グレイス

スモーキーで時代を超越したような歌声、卓越したソング・ライティングの才能。ポップ・ソウルに若々しい感性で向き合うシンガー・ソングライター、グレイス・スーウェル。彼女は2016年の新たなサクセス・ストーリーを紡ぐ一人だ。オーストラリア東部にあるブリスベン出身の19歳は、チャート1位となったデビュー・シングル「You Don’t Own Me ft. G-Eazy /ユー・ドント・オウン・ミー feat. Gイージー」で、一気に世に知られることになった。この楽曲は、レスリー・ゴーア(Lesley Gore)が1963年に発表した同タイトルの女性解放アンセムのカバーであるが、同時にヒップホップの影響も見ることができる。G-Eazyが新たなラップの歌詞を加えて、パーカー・イギール(Parker Ighile)とともにこのオリジナル楽曲のプロデューサーである伝説のクインシー・ジョーンズ(Quincy Jones)が共同でプロデュースを手掛けたこの曲は、グレイスの2015年のデビューEP「Memo」(Regime Music Societe/RCA)に収録され、彼女の名を世界に広く知らしめることになった。米国でもヒットとなり、「You Don’t Own Me」は音楽ストリーミング配信サービスSpotifyでは5000万回近くの再生回数を記録。また英国と彼女の母国オーストラリアでも1位に輝くととみに、オーストラリアではトリプル・プラチナムにも認定されている。

「“You Don’t Own Me”を聴く人がこの曲に共感する理由は、歌に込められたメッセージがとてもパワフルだからだと思うわ」とグレイスは語る。「私がこの曲を聞いたのは17の時で、レスリーがレコーディングしたのと同じ年齢だったの。鳥肌が立ったわ。この曲のおかげで、女であることを誇りに感じるようにもなったの。」

グレイスのフル・デビュー・アルバムとなる『FMA』(Forgive My Attitudeの頭文字をとったもの/“生意気な態度で失礼!”)と冠されたタイトルには主張性があり、またソウルフルな楽曲が多く収録されているが、「ユー・ドント・オウン・ミー feat. Gイージー」で彼女が語った言葉と同様に、力強い気持ちがアルバム全体に込められている。「私はいつも人とは少し違ってたわ。」とグレイスは語る。「あまり周りに溶けこんだことはなかったし。子どもの頃から音楽にすごくのめりこんでいて、とても変わっていたんだと思う。意見を持つことや、本物であることは大切なことだといつも思ってた。でも、これは社会が女性に求めることと必ずしも一致しないのよね。アルバム・タイトルは、私が自分らしくあることに対して、ちょっと皮肉っぽく謝罪している感じなの。」グレイスはさらにこう話す。「でもタイトルはちゃんとアルバムの音楽ともリンクしてるものにしたかった。失恋の痛みを歌った曲もいくつかあるけれど、傷つくあまり人生を前に進むことができなくなってしまうような歌じゃないわ。歌詞が生まれる源は自分の中の力強いところ。私の歌はどれも裏にはちょっと生意気な気持ちがあるから、そういう姿勢をタイトルに反映させたかったの。」

『FMA』からのシングル「ヘル・オブ・ア・ガール」は、恋人との破局後について歌った曲。恋人との関係が終わるとこの世の終わりのような気持ちになるが、そのうち必ず元気になるものだとグレイスは自分自身に言い聞かせている。「この歌は自尊心とか、自分を愛する心とか、よりよい方向へ進んでいくことがテーマよ」とグレイスは言う。また「ニュー・オリンズ」では傷つきやすい一面を見せている。この楽曲は、彼女のキャリアが急速に軌道にのった反動で、仕事の時間が大幅に増え、睡眠がとれず、家族や友人からも遠ざかってしまい、心身ともに大打撃を受けた時に書かれたものだ。「何かに夢中になり過ぎると、人間であることや当たり前のことをするのを忘れてしまう・・・そんな気持ちがひたすら湧き出てきた。あれは朝の4時で、スタジオには誰もいなくて、わたしはひたすら言葉を探しながら、ライトもすべて消した中、わずか1~2テイクの間にブースにこもってこの歌を書きあげたの。」

グレイスは『FMA』に収録される全ての曲を、長い間共に仕事をしてきたパーカー・イギールや、プリンス・チャールズ(Prince Charles)、プログレション(Progression)と共同で書いている。仕上がった音には、ぬくもりのあるヴィンテージ・ソウルと、躍動感のある現代的なエネルギーが絶妙に共存している。「私の音楽の趣味はかなり幅広くて、フリートウッド・マックからエタ・ジェイムズ、エラ・フィッツジェラルド、ローリン・ヒルやエイミー・ワインハウスまで聴くのよ。どれも何かを感じさせるものがある音楽ばかり。それに、かなりヒップホップの影響も受けてるし、ある意味“音楽のるつぼ”だけど、歌詞は19歳の女の子の視点になってるわ。」

グレイスが初めて曲を書いたのは12歳ぐらい頃だったが、小さいころから歌を歌っていなかった時の記憶はないという。彼女の母親が好きだったザ・テンプテーションズや、アレサ・フランクリン、グラディス・ナイト、スモーキー・ロビンソン、レイ・チャールズなど、その当時のソウルやモータウンのアーティストたちに彼女はまず恋をした。また彼女は音楽好きの一家に生まれている。父親はかつてマスコミが「オーストラリアのトム・ジョーンズ」と呼んだ歌手で、祖父母のベティとグラハム・ブリューワーは、ビージーズのツアーをサポートしたことがある。そして3年前、グレイスがノートパソコンとアップルのイヤフォンを使って録音したのが「ボーイフレンド・ジーンズ」だ。「この曲がRCAとの契約をもたらしてくれたの。たくさんのドアを開いてくれたわ」と彼女はまだ驚きを隠せない表情で語る。

今や世界的なスターへの道を歩み出したグレイス。デビュー・アルバム『FMA』によって、今の彼女が成し得る最高の音楽をもっと多くの人たちに届ける準備ができた。「聴く人の感情をかき立てるものがなければ、何の意味もない。だからソウル・ミュージックが好きだし、それが私のやりたいことなの。みんなが曲を聴いて、同時に泣きたくなったり、大声で笑いたくなったり、笑顔になったり、踊り出したりしたくなる、そんな瞬間を蘇らせたいって思っているわ。」