ジューダス・プリースト最新ライブレポート@Daily's Place, Jacksonville, Florida, U.S.A., September 12, 2018
ジューダス・プリースト最新ライブレポート
@Daily's Place, Jacksonville, Florida, U.S.A., September 12, 2018
最新作『Firepower』が世界中のメタルファンから高い評価を受けているジューダス・プリースト。現在彼らは、ディープ・パープルとのダブル・ヘッドライナーという豪華な組み合わせで、北米ツアーの真っ最中にある。今回は、そのツアーにおけるフロリダ州ジャクソンヴィル公演の模様をレポートしていく。
ツアー開始直前に発表されたグレン・ティプトンのパーキンソン氏病による離脱は、世界中のファンに大きな衝撃を与えた。ジューダス・プリーストは、ロブ・ハルフォードの超人的ヴォーカルとグレンとK・K・ダウニングによるツインリード、という二枚看板でキャリアを築いてきたバンドだ。従って2011年にK・Kが脱退した際も不安はあったが、同時にロブとグレンがいる限りジューダスは安泰、という信頼感もそこに存在していた。だがツインリードの両輪が失われ、ましてや音楽的支柱でもあったグレンがいなくなる、となると話は別である。その急場を彼らは新作のプロデューサー、アンディ・スニープを代役に起用される事で回避し、ツアーは予定通り開始された。以来半年近くの時間が経過したが、グレンの不在を危惧する声が当夜の客席でも多く聞かれたのは事実である。今の彼らはジューダスとは名ばかりで、実際はロブに率いられたトリビュートバンドに過ぎないのか。そんな懸念と不安が入り混じる中、ライブは開演定刻の八時きっかりにスタートした。
新作のトップを飾る「Firepower」、続いて38年ぶりにライブで披露される「Delivering the Goods」の二曲によるオープニングは、新旧ファンのどちらをも満足させる事に成功していた。続いて初期の名曲「Sinner」が飛び出す。ここでのロブのパフォーマンスは、今の彼がバンド復帰以来最強の喉を取り戻している事を証明する強烈なものだ。エンディングで延々と声を伸ばしシャウトする場面では、大観衆が総立ちとなりその奇跡的とすら言える(彼の年齢を考慮して欲しい!)パフォーマンスに敬意を表していた。そんなロブと同等以上に驚かせてくれたのがリッチー・フォークナーだ。これまで単なるK・Kの代役と思われてきた彼は、かつてK・Kの代名詞となっていた曲にて独自の存在感をアピールするまでに成長した。演奏面でもK・Kのパートに加えて、グレンの抜けた穴を埋めるかの様な気合の入ったプレイを聴かせる。ジューダスの染色体がしっかりとこの若いギタリストに継承されているのは、当夜の大観衆が彼をグレンそしてK・Kと同レベルで受け入れていた事実がはっきりと証明していた。
中盤では最新作から極太のグルーブが心地よい「Lightning Strikes」、バンドの決意表明ともいえる「No Surrender」、そして劇的な「Rising from Ruins」が演奏された。中でもたった三分にも満たない「No Surrender」は、このツアーにおける最重要曲となっている。その歌詞には闘病を続けるグレンの決意が克明に描かれており、同時にそれが彼をサポートしているバンドの意思表示でもあるからだ。実はグレンもこのツアーに同行しており、体調の良い日にはアンコールで演奏に参加しているのだが、「No Surrender」は彼がライブ演奏する唯一の新曲である。後方の巨大スクリーンに同曲を録音中の彼らの映像が投影された時、そこに映ったグレンの姿に客席から大きな声援が寄せられた。当夜は残念ながらグレンは演奏に参加出来なかったが、日本公演ではそこに彼の姿があって欲しい、と思わずにいられない。
新曲の合間を縫うように、80年代初期のライブで見せ場となっていた「Desert Plains」、そして中期を代表する名曲「Turbo Lover」がプレイされる。この二曲ではアンディのソロが聴けるのだが、音を聴く限りではまるでグレンがプレイしている様な錯覚を受けた。あくまで代役としてならば、彼は見事にその大役を果たしている。しかし、ステージ上におけるプレゼンスに関しては、グレンとは比べようも無い。だからこそロブとリッチーがステップアップする必要があったのだし、それが今のジューダスなのだ。ロブによると、アンディは今後もジューダスのメンバーとして活動を続けていくそうだが、だとしたら彼がこれから如何にバンドのイメージにフィットしていくか、は大きな課題となるだろう。
後半に入るとジューダス歴代の名曲オンパレードとなる。どれもがアルバムのオープニングを飾った曲、もしくはクラシックとなった代名詞的ナンバーばかりで、観る側に息をつく間も与えない。「You've Got Another Thing Coming」や「Breaking the Law」での客席との掛け合い、スコット・トラヴィスの繰り出す強烈なグルーヴに支えられた「Painkiller」、ロブがハーレーに乗って登場するお約束の「Hell Bent for Leather」等、正真正銘のジューダス・プリーストによる怒涛の七連発が炸裂した後には、開演前の危惧など跡形もなく消滅していた。
ディープ・パープルとのダブルヘッドライナーという事で、両バンドとも75分という時間制限がかかった中でのパフォーマンスだったが、ジューダス・プリーストはそれでもファンを充分納得させる極上のショウを見せてくれた。信じられない事だが、今の彼らはバンドとして上り坂にあるようだ。主要メンバーを欠いた事が演奏に悪影響を与えるどころか、逆に倒れた戦友にエールを送るかの如く、彼らはこれまで以上に熱の篭ったタイトなパフォーマンスを展開している。加えてセットリストがまた素晴らしい。そもそもジューダスというバンドはツェッペリンの様に荘厳な大曲で聴く側を威圧するバンドではなく、コンパクトに構成された曲作りの上手さによって、パンク以降にブレイクした稀有なハードロックバンドである。だから4分前後の楽曲が大半を占める最新作が歓迎され、75分の間にダレる事なく名曲ばかりを15曲も演奏する事が可能になるのだ。
バンドの歴史を顧みながらどの時代のファンも喜ばせ、高水準の演奏レベルを保持しつつ、最早伝統的とすら呼べるパフォーマンスを説得力を持って披露する。このバンドを追い続けて来て良かった、とファンに思わせるライブが悪くなる訳がない。時間制限のない日本公演では、今ツアーで既に演奏された「Bloodstone」、「Metal God」、「Running Wild」、「Saints in Hell」、「The Ripper」、そして「Tyrant」といった懐かしいナンバーが加えられる事も予想される。ジューダスファンに限らず、全てのメタル、ハードロック・ファン必見の超絶ライブとなるだろう。(南陽一郎)
セットリスト
1. Firepower (『Firepower』, 2018)
2. Delivering the Goods (『Killing Machine』A-1, 1978)
3. Sinner (『Sin After Sin』A-1, 1977)
4. Lightning Strikes (『Firepower』, 2018)
5. Desert Plains (『Point of Entry』A-5, 1981)
6. No Surrender (『Firepower』, 2018)
7. Turbo Lover (『Turbo』A-1, 1986)
8. Guardians (tape) / Rising from Ruins (『Firepower』, 2018)
9. Freewheel Burning (『Defenders of the Faith』A-1, 1984)
10. You’ve Got Another Thing Coming (『Screaming for Vengeance』B-2, 1982)
11. Hell Bent for Leather (『Killing Machine』A-4, 1978)
12. Painkiller (『Painkiller』A-1, 1990)
13. Hellion (tape) / Electric Eye (『Screaming for Vengeance』A-1, 1982)
14. Breaking the Law (『British Steel』A-1 (U.S.), 1980)
15. Living After Midnight (『British Steel』B-1 (U.S.), 1980)