ソニー・クラシカルによるニコラウス・アーノンクール追悼の辞
2016年3月5日、ニコラウス・アーノンクール氏が、氏の家族に見守られて亡くなりました。演奏活動からの引退を表明されてからわずか3ヵ月での逝去は、われわれソニー・クラシカルのメンバー全員は大きな悲しみの中にいます。
1929年、ベルリンに生まれたアーノンクール氏はオーストリアのグラーツで少年~青年期を過ごし、1952年にカラヤンによってウィーン交響楽団のチェロ奏者に採用されました(1969年まで在籍)。古楽への強い関心を持っていたアーノンクール氏は、その翌年自らの古楽アンサンブルを組織し、1954年にはパウル・ヒンデミット指揮のもとウィーン・コンツェルトハウスでデビューを飾りました。このアンサンブルは1957年からはウィーン・コンツェントゥス・ムジクスの名を冠され、世界的な名声を博することになります。
1970年代からアーノンクール氏はロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団、ヨーロッパ室内管弦楽団、ベルリン・フィル、ウィーン・フィルを中心とする名門オーケストラ、チューリヒ歌劇場、ウィーン国立歌劇場、アン・デア・ウィーン劇場などのオペラハウスに活動の場を広げていきました。1985年にはグラーツにシュティリアルテ音楽祭を創設し、1990年代初頭からはザルツブルク音楽祭の常連となりました。1972年から1992年にかけては同じザルツブルクにあるモーツァルテウム音楽院で教育活動にも従事しています。
アーノンクール氏はその演奏と録音、そして『言葉としての音楽』『音楽は対話である』などの著作などの音楽的業績に対して、ポーラー音楽賞(1994年)、エルンスト・フォン・ジーメンス賞(2002年)、京都賞(2005年)など、さまざまな賞を受賞しています。2009年にはグラモフォン誌の生涯業績賞を、2014年にはその業績に対してエコー・クラシック賞がおくられています。
アーノンクール氏の逝去によって、われわれは、半世紀にわたって最も重要な足跡を残してきた指揮者、そして常に音楽の本質を捉えようとする探究心を持ち続けた人間味あふれる音楽家を失ったのです。われわれソニー・クラシカルは2002年以来、アーノンクール氏とともにその音楽の探求の旅を共にして参りました。その過程で、「器楽によるオラトリオ」として捉えたモーツァルトの後期三大交響曲、そして生前の最後のリリースとなったベートーヴェンの交響曲第4番・第5番「運命」など、氏の好奇心あふれる独創的な想像力が生み出した卓越した解釈を記録した数多くの録音を残すことが出来ました。そのことに対して深く感謝し、哀悼の意を表します。
2016年3月7日