ELO 4月26日ロンドンO2アリーナ・ライヴ・レポート
70年代、80年代と、世界的大ヒットを放ったELO。生みの親でありソングライターでありプロデューサーであり、そして多くの楽器をこなすマルチ・プレイアーであるジェフ・リンは、ビートルズのメンバーやディランなどと活動を共にしてきた大物だが、本人は謙遜深い、いたって控えめな人だ。2014年の9月にBBCのハイド・パークでのチャリティー・コンサートでライブを行うまで、ELOのファン、自分のファンが今もいるなど想像していなかった、とインタビューで告白した。ハイド・パークでのライブを機にELOに再度本腰を入れるようになり、去年新作『アローン・イン・ザ・ユニヴァース』を発表。今年春の全英ツアーが実現することになった。ファンには嬉しいばかりの事態である。
私がこの全英ツアーを私が観に行ったのは、4月26日のO2アリーナ。個人的には去年1月に『アローン・イン・ザ・ユニヴァース』のお披露目ライブを見たが、その時の規模と今回のライブは、スケールが桁違いだ。約2万席あるO2アリーナは、この日2階最上席までほぼ満席だった。本ツアーはリバプールで開幕し、ノッティンガムやリーズなど地方都市を回りロンドンへ。全十数回行われたが、ほぼどの会場も満席だ。
8時50分ころ、天井から張られた幕が落ちると、ステージにジェフとバンドがいる、という形で始まった。1曲目の「タイトロープ」は軽やかにウォーミング・アップする、ハーモニーのきいた曲。メンバーはジェフとリチャード・タンディーを中心に、ギターとベースを含めた4人のギタリスト、キーボード2名、ドラムスに、ストリングスが3名、そしてバッキング・ヴォーカルが2名からなる11人のメンバーが加わった。
2曲目の「イーヴィル・ウーマン」を紹介するところを間違って、3曲目の「ショウダウン」を紹介してしまったジェフ。観客は笑みを浮かべながら、静かに名ヒット曲に聞き入った。「ショウダウン」はたった3人のストリングスの音をボリューム・アップし、(ひょっとしたら打ち込みの音も追加?)まるでオーケストラがそこにいるかのような、ELOサウンドとして知られるストリングスが、大きな会場に響き渡った。その壮大なサウンドたるや11月に観たときとは、大違い。「オール・オーヴァー・ザ・ワールド」はジェフの高音部の見事なヴォーカルが聴き所だ。ステージ背後にある円形の大形プロジェクターには、地球を宇宙からみたイメージが映写され雰囲気を盛り上げた。70年代のELOのステージは宇宙船を意識した大がかりなセットを使用したそうだが、今回のステージは大きいがいたってシンプル。この円形プロジェクターに、それぞれの曲をイメージする映像が映写されていった。
『アローン・イン・ザ・ユニヴァース』からの曲「ホエン・アイ・ワズ・ア・ボーイ」は、ビートルズへのジェフの愛が滲み出た曲だが、ある意味イギリスのELOファンを象徴する曲かも。2万人の観客のほとんどは60代で、後期ビートルズ世代にあたる人々。夫婦や、30代の子供を連れて家族で聞いている人が80%ほど。そこに若い世代のファンが混じった感じがこの日の観客層だった。「オーロラの救世主」などイントロが始まっただけで、会場から拍子をとる拍手が巻き起こるあたりも格別だった。
前半は静かに聞き入る感じの観客も、後半で70年代のヒットが続々演奏されると、我慢していられないのか立ち上がり一緒に歌ったり拍手したりした。「エイント・イット・ア・ドラッグ」のロックンロールのノリに一生懸命ついていこうとする初老ファンの様子に思わず微笑みも浮かんだ。「オヴァーチュアー」では再びストリングスの壮大でロマンチックなサウンドが会場を埋め尽くし、人々はそれに聞き入り酔いしれた。正確な演奏、明晰なサウンド、上手いヴォーカル、どこで聞いてもバランスのとれたミックス。マルチ・プレイヤーで何をやっても器用で才能あるジェフ・リンらしい完璧なパフォーマンスだったと思う。何故か英ガーディアン紙には「あまりにも完璧すぎ」という、奇妙なレビューが出たりもした。音の良くないライブに慣れた音楽ファンには、完璧な音は不満足な要素なのか・・・・。
「ターン・トゥー・ストーン」「ドント・ブリング・ミー・ダウン」「スウィート・トーキン・ウーマン」など、終わりが近づくにつれ往年のヒットが目白押し。最初にゆっくりと温度をあげ、中盤で雰囲気を固め、後半一気に盛り上げる、というセットリストは、サウンドと同様に完璧。これまたジェフ・リンらしいと思う。11月のライブと同様、会場からは中年男性ファンから「ジェフ愛しているよ」の掛け声も聞かれた。ジェフ・リンは、男に愛を告白させる存在なのか。(笑い)「ミスター・ブルー・スカイ」でいったん幕がおり、しばしの間をおいてアンコール「ロール・オーバー・ベートーベン」へと流れた。ストリングスがベートーベンの「運命」を奏でる形で始まるこの曲、バッキング・ヴォーリストのソウルフルな歌と炸裂するギター、唯一のオリジナル・メンバーであるリチャード・タンディーのキーボードがぶつかり合うパワフルな演奏でお開きになった。観客の年齢層が高いせいか、どことなくリラックした雰囲気と感動が溶け合う、大人のロックを満喫する夜だった。6月のグラストンベリーのライブが、これとどう異なるかが楽しみだ。(高野裕子)
Setlist(2016年4月26日ロンドンO2アリーナ)
1 Tightrope (from A New World Record, 1976)
2 Evil Woman (from Face the Music, 1975)
3 Showdown (from On the Third Day, 1973)
4 All Over the World (from the soundtrack to Xanadu, 1980)
5 When I Was a Boy (from Alone in the Universe, 2015)
6 Living Thing (from A New World Record, 1976)
7 Ain't It a Drag (from Alone in the Universe, 2015)
8 Can't Get It Out Of My Head (from Eldorado, 1974)
9 Rockaria! (from A New World Record, 1976)
10 When the Night Comes (from Alone in the Universe, 2015)
11 Secret Messages(from Secret Messages, 1983)
12 Steppin' Out (from Out of the Blue, 1977)
13 Shine a Little Love (from Discovery, 1979)
14 Wild West Hero (from Out of the Blue, 1977)
15 Turn to Stone (from Out of the Blue, 1977)
16 Don't Bring Me Down (from Discovery, 1979)
17 Sweet Talkin' Woman (from Out of the Blue, 1977)
18 Telephone Line (from A New World Record, 1976)
19 Mr. Blue Sky (from Out of the Blue, 1977)
Encore:
20 Roll Over Beethoven (from Electric Light Orchestra 2, 1973)
●昨年2015年11月に15年振りの新作『アローン・イン・ザ・ユニバース』を発表したポップの魔術師ジェフ・リン率いるELOのワールド・ツアーは4月5日、ビートルズの故郷英リバプールからスタートした。長期ツアーとしては1982年の『Time』ツアー以来となる34年振りとなるもの。
●ロンドンのO2アリーナでは4公演行ない、すべてソールドアウト。UKツアーは全14公演すべてソールドアウトで17万人を動員した。このあとヨーロッパ各地を周り、6月26日にはグラストンベリー・フェスティバルにも出演。その後全米ツアーが予定されている(現段階ではLAのハリウッドボウル公演とNYのラジオ・シティ公演が発表されている)
●新作『アローン・イン・ザ・ユニバース』より、初期ビートルズを彷彿させるようなマージービート・テイストの「エイント・イット・ドラッグ」のミュージック・ビデオも公開されている。
【最新アルバム】
ELO 『アローン・イン・ザ・ユニヴァース』
2015年11月18日発売 日本盤:高品質BSCD2仕様/日本のみのボーナストラック収録
●Deluxe version:3Dレンティキュラー仕様 13 曲収録SICP-30890 ¥3,000+税 (デラックス盤ボーナストラック2曲+日本のみのボーナストラック1曲収録)
●Standard Version:11曲収録 SICP-30891 ¥2,500+税 (日本のみのボーナストラック1曲収録)
収録曲
1 ホエン・アイ・ワズ・ア・ボーイ (1st single)
2 ラヴ・アンド・レイン
3 ダーティ・トゥ・ザ・ボーン
4 ホエン・ザ・ナイト・カムズ
5 ザ・サン・ウィル・シャイン・オン・ユー
6 エイント・イット・ア・ドラッグ
7 オール・マイ・ライフ
8 アイム・リーヴィング・ユー
9 ワン・ステップ・アット・ア・タイム
10 アローン・イン・ザ・ユニバース
11 フォルト・ライン*
12 ブルー*
13 オン・マイ・マインド**
*Deluxe Versionのみ収録
**日本盤CDのみのボーナストラック
●「ホエン・アイ・ワズ・ア・ボーイ」 (日本語字幕付きOfficial Music Video)
ビートルズに憧れた少年時代の夢を乗せて—「ポップの魔術師」ジェフ・リン率いるELO、15年ぶりの新作を発表。smarturl.it/ELOalone
Posted by Legacy Recordings JP on 2015年11月7日
【バイオグラフィー】
ビートルズ『アンソロジー』(1995年)、ポール・マッカートニー『フレミング・パイ』(1997年)、ジョージ・ハリスン『クラウド・ナイン』(1987年)、『ブレインウォッシュド』(2002年)、リンゴ・スター『タイム・テイクス・タイム』 (1992年)といったそれぞれのソロ作、トラヴェリング・ウィルベリーズ、ブライアン・ウィルソン、ロイ・オービソン等のプロデューサーとしても歴史的作品を生み出し、史上最高のメロディ・メイカーの一人でもあるポップの魔術師ジェフ・リン率いるELO。ビートルズへの愛情とロックとクラシックを融合させた独自の音楽スタイルで70~80年代を席巻。71年結成以来、86年の『バランス・オブ・パワー』まで12枚のアルバムを残し解散。2001年 『ZOOM』で一度復活。ELOとして全世界で5000万枚以上のトータルセールスを記録。74年から81年の間、次々にマルチミリオンセールス記録していたELOは全米・全英で20曲以上のトップ40入りヒットを放ち。当時ギネスで“最もTOP40ヒットが多いアーティスト”という記録を残した。日本では「トワイライト」がドラマ“電車男”の主題歌に起用されたり、「ミスター・ブルー・スカイ」がCMに使用されるなどおなじみの楽曲も多い。他「ザナドゥ」「シャイン・ラヴ」「ドント・ブリング・ミー・ダウン」 「コンフュージョン」「ロンドン行き最終列車」なども大ヒットした。また、ジェフ・リンはグラミー賞を受賞したスーパーグループ、ザ・トラヴェリング・ウィルベリーズの結成メンバーでもあり、音楽史上最も名高いプロデューサーのひとりでもある。彼はザ・ビートルズ、ロイ・オービソン、ジョージ・ハリスン、ポール・マッカートニー、リンゴ・スター、トム・ペティ、ジョー・ウォルシュなど数多くの伝説のアルバムのプロデュースを手がけ、コラボレーションを行なってきた。2015年にはハリウッド・ウォーク・オブ・フェイム受賞。聖ユダヤ小児研究病院 (St. Jude Research Hospital)、MusiCares(NARAS傘下の音楽関連チャリティ財団)、H.E.A.R.T. (Helping Ease Abuse Related Trauma、虐待関連トラウマ緩和支援団体)といった団体に積極的に支援活動を行う人道主義者でもある。