B.ディラン2014年4月22日Zepp Namba:第16夜ライヴレポートby菅野ヘッケル
2014.04.23
INFO
ボブ・ディラン・ジャパン・ツアー2014。大阪公演第二夜となる4/22 Zepp Namba公演、菅野ヘッケルさんからの日本公演通算第16夜ライヴレポートです!!ついに本日4/23最終公演日!
【ボブ・ディラン、2014年4月22日Zepp Namba:ツアー16日目ライヴ・レポート】
ボブ・ディラン
2014年4月22日
Zepp Namba
あと2日。東京、札幌、名古屋、福岡と回ってきたボブ・ディランの2014年日本ツアーは、今夜を含めてあと2回の公演を残すだけだ。すこし寂しさを抱きながら大阪公演の2日目に足を運んだ。午後7時、会場が暗くなり、3連チャイムと同時にステージ左手からスチュがアコースティックギターを弾きながら登場する。続いて残りのバンドメンバー、最後にボブが登場した。今夜のボブは派手な刺繍がほどこされた黒のカントリースーツ、頭には白いスペイン帽をかぶっている。バンドメンバーは黒のスーツを着用している。オープニング曲は今夜も「シンググス・ハヴ・チェンジド」。ボブはアップシングを混ぜたり、高音をのばしたり、かなり自由に、しかも微妙なニュアンスをこめてパワフルに歌う。ボブがメロディを崩して歌うと、チャーリーがそれに合わせたリフをギターで弾く。今夜のボブはラフなロッカーのようだ。観客の反応もすごい。2曲目の「シー・ビロングズ・トゥ・ミー」でも濁声やアップシングを取り入れて歌う。歌い方と同調するように、ハーモニカにも熱が入る。今夜のボブはワイルドだ。
3曲目はピアノに移動して「ビヨンド・ヒア・ライズ・ナッシン」。愛を込めて「アイ・ラヴ・ユー・プリティ・ベイビー」と歌いだしたボブはとても72歳とは思えない。愛らしさとセクシーさを感じてしまう。ジョージが叩くみごとなドラムのビートにのせて、ボブはメロディアスなリフをピアノで奏で、チャーリーが切なさを感じさせるリフをギターで重ねる。熱烈なラヴソングはすばらしいジャム演奏で終わる。今夜の4曲目は「ホワット・グッド・アム・アイ?」。ステージセンターに出てきたボブは、まるで恋人の耳元でささやくように、セクシーな低音でていねいに、明瞭に歌う。こんな風に言われたら拒否できない。ボブのヴォーカルに思わず酔いしれてしまう。5曲目はピアノに移動して「ウェイティング・フォー・ユー」。濁声をうまく混ぜながら優雅なカントリーワルツを歌う。ボブはピアノで3連を多用したメロディアスなリフを奏で、チャーリーが美しいギターリフで応える。最後はピアノの椅子から立ち上がり、「どうだ」とポーズを決めた。
6曲目は「デュケーン・ホイッスル」。やや崩したヴォーカルで力強く歌う。ボブがピアノの椅子から立ち上がって合図を送ると、トニーの指ではじくスタンドアップベース、ジョージの軽快かつ力強いドラムズ、スチュの正確なリズムギターに支えられながら、ボブのピアノとチャーリーのギター、ドニーのラップトップがジャム演奏がはじまる。今夜のボブはピアノを自由に演奏している。特に高音部で叩きだす美しいリフが印象的だ。たしかに今夜はワイルド・ボブだ。7曲目はステージセンターに移動して「ペイ・イン・ブラッド」。ボブは右手でマイクスタンドをつかみ、左手を腰に当てる得意ポーズを取り、かすかにヘッドバンギングをしながら力強くことばを吐き出す。
8曲目は「ブルーにこんがらがって」。ボブの代表曲であるが、レコードとはかなり歌詞が書き換えられている。今夜のボブはアップシングを取り入れながら、かなり自由なヴォーカルを聞かせる。3番のヴァースを歌い終えるとハーモニカの出番となり、同じリフを10回ほどくりかえす。最後のヴァースはピアノに移って歌い終える。1部を締めくくる9曲目は「ラヴ・シック」。一段と暗くなったステージで。ボブはハンドマイクを持ってこの歌をうたう。観客の反応がとてもいい。暗い、不気味さが漂うステージ中央付近で、両膝を曲げて腰を落として歌うボブの魅力に、思わず「ゾクッ」とした人も多かったはずだ。ボブは左手を真っすぐのばして「恋に病んでいる。いっそ会わなきゃよかったのに」と告白する。観客が歓声を上げる。「恋に病んでいる。きみを忘れようとしたのに」。観客が歓声を上げる。最後にボブは懇願するように「どうしたらいいかわからない。きみといっしょにいるためなら何でもするよ」と締めくくる。こんなにセクシーなボブはめずらしい。観客の興奮は頂点に達する。歌い終わったボブは「アリガトウ。すぐに戻ってくる」と言い残してステージを去った。
午後8時10分、3連チャイムと同時にスチュがエレクトリックギターを弾きながらステージに戻ってきた。やがて全員がステージに戻り、ステージセンターに立ったボブが2部の1曲目「ハイ・ウォーター」を歌いはじめる。洪水の混乱を表すようにボブのヴォーカルは自由でワイルドだ。ボブはマイクスタンドをつかんで、軽くヘッドバンギングをしながら、チャーリーのみごとなギターや、ドニーのバンジョーに耳を傾ける。ロバート・ジョンソンの「クロスロード」をベースにしたリフも演奏される。最後はストップ&リスタートで終了する。今夜も観客から「格好いい!」と声が飛ぶ。次もステージセンターに留まったまま、1975年の傑作『血の轍』の収録曲「運命のひとひねり」を歌う。ときに濁声を混ぜながら、ボブはやさしく、明瞭にストーリーを伝える。完璧と言える歌い方だ。ハーモニカにも心が込められている。最後はフェイドアウトで終了する。
ボブがピアノに移動して「アーリー・ローマン・キング」を歌う。ボブは得意なヘヴィーブルースを声を張り上げるように力強く歌う。歌い終えるとボブは立ち上がって正面を向きポーズを決める。一転して、2部4曲目はステージセンターに移動して「フォゲットフル・ハート」。トニーの弓で弾くスタンドアップベース、ドニーのヴァイオリンが物悲しい雰囲気をかもしだす。ボブはことばを明瞭に観客に伝える。寂しさが生まれる。切なさが募る。悲しみが広がる。ハーモニカが哀愁感をさらに雰囲気を増幅させる。つぎはピアノに移動して「スピリット・オン・ザ・ウォーター」。軽快なジャズナンバーに仕上げられたこの歌でも、ボブは説得性の高いみごとなパフォーマンスを繰り広げる。途中におなじみの「ドレミファソラシド~ドシラソファミレド」と音階を上下するリフを何度も繰り返す。「わたしが歳を取り過ぎてるってあなたは思っているんだね、わたしが盛りの時を過ぎてしまったと考えているんだね」ボブはユーモアたっぷりに観客に問いかける。曲の終わり、ボブは立ち上がってポーズを決めた。
ステージセンターに移動したボブがハンドマイクで「スカーレット・タウン」を歌う。今夜も1フレーズ歌うごとに、観客が「ホー」とあいづちを打つように大声を上げる。これまでマイクスタンドが立つ位置から大きく離れることはなかったが、今夜のボブはちがう。ときにドラムセットの前にまで移動して両膝を大きく曲げ、腰を落とす姿勢を何度もする。今夜はアニメーテッド・ボブだ。黒人、白人、黄色人、褐色人、だれもがスカーレット・タウンに集まってくる。スカーレット・タウンは天国なのだろうか? 地獄なんだろうか? ミスティック・ガーデンのなかにあるのだろうか? 次はピアノに移動して「スーン・アフター・ミッドナイト」がはじまる。ステージの背景に張られた黒い布に、星空のような幻想的は映像が投影される。チャーリーの哀愁を帯びたギターの音色が甘く響く。歌っている内容を別にすると、何度聞いても心地いいポップスの調べに心が和む。2部を締めくくるのは「ロング・アンド・ウェイステッド・イヤーズ」。今回の日本ツアーで歌われるなかで、もっともヘヴィなロックナンバーであるこの歌にはコーラスもブリッジもない。ただひとつの短い9小節のメロディが6回繰り返されるだけだ。だからこそ印象に残る。2部が終わると、ボブを中心にバンドメンバーが横一列に整列する。観客の様子を調べるように見回したボブはお辞儀をしてステージを去っていった。
アンコールに戻ってきたボブはピアノに座って「見張り塔からずっと」をはじめる。不気味なイントロに続いて、スチュのアコースティックギターがだれもが知る、あのリズムを刻みだす。ボブは自由に不気味さをこめて歌う。途中、ドラムもベースもプレーをやめ、ボブがピアノでフリープレーを展開する。自由なピアノ演奏がしばらく続き、やがてスチュが、あのリズムを刻みはじめる。これを合図に全員がプレーを再開し、トニーの指示で一気にフルスロットルのジャム演奏に戻る。みごとなアレンジによって、聞き慣れた「見張り塔からずっと」は、あたらしい生命をもらったようによみがえった。最後は「風に吹かれて」。ボブはニュアンス豊かに、アップシングを取り入れながら、力強く歌う。歌の最後は、ステージセンターに移動して、ハーモニカで終えた。2度目の整列に並んだミュージシャンは、全員満足そうな表情を浮かべているように見える。中心に立って客席を見回していたボブは、1度お辞儀をしてステージから去っていった。(菅野ヘッケル)
Bob Dylan
April 22, 2014
Zepp Namba
Act 1
1. Things Have Changed (Bob center stage)
2. She Belongs To Me (Bob center stage with harp)
3. Beyond Here Lies Nothin' (Bob on grand piano)
4. What Good Am I? (bob center stage)
5. Waiting For You (Bob on grand piano)
6. Duquesne Whistle (Bob on grand piano)
7. Pay In Blood (Bob center stage)
8. Tangled Up In Blue (Bob center stage then on grand piano)
9. Love Sick (Bob on center stage)
(Intermission)
Act 2
10. High Water (For Charley Patton) (Bob center stage)
11. Simple Twist Of Fate(Bob center stage with harp)
12. Early Roman Kings (Bob on grand piano)
13. Forgetful Heart (Bob center stage with harp)
14. Spirit On The Water (Bob on grand piano)
15. Scarlet Town (Bob center stage)
16. Soon After Midnight (Bob on grand piano)
17. Long And Wasted Years (Bob center stage)
(encore)
18. All Along The Watchtower (Bob on grand piano)
19. Blowin' In The Wind (Bob on grand piano with harp then center stage)