『ボブ・ディランを追いかけて~2017年最終版』 by 菅野ヘッケル

2017.11.26

ボブ・ディランを追いかけて~2017年最終版

菅野ヘッケル

 

 


2017年のネヴァーエンディング・ツアーの最終日を見ようとアメリカにやって来た。ニューヨークのビーコン・シアター5公演を見るのが最大の目的だが、その前にフィラデルフィアとボストンの公演も見ることにした。フィラデルフィアの会場は歴史のある古い劇場タワーシアターで、収容人数も3000人程度。11月11日と12日の2公演を見たが、めずらしくぼくが大好きな「スカーレット・タウン」が歌われるなど、すばらしいコンサートだった。ニューヨーク5公演への期待が高まる。

ボブのコンサートを見るのは5か月ぶりだ。大きな変化は予想しなかったが、2017年のネヴァーエンディング・ツアーを締めくくるニューヨーク5公演は見逃せない。会場はおなじみのビーコン・シアター。1995年以降、ボブはビーコン・シアターで何度もコンサートをおこなっている。本拠地公演というわけだ。ビーコン・シアターはセントラルパークの西側、ブロードウェイの74番ストリート付近にある100年近い歴史を持つ古い劇場で、3層に分かれた客席は約3000人を収容できる。内部には巨大なギリシャの女神の装飾が施されている。雰囲気は最高。今のボブには劇場が最適な会場だ。アリーナやスタジアムは避けてほしい。

 

夜7時30分にオープニング・アクトのメイヴィス・ステイプルズがステージに登場する。ギター、ベース、ドラムズのバンドに男性と女性のコーラスが加わった5人編成のバックバンド。今までメイヴィスの歌を聞き込んできたわけではないが、メイヴィスの観客を喜ばせる魅力は見事だ。ちょうど「ブートレッグ・シリーズ第13集』の発売でゴスペル時代のディランを聞いていたばかりだったこともあり、メイヴィスのゴスペル色の強い45分間のコンサートに酔いしれてしまった。メイヴィスは毎日セットリストを変えていた。最終日には「ザ・ウェイト」も歌った。

 


メイヴィスのステージが終わると、わずか15分でステージが模様替えされる。ステージ両サイドに彫像が飾られ、ステージ千歩にマイクスタンドが5本、天井には吊り下げ型大型照明が5台、ステージ上には6本の大きなスタンドライトと12個のランプのような照明装置が設置された。これまでよりもかなり明るいいステージに変わったが、他のミュージシャンのコンサートのような眩しいスポットライトはないし、ほとんどの光が逆光でボブの顔に当たるので、細かい表情は相変わらずわからない。8時30分に会場の照明が落とされるとステージ左手にスチュがエレクトリック・ギターで「ロイヤル・キャナル」か「ワイルド・マウンテン・タイム」のフレーズを演奏しながら現れた。続いてバンドのメンバー、最後にボブが登場し、そのままピアノの位置に向かって1曲目が始まった。

 

「シングス・ハヴ・チェンジド」

ビートを効かせた新しいアレンジは、ボンゴが強調されて効果的だ。途中でブレイク風の斬新なアレンジも加わった。ボブの声は驚くほど若く聞こえる。バンドのなかでリードを取る楽器はなく、強いて挙げればボブのピアノかな。ボブは椅子に座らずに、両脚を大きく広げ立ったままピアノを叩くように演奏し、歌う。きっとハイスクール時代のボブはこんな感じで歌っていたのだろうと想像してしまった。観客も総立ちで歓声をあげる。

 

「悲しきベイブ」

ボブはピアノの椅子に座って歌う。オリジナルの感じを残したままのまアーチ/ロック調のアレンジなので、観客は大喜び。ビーコン・シアターの客は滅多に立ち上がることはないとイアwれているが、今回のボブのコンサートは、立ち上がって踊りながら興奮を現すファンが多い。

 

「追憶のハイウェイ61」

バンドのアンサンブルがいい。突出する楽器はなく、うねるビートとドライヴ感に駆り立てられるハードロックに仕上がっている。バンドは一体となって分厚い音の壁を作り出している。時折ボブのピアノが突出して響く。「ハイウェイ・シックスティーン・ワーーーーーン」とヴァースの最後を吐き出すようなフレーイングがかっこいい。

 

「ホワイ・トライ・トゥ・チェンジ・ミー・ナウ」

ステージ前方に設置されているマイクのひとつをつかんでボブは後方に移動する。それもドラムセットの横、ベースのトニー、ギターのチャーリーの位置まで下がってしまう。下がりすぎだろう。最前列の観客は、ボブの顔しか見えないんじゃないかな。右半身の姿勢で両脚を大きく広げ、右手でマイクスタンドを斜めに持ち、左手でマイクを持って歌う。かっこよさに観客が歓声をあげる。それにしてもニューヨークの客はアメリカン・ソングブックを歌うボブに好感を抱いているようだ。自作曲と変わらない反応を示す。若い客もいるが、全体的には観客の年齢層は高い。

 

「サマー・デイズ」

ふたたびピアノに戻り、ドニーがヴァイオリンでブルーグラス、ケイジャン風の演奏を始める。ボブは立ったままピアノを弾きながら歌う。ジェリー・リー・ルイスを思い出してしまった。途中でボブ、チャーリー、トニーのジャム風演奏も久々に展開する。得意の下降上昇メロディを取り入れた、かなり新しいアレンジだ。

 

「メランコリー・ムード」

長いイントロが流れる間、ボブはステージをふらふら2往復ほど歩く。一箇所にじっとしていられないのだろう。客席から笑いが起こる。76歳のボブだが、幼い少年のような雰囲気を感じさせる。最後は、得意の決めのポーズ。これには観客から大歓声が沸き起こる。アメリカン・スタンダード曲に対する客の反応はすごくいい。オープニング・アクトのメイヴィス・ステイプルズが「ボブはグルーヴィーな動きをするの。見なきゃダメよ」とステージで語っていたが、たしかにボブの身振りはダンスでもなく、クールな動きだ。

 

「オネスト・ウィズ・ミー」

秋ツアーからセットリストに復活した曲だが、アレンジは以前とまったく違っている。ビーチ・ボーイズ(「ダンス・ダンス・ダンス」)風のサーフィン・ミュージックやチャック・ベリー風のツイスト・ミュージックを連想させるような軽快なロックンロールに仕上がっている。全体的に、秋のツアーはこれまでのようなスティールギターを強調したカントリー色が薄れて、ロック色の強いアレンジが増えたような気がする。

 

「トライン・トゥ・ゲット・トゥ・ヘヴン」

この曲も秋のセットリストで復活した曲だが、これまたアレンジがまったく違う。歌詞を聞き取るまでわからなかった人もいたと思う。オリジナルは人生最後の日を連想させるような厳粛な感じがしたが、今夜は力強いマーチ/ジャズ/ロック風アレンジで、「ドアが閉じられるまで」たくましく生きるんだと宣言しているようだ。

 

「ワンス・アポン・ア・タイム」

アメリカン・ソングブックを歌う時のボブは歌手に徹している。心をこめて、歌に感情を移入する。ボブは本当に歌がうまい。さらにこの曲では、優しさをふくませた高音も出せるんだと感心させられる。もちろん、観客の反応もすこぶるいい。

 

「ペイ・イン・ブラッド」

昨年まではツアーのハイライトの1曲だったが、秋のツアーではこれまでのような怒りはすこし薄まったような気がする。ボブは座ったままピアノを弾き歌う。ここでもリードを取るのはボブのピアノだけだ。

 

「ブルーにこんがらがって」

ネット上ではこの新しいアレンジは不評を買っているようだ。たしかにスタッカートを強調したロックナンバーのアレンジでは、説得力溢れるストーリーテラーのボブの魅力が少し薄れてしまっているような気がした。やはりこの曲にはGからG9thのコードを刻むイントロがないと寂しい。

 

「スーン・アフター・ミッドナイト」

バックに白い綿雲のようなライトショーが映し出される。詩の内容とは裏腹に、優しいムードが漂う。

 

「アーリー・ローマン・キングズ」

相変わらず力強いシカゴブルース風のアレンジで歌われる。

 

「フル・ムーン・アンド・エンプティ・アームズ」

久しぶりにセットリストに復活した。大好きな「スカーレット・タウン」が消えたのは悲しいが、レアな曲を聴くのはうれしい。アメリカン・スタンダード曲ではボブの歌のうまさが際立つ。

 


「廃墟の街」

かなりロック調にアレンジされているが、ボブの代表曲なので歌い出した瞬間から、観客が反応する。オリジナルで感じた幻想的、空想的な世界と違って、より現実的な世界が広がっているようにぼくにはは感じた。後半、エンディングに向かうヴァースは上昇下降メロディに変えられて歌われる。不朽の名作のひとつをこれほど大胆にアレンジするボブを見て、改めて天才だなと感心させられた。また、この曲ではめずらしくチャーリーが短いギターソロを演奏する。

 

「サンダー・オン・ザ・マウンテン」

もともと激しいロック曲だったが、ここではまたもサーフィンミュージックやツイストミュージックを連想させるリズムで心に残るリフが繰り返される。ネットではビーチ・ボーイズ(「シャット・ダウン・パート2」)のギターリフだという指摘もある。初めてだが、ジョージの短いドラムソロが楽しめる。トニーがスチュにジョージが観客からよく見えるように少し移動しろ、と指示を出す。ほとんどの曲をマレットやブラシでリズムを刻んでいるジョージだが、スティックで激しい見事なドラムさばきを披露する。最後は大ジャムセッションだ。

 

「枯葉」

この曲は、何度聞いてもボブの歌のうまさに感心させれる。見事な感情移入に拍手がやまない。

 

「ラヴ・シック」

ボンゴが加わった新しいアレンジは現実感が増した気がする。ただ悲壮感は薄れてしまった気もする。エンディングではボブとチャーリーが絡み合い、悲しさを演出する。

 

「風に吹かれて」

アンセム曲にふさわしい荘厳な雰囲気が伝わってくる。ボブのピアノとチャーリーのギターの掛け合いも演奏される。

 

「やせっぽちのバラッド」

オリジナルに近いアレンジで、コンサートを締めくくるのに最適な曲だ、もちろん観客も思わず立ち上がり歓声をあげる。

 

最後はいつものように全員が横一列に整列し、無言、不動の姿勢で数十秒間の挨拶をする。ボブは「どうだった?」と言いたげに両手を大きく広げてポーズを決める。

 

2017年のネヴァーエンディング・ツアーの終幕を飾るニューヨークの5公演が終わった。ファンは、今年の最後だから何か特別なことが起きるんじゃないかとか、メイヴィスといっしょに何か歌うんじゃないかと、勝手な来たいと想像を抱いていたようだ。しかし、ステージで歌うことが生活となっているボブには、きっとそれほど特別なことじゃないんだろう。いつもとのように、2017年が終了した。来年、2018年は4月にイタリア・ツアーで始まる。いつまでも若く、ボブ。

 

ボブ・ディラン

2017年11月20、21、22、24、25日

ビーコン・シアター、ニューヨーク

 

1 シングス・ハヴ・チャンジド(ボブ:ピアノ)

2 悲しきベイブ(ボブ:ピアノ)

3 追憶のハイウェイ61(ボブ:ピアノ)

4 ホワイ・トライ・トゥ・チャンジ・ミー・ナウ(ボブ:センターステージ)

5 サマー・デイズ(ボブ:ピアノ)

6 メランコリー・ムード(ボブ・ピアノ)

7 オネスト・ウィズ・ミー(ボブ;ピアノ)

8 トライン・トゥ・ゲット・トゥ・ヘヴン(ボブ;ピアノ)

9 ワンス・アポン・ア・タイム(ボブ・ピアノ)

10 ペイ・イン・ブラッド(ボブ・ピアノ)

11 ブルーにこんがらがって(ボブ:ピアノ)

12 スーン・アフター・ミッドナイト (ボブ:ピアノ)

13 アーリー・ローマン・キングズ(ボブ・ピアノ)

14 フル・ムーン・アンド・エンプティ・アームズ(ボブ:センターステージ)

15 廃墟の街(ボブ・ピアノ)

16 サンダー・オン・ザ・マウンテン(ボブ:ピアノ)

17 枯葉(ボブ:センターステージ)

18 ラヴ・シック(ボブ:ピアノ)

(アンコール)

19 風に吹かれて(ボブ:ピアノ)

20 やせぽっちのバラッド(ボブ:ピアノ)

 

ボブ・ディラン:ヴォーカル、ピアノ

トニー・ガーニエ:ベース

ジョージ・リセリ:ドラムズ

チャーリー・セクストン:ギター

スチュ・キンボール:ギター

ドニー・ヘロン:ペダルスティール、ラップトップ、マンドリン、ヴァイオリン

 


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