あの感動から早くも一カ月。ジェイクいわき市LIVEレポート
10月1日。東京駅をお昼に出発。途中、目まぐるしく変わるお天気を車窓に見ながら一喜一憂。そして、午後2時過ぎにJRいわき駅に到着すると、空は青く晴れ渡っていた。晴れ男ジェイクの面目躍如である。
駅の改札を出ると、待ち構えていた関係者やファンから拍手と歓声が上がった。もともと母方のルーツが福島にあるジェイクは、彼の地には親近感を抱いていたが、06年公開の映画『フラガール』が、ジェイクと福島、とりわけいわき市の関係をより近しいものにした。が、2011年東日本大震災の後には来訪の機会に恵まれず、今回ようやく、約7年ぶりのいわき訪問となった。震災復興のチャリティにも精力的だったジェイクは、電車に乗る前から福島に、いわきに行くのを楽しみにしていた。だから、皆さんの盛大なお出迎えに、驚きつつ満面の笑顔で応えていた。「アロハ〜、ジェイク・シマブクロデス。オヒサシブリデス」。
いわき市政50年、『フラガール』公開10年、ジェイクのソロ・デビュー15年……これだけお祝いの節目が重なったことにも縁の深さを感じてしまうのだが、この日からJRいわき駅では「フラガール」が発車メロディに使用されるようになっていた。いわき到着後、ひと休みしたジェイクはまず、「フラガール」発車メロディご当地化を記念して駅構内にプレートを設置するセレモニーに出席した。ゆるキャラのフラおじさんと、キビタンも駆けつけて、ほのぼのとした雰囲気の中、プレートは無事設置。「僕の書いた『フラガール』が発車メロディになったことを光栄に思います」とジェイク。その場で少しだけ生演奏も披露したが、構内に響いた「フラガール」の聞き慣れたメロディは、心なしか少し照れているように思えた。メディアの囲み取材を受けて、この場は終了。
駅の近くのホテルでも、何本かの取材を受けて、いよいよ本日のメイン・イヴェント、駅前広場でのフリー・コンサートに。地元開催の盆踊り程度の人出かしら?と思っていた私がバカでした。ものすごい人、人、人!! トップバッターの八神純子さんに続いて歌っていたのは、「フラガール」に日本語歌詞を書いたシンガー・ソングライターの照屋実穂さん。彼女が歌う「フラガール」で涙している方を見て、思わずもらい泣き。泣いていた方の涙が、悲しみの涙ではないことを祈りながら。
4時45分、ジェイクとノーラン(ベース)がステージに上がると、ものすごい拍手と歓声が。ちょっとしたクラブでのショウよりよほど大勢の人が見守る中、ふたりは演奏を始めた。固唾を呑んで見守る聴衆。駅前の賑やかな広場に静寂が広がる。その静寂の中を、端正な音の粒たちが滑り出していく。「フラガール」だ。今や映画の主題曲としてのみならず、いわきの人々にとって震災復興の応援歌になった曲。震災後、営業停止を余儀なくされたスパリゾートハワイアンズのフラガールたちは、この曲と共に日本全国を行脚し、祈りを込めて踊った。その姿に心打たれ、励まされた人は少なくないはずだ。自らが被災者でありながら、ポジティヴなエネルギーを日本中に届けた彼女たちのアロハ・スピリットは本物だ。そしてジェイクは今、この曲を「ただいま!」の挨拶代わりに、最初に披露している。なかなか粋な計らいではないか。
ジェイクとノーランの緩急自在の演奏に観客は手拍子をしたり、じっと聴き入ったり。ライヴ中、ぐるりと周辺を歩いてみた。広場の後方には屋台なども出て、さながらお祭りのようでもあったが、その屋台すれすれまで人が詰まっていて、しかもみなさんジェイクの演奏に集中している。オリジナル曲のほかに、「さくらさくら」や「ここに幸あり」なども演奏。「ここに幸あり」は、ジェイクに促されてみんなで歌ったが、ここでもやはり涙をこらえきれない人がちらほら。およそ45分にわたるステージが終わる頃には、すっかり日は落ちていた。
ここからもう一つの野外会場に移動して、最後に、照屋実穂さんと共演だ。もちろん曲は「フラガール〜虹を」。地元のフラダンサーをはじめ、そこにいる人たちもみんな、曲に合わせてフラダンスを踊った。小さな子供も、おじいちゃんも、おばあちゃんも踊っていた。みんな楽しそうに、笑いながら。
「10年は本当にあっという間でした。それまで映画音楽を制作したことのない僕に大きなチャンスをくれたことに感謝しています。今日僕がいわきに来ることができたのも、すべて映画のおかげです。『フラガール』はいわきの人たちにとって特別な曲になっています。映画を通じて僕は、炭鉱が閉鎖され、ハワイアンズができた経緯を知ることができました。そしていわきの人たちがどれだけハワイとの関係を近く感じているかを知りました。カルチャーとしてフラが根づいているのは、ハワイと同じです。『フラガール』はとてもシンボリックで、今回、電車の発車メロディにもなりました。僕にとっていわきは、“シティ・オブ・アロハ”なのです。いわきを離れる時に駅で『フラガール』のメロディを聴いて、いわきの人々が持っているアロハなスピリットを感じてもらえたらいいな、と思います」とジェイクは話してくれた。
そして、震災復興の応援歌でもある「フラガール」については「なかなか信じられないことです。自分の書いた曲がいわきの人たちにとってそれほどまでに意味のある曲になったということを、とても光栄に思います。誇りに思います。そもそも僕が音楽を作り、演奏している理由は、世界中の人にポジティヴなエネルギーを届けたいからです。人々が楽しみ、幸せになるための助けになるよう、ポジティヴなインパクトを与えたいからです。人によって音楽の捉え方は異なります。ある人にとって音楽は友達のようなものであり、ある人にとっては助けや影響の源であり、心地よさを感じられるものであり、生きるためのモチベーションであり、悲しく辛い時間を乗り越えるエネルギーを与えてくれるものでもあります。音楽はとてもパワフルなものなのです。「フラガール」が人々の心を動かしているのだとしたら、それは最高レベルの光栄になります。そして、これからもこの曲が人々をサポートしていけたら嬉しく思います。いわきの人だけではなく、福島の人みんなに届けばいいと思います」と。きっと、10年後も、20年後も、「フラガール」は愛され続けているに違いない。
文:赤尾美香