パティ・スミス、“メッセージを込めた”東京公演を終了。大阪公演はいよいよ明日!
先週末、フィリップ・グラスとの『THE POET SPEAKS ギンズバーグへのオマージュ』公演を終えた、パティ・スミスが6月7日、ビルボードライブ東京にて、レニー・ケイ、ジェシー・スミスらと共にライヴを行った。
photo:Yoshie Tominaga
2016年6月7日(火)公演レポート
こんな贅沢なライヴがあっていいんだろうか。ビルボード東京のステージでパティ・スミスがパフォーマンスをしているのを目の前にし浮かぶのはそんな思いばかりだった。
彼女が敬愛し、親交の厚かったビート詩人アレン・ギンズバーグの生誕90周年(97年死去)を記念しミニマル・ミュージックの巨人フィリップ・グラス等と『THE POET SPEAKS ギンズバーグへのオマージュ』 を行うため来日したパティが、東京と大阪のビルボードでスペシャル・ライヴを行うとなり、その第一回目、6月7日最初のステージを体験した。
ライヴはまずパティの娘でピアニストのジェシー・スミスと、チベット人シンガー、テンジン・チョーギャルの演奏でスタート。ジェシーはパティの『バンガ』('12)にもピアノで参加し表情豊かなプレイを聴かせてくれていたが、ここではテンジンの力強い歌声に呼応したミニマル的で女性らしいピアノを聞かせ、2曲目以降テンジンも民族楽器ダムニェンを手にしてチベットの自由を訴えるメッセージ等を力強い歌声と演奏で繰り広げた。
その約30分ほどのセットに続きパティが盟友レニー・ケイ、ジェシーを伴って登場し、日本にやってこれたことに感謝を述べ、「ダンシング・ベアフット」からステージをスタートさせる。3日前の『THE POET SPEAKS』でも歌われた曲だが、会場の大きさがまったく違うせいもあって、より親密性を増し、まるで家族が集まったリヴィングでの演奏を聴いているような空間が広がっていく。
彼女のライヴをそんなシチュエイションで聴けるなんて夢のようで、マンハッタンのクラブにでもいるかの錯覚にさせられたが、次の曲が、東日本大震災に心を痛め、鎮魂への思いを込めた「ウィング」で、あらためてここが日本でありパティの特別な思いを認識させられる。
レニーは基本的にアコースティック・ギターなのだがここでエレキを初めて手にして、デビュー・アルバム『ホーセス』からの「レドンド・ビーチ」がプレイされるが、レニーとジェシーが暖かいレゲエ・ビートのアクセントを付け、パティが歌詞に合わせ身振り手振りのアクションを付ける仕草がとても可愛らしい。こういう会場、そして極少人数のバンド(?)によるセットならではのシーンで、たまらない。
パティがどういう意図でセットリストを組んだのか正確にはわからないが、この回はとても“トリビュート色”の強いものとなった。これから9日に大阪でもライヴがあるのであまり書けないが、4月に亡くなった“殿下”のナンバーや『バンガ』に入っていた才能豊かな女性シンガーにあてた曲など、どれも鳥肌ものだった。そんな中でもとくに感動的だったのは、数日前に亡くなったモハメド・アリに向けられた「南十字星の下で(Beneath The Southern Cross)」であった。96年に出された『ゴーン・アゲイン』のナンバーで、もとは亡き最愛の夫フレッドに捧げられた曲だがここでは“自分たちの世代のヒーローだった”としてアリを讃え、ギターを手にしてシンプルなダウン・ストロークで、祈りのような言葉を綴っていく。
こうした曲のときはまるですべてを支配する女王のようでありながら、曲紹介のMCや次の打ち合わせで娘やレニーのところに行く様子は、まるで新しいいたずらや遊びを伝える童女のようにも見える。そんな姿も後半になるにつれどんどんと力強くなっていき『ラジオ・エチオピア』に入っていた彼女の原点を歌い込んだ「ピッシング・イン・ア・リヴァー」のドラマチックでスケールの大きな歌、レニーの鋭いソロが観客を圧倒していく。ドラムスもなくサウンドはシンプル極まりないのだが、観客の胸にはたしかにとてつもなく強烈かつ素晴らしいサウンドが鳴り響いていた。そのまま「ビコーズ・ザ・ナイト」へと突入するが、あの印象的な冒頭のピアノが、ジェシーの持ち味から、とてもフェミニンなタッチで新鮮な気分で盛り上がり、ここで本編が終了。
アンコールに登場してきたバンドには、なんとエレキを持った中学生くらいの日本人の少年が入っている。“これもロックンロールのコミュニケートよ”と、さらに観客からギターを弾ける人を募集し、ギターを持たせ「バンガ」を会場と一体になりながら歌い、その勢いのまま「ピープル・ハヴ・ザ・パワー」へ突入するが、彼女の発するメッセージが会場の隅々まで響き渡っていくのがこうした会場だと手に取るようにわかる。
こんな贅沢がまたいつ実現するかわからないが、見た人誰もが一生心に残る特別なライヴとなったことだけは間違いない。
(公演レポート:大鷹俊一)
Photo by Kiyohide Hori
パティ・スミスは明日、9日(木)ビルボードライブ大阪にて公演を行う。
【公演概要】
Patti Smith
acoustic concert with Jesse Paris Smith and Lenny Kaye
大阪公演:6月9日(木)Billboard Live OSAKA
1st ステージ 開場13:00 / 開演 14:00
2ndステージ 開場19:00 / 開演 20:30
[メンバー]
パティ・スミス (Vocals)
レニー・ケイ(Guitar)
ジェシー・パリス・スミス(Poetry Reading)
テンジン・チョーギャル(Vocals / Guitar)
※Opening Actにジェシー・パリス・スミスとテンジン・チョーギャルの出演がございます。
【商品情報】
アーティスト:パティ・スミス
邦題:バンガ
英題:BANGA
発売日:発売中
品番:SICP-3562
価格:\2,400+税
1. アメリゴ
2. エイプリル・フール
3. フジサン
4. ディス・イズ・ザ・ガール
5. バンガ
6. マリア
7. モザイク
8. タルコフスキー (ザ・セカンド・ストップ・イズ・ジュピター)
9. ナイン
10. セネカ
11. コンスタンティンズ・ドリーム
12. アフター・ザ・ゴール・ラッシュ
【リンク】
オフィシャルサイト http://www.pattismith.net/