藤倉大「ざわざわ」が2019年度 音楽之友社 第57回レコード・アカデミー賞(現代曲部門)受賞!
藤倉大の受賞コメント
Photo: Alf Solbakken
第57回レコード・アカデミー賞の現代曲部門で僕の最新アルバム「ざわざわ」が選ばれました。ありがとうございます。
僕は一応クラシックの世界の作曲家となっているのに、なんでこんなに録音にこだわるのでしょうか。僕にもよく分かりません。
「でさ、なんでそこまで録音にこだわるの?」
僕の録音に費やす労力、録音にまつわるほとんどの分野を自分でやりたいというマニアっぷりを側で見ている演奏家の友達からよく言われるのです。
クラシックはもともと「生演奏でなんぼや!」という世界。録音はそこから派生した、まさにおまけのようなもの。
ですが、僕のポップミュージシャンの友人、デヴィッド・シルヴィアンと話していると、
ポップスとはまったく反対だね(つまりポップスでは「録音でなんぼや!」ということ)と。
だから彼らはレコーディング・アーティスト、と呼ばれるわけで。
ライヴで演奏を聴く、見るより、遥かに録音で聴く機会の方が多いのです。
もちろん、そこまで僕の音楽を元々聴く人は多くないかもしれないですが、そんな小さな世界でも生で聴くより録音聴く機会の方が多めかもしれません。
特に今はネット環境さえ整っていれば録音は聴けます。
それならなおさら録音に熱意をかけ、アルバムを作りたい、と思うのです。
自分の好み通りの録音のミックスに仕立て上げる、それは作曲するよりも、そして恐らく演奏家が作品を演奏するために費やす練習時間よりも遥かに時間がかかる作業です。
永遠に終わりのない世界でもあります。
それでもその労力を費やした向こう岸には、僕の耳が納得する音が流れてくる世界が待っています。他の人にはどう聴こえるかはわかりませんが。
録音の音は一気に立体的、ある時は鼻の先を引っ掻き、ある時は首のあたりにジュワーっと温かい液体が包んでくる(単に温泉に行きたいだけ?笑)。
ひやっと足の裏を触ったと思った音が来たら、そのあとはドーーンと背を押されて、空に浮く。。。。そんな録音を僕なりに作ることができるんです。少なくても目指せます。
ここまで読んで頂いて分かるかも知れませんが、僕が聴きたい録音、というのはクラシックの普通のエンジニアが作る音とは全然違う様です。
なので、最近は僕のアルバムではなく、演奏家のアルバムに僕の曲を収録して頂く時にも、よくミックスのことを「藤倉さんならどうしますか?」と聞かれ、
例としてやってミックスした音源を送ってみると、そのレコード会社のチームとどうやら正反対なものができる様でして。
時には、「ちょっとウチとして、藤倉さんのトラックだけ浮くのでアルバムには収録出来ないけれども、なんとか別の形で出したい!」と言ってくださるレーベルの人もいます。
今から思うと19歳くらいだったか大学生の頃から、まだ僕が自分のパソコンを持つ前からこういう作業はレコード・プロデューサーとしても活躍されていた作曲の先生の家のスタジオで、作曲のレッスンなんてやらずに先生を指図して自分の録音を自分好みの響きに作り上げる事をしていました。
その延長が今。
こうやって自分の曲を「録音物」として誰かに良いと言って頂くのは作品そのものを褒められるより嬉しいです。
有難うございました。
藤倉 大