ジャネット・ケイ
 ロンドン生まれ。幼い頃から歌うことが大好きで、ジャクソン5、スティーヴィー・ワンダーからビートルズまで、さまざまな音楽を浴びながら、漠然とシンガーになる夢を抱いていた。70年代の終わり頃、トニー・ガッド(アスワド)に「高音の歌えるシンガーを捜している人がいる」と誘われたことがきっかけで、ミニー・リパートンの名曲をカヴァーした「Lovin’ You」をはじめてレコーディング(プロデュース:アルトン・エリス)し、スマッシュ・ヒット。79年には「Silly Games」(プロデュース:デニス・ボーヴェル)がイギリスをはじめとするヨーロッパで軒並み1位を記録する大ヒットとなり、レゲエで1位を記録した最初のUKブラック女性、としてギネスブックにも認定され、一躍脚光を浴びる。続いて1stアルバム『Capricorn Woman』をリリース、ヒットを記録。

 83年4月には、ロイド・チャーマースをプロデューサーに迎えたカヴァー・アルバム2枚(『So Amazing』『Sweet Surrender』)をリリース。しかしながら、その後は当時のレゲエ・ミュージック界のさまざまなごたごたに巻き込まれることに耐えきれず、音楽活動から遠ざかるようになる。ブランクの間は演劇活動や、趣味でもあるニット・デザインに時間を割いたり、また母親としての役割をこなしたり…とさまざまなことをして時を過ごしていたという。

 91年、日本企画盤『LOVIN’ YOU~BEST OF J.K.』リリース(2枚のアルバム『So Amazing』『Sweet Surrender』からセレクトした音源に、「Lovin’ You」をプラスしたもの)。ロイド・チャーマースのプロデュースのもと、新たにレコーディングし直された「Lovin’ You」が日本中で爆発的ヒットとなる。それまで“UKラヴァーズの女王”として一部のレゲエ・ファンのひそかな宝物、かつ憧れの対象だったジャネットの歌声は広く一般に知れ渡り、日本に一大レゲエ・ブームを巻き起こした。本人も「とても驚いた」というこの状況がきっかけとなってジャネットは音楽活動に復帰、91年12月には初来日も果たす。

 93年、旧友のトニー・ガッド&ドラミー・ゼブ(アスワド)のプロデュースで、復活後第1弾となる久々の新作『Love You Always』をリリース。「はじめて自分の思った通りにレコーディングが進められて、とてもリラックスしてできた」と本人も語るほどの会心作。ジャケットには生まれたばかりの三男、Jaazielを抱きしめる母性愛に満ちたジャネットの姿があった。このアルバムからは、「Missing You」「Always」「Love」(ソニーのCMソングとしてもお馴染み)の3曲がシングル・カットされ、いずれも大ヒット。同年8月には、レゲエ・サンスプラッシュ出演のため再来日。94年1月、2回目のソロ・コンサート・ツアー(東京/大阪/名古屋/岡山/福岡)実現。ドラミー、トニーを中心としたアスワド系ミュージシャンがバンドを務め、あっという間のソールド・アウト公演に。

 94年、2枚目の日本制作アルバム『For The Love Of You』をリリース。トニー&ドラミーをプロデュースに据え、前作の延長線上にある夏色の幸福感あふれるアルバムに仕上がった。カラフルな花のモチーフに彩られたジャケット、一段と美しくなったジャネットのヴィジュアル・イメージと、その青空に抜けるような透き通ったハイトーン・ヴォイスは広く一般に浸透し、ビッグ・アーティストとしてのステイタスを確立する。「Got To Be There」「Wishing On A Star」がシングル・カットされた。

 順風満帆のジャネットだったが、95年にひどく体調を崩して1ヶ月ほどジャマイカで休養生活を送る。このときの体験が、「天国は自分が作るもの。どこだって天国になり得ると思うわ」という考え方をジャネットにもたらし、“無人島ならぬパラダイスに行ったときにどんな曲が聴きたいか”というコンセプトをもとにアルバムを作ることを決意させる。そしてでき上がったアルバムが『In Paradise』(1996年)。お馴染みトニー&ドラミーの2人に加えて、「Mama Used To Say」で知られるジュニアも新たにプロデュースに参加。前年10月にクリスマス・ソング「Silent Night」をカップリングしてリリースされたドラミーとのデュエット「Yes I’m Ready」も収録されている。ジャマイカに古くから伝わるオールディーズをリメイクした「In Paradise」はこの夏の代表曲の1つに。オリジナル曲もアルバムの半数を占め、ソングライターとしての手腕も発揮したアルバムになった。

 97年、最愛の父を亡くしたジャネットは、新たなアルバムの制作に取りかかる。アスワド・プロデュースの“レゲエ三部作”に終止符を打ち、シンガーとしてのジャネット・ケイの魅力を幅広く開花させるための転機となる一枚『Making History』は、約半年間の制作期間を費やしてようやく完成させた。オマー、ジェレミー・ミーハン、大沢伸一などをプロデュースに迎えたこのアルバムは、幼い頃から抱いていたソウル、R&Bへの憧憬を素直に反映させ、ジャンルの枠を超えたジャネットの新しい旅立ちを示す話題作となった。これまで大半を占めていたカヴァーも4曲にとどまり、彼女のパーソナルな視点を投影したオリジナル・ソングがメインとなった。

 99年、日本テレビ水曜ドラマのサウンドトラック(音楽:岩代太郎)にゲスト・ヴォーカル&ソングライティングで参加、「Celebrate Life」「I’m In Love With You Baby」「Plenty More Fish In The Sea」の3曲を披露。このうちの2曲をリミックスして収めた初の本格的ベスト盤『Through The Years』を7月に発表。10万枚以上を売上、根強い人気を印象づけた。

 2003年、今までで最も長いブランクを経て、約2年を費やした新作を遂に完成させた。デビュー25周年を迎える今年、その記念すべき新作のテーマは、彼女のキャリアの原点でありルーツである、ラヴァーズへの回帰であった。さまざまなチャレンジや経験を通して今に辿り着いたジャネットにとって、ラヴァーズは彼女にとって最も大切なものだと再認識するに至ったのである。また、彼女の憧れであるデニス・ブラウンの逝去の報も、その想いを一層強めることとなった。その根源的な想いを新しい自分の作品にするのは、ラヴァーズへの思い入れとこだわりが強い分、仕上がるのにも時間を要した。今回は初期のようにオリジナル曲は少ないものの、ジャネット・ケイというシンガーをどう表現するのが一番いいのか、ということを、今までで最も一番時間をかけて本人が突き詰めて、対峙した作品なのである。従って、たんなる原点回帰ではない、成熟したジャネット・ケイの足跡を新たな作品から感じられるはずである。