ボブ・ディラン-2016年4月11日大阪公演@フェスティバルホール・セットリスト&レポート
1997年2月17日以来となる19年ぶりの大阪フェスティバルホール公演。フェスは2008年に一度建て替えのため取り壊し、2012年に新しいビルに生まれ変わってますので、前回のディラン公演は旧ホール。今回ディランご一行様は新しくなったフェスで初めて公演を行なったわけですが、音の良さで知られるホールなだけに、御大どう感じたんでしょうかね?
「こんな気がする」ディランを観て第五弾 ● 2016年4月11日
新築した大阪フェスティバルホール。会場入り口は長い階段を登りきったところで、早くも開場前のグッズ販売コーナーに人だかりが。今回のアーティストグッズは、定番のTシャツやバンダナに交じって湯呑みが売られているのだが、人気が高く開演前には売り切れる勢い。CD特典のメンコも評判が高くボブ・ディランを日本化したノベルティが受けるのは、ファンの高齢化に伴うものなのだろうか・・・そう言えば今夜は客席に年配の人が目立っていた。
大阪独特のお祭り的な雰囲気の中、ホールが暗転すると歓声があがりアコースティックギターの演奏が始まる。いつものようにメンバーらとディランがステージに現れる。今夜は何が起きるのだろうか。
1. シングス・ハヴ・チェンジド
センターでヴォーカル。大歓声の中、ややかすれた声で歌い始まった。バンドの演奏は軽快で、軽やかに歌うディランを見事にフォローする。最後は両手を挙げ、決めのポーズも。
2. シー・ビロングズ・トゥ・ミー
ディランはセンター。余裕を持たせた歌い方をしているせいか表現力を増したヴォーカルが綺麗に聞こえる。会場の音響効果によるものだろうか。「She wears an Egyptian ring」と歌った後に歌詞を失念したかのような場面があった。
3. ビヨンド・ヒア・ライズ・ナッシング
ディランはピアノでヴォーカル。幻想的なライティングの中、ピアノで同じフレーズを何度も繰り返しながら歌う。コンビネーションは良くないものの、なんと心に響く事か。
4. ホワットル・アイ・ドゥ
センターでヴォーカル。スティールギターの演奏が始まると、明らかにこの曲を待っていたかの様な拍手と歓声が湧く。ライティングが戸惑う心模様を映し出すようだ。
5. デューケイン・ホイッスル
ディランはピアノでヴォーカル。バンドのそれぞれが音を探るような演奏で始まる。ディランの縦横無尽な歌い方が楽しい。ピアノを演奏しながら今夜のディランは早めに椅子を立ち上がって曲をしめた。
6. メランコリー・ムード
センターでヴォーカル。歌い出しのタイミングを見失ったのだろうか、今夜は前奏が長くなった。ブルーな歌ながら声に張りがあるせいでセンチメンタルになりすぎずにまとまった。
7. ペイ・イン・ブラッド
センターでヴォーカル。声を抑え気味にして、いつもより崩した歌い方を披露。歌の世界に入りきったように左手を腰に乗せ構える。最後は機嫌よくしめのポーズを。
8. アイム・ア・フール・トゥ・ウォント・ユー
センターでヴォーカル。今夜の観客は解っているのだろう、曲が始まると大きな拍手が湧いた。声が良く伸びて自信を持った歌い方だ。感極まったような掛け声が客席からおこる。
9. ザット・オールド・ブラック・マジック
センターでヴォーカル。曲が始まると嬌声があがる。会場内が明るく楽しくなる軽快なテンポでディランの声も心地良さそうに響く。客席もアツくなってきた。
10.ブルーにこんがらがって
センターでヴォーカル。イントロのギターが始まると歓声が上がる。落ち着き払ったヴォーカルが歌の世界を制しているように聞こえる。相手を煽るようなハーモニカ演奏とそれに応える見事なバンド。
ステージの中央に戻り、日本語で「ありがとぉー」、そして休憩を告げる。
11.ハイ・ウォーター(フォー・チャーリー・パットン)
ディランはセンター。ブルージーなギター演奏に合わせて客席から手拍子が起こり歓声の中、バンジョー演奏が始まる。感情を抑えたヴォーカルが洪水の凄さを倍増させている。バンドの間奏に移るとディランはステージ中央をウロウロ。
12.ホワイ・トライ・トゥ・チェンジ・ミー・ナウ
センターでヴォーカル。暗いステージの中央で声を自由にあやつるように歌う。全てはヴォーカルのために控えめな演奏を心掛けるバンドの素晴らしさはディランが一番よく解っているだろう。
13.アーリー・ローマン・キングズ
ピアノ演奏でヴォーカル。前曲とは一転し明るくなったステージ。歌い紡ぐイメージで物語が進んでゆく。控えめでバランスのとれた演奏により歌自体が浮かび上がってくる。
14.ザ・ナイト・ウィ・コールド・イット・ア・デイ
センターでヴォーカル。イントロが始まると拍手が起き、この歌の登場を待ち焦がれていたようだ。ディランの声の表情が有り余るほど豊か。スティールギターとチャーリーのギターが素晴らしく決めのポーズも満足げだ。
15.スピリット・オン・ザ・ウォー ター
ピアノ演奏とヴォーカル。キーを確かめるような各々の演奏があり、やがてディランがピアノを弾き始めるとそれにバンドが付いてくる。徐々に盛り上がる曲だが、控え目ながらもジャム風の演奏で個性を出したチャーリーのギターが秀逸。
16.スカーレット・タウン
センターでヴォーカル。夜の林の中に迷い込んだようなライティングの中で歌われる。ここでもチャーリーのギターが素晴らしいが出しゃばらずに手堅い演奏をするバンドを忘れてはいけない。
17.オール・オア・ナッシング・アット・オール
センターでヴォーカル。落ち着いた声のトーンにより説得力が溢れる出来になった。今夜はチャーリーのギターが随所で泣かせるプレイを披露しており、歌に奥行きを与えている。
18.ロング・アンド・ウェイステッ ド・イヤーズ
センターでヴォーカル。既に定番となったような風格を備えた曲だ。ディランが歌い出すと客席から拍手が沸き起こった。声と演奏のバランスが奇跡的によく取れている歌だ。
19.枯葉
センターでヴォーカル。寂しげなスティールギターが流れた後の歌い出しの最初のフレーズで今夜一番の歓声が上がった。ステージ中央で歌ってるのは本当にディランだろうか。細やかに情感を伝えるヴォーカルに酔いしれているうちに歌は終わる。
ステージは暗転して後半を終了
20.風に吹かれて
ピアノ演奏とヴォーカル。自分が50年以上も前に書いた曲を慈しむように歌う。但しまるで誰かが書いたスタンダードのように歌う。今夜はチャーリーの日だ。ここでも見事な演奏で唸らせる。
21.ラヴ・シック
センターでヴォーカル。言うまでもなくギター無くして成立しない歌だ。これぞロックといったふうでチャーリーとスチュの弾くギターが絡み合いながら歌の世界を彩ってゆく。
そしてステージセンターのディランは一つ大きくうなずき後は何度も軽くうなずきながら客席を見回して消えていった。
大阪らしい観客の盛り上がりを期待していたが、今夜の観客は大人だった。彼らはディランと共に年齢を重ね、今回の方向性に心から納得しているような趣があった。特にスタンダード曲での好反応はディランの方向性に違和感を感じていない証のようなものである。70歳を超えてやっと辿り着いたグレート・アメリカン・ソングブックの世界。邪心無く無垢に歌っている姿を観るとディランは神から多くのものを授かったのだなと再確認する。
《ボブ・ディラン2016年4月11日大阪@フェスティバルホール セットリスト》
Set 1:
1 Things Have Changed シングス・ハヴ・チェンジド
(『Wonder Boys"(OST)』 2001/『DYLAN THE BEST(2007)』他)
2 She Belongs to Me シー・ビロングズ・トゥ・ミー
(『ブリンギング・イット・ オール・バック・ホーム/Bringing It All Back Home』 1965)
3 Beyond Here Lies Nothin' ビヨンド・ヒア・ライズ・ナッシング
(『トゥゲザー・ スルー・ライフ/Together Through Life』2009)
4 What'll I Do ホワットル・アイ・ドゥ
(『シャドウズ・イン・ザ・ナイト/Shadows In The Night』2015)
5 Duquesne Whistle デューケイン・ホイッスル
(『テンペスト/Tempest』 2012)
6 Melancholy Mood メランコリー・ムード
(来日記念EP『メランコリー・ムード』2016)
7 Pay in Blood ペイ・イン・ブラッド
(『テンペスト/Tempest』 2012)
8 I'm a Fool to Want You アイム・ア・フール・トゥ・ウォント・ユー
(『シャドウズ・イン・ザ・ナイト/Shadows In The Night』2015)
9 That Old Black Magic ザット・オールド・ブラック・マジック
(来日記念EP『メランコリー・ムード』2016)
10 Tangled Up in Blue ブルーにこんがらがって
(『血の轍/Blood on the Tracks』1975)
Set 2:
11 High Water (For Charley Patton) ハイ・ウォーター(フォー・チャーリー・パッ トン)
(『ラヴ・アンド・セフト/Love and Theft』2001)
12 Why Try to Change Me Now ホワイ・トライ・トゥ・チェンジ・ミー・ナウ
(『シャドウズ・イン・ザ・ナイト/Shadows In The Night』2015)
13 Early Roman Kings アーリー・ローマン・キングズ
(『テンペスト/Tempest』 2012)
14 The Night We Called It a Day ザ・ナイト・ウィ・コールド・イット・ア・デイ
(『シャドウズ・イン・ザ・ナイト/Shadows In The Night』2015)
15 Spirit on the Water スピリット・オン・ザ・ウォー ター
(『モダン・タイムス/Modern Times』2006)
16 Scarlet Town スカーレット・タウン
(『テンペスト/Tempest』 2012)
17 All or Nothing at All オール・オア・ナッシング・アット・オール
(来日記念EP『メランコリー・ムード』2016)
18 Long and Wasted Years ロング・アンド・ウェイステッ ド・イヤーズ
(『テンペスト/Tempest』 2012)
19 Autumn Leaves 枯葉
(『シャドウズ・イン・ザ・ナイト/Shadows In The Night』2015)
Encore:
20 Blowin' in the Wind 風に吹かれて
(『フリーホイーリン・ボ ブ・ディラン)
21 Love Sick ラヴ・シック
(『タイム・アウト・オブ・ マインド/Time Out of Mind』 1997)
●ボブ・ディラン来日公演スケジュール
http://udo.jp/Artists/BobDylan/index.html
●NEW ALBUM 5月25日発売 『フォールン・エンジェルズ』
https://www.sonymusic.co.jp/artist/BobDylan/info/466738