ヴァン・モリソン/Van Morrison
ヴァン・モリソン(本名:サー・ジョージ・アイヴァン・モリソン、OBE、1945年8月31日生)は1960年代初頭から現在に至るまで第一線で活躍、40作を超えるオリジナルアルバムの発表など、今も精力的な活動を続ける、北アイルランド出身の世界的ブルー・アイド・ソウル・シンガー。若い頃はシャウトを交えてR&Bを熱唱していた彼の歌唱スタイルは、年を経て円熟味を増し近年ではジャズ的歌唱スタイルも見せ、そのスタイルはブルース・スプリングスティーンやエルヴィス・コステロ、ジョン・メレンキャンプ、そして同じアイルランド出身のU2のボノといった多くのロック・シンガー達に多大な影響を与えている。過去2回のグラミー賞受賞の他、1993年にロックの殿堂入り、1994年には「英国音楽への偉大な貢献」に対するブリット・アウォード受賞、1996年にはその音楽への貢献に対し大英帝国勲章OBEを受章。2008年にはローリング・ストーン誌が選ぶ「歴史上100の最も偉大なシンガー」リストの24位に挙げられるなど、その実績と偉業は高く広く認められている。
北アイルランドのベルファストで生まれ育ったヴァンは少年の頃から地元のアイリッシュ・バンドの一員として様々な楽器を駆使し、早くからその音楽的才能を見せていたようだ。60年代半ばからは地元メンバーと結成したR&Bロック・バンド、ゼムのリード・シンガーとして活躍。この時期の最大のヒットで自作の「グロリア(Gloria)」は、後にドアーズやパティ・スミスらにカバーされるなど60〜70年代のロックンロールの進化に大きな影響を与えた曲で、1999年にはグラミー殿堂入りしている。
ゼム時代のプロデューサー、バート・バーンズの勧めで60年代後半ソロ活動を開始したヴァンは、1967年に初ソロアルバム『Blowin’ Your Mind!』をリリース。必ずしも本人に取って納得の行く作品ではなかったが、ここからUSでシングルヒットした「Brown Eyed Girl」(最高位10位)は、後に至るまでヴァンの代表曲の一つとして広くファンに愛される名曲名唱だ。間もなくメジャーのワーナーに移籍したヴァンは、ここから70年代を通じて数々の名盤をリリースし、第一期の黄金期を迎える。特に従来から傾倒していたR&Bと自身に出自であるアイリッシュ・フォークを融合させたセルティック・ソウルというスタイルを確立した『アストラル・ウィーク』(1968)や、彼の代表曲の一つとなるタイトル曲を含む、力強いR&Bサウンドが素晴らしい『ムーンダンス』(1970)、後に彼に影響を受けたジョン・メレンキャンプが見事にカバーする「Wild Night」を含む『テュペロ・ハニー』(1971)や、「神秘的詩人」と呼ばれた彼の楽曲が後に高い評価を集める『ヴィードン・フリース』(1974)などは彼のベスト作品のリストに常に挙げられている。またこの時期ヴァンはアメリカのロック・アーティスト達との交流を深め、1976年にはザ・バンドの解散コンサート『ザ・ラスト・ワルツ』に参加、その際共演したドクター・ジョンとは1977年にアルバム『安息への旅』を共作している。
しかし80年代は当時その冗長さが厳しい評価を受けたアルバム『コモン・ワン』(1980)で幕を開ける。それでもヴァンはその後80年代を通じてスピリチュアルなテーマの作品をリリースし続け徐々に評価を取り戻し、1988年にはアイリッシュ・フォークのザ・チーフタンズと共演して、伝統的アイリッシュ・フォーク楽曲を録音したアルバム『アイリッシュ・ハートビート』が翌年第31回グラミー賞の最優秀フォーク・アルバム部門にノミネートされるなど再び高い評価を得た。そして80年代最後のアルバム『アヴァロン・サンセット』(1989)収録のバラード「Have I Told You Lately」は、数年後にロッド・スチュワートが彼のアンプラグド・ライヴでカバーして大ヒットし、彼の新しいクラシック・ナンバーとなったのだ。
初のベスト盤『ザ・ベスト・オブ・ヴァン・モリソン』(1990)の英米での大ヒットで90年代に突入したヴァンは、中盤からR&Bと並び彼が若い頃多大な影響を受けたジョージー・フェイムやモーズ・アリソンなど、英米の先達ジャズ・ミュージシャン達との共演作を相次いで発表、今に続くヴァンのR&Bジャズへの傾倒を深めた。その90年代を未発表曲集『フィロソファーズ・ストーン〜賢者の石』(1998)で総括したヴァンは、新世紀に入っても活発なライブ活動とアルバム発表を続けながら、従来のR&Bとフォーク・ロックを融合した作風に回帰。『マジック・タイム』(2005)やカントリー・ミュージックをテーマにした『ペイ・ザ・デヴィル』(2006)が英米で高評価を得て、テネシー州ナッシュヴィルのライマン音楽堂でのライブや、テキサス州オースティンでのオースティン・シティ・リミッツ・フェスティバルへの参加なども成功させ、アメリカでの一般的評価を大きく高めた。そして1999年の『バック・オン・トップ』以来の全曲自作のアルバム『キープ・イット・シンプル』(2008)はR&B、ジャズ、フォーク、ゴスペルなど彼のこれまでの作風を全て備えた充実作となり、彼に初の全米トップ10アルバムをもたらしたのだった。
21世紀に入る頃からスーツ姿にサングラスと黒の中折れ帽がトレードマークとなったヴァンは、2010年代以降もジャズ・スタンダードのカバーを中心とした『ヴァーサタイル』(2017)やジャズ・トランペットのジョーイ・デフランセスコとの共演による『ユーアー・ドライビング・ミー・クレイジー』(2018)といったジャズ系の作品や、R&Bやブルースのカバーを含む『ザ・プロフェット・スピークス』(2018)など、ほぼ年1枚ペースでの作品リリースを続けている。今年2021年にも「Why Are You On Facebook?(君はなぜFacebookをやってるんだ?)」なんていう曲を含むLP3枚組/CD2枚組の力作『Latest Record Project, Volume 1』をリリースしたばかり。70台半ばにしてその創作力とエネルギーはまだ衰えを知らないようだ。
ディスコグラフィ(カッコ内は原盤レーベル、- 以降は英米のチャート実績)
1,アルバム
1967年 『ブロウイン・ユア・マインド(Blowin’ Your Mind!)』(Bang) - US 182位
1968年 『アストラル・ウィークス(Astral Weeks)』(Warner) –(US ゴールド)UK 55位 (プラチナ、2015年に記録)
1970年 『ムーンダンス(Moondance)』(Warner)- US 29位(3xプラチナ)、UK 32位(ゴールド)
『ストリート・クワイア(His Band And The Street Choir)』(Warner) – US 32位、UK 18位
1971年 『テュペロ・ハニー(Tupelo Honey)』(Warner)- US 27位(ゴールド)
1972年 『セント・ドミニクの予言(Saint Dominic’s Preview)』(Warner)- US 15位
1973年 『苦闘のハイウェイ(Hard Nose The Highway)』(Warner)- US 27位、UK 22位
1974年 『魂の道のり(It’s Too Late To Stop Now)』(ライブ盤)(Warner)- US 53位、UK 167位(シルバー)
『ヴィードン・フリース(Veedon Fleece)』(Warner)- US 53位、UK 41位(シルバー)
1977年 『安息への旅(A Period Of Transition)』(Warner)- US 43位、UK 23位
1978年 『魂の呼び声(Wavelength)』(Warner)- US 28位、UK 27位(シルバー)
1979年 『イントゥ・ザ・ミュージック(Into The Music)』(Mercury)- US 43位、UK 21位(シルバー)
1980年 『コモン・ワン(Common One)』(Mercury)- US 73位、UK 53位
1982年 『ビューティフル・ヴィジョン(Beautiful Vision)』(Mercury)- US 44位、UK 31位
1983年 『時の流れに(Inarticulate Speech Of The Heart)』(Mercury)- US 116位、UK 24位
1984年 『至上のライヴ(Live At The Grand Opera House Belfast)』(ライブ盤)(Mercury)- UK 47位
1985年 『センス・オブ・ワンダー(A Sense Of Wonder)』(Mercury)- US 61位、UK 25位
1986年 『イン・ザ・ガーデン(No Guru, No Method, No Teacher)』(Mercury)- US 70位、UK 27位
1987年 『ポエティック・チャンピオンズ・コンポーズ(Poetic Champions Compose)』(Mercury)- US 43位、UK 21位
1988年 『アイリッシュ・ハートビート(Irish Heartbeat)』(ザ・チーフタンズとの共演)(Mercury)- US 102位、UK 18位
1989年 『アヴァロン・サンセット(Avalon Sunset)』(Polydor) - US 91位(ゴールド)、UK 13位(ゴールド)
1990年 『ザ・ベスト・オブ・ヴァン・モリソン(The Best Of Van Morrison)』(ベスト盤)(Polydor) - US 41位(4xプラチナ)、UK 4位(2xプラチナ)
『エンライトメント(Enlightenment)』(Polydor) - US 62位、UK 5位(ゴールド)
1991年 『オーディナリー・ライフ(Hymns To The Silence)』(Polydor) - US 99位(ゴールド)、UK 5位(シルバー)
1993年 『ヴァン・モリソン・ベスト2(The Best Of Van Morrison Volume Two)』(ベスト盤)(Polydor) - US 176位、UK 31位(シルバー)
『トゥー・ロング・イン・イグザイル(Too Long In Exile)』(Exile) – US 29位、UK 4位(シルバー)
1994年 『ナイト・イン・サンフランシスコ(A Night In San Francisco)』(ライブ盤)(Polydor) - US 125位、UK 8位
1995年 『デイズ・ライク・ディス(Days Like This)』(Exile) – US 33位(ゴールド)、UK 5位(ゴールド)
『ハウ・ロング・ハズ・ジス・ビーン・ゴーイング・オン(How Long Has This Been Going On)』(ジョージー・フェイム他との共演)(Verve) – US 55位、UK 76位
1996年 『テルミー・サムシング〜モーズ・アリソンに捧ぐ(Tell Me Something: The Songs Of Mose Allison)』(ジョージー・フェイム、モーズ・アリソン、ベン・シドランとの共演)(Verve)
1997年 『ヒーリング・ゲーム(The Healing Game)』(Exile) – US 32位、UK 10位(シルバー)
1998年 『フィロソファーズ・ストーン〜賢者の石(The Philosopher’s Stone)』(未発表曲集)(Polydor) - US 87位、UK 20位
1999年 『バック・オン・トップ(Back On Top)』(Virgin/Point Blank) - US 28位(ゴールド)、UK 11位(ゴールド)
2000年 『The Skiffle Sessions – Live In Belfast』(ロニー・ドネガン、クリス・バーバーとのライブ盤)(Venture) – UK 14位
『ユー・ウィン・アゲイン(You Win Again)』(リンダ・ゲイル・ルイスとの共演) (Virgin/Point Blank) - US 161位、UK 34位
2002年 『ダウン・ザ・ロード(Down The Road)』(Exile) – US 25位、UK 6位(シルバー)
2003年 『ホワッツ・ロング・ウィズ・ジス・ピクチャー?(What’s Wrong With This Picture?)』(Blue Note) - US 32位、UK 43位
2005年 『マジック・タイム(Magic Time)』(Exile) – US 25位、UK 3位(ゴールド)
2006年 『ペイ・ザ・デヴィル(Pay The Devil)』(Exile) – US 26位、UK 8位(シルバー)
2007年 『ムーヴィー・ヒッツ(Van Morrison At The Movies – Soundtrack Hits)』(映画使用曲集)(EMI) - US 35位、UK 17位(シルバー)
『The Best Of Van Morrison Volume 3』(未発表曲を含むベスト盤)(EMI) - US 149位、UK 23位
『スティル・オン・トップ〜グレイテスト・ヒッツ(Still On Top – The Greatest Hits)』(ベスト盤)(Exile/Polydor/Hip-O) – US 48位、UK 2位(プラチナ)
2008年 『キープ・イット・シンプル(Keep It Simple)』(Exile) – US 10位、UK 10位
2009年 『Astral Weeks Live At The Hollywood Bowl』(ライブ盤)(EMI) – US 33位、UK 61位
2012年 『Born To Sing: No Plan B』(Blue Note) - US 10位、UK 15位
2015年 『デュエッツ:リワーキング・ザ・カタログ(Duets: Re-working The Catalogue)』(RCA) - US 23位、UK 5位(シルバー)
『エッセンシャル・ヴァン・モリソン(The Essential Van Morrison)』(ベスト盤)(Legacy/SMJ) – US 101位、UK 33位(ゴールド)
2016年 『魂の道のり Vol.2, Vol.3, Vol.4 & DVD(…It’s Too Late To Stop Now: Volumes II, III, IV & DVD)』(ライブ盤+ DVDボックス)(Legacy) – US 118位、UK 47位
『キープ・ミー・シンギン(Keep Me Singing)』(Caroline/Exile) - US 9位、UK 4位
2017年 『ロール・ウィズ・ザ・パンチズ(Roll With The Punches)』(Exile) – US 23位、UK 4
『ヴァーサタイル(Versatile)』(Exile) – US 119位、UK 38位
2018年 『ユーアー・ドライビング・ミー・クレイジー(You’re Driving Me Crazy)』(ジョーイ・デフランセスコとの共演)(Legacy) – US 76位、UK 20位
『ザ・プロフェット・スピークス(The Prophet Speaks)』(Exile) – US 110位、UK 40位
2019年 『Three Chords & The Truth』(Exile) – US 57位、UK 13位
2021年 『Latest Record Project, Volume 1』(BMG) – US 182位、UK 5位
2,シングル
1967年 「Brown Eyed Girl」- US 10位(ゴールド)、UK 60位(2xプラチナ)
1970年 「Come Running」- US 39位
「Domino」- US 9位
1971年 「Blue Money」- US 23位
「Call Me Up In Dreamland」- US 95位
「Wild Night」- US 28位
「Tupelo Honey」- US 47位
1972年 「Jackie Wilson Said (I’m In Heaven When You Smile)」- US 61位
「Redwood Tree」- US 98位
1977年 「Moondance」- US 92位(UK シルバー)
1978年 「Wavelength」- US 42位
1979年 「Bright Side Of The Road」- UK 63位
1983年 「Cry For Home」- UK 98位
1989年 「Have I Told You Lately」- UK 74位(シルバー)
「Whenever God Shines His Light」(クリフ・リチャードとの共演)- UK 20位
1990年 「Coney Island」- UK 76位
「Real Real Gone」- UK 79位
「In The Days Before Rock ‘N’ Roll」- UK 94位
1993年 「Gloria」(ジョン・リー・フッカーとの共演)- UK 31位
1995年 「Have I Told You Lately」(ザ・チーフタンズとの共演)- UK 71位
「Days Like This」- UK 65位
「No Religion」- UK 54位
1996年 「That’s Life」(ジョージー・フェイムとの共演)- UK 92位
1997年 「The Healing Game」- UK 46位
1999年 「Precious Time」- UK 36位
「Back On Top」- UK 69位
2000年 「I Wanna Go Home」(ロニー・ドネガン、クリス・バーバーとの共演)- UK 95位
「Let’s Talk About Us」(リンダ・ゲイル・ルイスとの共演)- UK 85位
2002年 「Hey Mr. DJ」- UK 58位
* USでは、アルバム・シングル共にゴールド=50万枚、プラチナ=100万枚(2x=200万枚)の売上によりRIAA(アメリカレコード協会)が認定。UKでは、アルバムはゴールド=10万枚、プラチナ=30万枚、シングルはシルバー=20万枚、ゴールド=40万枚、プラチナ=60万枚の売上によりBPI(英国レコード産業協会)が認定。いずれも2021年8月現在。