B.ディラン2014年4月23日Zepp Namba:第17夜ライヴレポートby菅野ヘッケル
2014.04.24
INFO
ボブ・ディラン・ジャパン・ツアー2014。ついにラスト大阪公演第三夜となる4/23 Zepp Namba公演、菅野ヘッケルさんからの日本公演通算第17夜最終公演ライヴレポートです!!
「ボブ・ディラン2014年日本ツアーの全日程が終了した。アリガトウ。ボブ。トモダチより」
【ボブ・ディラン、2014年4月23日Zepp Namba:最終日ツアー17日目ライヴ・レポート】
ボブ・ディラン
2014年4月23日
Zepp Osaka
とほほ……。3月31日からはじまった日本ツアーが今夜の17回目のコンサートで終わる。ぼくの頭のなかでは『血の轍』の収録曲、「ユーア・ゴナ・メイク・ミー・ロンサム・ウェン・ユー・ゴー」が流れている。ボブが去って行くと思うと、どうしても寂しくなってしまう。だが、そんな寂しさを吹き飛ばしてくれるすばらしい夜がはじまった。
午後7時、会場が暗くなり、3連チャイムの音と同時にスチュがアコースティックギターを弾きながら登場する。いつもとちがったリフを奏でている。暗闇のステージに残りのメンバーとボブも登場した。ボブは昨夜とおなじ刺繍のついた黒のカントリースーツに白いスペイン帽をかぶっている。バンドメンバーたちはグレーのスーツを着用している。ステージの照明が点灯して1曲目の軽快なテンポのマイナー調ロックナンバー、「シングス・ハヴ・チェンジド」がはじまった。客席から大歓声がわき起こる。観客も最後の夜を楽しもうとしているのだろう。 「人々は狂っている、時代は謎に満ちている」と、ボブはややダミ声で歌ったり、アップシングを取り入れたり、高音を張り上げるように伸ばしたりしながら、多彩なヴォーカルを披露する。いつも思うのだが、ボブのリズム感のよさに関心させられる。ボブはタイミングの天才だ。今夜は、ロッキング・ボブだ。
2曲目もステージセンターで「シー・ビロングズ・トゥ・ミー」を歌う。ことばの末尾まではっきりと聞こえる、ていねいな歌い方だ。1965年の『ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム』の収録曲だが、過去を振り返らない大胆なアレンジによってすっかり生まれ変わっている。ただ、3夜連続の最終日ということで、やや疲れているのか、あるいは今夜の気分がそうさせているのかわからないが、いつも以上にダミ声に聞こえる。途中、ハーモニカをひと吹きしただけで大歓声がわき起こる。3曲目はピアノに移動して「ビヨンド・ヒア・ライズ・ナッシン」を歌う。ボブは座ってピアノを演奏しているが、今夜のタッチは強い。サルサを感じさせる軽快なマイナー調ロックにのせて「愛しているよ。きみは生涯ただ一人の恋人だ」と熱烈なラヴソングを歌う。ボブがメロディアスなピアノリフでリードをとり、チャーリーが追いかけるように切ないリフをギターで奏でる。みごとだ。
4曲目はステージセンターに移動して「ホワット・グッド・アム・アイ?」を歌う。ボブは説得力を込めた、ニュアンス豊かな優しいヴォーカルで「わたしの何がいいのか?」と尋ねる。セクシーな低音で訊かれたら、拒否することはできない。ヴォーカリスト・ボブの虜になってしまう。5曲目もステージセンターに留まって「ハックス・テューン」を歌う。2007年の映画『ラッキー・ユー』のエンドロールで流れるこの歌は、映画のサウンドトラック盤以外に、08年の『ザ・ブートレッグ・シリーズ第8集:テル・テイル・サインズ』にも収録されている。あまり知られていない歌だったが、「ウェイティング・フォー・ユー」の入れ替え曲として4月4日に世界初ライヴデビューした。今回の日本ツアーで6回目の登場ということになる。美しい韻を踏むワルツ曲をボブは右手でマイクスタンドをつかみ、左手を伸ばしながら感情を込めて歌う。女との別れを決意する男の心情を扱った歌だと思うが、どうだろう。最後はポーズを決めて終わる。
6曲目はピアノに移動して「デュケーン・ホイッスル」を歌う。列車をモチーフに、オールドタイム、ロカビリー、ジャズの要素が入り交じった軽快なこの歌こそ、アメリカーナと呼ぶにふさわしい。ボブのピアノとドニーのラップトップを中心に展開するジャム演奏はみごとだ。観客から「格好いい!」と声がかかった。7曲目はステージセンターに移動して、日本ツアーのハイライトの1曲となった「ペイ・イン・ブラッド」を歌う。右手をマイクスタンドに、左手を腰に当てる得意ポーズを取り、軽くヘッドバンギングでリズムを取りながら、ことばをはっきりと吐き出し、「血で償うが、おれの血ではない」と糾弾する。じつに若い。到底72歳には見えない若さを感じる。最後は両手を上げてポーズを決めた。
8曲目もステージセンターに留まって「ブルーにこんがらがって」を歌う。ステージ背後の黒幕に雲模様が投影され、ステージの照明が明るくなる。と言っても一般的なステージと比べたら、そうとう暗いままだが。1975年の『血の轍』の収録曲で、代表曲のひとつだが、ボブはこの歌の歌詞を書き直し続けているので、今夜のライヴで歌った歌詞はレコードとはかなりちがっている。ダミ声やアップシングを取り入れて歌うボブを聞いていると、ボブのことばを押し込むテクニックに圧倒させられる。ボブのリズム感とタイミングの取り方はだれにも真似ができない。天才だと思う。3番のヴァースを歌い終えると、みごとなハーモニカを演奏し、ピアノに移動して最後のヴァースを歌った。
1部の締めくくりとなる9曲目は「ラヴ・シック」。ふたたび照明が極端に暗くなり、ステージセンターのマイクスタンドの前に立ったボブは不気味さを感じさせるヘヴィーなサウンドをバックにダミ声を混ぜながら「恋に病んでいる。いっそ会わなきゃよかったのに」と男の苦しみを表現する。昨夜はハンドマイクで歌ったが、今夜はマイクスタンドを斜めに倒して歌う。観客はボブが吐き出すことばと動きに大歓声を上げて反応する。チャーリーが印象的なギターを聞かせた後、最後にボブは「きみといっしょにいるためなら何でもするよ」と締めくくる。観客の満足度は頂点に達する。
「トモダチ! アリガトウ!」ボブは日本語でそう叫ぶと、すぐに戻ってくると言い残してステージから去っていった。
20分間の休憩が終わり、8時12分に3連チャイムに合わせてスチュがエレクトリックギターを弾きながらステージに戻ってきた。すぐに暗闇のステージにほかのバンドメンバーとボブも戻ってきて2部がはじまる。10曲目はドニーのバンジョーをフィーチャーした「ハイ・ウォーター」。ステージセンターのマイクスタンドの前に立ったボブは、パワフルなダミ声で迫りくる洪水の危機を歌う。軽くヘッドバンギングでリズムを取りながら、チャーリーのギターやドニーのバンジョーに耳を傾ける。最後はストップ&リスタートを取り入れて終わる。11曲目もステージセンターに留まって「運命のひとひねり」を歌う。背後の黒幕に柳の木のような模様が投影される。ボブはニュアンス豊かなやさしい声にダミ声を混ぜながら、ストーリーを展開する。みごとだ。最後はハーモニカのリードでエンディングに向かう。
12曲目はピアノに移動して「アーリー・ローマン・キング」を歌う。ヘヴィーなブルースに観客の反応が盛り上がる。シャークスキンスーツこそ着用していないが、ボウタイを締めたボブはギャング団のボスのようにも見える。パワーあふれるピアノとヴォーカルを聞かせたボブは、最後に立ち上がって正面を向いてポーズを決める。13曲目はステージセンターに移動して「フォーゲットフル・ハート」を歌う。ムードは一変して哀愁感が広がる。トニーの弓で弾くスタンドアップベース、ドニーのヴァイオリンが物悲しい雰囲気をかもしだす。「以前のようにどうして愛し合えないんだろう?」ボブはやや崩し気味に、それでも明瞭にことばを伝える。自由なヴォーカルによって、悲しみがより深まる。切なさが募る。悲しみが広がる。ぼくの席の近くから「ええなあ」と声が聞こえてきた。ハーモニカによって哀愁感がさらに増幅する。
14曲目はピアノに移動して「スピリット・オン・ザ・ウォーター」を歌う。軽快なジャズナンバーに観客が手拍子で応える。もはやファンにはおなじみとなった「ドレミファソラシド」のリフも飛び出す。もちろん「わたしが歳を取り過ぎてるってあなたは思っているんだね、わたしが盛りの時を過ぎてしまったと考えているんだね」の下りで観客の歓声が上がる。軽快なジャム演奏で終えると、ボブはピアノの椅子から立ち上がって正面を向き、軽く会釈して観客に応えた。15曲目は「スカーレット・タウン」。昨夜は1フレーズ歌うごとに、観客が「ウォー」とあいづちを打つように大声を上げていたが、今夜はストーリーに聞き入っている。1ヴァースが終わるごとに拍手と歓声が沸く。
16曲目はピアノに移動して「スーン・アフター・ミッドナイト」を歌う。背後に無数の星が輝く美しい夜空のような模様が投影される。いつ聞いても心地いいポップスの調べに心が和まされる思いがする歌だが、歌詞の内容は甘いポップスではない。2部を締めくくる17曲目は「ロング・アンド・ウェイステッド・イヤーズ」。照明が明るくなり、歓声が上がる。ボブは若い声でパワフルなヴォーカルを聞かせる。1965年のシングル「寂しき4番街」を連想させるような構成で、短い9小節のメロディが繰り返し歌われる。今夜のセットリストのなかで、もっとも印象に残る曲のひとつだろう。2部が終わって整列してあいさつをすると思っていたら、何もなくステージから去っていった。日本ツアー最終日なので、もしかしたら2度目のアンコールをするための布石かもしれない、と勝手に妄想と期待を膨らませてしまった。
アンコール1曲目はもちろん「見張り塔からずっと」。ボブが帽子を脱いでピアノの前に座る。スチュがアコースティックギターでだれもが知るコードをかき鳴らす。ボブは自由なヴォーカルで不気味さと不吉な予兆を暗示する。途中、ドラムとベースがプレーをやめて、静かにボブのピアノのフリープレーが展開する。やがて静から動に一気にフルパワーで盛り上がっていく。ボブはピアノの高音部で単音を叩きながら思いついたリフを演奏する。ライヴでもっとも多く歌われている曲が、新しいアレンジでよみがえる。最後は立ち上がって正面を向き「どうだ!」と、ドヤ顔で決める。アンコール2曲目は「風に吹かれて」。ボブはアップシングを取り入れながら、パワフルなヴォーカルを披露する。長い1行の詩を短い小節に押し込むボブの歌い方に脱帽させられる。ボブのリズム感の良さと、タイミングの取り方のセンスの良さに驚かされる。最後はステージセンターに移動してハーモニカ演奏で終わる。すぐにボブを中心にバンドメンバーが横1列に整列する。会場のあちこちに視線を送り、観客の反応を確かめると、ボブは無言だが、満足そうに去っていった。残された観客はもしかしたら、という期待を込めてアンコールを求め続ける。だが奇跡は起きなかった。場内の明かりが点灯して、ボブ・ディラン2014年日本ツアーの全日程が終了した。アリガトウ。ボブ。トモダチより。(菅野ヘッケル)
Bob Dylan
April 23, 2014
Zepp Namba
ボブ・ディラン日本最終公演4月23日Zepp Nambaセットリスト
1.Things Have Changed シングス・ハヴ・チェンジド (Bob center stage)
(『Wonder Boys"(OST)』 2001/『DYLAN(2007)』他)
2.She Belongs to Me シー・ビロングズ・トゥ・ミー (Bob center stage with harp)
(『ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム/Bringing It All Back Home』 1965)
3.Beyond Here Lies Nothin' ビヨンド・ヒア・ライズ・ナッシング(Bob on grand piano)
(『トゥゲザー・スルー・ライフ/Together Through Life』2009)
4.What Good Am I? ホワット・グッド・アム・アイ? (bob center stage)
(『オー・マーシー/Oh Mercy』1989)
5.Huck's Tune ハックス・チューン(Bob center stage)
(『ラッキー・ユーOST』2007)/『ザ・ブートレグ・シリーズ第8集:テル・テイル・サインズ』)
6.Duquesne Whistle デューケイン・ホイッスル(Bob on grand piano)
(『テンペスト/Tempest』 2012)
7.Pay in Blood ペイ・イン・ブラッド (Bob center stage)
(『テンペスト/Tempest』 2012)
8.Tangled Up in Blue ブルーにこんがらがって (Bob center stage then on grand piano)
(『血の轍/Blood on the Tracks』1975)
9.Love Sick ラヴ・シック (Bob on center stage with harp)
(『タイム・アウト・オブ・マインド/Time Out of Mind』 1997)
休憩
10.High Water (For Charley Patton) ハイ・ウォーター(フォー・チャーリー・パットン)(Bob center stage)
(『ラヴ・アンド・セフト/Love and Theft』2001)
11.Simple Twist of Fate 運命のひとひねり(Bob center stage with harp)
(『血の轍/Blood on the Tracks』1975)
12.Early Roman Kings アーリー・ローマン・キングズ (Bob on grand piano)
(『テンペスト/Tempest』 2012)
13.Forgetful Heart フォゲットフル・ハート (Bob center stage with harp)
(『トゥゲザー・スルー・ライフ/Together Through Life』2009)
14.Spirit on the Water スピリット・オン・ザ・ウォーター (Bob on grand piano)
(『モダン・タイムス/Modern Times』2006)
15.Scarlet Town スカーレット・タウン (Bob center stage)
(『テンペスト/Tempest』 2012)
16.Soon after Midnight スーン・アフター・ミッドナイト (Bob on grand piano)
(『テンペスト/Tempest』 2012)
17.Long and Wasted Years ロング・アンド・ウェイステッド・イヤーズ(Bob center stage)
(『テンペスト/Tempest』 2012)
Encore:
18.All Along the Watchtower 見張塔からずっと (Bob on grand piano)
(『ジョン・ウェズリー・ハーディング/John Wesley Harding』1967年)
19.Blowin in the wind/風に吹かれて(Bob on grand piano with harp then center stage)
(『フリーホイーリン・ボブ・ディラン』)