トニ・ブラクストン
「今度のアルバムでは今までとはちょっと違ったアプローチにもトライしてるわ。アーティストによってはそれまでの過去のスタイルなどにがんじがらめになってしまうこともあるけど私は今までとは違う側面もみせたいの」



R&Bを代表するシンガーとしてこれまで数々の世界的ヒットをうみ、グラミー賞など数多くの賞を獲得してきたトニ・ブラクストン。これまでも旬でホットなプロデューサーたちと仕事をしてきた彼女だが、今回はザ・ネプチューンズを起用。このことについてトニは「R&Bがもちろん大好きだけど、ヒップホップもはじまった頃からずっと聴いてきたわ。これまでのアルバムでも常に私の色々な音楽的側面を見せるようにしてきた。みんな私がネプチューンズと仕事をするってきいたら『どんな曲になるの?』ってきいてくるのよ。みんな”Breathe Again”とか”Un-Break My Heart”みたいな曲を想像してるみたい。でも私は自分の世代を代表してるのよ!R&Bだけじゃなくヒップホップも聴いて育った世代だから。」と語る。そのザ・ネプチューンズが手がけたファースト・シングル”Hit The Freeway”はお互いの長所をいかした抜群のコンビネーションで、トニの代表曲になることは間違いない。「トラックを聴いた瞬間最高だと思ったわ。ただ彼らが作ってくれた歌詞が自分にあわなかったんで、作り直したの。最終的には私とネプチューンズとで最高のコンビネーションになったと思う。」トニはそう語る。

 

 この『More Than A Woman』には他にもベイビーフェイス、ロドニー・ジャーキンス、アーヴ・ゴッティ、そしてトニの夫である元ミント・コンディションのケリー・ルイスといったプロデューサーが参加。ケリーはトニ、そしてアリスタのCEO、アントニオ・LA・リードと並んでアルバムのエクゼクティブ・プロデューサーにもクレジットされている。また彼女の妹であるテイマーも数曲でソングライトに参加している。「みんな私が”悲劇の女王”みたいに思ってるかもしれないわね・・・悲しいラヴ・ソングも歌ってきたから。でもアルバムには”Always”みたいなハッピーな曲もあるのよ。確かに今回も典型的なトニ・ブラクストン・タイプな曲もあるわ。例えば”Let Me Show You The Way (Out)”。この曲は妹のテイマーと一緒に書いたの。彼女はすばらしいソングライターなのよ。この曲は『私はあなたなんかいなくても大丈夫なのよ』っていう女性の歌。”Selfish”は他の女性が自分の彼氏に電話やメールしてくるのなんて嫌、っていう内容。結婚した今はそういう事は実際にはないけど、独身時代にはすごく共感できた内容だわ。」



 今は亡き2パックの”Me And My Girlfriend”をサンプリングした”Me And My Boyfriend”はテイマー、そしてアシャンティもソングライトに参加。”Rock Me Roll Me”は夫であるケリー・ルイスとのコラボレーションだ。「この曲は男性に向けたものよ。男の人たちが集まって女性のことを色々と話すのはよく知ってる。それに男の人たちが『俺の彼女はすごい綺麗なんだけど、とっても口やかましいんだ』みたいなことを言ってるのもね。だから男性がどうすれば女性を不安にせずにすむかってことを教えてあげたいのよ。もう少しだけでも一緒にいてあげるだけで女性は安心するってことをね。」そうトニは説明する。



 アルバムの中でも異彩を放つのが、ロック・テイストな”Lies Lies Lies”だ。ケリー・ルイスがプロデュースしたこの曲についてトニは「彼が以前に書いた曲で、他のだれかに提供しようとしてたんだけど、やっぱり私のアルバムに入れようってことになったの。ロックも好きだったから、初めての挑戦だったけどアルバムにこういうタイプの曲をいれることにしたわ。」と語る。対照的なのがベイビーフェイスがプロデュースした”And I Love You”だ。ベイビーフェイスについてトニは語る。「彼のおかげでデビューできたようなものよ。だから私がレコードを作りつづける限り彼の曲は必ず私のアルバムに入っているわ。」



 アンドレア・マーティンが手がけたループの効いたミディアム・ナンバー”A Better Man”については「前のアルバムの”Just Be A Man About It”みたいな歌詞よね。友達とかはみんな『あなたはいま幸せの絶頂じゃない!こんな歌みんなききたくないわよ』って言うんだけどね。おかしいのはよく『結婚式で歌って』とか頼まれるの。でも『なんで?私に歌って欲しいの?だって私の曲は不幸せなのが多いのよ!』って感じだけどね。」そうトニは言う。「”Tell Me”という曲は私と夫の実際の話をもとにしてるのよ。結婚するときに彼ったら”バチェラー・パーティー”(独身最後のパーティー)でラス・ヴェガスに行ったの。バチェラー・パーティーって女の子やストリッパーがいっぱい来るでしょ?彼ったら女の子2人と同時に踊ってたらしいのよ!その後しばらく彼は犬小屋で過ごしてもらったけど。」とトニは笑う。「プライベート・ダンサーが欲しいなら、家の中にポールをたてて私がなってあげるわって曲よ!」



 プロデューサーであるのケリー・ルイスとの結婚、そしてデニムちゃんの出産は彼女にとって生活のプライオリティをがらりと変えてしまったという。2003年早々には第2子を出産予定の彼女は言う。「子供ができて人生ががらっと変わったわ。アルバム制作の仕方とかも以前とは違うの。ケリーと家で曲を作っていて、デニムを抱っこしながら歌ったりしてたのよ!古典的なバスルームでのレコーディングっていうのもやったわ。すごくいい音がするのよ。」



 過去10年でパフォーマー、そしてエンターテイナーとして大成功を収めてきた彼女。その栄光に満足して進むのをやめてしまうこともできた。しかし彼女は常に音楽、そして人生において新たなチャレンジを続けてきた。その結果シングル・アルバム合計で全世界で4000万枚以上のセールスや6つのグラミー賞という記録をつくり、最も成功した女性アーティストのひとりになりえたのである。LaFace Records初の女性アーティストとして1992年にデビューして以来、ゴスペル/R&B/ジャズなどから影響を受けた彼女独特の官能的なボーカルは世界中のファンを魅了してきた。メリーランド州セヴァーンに育ち、スティーヴィー・ワンダーやアニタ・ベイカー、チャカ・カーンなどからの影響を受けた彼女は4人の姉妹とともに教会で歌うようになる。大学で教師になる勉強をしていた頃にレコード会社の目にとまり、The Braxtonsとしてシングルをリリース。グループとしては成功しなかったものの、トニは売れっ子プロデュース・チームであったアントニオ・LA・リード&ベイビーフェイスの目にとまり、彼らが設立したLaFace Recordsと契約。まずはサウンドトラック『Boomerang』に”Give U My Hear”(ベイビーフェイスとのデュエット)や”Love Shoulda Brought You Home”で参加する。



 1993年にはデビュー・アルバム『Toni Braxton』をリリース。このアルバムからは「Another Sad Love Song」「Breathe Again」「Seven Whole Days」などのヒットがうまれアルバムは全世界で1000万枚のセールスを記録、”LaFace Recordsのファースト・レイディ”として見事グラミー賞の最優秀新人賞と最優秀女性R&Bボーカル賞を受賞。1996年にリリースとなったセカンド・アルバム『Secrets』からは彼女にとって初の全米ナンバーワンとなった”You’re Makin Me High”、11週連続ナンバーワンとなった”Un-Break My Heart”などがシングル・カットされアルバムは全世界で1300万枚というセールスを記録、再びグラミー賞を受賞した(最優秀女性R&Bボーカル賞/最優秀女性POPボーカル賞)。



 2000年リリースのサード・アルバム『The Heat』ではトニは積極的にソングライトにも参加。後に夫となるケリー・ルイスとともにアルバムのクリエイティブ面にも深く関わるようになる。このアルバムからは全米ナンバーワンとなった”He Wasn’t Man Enough”などのヒットがうまれ、またもやグラミー賞の最優秀女性R&Bボーカル賞を受賞。このアルバムのリリース前にブロードウェイのミュージカル『美女と野獣』に主演した彼女だったが、アルバム・リリース後には映画『Kingdome Come』でスクリーン・デビューも果す。その後2001年には初のクリスマス・アルバム『Snowflakes』もリリースした。



 デビュー11年目という節目でリリースされるこの『More Than A Woman』は彼女にとっても非常に重要なアルバムだ。「音楽面では完璧に自由につくれたの。レコード会社からの制約もなかったしLAリード(Arista Records社長)もクリエイティブな面でいつも意見を尊重してくれたわ。」アルバムについてそう語るトニだが、まだまだ満足はしていない。「振り返ってみて本当に充実していたキャリアだと思うけど、まだやりたいことがいっぱいあるのよ!いろんな可能性を試したいわ。」