【ディランを追いかけて~ヘッケル】ボブ・ディラン2016年4月9日(土)仙台・東京エレクトロンホール宮城 ライヴレポート by 菅野ヘッケル

2016.04.10



ボブ・ディラン
2016年4月9日、東京エレクトロンホール宮城

2001年以来、15年ぶりの仙台公演だ。ボブは日本初披露の黒のカントリースーツを着ている。上着の前身頃下部と袖、パンツの両サイドに銀色の刺繍がほどこされている。おしゃれ。相変わらず、帽子をかぶっている。バンドはグレーのスーツ。

開演が夕方5時30分だったので、外はまだ明るい。入場待ちに並んでいるファンを観察して築いたが、東京に比べると結構若い人が多いように思った。いつものようにスチュの弾く「フォギー・デュー」が流れ、バンドが登場し、ボブがステージセンターに立った。1曲目「シングズ・ハヴ・チェンジド」がはじまる。今夜のボブは、音をたっぷり伸ばし、ますます自由度がアップしている。観客の反応もすごい。「シー・ビロングス・トゥ・ミー」のハーモニカがリードするブレークを取り入れた新アレンジも板についてきた。「ビヨンド・ヒア・ライズ・ナッシング」ではボブがピアノでバンドを引っ張ってエンディングに向かう。ゾクゾクする。ボブがピアノから立ち上がって、エンディングを決める。

スタンダード曲「ホワットル・アイ・ドゥ」は、ボブが両手を腰に当てて「どうだ」のポーズで歌う。曲の途中で会場が暗くなった。気づかなかったが、館内の非常灯がつけっぱなしだったので、暗いステージと同じとまでは言わないが、客席も同じように薄暗いままだったのだ。今夜はピアノ・ナイトか。ボブは左足を大きく上下にストンピングしながら「デュケーン・ホイッスル」を歌う。「レッツ・ゴー・トゥ・ザ・ホップ」のリフも飛び出してきた。ノリノリのボブを見るのはうれしい。ジェリー・リー・ルイスを思い出させるように、ボブはピアノを叩く。最後はもちろん立ち上がった。


「メランコリー・ムード」の長いイントロの間、あいかわらずボブはステージをフラフラと歩きまわる。チャーリーの自由度を増したギターが心地いい。新曲でも観客の反応もすごい。日本先行発売されたシングルが売れているのだろう。館内のCD即売所の人によると、用意したシングルは休憩時間までに売り切れてしまったそうだ。


「ペイ・イン・ブラッド」もパワーが増している。上半身でリズムに合わせて踊る「ボブ・ダンス」もお披露目だ。一転して「アイム・ア・フール・トゥ・ウォント・ユー」ではボブの歌のうまさが光る。ハードなロックナンバーの時とは変えて、ソフトな甘い声を聞かせてくれる。説得力に満ちている。聞き手の中には「うるうる」と夢心地になった人も大勢いただろう。日替わりスロットなのかと思っていた9曲目は、3夜連続で明るいカリプソ調の「ザット・オールド・ブラック・マジック」が歌われた。軽快な曲を歌うボブの姿を見て、おしゃれだなと感じたのはぼくだけだろうか。


1幕の締めくくりは、もちろん「ブルーにこんがらがって」。何百回と聞いている曲だが、聞くたびに印象が変わる。「ライク・ア・ローリング・ストーン」に匹敵する代表曲の1曲なので、いっしょに歌いたいファンも大勢いるだろう。でも、無理だ。ボブといっしょに歌うなんて、だれにもできない。ボブのリズム感、タイミング、フレージング、ことばの入れ方を真似ることはできない。ボブはリズムの天才だ。センターで見事なハーモニカを吹きまくった後、ピアノに移動してエンディングを迎える。


「アリガトウ。ステージを離れるけど、すぐに戻ってくるよ」


スチュがエレクトリックギターで弾くブルースフレーズで2幕ははじまる。バンジョーが特徴的に鳴り響く「ハイ・ウォーター」。洪水が迫ってくる危機を実感するような気分になる。「ボビー、カッコイイ!」女性ファンの掛け声も上がった。ボブ・ダンスも一段と大きくなった気がする。一転して「ホワイ・トライ・トゥ・チェンジ・ミ・ナウ」ではロマンチック・ボブの全開だ。2幕は館内の非常灯を消さないつもりか。客席は薄暗いままだ。消してくれ。


ステージは今夜一番の明るさで「アーリー・ローマン・キングズ」がはじまる。ステージのすべての照明が点灯するが、すべてバンドの上部と背後に設置されているので、ボブの顔に光はほとんど当たらない。バンド・メンバーの方が明るく照らされているほどだ。スチュがマラカスを振り続け、ボブのピアノから新しいドレミファ・リフも飛び出してきた。いいね。歌い終わったボブはステージ上でチャーリーとトニーと話をする。一瞬、曲を変えるのかな、と思ったけど予定通り「ザ・ナイト・ウィ・コールド・イット・ア・デイ」がはじまった。ボブの感情の入れ方に若さを感じる。74歳だが、心は若い。


「スピリット・オン・ザ・ウォーター」は、チャーリーのギターが聞こえないほどスチュのサイドギターが大きな音量でリズムを刻む。ボブのピアノも大きい。間奏とエンディングでは、チャーリーのギターも音量が増し、ボブのピアノと掛け合いでジャムセッションを繰り広げる。ボブは左足を大きく上下に揺すり、リズムを取る。まさにノリノリの演奏だ。


「スカーレット・タウン」ボブが歌う神秘的な不気味な世界に引き込まれていく。客の反応もすごい。それにしても館内を薄暗す照らす非常灯を消してくれ。雰囲気がぶち壊されるよ。新曲「オール・オア・ナッシング・アット・オール」も認知度は高く、観客の反応は大きい。仙台ではニューシングルが売れているのだろう。ステージで歌うボブは、おしゃれな伊達男のイメージと重なった。


「ロング・アンド・ウェイテッド・イヤーズ」はハイライトの1曲だが、今夜は全体的に音量が抑えられている気がした。もっと大音量で聞きたい。昔からボブは大音量が好きなはずだ。1978年初来日の武道館で、あまりにすごい大音量に驚かされたこと覚えている。この曲のボブはシャウト、がなり声を混ぜながらパワフルに歌う。観客は一番ごとに大きな歓声をあげる。最後にボブは両手を
あげてポーズを決めた。


2幕を締めくくる前に、ボブはドラムセットの前で足の屈伸を繰り返す。そして「枯葉」がはじまった。客席のどこからか「すごいな」という声が聞こえてきた。風に揺られて1枚の木の葉が地上に落ちた。これほど見事なエンディングはないだろう。ボブとバンドはそのままステージから消えていった。


アンコールは「風に吹かれて」と「ラヴ・シック」。「風に吹かれて」は高音で「ハウ・メニー・ローズ~」と歌いだした。熱いファンの熱気に煽られて、ボブの気分も高揚したのだろう。「ラヴ・シック」でもスチュの鋭いカッティングリズムが響き、そこにチャーリーが加わってツインリードのように展開する。「あなたといっしょにいられるというのなら、わたしは何もかも投げだそう」


最後の整列。観客の反応を確かめようと、いつものように無言で客席を見回すボブ。それに応えようと、赤い水玉シャツの二人組、花束を持って女性たち、LPジャケットを高く掲げた男性など、大勢のファンがステージに押し寄せた。こうして熱狂の仙台の夜は終わった。

(菅野ヘッケル)


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