ニュー・アルバム発売記念会見レポート
2014年10月1日、マンハッタンのアッパー・イースト・サイドにあるホール「92nd Y」で、アレサ・フランクリン(72歳)が、新作『Sings the Great Diva Classics』のリスニング・セッションも兼ねた会見を行った。当日は、アレサとは長年タッグを組んできた名プロデューサーであり、現Sony Music EntertainmentのChief Creative Officerであるクライヴ・ディヴィス(82歳)も同席した。ステージ中央に、ホワイトのパンツ・スーツ姿のアレサ・フランクリン、左にクライヴ・ディヴィス、そして司会役(MC)のジャーナリスト/大学教授のアンソニー・デ・カーティスが右に座り会見が始まった。
(以下、会見の抜粋)
MC: クライヴ・ディヴィスさんといえば半世紀にわたり音楽界に君臨し、今も現役で活躍しています。今回のアレサの新しいアルバムについて伺いたいと思います。
Clive: みなさん、アレサ・フランクリンといえば「クイーン・オブ・ソウル」、「ディーヴァの中のディーヴァ」、つまりシンガーの中でも最も素晴らしいシンガーだということは誰もが認めるところです。ここでさらに私が強調したいのは、今回、彼女がソウル・ミュージックに新しい息吹を吹き込み、音楽業界に大きなインパクトを与えてくれたことです。彼女のこれまでの功績だけでも素晴らしいのに、こんなに素晴らしいアルバムを発表してくれて、最高の気分ですね。
MC: クライヴとアレサとのコラボレーションが始まったのは1979年だそうですが、2人の相性について聞かせてくれますか?
Aretha: クライヴと私は音楽的にとても意見が合うの。音楽性とか方向性とか、いろいろ話し合うんだけど、だいたいいつも意見が合うの。
Clive: 一緒にものを作り上げるうえで、アレサとはフィーリングが合うんです。世の中には才能のある人たちがたくさんいると思うけど、例えば、ピカソとか、ココ・シャネルとか、マーロン・ブランドといった人たちと同じように、彼女もなにか「スペシャル」なものを持っています。僕の中では、最も優れたミュージシャンのトップ5に常に入るのがアレサなんです。他には、ルイ・アームストロング、ビートルズ、ボブ・ディラン・・・。一緒に仕事を始めてからもう35年も経つけど、こうしてまた彼女とアルバムを制作できたことは私にとってもスペシャルなことなのです。
MC: アレサ、あなたにとって、これまで音楽的に影響を受けた人は誰ですか?
Aretha: 私は、シンガーが好きなの。キチンと歌える人。私はずっと教会で歌ってきたから、影響を受けたのはゴスペルのクララ・ウォード、マヘリア・ジャクソン、他にはジャズのエラ・フィッツジェラルド、サラ・ヴォーン、アル・ジャロー、ジョージ・ベンソンとか。本物のシンガーが好きなの。
Clive: 私はコロンビア・レコード時代から多くの「アイコン」と呼ばれる才能のあるアーティストたちと仕事をしてきましたが、その中でもアレサは特別です。私が初めてアレサと仕事をした時、彼女はすでに大スターでした。音楽のトレンドなども変わりますし、ずっとスターの座を維持するのは並大抵のことではありません。でもアレサは「Natural Woman」「 Freeway of Love」「 A Rose Is Still A Rose」など、次々と新しいヒットを放ちました。世の中の変化に見事に対応してきたのです。グラミー賞はもちろん、あらゆるアワードをねこそぎ受賞してきました。常にトップのディーヴァとして君臨してきたのです。彼女とここまで長く一緒にやってこられたことはとても光栄なことです。
MC: アレサ、長い間ずっとレコーディングやコンサートをしてきて、一時、体調をくずした頃もありましたが、今は大丈夫なのですか。
Aretha: ええ、調子はとてもいいです。大丈夫。God is good!
MC: それでは具体的にニュー・アルバムの内容について教えて下さい。
Clive: これまでに他の女性シンガーたちが歌った「クラシック」といわれる曲を、アレサがカヴァーして歌っています。バーブラ・ストライサンドやグラディス・ナイト、チャカ・カーンなどです。アレサはテンポやアレンジを変えて、彼女らしさを全面に出しています。先行シングルは、アデルが歌ったコンテンポラリーなヒット曲「Rolling in the Deep」です。
Aretha: 私、アデルのCDを聞いてとても気に入っていたの。彼女はとても素晴らしいソングライターね。歌詞もヘヴィーで深みがあるの。この曲が今回のカヴァーの候補曲リストに入っているのを見て、「やる!」ってすぐに決めたわ。ところで今日は、ヴァレリー・シンプソンも会場に来てくれているのよ。ヴァレリー、どこにいるの。あ、いた。私、モータウンともつながりがあるし、モータウンのスタジオにもよく遊びに行ったりしたわ。だからこの曲に、ヴァレリーが書いた「Ain’t No Mountain High Enough」をミックスするのは、私にとってとても自然なことだったの。
MC: アレサ、プロデューサーのベィビーフェイスとのコラボはいかがでしたか?
Aretha: フェイスはとても静かな人。とても綿密に丁寧に仕事をする人で、とにかく静かで、穏やかな人なの。なんで、私なんかと仕事できるのかとても不思議(笑)。
Clive: アルバムには他にもアウトキャストのアンドレ3000も参加してくれました。私は彼が17歳の頃から知っていますが、彼は昔から「アレサ・フランクリンのプロデュースができたら死んでもいい。」って言っていたくらいなので、今回夢がかなって喜んでいました。「Nothing Compare 2 U」をやってもらいましたが、アレンジが素晴らしいんです。誰も想像がつかないようなプロデュースでびっくり。オリジナルとはまったく違います。この曲は、当初はDJのデンジャーマウスを予定していたんだけど、スケジュールが合わなくて、アンドレ3000にお願いしたんですが、それが想像を絶する出来なんです。
MC: あなたはずっと教会で歌っていましたが、あなたにとってのゴスペルとは?
Aretha: 父が牧師でだったので、私は父のクワィアーのソロ歌手としていつも父のツアーに同行しました。父が私の才能を見抜いてくれて、トレーニングしてくれたのです。それが歌手としてとても役に立ちました。ただ、ゴスペルは私のルーツですが、私はジャンルを問わず「いい音楽」が好きなのです。
MC: 客席からの質問があります。もしアレサ・フランクリンの伝記映画を作るとしたら、誰に主役を演じてほしいですか。
Aretha: そうね、ジェニファー・ハドソンかしら。オードラ・マクドナルド(Audra McDonald:ビリー・ホリデイ物語のブロードウェイ・ショーの主役)もいいわね。彼女歌えるし、ブロードウェイの女優だしなかなかいいと思うわ。
(取材:伊藤弥住子/音楽ジャーナリスト)