イル・ディーヴォ オフィシャル・インタビュー
イル・ディーヴォ オフィシャル・インタビュー
インタビュアー:服部のり子
イル・ディーヴォは、2004年11月にアルバム『イル・ディーヴォ』でデビューした。UKをはじめ世界13か国で1位獲得という華々しいスタートを切り、男性4人組がオペラの歌唱法などを駆使して、ポピュラー・ミュージックの歌をドラマティックに歌う、という新たな分野で大成功を収めてきた。昨年には初のベスト盤を発表。それに続く新作として発表されたアルバム『ミュージカル・アフェア』は、タイトルどおりに全編ミュージカル・ナンバーを歌った作品であり、彼らにとって初めてのコンセプト・アルバムだ。
そんな意欲作を発表したイル・ディーヴォにインタビューした。親日家である彼らが日本のために特別にレコーディングしたNHK東日本大震災復興支援ソング『花は咲く~FLOWERS WILL BLOOM』についても聞いた。
――今回初めてのコンセプト・アルバムですが、なぜ“ミュージカル”をテーマに選んだのでしょうか。
カルロス「これまでもアルバムで、またコンサートでミュージカルのナンバーを歌ってきました。その反響の良さに可能性を感じて、新たな冒険として“ミュージカル”をテーマにしたアルバム制作をしないか、という話になったのです。それから曲を集めてみると、素晴らしい楽曲の宝庫だと再認識させられたのが、このプロジェクトの始まりです」
――その選曲ですが、いろいろ特徴があるかと思います。選曲は、自分達で?
デイヴィッド「カルロスと僕は、ミュージカルの経験があるので、ある程度知識があります。僕ら2人がまず20曲前後の選曲リストを作り、そこにマネージメントの意見、さらに日本からの『花は咲く』などの提案を加えつつ、最終的に日本盤ボーナス・トラックを含む、この13曲に決まりました」
――特徴のひとつが40年代から現在までと、新旧の名曲を幅広く選んでいる点ですが、これは意図的にそうしたのでしょうか。
ウルス「ひと口にミュージカルと言っても、物語、音楽にそれぞれの時代が反映されています。1940年代の『南太平洋』と、2000年代の『ウィ・ウィル・ロック・ユー』では音楽が全く異なる。その違いを作品に組み入れたいと思いました。自分達にとってもいいチャレンジになると思ったので…」
――しかもオリジナルとは異なる言語、英語の楽曲をスペイン語やイタリア語に代えて歌っていますね。これはどうしてでしょうか。
セバスチャン「最初からそういうアイディアがあってスタジオ入りしたわけではないのです。同じ曲を英語やスペイン語など、何か国語かで試すなかで、スペイン語がいい、いや英語のままがいいと、調整するなかで決まっていったことです」
デイヴィッド「と言うのも今回は、プロデューサーのアルベルト・キンテーロが手懸けたアレンジがとても優れていたので、ドラマティックな転調によって聴き手の心を高揚させる、という僕らが得意とする手法を使ってもあまり効果がないのではないかと思ったのです。それであるならば、オリジナルと言語を変えることで、新鮮な驚きを生み出したいと思って、あれこれ言語を試してみました。アメリカ人の僕としては英語で歌うのが一番簡単なんだけれどね(笑)」
――新鮮というところではミュージカルでは女性が歌う『キャッツ』の劇中歌『メモリー』を取り上げたりもしていますよね。
デイヴィッド「『メモリー』は女性の歌だし、『南太平洋』の劇中歌『魅惑の宵』は、バリトン歌手が歌っていたものを僕らテノール歌手が歌っています。カルロスはバリトンだけれど(笑)。僕らの個性は、オリジナルの美しいメロディー、フォーマットを大切にしつつ、イル・ディーヴォならではのオペラ的なアプローチで壮大な曲にリメイクしていくこと。決してカヴァーではないということが重要で、だから『メモリー』も美しい曲ということで取り上げています」
――さて、ゲストも迎えていますね。①『メモリー』はニコール・シャージンガー、②『愛を感じて』はヘザー・ヘッドリー、⑤『オール・アイ・アスク・オブ・ユー』はクリスティン・チェノウェス。さらに⑪『愛はすべてを変える』ではマイケル・ポールと共演。もっと言うと、2006年に参加したバーブラ・ストライサンドのコンサートでライヴ録音された⑫『ミュージック・オブ・ザ・ナイト』も収録されている。なぜこれほど多くのゲストを迎えたのでしょうか。人選は、グループ自身がされたのでしょうか。
デイヴィッド「彼らに限らず、最初いろいろな人にアプローチしました。僕らの新作で共演しませんか?と。そのなかでニコール、ヘザー、クルスティンは、いち早く返事をくれたので、すんなりと共演が決まりました」
セバスチャン「マイケル・ポールとは同じテレビ番組に出演したのが出会いとなり、楽屋でいろいろな音楽の話で盛り上がりました。その時にいつか一緒にやりたいね、となった話が彼のアルバムで実現したわけです。『愛はすべてを変える』という曲は、マイケルからの提案でした」
――いわゆる客演だったからでしょうか、他の曲と違ってリラックスして歌っているように感じられるのですが…。
セバスチャン「マイケルとのレコーディングは、即興的に行ったというか、スポンテニアスに自然な流れに任せて、アーティストとアーティストの間に生まれるケミストリーを大切にして歌った結果が、そのリラックスしているように聴こえる歌になったのだと思います。マーケティング重視の時代において、即興で音楽を作るというのは貴重な経験になりました」
デイヴィッド「マイケルは、声をプロデュースする能力に長けているので、予めヴォーカル・アレンジを決め込むことなく、僕らがスタジオで歌うのを聴いて、その場でいろいろアイディアを出し、声の使い方をアドバイスしてくれました。それが即興のレコーディングにつながったわけですが、とにかくマジカルなテイク、最高だという歌を聴き分ける才能に恵まれている人なので、安心して彼にプロデュースを任せることができましたね」
セバスチャン「マイケルは、いつもエンジニアと2人でレコーディングしているから、当然彼自身がプロデューサーの役目も担っているわけですが、彼もアーティストだから僕らの気持ちを理解してくれる。最高の歌を目指して納得いくまで歌いたい、という僕の願いを受け入れてくれる。これってすごく大切なことなのです」
――イル・ディーヴォのレコーディングではアルベルト・キンテーロがプロデュースしていますよね。彼との仕事はいかがでしたか。
セバスチャン「初めて組む人とはそれなりの苦労はつきもの。アルベルトは、自分のアレンジが意味するところを詳細に説明してくれるタイプ。それによってどんな歌が聴きたいと思っているか、というところまで。でも、僕は、テンポに関してはある程度の自由を好むので、そこはお互いの妥協点を探りながら、ベストなところに着地をしようと考えました。そのやり取りが今回、本当にいい勉強になりましたね。ミュージカルという僕にとっては未知の世界に挑戦したのと同じくらいに…」
――その未知なる世界への挑戦についてもう少し詳しく話してもらえませんか。
セバスチャン「僕は、ミュージカルの経験はもちろんのこと、知識もほとんどない。ある時“ミュージカルなんて全然知らないからなぁ”とこぼしたら、デイヴィッドに“だったら勉強しろよ”と叱られてしまった(笑)。彼の言うことが正しいのですが、僕は歌う前に先入観というか、予備知識をあまり持ちたくないタイプ。アドバイスに従って、実際に何本かミュージカルの映像を観ました。名曲『トゥナイト』も『ウエスト・サイド・ストーリー』の物語を理解した上で、情景を頭に浮かべながら歌うと、素直に感情移入が出来て、よりエモーショナルな歌になることもわかりました。歌の物語、感情を模索するプロセスは、とても刺激的でおもしろかった。でも、やっぱり僕の場合は、前もって勉強していくと、どこか物まねのようになってしまい、自分の歌が歌えなくなってしまうのです。たまには予習が足りなくて、みんなに迷惑を掛けてしまうけれど、でも、僕は自分の声と3人の声の美しいマッチングに全てを賭けているといっても過言じゃないので…」
――では、模索した未知なる世界で特に好きになった曲は、ありますか? 今日の気分で答えていただいてもいいですよ。
セバスチャン「それが全ての曲を好きになりました。8か月前に子供達を連れて、『ライオン・キング』を観に行ったのですが、子供以上に夢中になってしまって。今では彼らと一緒に家でミュージカル・ナンバーを聴いたりしているのですが、おもしろいことに最近の曲よりも40年代のようなクラシカルな曲の方が好きだというのです。子供達の反応にもっと古い時代の歌を歌うべきだと今は思っています」
――往年の名曲を自分達が歌うことで、次世代に継承する、といった使命感のようなものは抱いていますか?
デイヴィッド「その責任感のようなものは持っているつもりです。最近すごく嬉しいことに、今までポピュラー・ミュージックにしか興味がなかったけれど、イル・ディーヴォの音楽に触れたことで、オペラに行ってみたくなった、という声をよく聞くようになりました。そういう時にオペラとポピュラー・ミュージックの間の垣根を低くすることに少しでも貢献できているのかなと思います。そういう意味で新作『ミュージカル・アフェア』がきっかけで、ミュージカルの興味を持ってくれる人がひとりでも多く生まれたら、嬉しいですね」
――新作の発売を記念して、ブロードウェイのマーキス劇場で6回連続公演を行うことになっていますよね。これはどんなコンサートになるのでしょうか。
カルロス「イル・ディーヴォがミュージカル劇場に立つのは初めてなので、それだけでも興奮しています。コンサートの構成としては、以前クリスマス・ショウをやった時のようにゲストを数人迎えることになるし、スクリーンに映し出された映像との共演という演出も考えています。そして、バンドはステージ上ではなく、オーケストラ・ピットにいる。これも新鮮な経験になると思いますね」
――でも、カルロスとデイヴィッドは、ミュージカル劇場で歌うのは初めてではないでしょ? ちょっと古巣に戻るという感じでしょうか。
デイヴィッド「僕にとってはまさにルーツに戻る、という感じになるでしょう。僕は高校生の時に『ミス・サイゴン』や『チェス』などの大人気ミュージカルのトリコになったことで、歌手になりたいと真剣に考えるようになりました。当時学校の合唱団に所属していたのですが、先生の勧めでミュージカルのオーディションを受けたところ、あまりの緊張で歌詞が途中で飛んでしまい、歌えなくなってしまいました。自分の失敗がすごく恥ずかしかったのですが、審査員の先生に最後まで歌いなさいと促されて、続きを歌うことが出来ました。そして、何の奇跡かオーディションに合格をしてミュージカルに出演したことで、僕の人生は変わりました。だから、今回ブロードウェイの舞台で歌えることはすごく名誉なことだと思っています」
カルロス「僕は、6歳からミュージカルの舞台に立ってきました。その頃と比べると、いろいろな意味で、いろいろなことが変わっていますが(笑)。僕にとって今回のブロードウェイは、古巣に戻る郷愁よりも、出演者がそれぞれソロで歌うミュージカルと違い、僕らはハーモニーで歌の物語を紡ぐ。それをマーキス劇場でやることが、新鮮な経験になるのではないかと期待しています」
――最後に冒頭から話に出ていた『花は咲く』について聞かせてください。歌ってみていかがでしたか。
ウルス「最初に聴いたのは日本語ヴァージョンでした。武道館のコンサートで『故郷(ふるさと)』を日本語で歌ったことがありますが、『故郷』は、曲調がゆったりしているので、僕らでも日本語で歌うことができました。『花が咲く』も日本語で歌うのが望ましいのですが、この曲を日本語で歌うのはあまりにもハードルが高いので諦めて、英語で歌うことにしました。歌詞の不安がなくなった時点であらためて『花は咲く』に向き合ったところ、キャッチーなメロディーに心惹かれました。
僕らとしては意味のある歌、日本のみなさんの心に訴えかけられるような歌をぜひ歌いたいと思っていたので、『花は咲く』は、すごくいいインスピレーションを僕らに与えてくれましたね。『故郷』を歌った時に武道館の空気が変わり、みなさんの感情がエネルギーとなって僕らに伝わってきて、感動的な時間を過ごすことが出来ました。ですので、今度の来日公演時に『花は咲く』を歌うのを今から楽しみにしています」