キーボードのサイモン・マーヴィンへのインタビュー 1
小川充氏によるキーボードのサイモン・マーヴィンへのインタビューを3回にわけてお届けします。
サイモンによるメンバー紹介や、影響を受けたアーティスト等、興味津津の回答満載です!
『Choose Your Weapon』で日本発登場となるハイエイタス・カイヨーテ。オーストラリアのメルボルンから登場した彼らは、ネイ・パーム(ヴォーカル、ギター、キーボード)、ポール・ベンダー(ベース、ギター、キーボード、プログラミング)、サイモン・マーヴィン(キーボード、ヴォコーダー、パーカッション)、ペリン・モス(ドラムス、パーカッション、キーボード、ベース)という4ピース・バンドだ。ファースト・アルバムの『Tawk Tomahawk』で一躍注目を集め、そのなかの「Nakamarra」はQティップをフィーチャーしたUS盤収録ヴァージョンにより、第56回グラミー賞ベストR&Bパフォーマンス部門でノミネートされた。そして、セカンド・アルバム『Choose Your Weapon』は、早くもファーストを上回る傑作と世界中で話題となっている。『Choose Your Weapon』の日本盤発売にあわせ、メンバーのサイモンに話を訊いた。
Q: 2011年に結成されたハイエイタス・カイヨーテは、いろいろな音楽的バック・グラウンドを持つメンバーが集まっています。その中でもあなたは幼少期にはクラシックを学び、その後ジャズ方面へ進んだキーボード奏者だと聞きます。どんな音楽的影響を受けてきたのかもう少し詳しく教えてもらえますか? たとえば影響を受けたアーティストや作曲家などは?
う~ん、難しい質問だ。影響を受けた人たちは数えきれないくらいいるからね。一番よく聴く人たちとなると、鍵盤奏者ではビル・エヴァンスとハービー・ハンコックかな。僕にとってもっとも愛聴し、もっとも影響を受けてきた人たちになるだろう。ビル・エヴァンスはジャズ・ピアノ・トリオという形態を発明したようなものだし、音楽へのアプローチで多くのミュージシャンに影響を与えた。絶対的に素晴らしいミュージシャンだ。ハービー・ハンコックも同様に創造性を極めている。常に革新を繰り返すミュージシャンでありながら、謙虚さを忘れない人格者でもある。
他にはドビュッシーも素晴らしいと思う。ただ、昔ほどクラシックは聴かなくなった。クラシック・ピアノを弾く時間もなくてね。クラシックをやっていたのが凄く遠いことのように思えるくらいだ。
Q2: そういった影響をハイエイタス・カイヨーテにどのように反映させていますか。
鍵盤奏者として、もっぱらハーモニーや和声のアイデアやコンセプトを提案することが多いんじゃないかな。と言いつつも、このバンドはなかなか面白くて、音楽を作る際だったり、曲を仕上げる際だったり、ライヴをするときでも、みんながまず他の人の演奏を聴いて、それに反応する。ひとりのメンバーが特定のものを持ち込んで、それをみんながやると言うよりも、お互いの出す音に反応して自分の音を出すという点で、全員が同等に貢献していると言える。誰かがあるアイデアを演奏したら、僕はそれを聞いて、自分なりに解釈して、呼応し、トータルのバンド・サウンドに貢献する。曲を完全に書き上げた状態で持ってきて「これはこういうサウンドでやってくれ」と各メンバーに指示することはない。曲のきっかけとなる、何か断片だったり、骨組みだったりがあって、それを軸にみんな自分なりの音を鳴らす自由がある。ある意味即興に近い。何かを聴いて感じ、それに反応して、創造していく。曲作りでも、ライヴでも、それがこのバンドの核にあると僕は思っている。
Q3:メンバー全員が即興に強いんですか。
実は僕とポールとペリンはスウィーピング・ダックという別のバンドをやっているんだけど、そのバンドでライヴをやるときは100パーセントの即興演奏なんだ。ステージに上がって
1時間の演奏が全て即興。何が起こるか全くわからない。なかなか楽しいよ。だから僕たち3人は即興演奏にとても慣れているんだ。ネイは僕たちほどではないけど、
徐々に慣れてきている。
Q4:その他のメンバーもそれぞれ個性的なバック・グラウンドを持っていると思いますが、あなたから他のメンバーを簡単に紹介してもらえませんか?
ペリンはメルボルンから車で11時間ほど北に行ったところのブルー・マウンテンズで育った。10代のころからサウンド・プロダクションを始めて、そっちのほうを長くやっていた。実は最初のバンドではMC担当だった。ラップやヒップホップに大きく影響を受けている。メルボルンに越してきて、あるときネイと出会って、バンドを始めることになるわけだけど、その時点で彼はドラムをそれほど長くやっていたわけじゃないんだ。せいぜい始めて1年くらいだったんじゃないかな。で、このバンドで初めて本格的にドラムを叩くようになった。
彼のユニークな点は、楽器を弾く前から音のプロダクションをやっていたということ。楽器が弾けるようになる前から頭の中でいろいろなサウンドが鳴っているんだ。そういう人はなかなかいない。普通は逆だからね。音楽の概念もわからず、まず楽器を覚えて、そこから頭の中で音楽がイメージできるようになるわけだからね。僕がまさにそうだった。昔クラシック音楽を習っていたころは、自分が何をやっているのかわかっていなかった。「これをこう弾きなさい」と言われた通りにただ演奏しているだけだったんだ。その後、心から音楽が好きになっていき、自分がどういう音楽をやりたいかがわかって、それが大きな転機となった。でも彼の場合、楽器を覚えるもっと前からそれがわかっていた。僕とは全く違う。そこが素晴らしいと思うね。僕とは全く違うものをバンドに持ち込んでくれていると思う。
ポールはタスマニア出身で、たしか12か13歳ごろからベースを弾いている。最初はヘヴィメタルをやっていて、そこからジャズや現代音楽にハマっていった。マイアミ大学に行って4年間音楽を勉強してから、またメルボルンに戻ってきたんだ。彼も僕も最初はセッション・ミュージシャンで、ハイエイタスをやる前から彼のことは知っていたし、ライヴで共演することもあったな。
ネイは独学で音楽を覚えたミュージシャンで、スティーヴィー・ワンダーやマーヴィン・ゲイとかの昔のソウルやR&Bを聴いて育った。フラメンコもたくさん聴いてきたし、そういったいろいろな音楽を聴いて歌を覚えたんだ。他人のバック・コーラスをやったことはあるけど、基本はずっとひとりでギターを持って演奏していた。ハイエイタスは彼女にとって初めてのちゃんとしたバンドだから、いままでになかった経験をしたんじゃないかな。ここまで本当に目まぐるしい日々が続いていると思うよ。
それぞれ個性の強いメンバーなので、ときに意見が衝突することはありませんか?
それはあるよ。民主的なバンドで、4人の人間が自分の見解をぶつければ意見が合わないことだって当然ある。みんな明確な見解を持っているしね。だから衝突することもある。でも、お互いに対する敬意をそれぞれ持っているから、みんなどうにかする(笑)。そりゃ、どうにもならないと思うこともたまにあるけど、まあなんとかうまくやっているよ(笑)。