ボブ・ディラン、共同開発ウイスキー『ヘヴンズ・ドア』発売詳細情報!

2018.05.07

5月に発売予定『ヘヴンズ・ドア』の商品化に至るまでの顛末とテイスティングを報じたニュースの全文訳になります。ディラン自身の関わり方も紹介された大変興味深い内容で、輸入されればいち早く飲んでみたいものです。

 


ボブ・ディラン、次の活動はウイスキー作り ?!
by ベン・シザリオ
2018年4月28日:ニューヨーク・タイムズ

2015年後半、酒造業界の業界紙に予想もしないひとりの名前が掲載された。それはボブ・ディランだった。

 

ボブ・ディランが「ブートレッグ・ウイスキー」という名称の商標登録を出願した。このニュースに気づいた人々のなかに、52歳のマーク・ブシャラがいた。彼は長年にわたるディラン・ファンであると同時に、酒造事業主でもあり、ちょうど彼が所有するバーボン・ブランド「エンジェルズ・エンヴィー」を1億5千万ドルで売却したところだった。ブシャラ氏は何週間も「ディランのウイスキーはどんなコンセプトがいいんだろう」と考え続けたという。

 

彼は連絡を取ることにした。ディランの代理人による身元調査を受けたあと、アメリカ中西部なまりで「フレーバープロファイル(香味分析)」や「ネームエクスプロレーション(名入れ)」といった業界用語を駆使して話すブシャラは、電話でディランにウイスキー製造に共同出資をしようと提案した。ただし彼は問題がひとつあると感じていた。それは「ブートレッグ」という名前だった。「ディラン学」で考えると最適な名前であるが、一流の酒の名前にはふさわしくない。はたしてノーベル文学賞受賞者であるディランが、名前の変更を受け入れてくれるだろうか?

 

「かなり厄介な問題だった」ブシャラは中西部なまりで語った。

 

しかし、ことはうまくいった。来月(5月)、彼とディランは「ヘヴンズ・ドア」と名付けた3種類のウイスキー(ストレート・ライ・ウイスキー、ストレート・テネシー・バーボン、ダブル・バレルド・ウイスキー)を販売する。有名人ブランドの酒がブームとなっている市場に、ディランは3種のウイスキーで参加するのだ。ディランは50年にわたって予想を裏切り人々を困惑混乱させ続けてきたが、ウイスキー市場への参入がディランとの最新の取り組み、まさにキャリアのひとひねりだ。

 

ディランはただ単に名前の使用を許可しただけではない。ヘヴンズ・ドア・スピリッツ社の協同経営者に就任し、ブシャラ氏よるとすでに投資家から3千500万ドルを集めたという。

 

「わたしは、それぞれ独自の特徴を持つアメリカン・ウイスキーを作りたいと思っていた。わたしは何十年間も旅を続けているので、いままで世界中で最高の酒を飲むことができた。その中でも、このヘヴンズ・ドア・ウイスキーは最高のひとつだ」と、ディランはニューヨーク・タイムズ紙に語っている。

 

有名人ブランドの酒のマーケティングは、有名人のライフスタイルに頼る傾向がある。たとえば、ジョージ・クルーニー・ブランドのカーサミーゴス・テキーラ(昨年イギリスの巨大酒造メーカーのディアジオに10億ドルで売却)を飲むのは、映画スターの優雅な生活を手に入れたような気分になりたいからだ。ジェイ・Zのようなパーティーをしたいのなら、彼のブランド、1本850ドルのアルマンドブリニャック・シャンペーンを購入したらいいだろう。

 

「妖精の粉だ」と、ヘヴンズ・ドアとは関わっていないが、ブランドライセンス・エージェント、ビーンストークの会長のマイケル・ストーンが語る。「人々は、有名人のライフスタイルから妖精の粉が振りかけられることを求めている」

 

ヘヴンズ・ドアは、ある部分ルネッサンス的教養人であり、ある意味で探検家でもあるディランの幅広いアイディアを魔法のように引き出すだろう。ボトルのラベルには、ディランが製作したカラスやスポーク車輪などを配置した田舎風の鉄工作品のシルエットがデザインされている。往年の映画スターのようなライティングで撮影された宣伝用写真では、タキシードを着用した76歳のディランが、薄暗いカクテルラウンジかレストランで手にグラスを持ってひとりで座っている。

 

アメリカン・スタンダード曲を歌った最近のアルバム同様、洗練された都会風であると同時に、感傷的歌手であるディランを見事に写真にとらえている。まさに、グラス片手に1日の終わりを迎えているのだろう。

「ディランの人間性はウイスキーに好印象を与える。彼は正真正銘の本物だ。彼は究極のアメリカ人だ。彼は思い通りに行動する。これらのことは良質なウイスキーにも当てはまる」と、ブシャラは語る。

 

ディランは近年拡大するクラフトウイスキー市場に参入する。蒸留酒協議会のデータ資料によると、カクテル人気のおかげで、過去5年にアメリカン・ウイスキーの販売額は52パーセントの伸びを示し、2017年には340億ドルを記録した。

 

長年に渡ってディランを熱心に聴き続けてきた人は、ウイスキーが何十年も前から彼の歌に登場していることを知っているだろう。古くは1963年のアウトテイク「ムーンシャイナー」、さらに1970年のアルバム『セルフ・ポートレイト』でカバーした「コパー・ケトル( ザ・ペール・ムーンライト)」ではウイスキー蒸留の工程を詳細に歌っている。(「きみに銅のやかんをあげよう、銅のコイルもあげよう/そこに作ったばかりのどろどろしたとうもろこしを山盛り入れれば、あとはもう何もすることはない」)

 

ブシャラは、ディランと4、5回直接会い(会う場所はいつもロサンゼルスのディランの鉄工作品製作スタジオ)、あるいは何度も電話でやり取りした結果、彼が本当にウイスキーの審美眼に長けた人物だとわかったと言う。

 

それでもコミュニケーションは簡単ではなかった。ブシャラと営業主任のライアン・ペリーはディランの要求を理解するのに手こずった。多くの場合、ディランの思いは謎めいた表現や、ただ目の合図だけで伝えられた。

 

「時には、じっと見つめられるだけの場合もあった。はたして嫌なのか、承認しているのかわからないこともあった」と、ブシャラは笑いながら言う。

ブシャラとペリーは、ディランがダブル・バレルの試作品をテイスティングした時に何かが足りないと言ったことを覚えている。「木造建築の内部にいる感じが必要だ」と、ディランは言った。

 

ディランの暗号のような謎めいたコメントを理解するのに苦しんだ。いったいどんな木造建築なんだろう? 教会かな? 木製車両かな? 納屋かな? 考えを巡らせたブシャラ氏とペリー氏は、まず手始めにノーズ(ウイスキーをグラスに注いだ時の最初に感じる香り)について徹底調査をし、続いてウイスキーを熟成させる樽の温め方をいろいろ変えて試してみた。

 

数カ月後、ふたりは「納屋の特有の、甘い、ややカビ臭い香り」を具現化できたと思う試作品をディランに届けると、ディランから承認を得ることができた。

ディランの遠回しの不思議なコメントのおかげで、「われわれは熟成過程で、今までと違った方法を思いつくことができた」と、ペリーは語る。

 

最初のヘヴンズ・ドアはコロラド州のブレッケンリッジ・ディスティラリーの酒職人、ジョーダン・ヴィアによって開発された。そのあと全員で様々な新しい熟成工程を試してみた。たとえばライの場合は、フランスのヴォージェス地区で乾燥させたオークで作った葉巻型の樽で熟成させた。

 

ディランが最初に商品登録したウイスキーの名前を保持するために、年に一度だけ限定版の「ブートレッグ・シリーズ」がディランの油絵や水彩画をデザインした陶磁器製の特製ボトルで販売される。最初に発売される25年物の「ブートレッグ・シリーズ」は1本300ドルほどで来年発売される予定だ。通常の「ヘヴンズ・ドア」は1本50ドルから80ドルで発売される。

 

ディランがコマーシャルに関わると、かならず怒りの声が上がる。たとえば2014年にスーパー・ボウルのTVコマーシャル2本に出演した時は一部のファンが「裏切り者」と非難した。1本はチョバーニヨーグルトのコマーシャルで音楽に「アイ・ウォント・ユー」が使われた。もう1本はクライスラーのコマーシャルで、出演したディランは自動車産業についてかなり愛国心的な内容のスピーチをしている。

 

しかしディランはコマーシャルに関わることを嫌っているわけではないし、長い目で見ると彼の評判が貶められたわけでもない。1994年、ディランはリッチー・ヘイヴンスが歌う「時代は変わる」を、保守的な会計会社クーパーズ&リブランド社がコマーシャルソングに使うことを許可した。2004年にはディラン本人がヴィクトリアズ・シークレットのコマーシャルに出演して失笑をかった(ディランが天使の羽を身につけたスーパーモデルに黒いカウボーイハットを投げる演技をしている)。そのあともアップル、キャデラック、ペプシ、IBM、グーグルなどのTVスポットにも出演している。

 

またディランは現在制作中のテレビドラマに彼の全楽曲の使用許可を与える特異な契約も交わしている。

 

ディランにインタヴューをしたこともあるベテランの音楽ジャーナリスト、ビル・フラナガンは彼をハンク・ウィリアムズやジョニー・キャッシュと同類に捉えている。つまり3人とも自力で成功したエンターテイナーで、コマーシャル市場に参入することもいとわないタイプだという。

 

さらに、ディラン自身が刺激的で絶対的な存在である。

 

「ディランは束縛されることに抵抗し続けている。人々が彼をフォークの王様と呼ぶようになった時、カウンターカルチャーの守護神と呼ぶようになった時、反商業主義左翼思想の最愛の象徴と呼ぶようになった時、かならずディランはそれを阻止する何らかの反対行動をとった」と、フラナガンは語る。

 

ヘヴンズ・ドアが成功するかどうかには、別の問題もある。ブシャラは、2011年に創立したエンジェルズ・エンヴィー社(高品質と革新さで成功を収め、4年後にバカルディ社に売却)の創立者のひとりだった。それでもウイスキー事業は年々激化し続けている。ニールセン調査によると、アメリカでは2万種以上の蒸留酒が販売されていて、ウイスキーに限ればその種類は2013年に比べて27パーセントも増加している。

 

ブシャラはディランに初めて会った時、「ウイスキー愛飲家には身勝手で偏屈な人が大勢いる」ので、これからスタートさせる事業が成功するかどうかは、ディランのイメージではなく、商品の品質によると告げたという。

 

最初の打ち合わせから数カ月後、ディランのノーベル文学賞授与が発表された時、ブシャラは震え上がるほど驚かされたと語る。とくに受賞受諾の返事をするまでの数週間、その間に受賞を断るのではないかという憶測まで飛び交った時に。「やめてくれ。広告戦略上最悪の悪夢だ!」ブシャラはそんな風に考えていたことを今でも覚えている。

 

だがすぐに予想を裏切ることはディランの「もっとも彼らしい商標」のような行動であると気づいた。ノーベル賞でのエピソード(結果、すべてうまくいった)と同じように、ウイスキー会社設立も成功するだろうと思った。

「ディランがウイスキーを作ったことに驚いた人たちは、本当の彼を知らない人だと思う。彼を知る人は、自分たちが想像もしないことを彼がすることを期待している」と、ブシャラは語った。

 

原文はこちら
https://www.nytimes.com/2018/04/28/business/media/bob-dylan-heavens-door.html

 

 

ボブ・ディランのウイスキー「ヘヴンズ・ドア」のテイスティングは?
by クレイ・ライゼン
2018年4月28日、ニューヨーク・タイムズ紙

古くからミュージシャンと酒作りの関係は深い。この数年だけでもポーグズやドレイクなどが彼らの名前を冠したウイスキーを作っている。今年、ボブ・ディランも自らのブランド「ヘヴンズ・ドア」を立ち上げ、7年物のストレート・テネシー・バーボン、ダブル・バレルド・アメリカン・ウイスキー、フランスのヴォージズのオーク樽で熟成させたストレート・ライ・ウイスキーの3種で彼らの仲間入りをした。

 

ディランが仲間と立ち上げた会社は、ウイスキーの原酒そのものを蒸留製造するわけではない。どこの蒸溜所かは明らかにされていないが、彼らは原酒を購入しそれに独自の手を加えて熟成完成させてボトル販売する。「ヘヴンズ・ドア」の3種のウイスキーを試飲したわたしは、ほかのウイスキーとの違いは何だろうかと考えた。以下がわたしのテイスティングの結果だ。

 

ストレート・テネシー・バーボン
49.99ドル
750ml
90プルーフ(45度)

ノーズ(香り)は典型的なバーボンで、特別大騒ぎするものではない。ただ、普通の7年物に予想する以上のオークの香り(カラメル、ヴァニラ、木炭)を感じる。それに白檀、皮、亜麻仁油の香りもある。さらにクリーミーコーラの香りもあるのでマッシュビル(粉砕麦芽の穀物の割合)にライ麦がかなり含まれていると思う(資料には、とうもろこしの割合を70パーセントに抑え、そのほかの麦芽の影響を強めている、と記されている)。パレート(味わい)は、まず最初にココアとバタークリームの味を感じる。続いて黒胡椒や葉巻たばこの味に移っていく。フィニッシュ(余韻)は、やや苦味とアトミックファイヤーボール飴のようなピリッとした甘味が残る。試飲した3種のなかでは、わたしはこれがもっとも気に入った。

 

ダブル・バレルド・ウイスキー
49.99ドル
750ml
100プルーフ(50度)

ほかと比べると、やや控えめなダブル・バレルド・ウイスキー(2種の原酒をブレンドしたものを別の樽に入れて熟成させる)のノーズは、ケーキ生地の香り、新鮮な過日の香り、幼児用咳止めシロップの香りがする。グラスに注ぐと、甘いワインが隠れているような少し苦い木の香りに変わる。味わいは、かなり渋い医薬のようで、これに香りが加わると、たばこ、オールスパイス、燻煙が混じり合った粉胡椒の香味が重なった滑らかな口当たりになっている。木製樽の影響がやや強すぎるかもしれないが、マンハッタンで飲むには、より高価なライの代わりにするといいかもしれない。

 

ストレート・ライ・ウイスキー
79.99ドル
750ml
92プルーフ(46度)

現在市場で販売されているライ・ウイスキーのほとんどがインディアナ州南部にあるミッドウエスト・グレイン・プロダクツ蒸溜所で作られている。ここで蒸留された原酒がディッケル社やブレット社などに供給される。この原酒を各々のブランドが独自の樽(古い樽や新品の樽など)に入れて熟成させる。ヘヴンズ・ドアの場合は、フランスのヴォージズで作られたオーク樽(ピノ・ノワール・ワインの熟成によく使われる樽)に入れて熟成させている。ヘヴンズ・ドア社は原酒の蒸溜所を公表していないが、ノーズ(香り)は間違いなくミッドウエスト・グレイン・プロダクツ蒸溜所のトレードマークといえるディルや香草の香りがする。また、甘い草のような香りや、ココアパウダー、たばこ、皮の香りもする。パレート(味わい)は、最初は驚くほど滑らかだが、すぐに香味が広がる。フィニッシュ(余韻)は、ピリッとしたビタースイート・チョコレートの香りが残る。

 

原文はこちら
https://www.nytimes.com/2018/04/28/business/dylan-whiskey-taste-test.html


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