール・ポッツ・オフィシャル・インタビュー2014
映画『ワン・チャンス』の成功で、そのサクセス・ストーリーが再びスポットを浴びているポール・ポッツ。ニュー・アルバム『ホーム』のリリースに合わせて行った3年ぶりの来日公演も大成功に終り、新たなキャリアのスタートを実感させてくれた。そのポールを、東京に続いて公演で訪れた名古屋の楽屋でキャッチ、コンサートの直前にインタビューが実現した。
Q:まず映画『ワン・チャンス』のことですが、完成までにかなりの時間がかかりましたね。時間がかかったのに、ある日突然完成した印象を受けます。
ポール・ポッツ(以下P):はい、すごく時間がかかりましたね。時々映画の打ち合わせはしていたけど、映画業界特有の、話が出たり消えたりの状態が続いていましたからね。最初はパラマウント映画が興味を示してくれたのですが、ある日、タイミングよくウインスタイン・カンパニーが実現に向けて名乗りを上げてくれて、一気に完成した感じですね。
Q:前から聞いていたお話そのもののコンセプトでしたね。
P:人生には何があるか分からないもので、自分でもすごい展開だったけど、それがそのまま描かれていたと思います。
Q:あなたのサクセス・ストーリーが、ある意味映画を越えていますからね。
P:私が書いた本も出ているのですが、こちらには映画より細かいディテールで書かれて、映画以上に色んなアクシデントが起きたことも書かれています。日本版も出ているのですが、縦書きで読めないのが残念です(笑)。映画でもアクシデントが続きますけど、実生活でももっとアクシデント続きです。本をゴーストライターに書いてもらうアイディアもあったのですが、自分の人生ですし、自分自身で書くことがベストだと思ったので私が書き上げました。
Q:ご自身が映画に主演するアイディアはなかったのですか?
P:もう十分ですよ、自分の人生だけで不思議なことばかりで、自分の人生を描いた映画まで作られているのですからね、妙な感じです。自分が出演するなんてありえないですよ。
Q:奥さまと一緒にご覧になったのですか。
P:はい、プレミア試写会を行なったトロント(トロント国際映画祭)に一緒に行って観ました。数カ月前からラッシュのフィルムを一緒に観ていたのですが、「こんなこと、実際のボクはしないよ」と言うと、彼女が「いいや、するわよ」と言ったりする感じでしたね。パヴァロッティの電話の長さもそうだし、「そんなこと聞くはずないじゃない」と言えば、「いや、聞くわよ」という感じですかね。彼女は私にとって絶対的な存在で、間違っている時でも正しいと思うようにしているので、やはり彼女の意見が絶対ですかね。
Q:日本の観客はかなり泣いていたようですよ。
P:彼女と一緒にウェディング・シーンの撮影を見学に行った時のことです、横にいた(監督の)デヴィッド・フランケルが「ほら彼女泣いているよ」と言うので、よく見てみたら、確かに泣いていたけど、感動したり悲しくて泣いているのではなくて、笑いすぎて涙がポロポロ出ていたんです。爆笑の涙ですね。現実として私たちの人生が描かれていたことが面白かったようです。
Q:ミュージカル映画としても成功している作品ですから、ステージ・ミュージカル化も出来そうです。
P:実現したら嬉しいですね。
Q:ポールさんご自身で出演されたらいいですね。コンサート・ヴァージョンでもいいですから。
P:(照れて)そう、いいかもね。
Q:ニュー・アルバム『ホーム』ですが、いつ頃からレコーディングを開始したのですか。
P:2年ぐらい前からです。アレンジとか選曲など、プロデューサーのクリス・テイラーと一緒に開始しました。どの曲を使うか、使わないかのアプローチですね。以前からこのような方法でやりたかったので、それが実現して、すごく満足しています。
Q:ということは、アルバム収録曲の他にも何曲か候補があったということですか。
P:はい、色んな候補曲の中からベストの曲を選んだことになります。世の中には素晴らしい曲がたくさんありますが、いざ、自分で歌ってみると、しっくりいく場合といかない場合があります。やはり、自分の個性を曲に吹込めないと、成功とはいえません。自分が歌うからには、個性に合った曲を歌い込むことですから、数多くの候補の中から絞り込むことになったのです。
Q:例えば有名無名の観点から見ると、ビートルズとかスティングのような有名な曲もあれば、スパンダー・バレエやフー・ファイターズの楽曲のように知る人ぞ知る曲があったりしますね。
P:元々は200曲以上の候補があって、その中から絞り込んだ結果です。減らす方法としては、いつもウォーキングをしながらアイフォンを聴いていまして、その時に聴きたい曲は聴き込んで、違うなと思った曲は飛ばしていました。それから、パソコンにつないでみると、再生回数が少なかったものは自分に合っていないんだなと思って、そうやって削っていったのです。
Q:アンドレア・ボチェッリやジョシュ・グローバンのような同時代のライバル的なシンガーの曲を取り上げていることは、ちょっとしたサプライズです。
P:私自身は彼らと自分を比較していないですよ。ライバルという意識はなくて、彼らを成功したアーティストだと尊敬していますが、彼らの作品そのものに興味を持ちました。ジョシュの「さよならの時」は非常に優れた曲だと思うし、それらの曲を自分なりに熟成させて表現しようと思った結果です。
Q:確かにポールさん独特の表現に成功していると思います。それと同時にクラシカル・クロスオーヴァーといわれる音楽やそれにリンクする音楽へのリスペクトも感じます。
P:クロスオーヴァーに関して意見を述べれば、ロックを聴く人はクラシックを聴いてはいけない、クラシックを聴く人にロックはダメと言う人もいますが、今回はそんな境界線を取り外したい、フー・ファイターズの「ホーム」など、色んなロックの楽曲も含めてごちゃまぜにして、これでも大丈夫なんだという気持ちを込めています。
Q:その中でもガンズ・アンド・ローゼズの「ノヴェンバー・レイン」は、やはりサプライズでした。
P:皆さん、驚かれたみたいですね(笑)。あの選曲は妻のジュルズが提案です。彼女は最近の私のA&R的な存在ですね。一般の人ですから、ごく普通のリスナーの感覚を知るためにも彼女は頼もしい存在なんです
Q:これまでもそうでしたが、奥さまの存在がニュー・アルバムの音楽にも影響を与えていますね。
P:ハハハッ(笑)、実は「ホーム」の選曲も彼女のアイディアなんです。
Q:フー・ファイターズの「ホーム」を入れたからアルバムのタイトルになったのでしょうが、他の理由はありますか。
P:はい、とてもシンボリックな意味があります。歌うことが自分の「ホーム」ということなのです。これまで色々辛い時期もありましたが、歌うことによって安心出来たし、まるで歌うことが自分のホームのようなのです。
Q:CDジャケットのロケーション撮影はどこで行ったのですか。
P:今住んでいる家から30キロほどの場所です。
Q:ということは、やはり「ホーム」なんですね。
P:そうですね。
Q:カントリーサイドなんですか。
P:そうですね、色んなカントリーサイドと同じような小さな町ですね。
Q:そういう環境だと、周囲の人に騒がれたりしないですか。
P:気付かれることはありますよ。でも普通の生活をしています。よくスーパーに買物に行くのですが、そういうことは自分でしますから。ウインドウショッピングをしていると、不思議な目で見られることはありますけど、買物を人に頼むのは面倒だし、普通の生活をしています。
Q:「アイム・ユアーズ」は今回のジャパン・ツアーでも歌ってくれるのですが。
P:いいえ、前回の名古屋公演では歌いましたけど、今回は歌いません。以前はコンサートでしばしば歌っていました。妻のために歌っていたのですが、彼女は私がステージを歌うのを気に入っていないようで。(笑)
Q:ポールさんが尊敬しているヴィットリオ・グリゴーロのカヴァーですが、シングルのB面カップリング・ソングという、アルバム中で最もマニアックな選曲ですよね。どうやって知ったのですか。
P:ヴィットリオのアイチューンを聴いていて、気に入った曲なんです。CDではシングル「Bedshaped」のBサイドに入っていますね。A面曲より、こっちを気に入りました。
Q:なるほど、そういう曲との出会いもあるんですね。歌の才能に加えて、あなたにはDJのセンスもあるみたいですね。
P:ハハハッ、妻もその提案を聞いたら爆笑すると思いますよ!
Q:リチャード・マークスの「ベスト・オブ・ミー」も興味深い選曲です。
P:あの曲は1年半前に韓国のステージを歌ってオーディエンスに受け入れられたことでも、忘れ難い一曲です。リチャードとビッグ・プロデューサーのデイヴィッド・フォスター、ジェレミー・ラボックが共作した名曲ですね。リチャード・マークスは私のお気に入りの素晴らしいアーティストです。
Q:あの曲のようなアダルト・コンテンポラリー系の曲を、オペラ的に歌うのは難しくないですか。
P:結論からいえば、音楽は音楽なんですよ。確かにフレーズが違ったりして、細部の違いはありますけど、音楽に対するアプローチは同じですね。私にとって、どのようなカテゴリの音楽であっても、音楽に変わりはないのです。
Q:才能があったからというのもありますが、日本のファンを含めて世界中の人々があなたを支持したことも大きな成功要因ですね。
P:日本には何度も訪れて、楽しい思い出が生まれています。とっても幸せですよ。
Q:デビューしてからすごくマイペースで楽しそうにキャリアを積んできたわけですけど、苦しかったことはありますか。
P:55回に上るファースト・ツアーに没頭していた時、結婚したのに自分のプライベートに時間を割けなかったことですね。一緒にいることも、「愛している」とも言えなくて、気をつけなさいという感じでしたよ。
Q:ありがとうございました。
インタビュアー:村岡祐司