ティム・ファイト
●ティム・ファイトはヒップ・ホップの黄金期に育ちました 

ティム・ファイトはペンシルヴァニア州郊外出身の25歳です。他の白人キッズと同様、彼も若きころはとにかくヒップ・ホップ、とりわけ1980年代後半から1990年代初頭の社会派ヒップ・ホップにどっぷりとハマっていました。MCの猛練習、ブラック・パワー(黒人の地位向上と権力獲得を目指す黒人勢力)の猛勉強などを経て彼の関心は社会的正義へと向かいます。


●ティム・ファイトは“第2のエミネム”にさせられるところでした

ティム・ファイトの驚くべきラップの才能は、彼をヒップ・ホップ・コミュニティーへと深く入り込ませました。優れた新人ラップ・アーティストとして音楽業界に期待されましたが、オフィシャル・バイオグラフィーによれば彼を“第2のエミネムに作り上げようとした”音楽業界に失望した彼はヒップ・ホップ業界から離れていきます。


●ティム・ファイトはハンク・ウィリアムズに人生を変えられました

ティム・ファイトは自身が本当にやるべきことの追求を誓いました。ちょうどそのころ出会ったのがハンク・ウィリアムズや昔のフォーク・アーティストのような“アメリカの田舎で聴かれるような”音楽でした。彼はそういった音楽に、素晴らしいヒップ・ホップのレコードと同じような力を感じ、自分のやるべきことを見い出しました。


●ティム・ファイトのデビュー盤は実は“デモ”です

ティム・ファイトは本作で、1900年代初頭に活躍したミュージシャンたちからのインスパイアを元に、新しい言葉やメロディを作り出しています。また、彼がヒップ・ホップのレコードを作っていたときと同じように、セール品のアナログ・レコードやCD~長い間忘れ去られてきた曲~のサンプリングも使われています。よって、さまざまなブレンド~古いものと新しいもの/ブラックとホワイト/滑稽さと悲哀/楽しさとキャッチーさ~が成されています(それと社会派)。本作は彼のアパートで作られたデモです。素晴らしすぎたため、新たにレコーディングされることはなく、そのままアンタイ(ANTI-)がリリースすることになりました。


<文:松山晋也>
ヒップホップから音楽の世界に入り、最初は“第2のエミネム”として売り出されそうになったという。
そんなお決まりの路線に嫌気がさした白人青年ティム・ファイトは、ハンク・ウィリアムズに衝撃を受けたのをきっかけに、トラッド・フォークやカントリーなどのルーツ系アコースティック・ミュージックに新しい活路を見出し、独自の音楽言語を紡ぎ始めた。
アンタイでのデビュー作『終わっちゃいないぜ』で聴けるのは、サンプリングやプログラミング等のヒップホップ・マナーに則りつつ、遥か彼方から数多の亡霊を呼び寄せたような奇妙なフォーク・ロックである。
甘美にゆがんだ、まどろみの空間の中で、アメリカの過去と未来が自在に交響している。