カルツ
インディー・シーンに突如現れたNY発UK経由、注目の男女デュオ。2010年、ニューヨーク大学で映画の勉強にいそしんでいたふたりの学生カップル、ブライアン・オブリビオン(g)とマデリーヌ・フォーリン(vo)により結成(ライヴはバック・バンド3名を加えてパフォーマンスを行う)。

楽曲3曲[Go Outside]、[Abducted]、[Most Wanted]を自らのウェブサイトcults.bandcamp.comに上げたところ、PitchforkやThe Hype Machineなどメガ・サイトをはじめとした様々なメディアやブログなどで取り上げられ(リード・シングル「Go Outside」はPitchforkでBest New Musicに選出)目を見張るスピードで拡散していき、英NMEが選ぶ「2010年のベスト・ニュー・アクト50」の16位にも選定、リリー・アレンによって設立されたレーベルの最初の契約アーティストとして結成から1年余りでデビュー。

「美しいものがそうであるのは、たしかにきれいだけれど何か問題を併せ持つからだと思うんだ。(中略)だから醜い人が言った美しい言葉がほしかった。あらゆる面で明らかに不愉快で好ましくない人でも、完璧な言葉を語れる、それが美の骨頂だと思う」とブライアンがその信条を語るように、アルバム全体を占めるマデリーヌによるアンニュイなヴォーカルと、ポップで甘酸っぱい音楽性に対比するように、作品には悪名高いカルト・リーダーたちの言葉が引用されている。1978年、900人以上の信者による集団自殺など大事件を巻き起こしたキリスト教系のカルト教団「人民寺院」の教祖ジム・ジョーンズの演説を冒頭にサンプリングしたり、ほかにもアメリカの左翼過激派組織「シンバイオニーズ解放軍」のメンバーであった女優パトリシア・ハーストやカルト指導者チャールズ・マンソンの言葉などを引用しながら、人生の不安、薬物の乱用、思春期から大人へと変化する悩みなどが歌われている。「不安」が「カルト」に入らせるという事実が、実に地に足のついた辛辣なメッセージを発信しているこのバンドの最大のコンセプト~テーマのようだ。

アルバムのうち『Go Outside』と『Most Wanted』はカルツによるセルフ・プロデュースだが、その他はカルツとシェイン・ストーンバック(Vampire Weekend/Sleigh Bells)による共同プロデュース作となっている。

本作の数曲でプロダクションにも参加している、マデリーヌの叔父はホワイトゾンビの元メンバー=ポール・コスタビだが、彼がホワイトゾンビの前に在籍していたLA出身のパンク・バンド、ユース・ゴーン・マッド(Youth Gone Mad)の作品に、8才のマデリーヌがラモーンズのメンバー=ディー・ディー・ラモーンと共演するかたちで、すでにヴォーカリストとしてレコード・デビューしている。その縁からか、マデリーヌの母親はディー・ディー・ラモーンのアート・ディーラーをやっていたというウワサもアリ。また、60sガール・グループからの影響は濃く、特にシャングリラズはズバ抜けたインスピレーションをカルツに与えている。