ザ・ニューオリンズ・ソシアル・クラブ
ルイジアナ州ニューオリンズに壊滅的なダメージを与えた昨年8月下旬のハリケーン“カトリーナ”災害を受けて、9月から10月にかけていくつもの音楽チャリティ・イヴェントが催されたのは記憶に新しい。日本でも複数のイヴェントが催されたし、それは他の国でも同様だったろう。



そして、イヴェントだけではなく、何作かのチャリティ/ベネフィット・アルバムもリリースされている。そうしたもののなかで、アーロン・ネヴィルやアラン・トゥーサンやノラ・ジョーズ他によるブルーノート発の『ハイアー・グラウンド』(ニューオリンズ出身のジャズ・トランペッターのウィントン・マルサリスの呼びかけのもと、9月17日にNYのリンカーン・センターで行われた公演のライヴ盤)、ドクター・ジョンやワイルド・マグノリアスやランディ・ニューマン他らの新規スタジオ録音曲を集めた『アワ・ニューオリンズ』(ノンサッチ)あたりはよく知られるところか。また、米国レコード工業会(RIAA)は人気スターたちが楽曲を提供した『HURRICANE RELIEF:COME TOGETOHER NOW』という2枚組をリリースしたし、9月9日にNYとLAで行われたTVチャリティ・イヴェント『SHELTER FROM THE STORM』(U2 とメアリー・J ・ブライジの組み合わせをはじめ、カニエ・ウェスト他、さらにブルース・ウィリスやキャメロン・ディアスら人気俳優も参加した)もDVD化されている。



この『シング・ミー・バック・ホーム』もまたそれらに続くベネフィット・アルバムだが、本作の大きなポイントとして、より同地関連のアーティストたちが集合したニューオリンズ密着型の一作であることが挙げられるだろう。出演者たちは、自分たちのホームタウン、そして同地が育み積み重ねてきた財産への熱い気持ちを胸に、前を向いた今のニューオリンズ音楽を送りだそうとしたのだと思う。



ところで、本盤のアーティスト名は、“ザ・ニューオリンズ・ソシアル・クラブ”となっている。ブックレットの最初の見開きにはニコっと笑う5人の男性の写真が載せられているが、その5人がこそがここでのハウス・バンドを勤めるザ・ニューオリンズ・ソシアル・クラブの面々である。



●ヘンリー・バトラー(ピアノ)

 ニューオリンズ生まれで同地をベースとする盲目のブルース・ピアニスト/シンガー。04年秋にオースティンで彼の自己バンドを率いたステージを見たことがあるが、一部シンセなども用いて(歌声を電気的加工する場面も)、彼なりに前を見た、凛としたパフォーマンスを展開していた。



●アイヴァン・ネヴィル(キーボード)

 ザ・ネヴィル・ブラザーズのリード・シンガー、アーロン・ネヴィルの息子で、80年代初期から父親たちの表現に関与し、そのホームページを見ると今はメンバーとして記されている。80年代中期以降キース・リチャーズのバンドを皮切りに、広くロック界で活動し、ボニー・レイット、ロビー・ロバートンソン、ザ・ローリング・ストーンズ、ガヴァメント・ミュール他、様々な人達からその腕を見込まれて参加。ロック色の強いリーダー作も数枚リリースしている。



●リオ・ノセンテリ(ギター)

 泣く子も黙るザ・ミーターズのギタリストであり、リーダー作もあり。ドクター・ジョンからロバート・パーマーまで、いろんなレコーディングに参加している名セッション・マンで、変わったところでは英国人ピーター・ゲイブリエルやイタリアのスター・ロッカーのズッケロのアルバムも。その名声は軽くアメリカを超えている。彼はキップ・ハンラハンのコンジュアの03年ブルーノート東京公演に同行したことも。



●ジョージ・ポーターJr. (ベース)

 同じく、ザ・ミーターズの黄金のメンバー。ちなみに、同グループは昨年のニューオリンズ・ジャズ&ヘリテッジ・フェスティヴァルからオリジナル・メンバーにて復活している。録音参加アルバムは多数で、その数はノセンテリ以上か。ラウンダー他から、リーダー作も数枚リリースしている。



●レイモンド・ウェバー(ドラム)

 ザ・ダーティ・ダズン・ブラス・バンドに90年前後在籍したこともあるドラマー。他にハリー・コニックJr. からアーマ・トーマス、プロデューサーとしても評価が高いジョー・ヘンリーのサポートまで、幅広く活躍している。

 以上の5人ががっちりバックアップするなか(それゆえ、ベネフィット作のなかで一番ニューオリンズ・ファンク濃度が高い仕上がりになっているのは間違いない)、いろいろなニューオリンズ縁の人達がフィーチャード・アーティストとして参加している。録音は05年の10月6日から12日にかけて、米国有数の音楽都市であり比較的ニューオリンズにも近いテキサス州のオースティンにて。また、一部はNYでも録られている。



なお、プロデューサーとしてクレジットされているリオ・サックスは、業界誌記者や新聞記者をした後、その音楽的な知識をかわれソニーの再発セクションで働くようになり、現在がある人物だ。ジ・アイズリー・ブラザーズやアース・ウィンド&ファイアをはじめ、様々なブラック・アーティストのリイシューやコンピレーション制作に彼は関与している。そして、もう一人の共同プロデューサーのレイ・バーダニは、フュージョン/アダルト・ミュージック界の大御所エンジニアだ。70年代中期にデイヴィッド・サンボーンのレコーディングを手掛けて以降、彼は山ほどのアルバムの録音/ミキシングに彼は係わっている。