2005年10月ロサンゼルス:1940年代の初め、伝説的な推理小説作家のレイモンド・チャンドラーが、仕事場所としてまた第二の家として、このハリウッドのオフィスビルの6階にあるスイートルームを使っていた:ハンフリー・ボガートが演じたフィリップ・マーロウ刑事が登場する3番目の小説「高い窓」もここのタイプライターで執筆され、今日でもまだ読まれている。そして現在、この同じ建物は「全方位的に才能があり」「複数作業を同時に遂行し」「永遠に多忙な」デイブ・スチュワートの仕事の中心地となっている。デイブ・スチュワートはイングランド北東部サンダーランドに生まれたが、現在はアメリカ西海岸に妻や子供達と暮らしている。彼が2ヶ月前、以前のミュージカル・パートナーだったアニー・レノックスを、彼女のアメリカ滞在中に連れて来たのがまさしくこの場所である。



「彼女に新しいスタジオのセットアップを見せたかったんだ」と、いつもの柔らかく控えめな口調で、最先端のレコーディング機器で装備された小さな正方形の部屋でデイブは話す。数時間後には、2人は5年ぶりの新曲「I’ve Got A Life」のベストパートを書き上げていた、とアニーは語る。彼女の最近の業績は世界中の観客を魅了したこの夏のロンドンとエジンバラにての「ライブ・エイト」コンサートでのパフォーマンスであろう。また、2005年には「ロード・オブ・ザ・リング:王の帰還」の「イントゥー・ザ・ウェスト」では「ベスト・オリジナル・ソング」部門でオスカーを獲得している。また、デイブ・スチュワートは、USミュージック・クリティック賞と、映画「アルフィー」のリメイクのために書いた「オールド・ハビッツ・ダイ・ハード」は「ベスト・オリジナル・ソング」部門でゴールデン・グローブを獲得している。



時々この2人のクリエイティブな化学作用は止まらなくなる。数時間の内にスチュワートとレノックスは、ソロ活動からほぼ10年を経た会心作、1999年発表の「ピース」以来初となる合作を生み出したのである。そして、この曲は古い楽曲ではないのだ。「あまりに突然に起こってしまったから、現実として捉えるにはあまりに奇妙だわ。」アニーはこの8月のデイブとの強烈で密度の高い共作について語った。「でも実際に完成して、あの日書いた曲のクオリティは素晴らしいものよ。『I've Got A Life (It's The Only Thing That's Mine)』は素晴らしい、まるで聖歌のような歌だわ。その事実は避けられないの。私達は2人ともとても誇りに思っているわ。」誰でもきっと誇りに思うに違いない。

5年ぶりのユーリズミックスのシングルであるが、既にヨーロッパ全域で、「ラジオ局の新曲リストに最も多く加えられた曲」となっている。典型的なスチュワート&レノックスであるよう、この曲はゆっくりと荒涼としたトーチソングのように始まり、それが突然舞い降り飛び上がるような、紛れも無いアニーの激しいボーカルを乗せて、雷鳴のようなエレクトロ・トラックに変わって行く。そして、称賛と同時の絶望や疎外感と同時の非常に強い自己意識を認識する歌詞、また彼らのトレードマークである、テクノロジーと人間の声の原始的な強烈さを組み合わせたミュージカルサウンドなど、ユーリズミックスのパラドックス(矛盾)の鍵の総てが収められている。確実に、他の誰にも作れるものではない。「日常の生活の中で、私たちは様々な人達と様々な形で話をすることに慣れているけれど、デイブと私が一緒にいると私たちの音楽的会話は「私達」と認識できるものなの。別にそうしようと計画するわけでもないのだけれど、ただそうなってしまうのよ。」とアニーは話す。

2曲目の新曲「Was It Just Another Love Affair」と「I’ve Got A Life」は、世界規模でのリリース目前に控えた19のヒット曲を網羅した「Ultimate Collection」のパーソナルミュージック・ヒストリーに加えられている。もちろんユーリズミックスの統計資料は非常によく知られている:ユーリズミックスは、イギリスが生んだ最も成功し、また最も影響力のあるポップデュオで、世界規模で7500万枚のレコードセールスが上げている。1981年のロンドンでの結成から、80年代のポップカルチャーとしての形づけに深く寄与しているのである。写真やステージ上でも象徴的で衝撃的なイメージを使い、通常は自己愛的なツールとされるプロモーション・ビデオにより、見る者を招き寄せたり、突き放す事で、スチュワートとレノックスは総ての新曲リリースにおいて、新境地を開き期待に挑戦してきた。



しかし、この本質的な新アルバムの懐古主義的要素が示すように、ユーリズミックスが、時代の最も重要で最も愛されたバンドである理由を、決定的かつ強烈に説明しているのが、彼らの音楽その物なのである。シンセポップ(Love Is A Stranger)からロック(Missionary Man)やリズム&ブルース(Sisters Are Doing It For Themselves、この曲でアニーはレジェンドであるアレサ・フランクリンと肩を並べて歌っている)、それにゴージャスでとろけるようなポップソウル(There Must be An Angel)までジャンルを超えて、この「Ultimate Collection」はスチュワートとレノックスの、音楽的スキルとビジョンの驚くべき幅広さを示している。情熱的そして感情的にも、その範囲は広大で、荒涼とした侘しさ(Who’s That Girl?)から称賛(It’s Alright…)、それに肉体の欲望(I Need A Man)、痛い程の優しさ(Miracle Of Love)を経てまた元に戻っている。

この2人が、ヒットメーカーの新世代に多大なインスピレーションを与え、実際に彼らのサウンド源になったのも不思議ではない。パフ・ダディ、マリリン・マンソン、ユタ・セインツ、フェイス・エヴァンズ、ピンクそしてウータン・クランズ・レッドマンも、彼らから公式に曲を「借りた」大勢の内の一部である。しかし、もちろんダンスやヒップホップの世界では常識のように、非公式に使われることも非常に多い:今年の夏、イビサ島は様々なバージョンの1983年のユーリズミックスの最初のブリティッシュトップ10である「Sweet Dreams (Are Made Of This)」で盛り上がっていた。そしてスチュワートとレノックスがお互いから離れて素晴らしいキャリアを築く中、2005年に自ら進んで再結成し、「I’ve Got A Life」のようなインスタント・クラシックを自分達の華やかな曲リストに加えたのは、彼らのユニークで象徴的なパートナーシップへの証(あかし)であると言えるだろう。