ザ・バッド・プラスはここ数年間、陶器店で暴れる牛というよりはむしろアウトレット・モールを破壊するサイのような勢いで、アコースティック・ジャズ・トリオのあらゆる既成概念をことごとく打ち破ってきた。ベーシストのリード・アンダーソン、ピアニストのイーサン・アイヴァーソン、ドラマーのデヴィッド・キングのパートナーシップを堪能するには、白衣も要らなければ、音楽リスナーとしての系統だった蓄積も要らない。あなたの「好きなタイプの音楽」がどんなものであろうと、このトリオの熱く多彩な音は、あなた自身や、心臓・耳・神経系の機能しているすべての人々に直接語りかけてくるだろう。



2000年の正式結成以来、ザ・バッド・プラスはインディーズより2作、ソニーミュージックより2枚の作品をリリースしている。後者、「ヴィスタス」(2003年)と「ギヴ」(2004年)は、有名プロデューサーにして留まるところを知らないスタジオの巨匠、チャド・ブレイクとのコラボレーション。(同氏は「ギヴ」で、グラミー賞最優秀エンジニア賞[ノン・クラシカル部門]にノミネートされている)。彼らは今春、三たびブレイクと一堂に会し、2005年秋リリース予定のソニーミュージック3作目を創りあげた。その間、2005年3月15日には「ブラント・オブジェクト~ライヴ・イン・トーキョー」が全米のファンにオンラインで入手可能になっている(日本では通常のCDとして入手可能)。



ザ・バッド・プラスがツアー中さまざまな物理的構造を荒廃させた様子は、身体の大きさ、体型、気質、国籍の激しく異なる観客たちに目撃された。彼らはジャズ・クラブで演奏するのだろうか?答えはイエス。ロック・クラブは?イエス。ボナルー*からバンバーシュート*までのフェスティヴァルは?当然。オルタナティヴ・ロックの雄、ピクシーズの前座は?あるある。ニューヨークの伝説のジャズ・クラブ、ヴィレッジ・ヴァンガードでの夢の出演は?何回か。ジェイク・ラモッタ*やジョージ・スタインブレナー*など、セレブの集まるプライヴェート・パーティは?うーん、1回なら。一流の舞踏集団、マーク・モーリス・ダンス・グループとの魅力的なコラボレーションは?Googleで調べてごらん。ハスカー・ドゥの元ベーシストがオーナーを務める、ウィスコンシン州のレストランの裏庭は?そんな作り話はしないよ。これまで、ザ・バッド・プラスがその強大な力を発揮できなかった状況などあったのだろうか?いいえ、一度も。



ザ・バッド・プラスの記事を雑誌で読んだことがある方なら、彼らがカヴァー曲を演奏することは恐らくご存知だろう。ザ・バッド・プラスの記事を特に良質の雑誌で読んだことがある方なら、彼らのレパートリーの大半がオリジナル曲であること、3人のメンバー全員が一流の作曲家として認識されていることもご存知だろう。誰が書いた曲であろうと、彼らは勝ち誇れるほどに様々異なる影響をステージに持ち寄ることができるのだ。彼らは、“ロックの影響を受けた”ことが単に大きな音を出すことや、レッド・ツェッペリンの参照などを意味するジャズ・トリオではない。作曲や、様々なジャンルにわたる演奏経験を持つ彼らは、やり手で心の大きなインプロヴァイザー。曲の感触を失うことなく、構築・曲解・変形・破壊・再建・再発明ができる男たちなのである。



あ、それから。ザ・バッド・プラスは、最も共同体的な意味でのバンドである。スーツを着ているのがアイヴァーソンだからといって、彼がリーダーらしき存在だと思ってはならない。たまたま中央に立っていて口数が少ないからといって、アイヴァーソンに従順な“支柱”のレッテルを貼ってはならない。そして、キングが自分の楽器のありとあらゆる表面を、一組のスティック以外のものも用いて駆使しているからといって、彼が仮釈放された悪党だと思ってはならない。本作は3人のプレイヤー全員がコントロール・ルームを共有する、拍子抜けするほどに未来的な作品なのである。



【訳注】

・ボナルー:Bonnaroo Music Festival。2002年発足と歴史は新しいが、全米最大のロック・フェスの一つ。テネシー州マンチェスターで開催される。http://www.bonnaroo.com

・バンバーシュート:Bumbershoot。シアトル芸術祭。35年の歴史を持ち、毎年レイバー・デイの週末に開催される。http://www.bumbershoot.org

・ジェイク・ラモッタ:プロボクシング元ミドル級チャンピオン。

・ジョージ・スタインブレナー:ニューヨーク・ヤンキースのオーナー。