B.ディラン2014年4月13日Zepp Sapporo:第10夜ライヴレポートby菅野ヘッケル
2014.04.21
INFO
ボブ・ディラン東京9Days終了後、いよいよ全国縦断へ。4/13,14Zepp Sapporo!ディランの札幌公演は1997年2月24日北海道厚生年金会館以来17年ぶり2度目となります。
菅野ヘッケルさんからの昨日の札幌公演初日、第10夜ライヴレポートです!!
【ボブ・ディラン、2014年4月13日Zepp Sapporo:ツアー10日目ライヴ・レポート】
ボブ・ディラン
2014年4月13日
Zepp Sapporo
絶賛の嵐を巻き起こした東京での9日間のコンサートを終えたボブ・ディラン&ヒズ・バンドは、2日間の休養日をはさんで第二の目的地である札幌に移動した。札幌はまだ冬だ。日曜日ということで開演は午後5時、外は明るい。5時ちょうどに3連チャイムが鳴ると同時に、いつものように左手からスチュがアコースティックギターを弾きながら、ステージ中央まで出てきた。しばらくすると右手からバンドメンバー、最後にボブが登場した。ステージの照明が点灯され、1曲目「シングス・ハヴ・チェンジド」がはじまる。今夜のボブは、オフホワイトのカントリースーツに帽子をかぶっている。バンドはグレーのスーツ。ただし、あいかわらず照明が暗いので、全員同色の衣装を着用しているようにしか見えない。何度も書くが、それほどステージが暗いのだ。まるで、おれたちは視覚に訴えるバンドではない。音で勝負するんだと主張しているように感じる。
今夜のボブは、声もいいし、元気そうに見える。休養日の効果だろう。ただ、東京の9日間とはちがった感じがする。パワフルなサウンドだが、各楽器が重なり、ややこもったように聞こえ、ヴォーカルもエコーが強めにかかって聞こえる。会場に設置されたPAスピーカーが変わったせいもあるのだろう。ライヴハウスらしい雰囲気が高まった感じがする。べつの表現をするなら、迫力が増したように聞こえる。「シー・ビロングズ・トゥ・ミー」はアップシングをまぜながら、艶のある低音も聞かせる。この曲では全体的にサウンドのヴォリュームが大きくなったような気がした。会場がすこし小さいからなのだろうか? もちろんハーモニカを演奏しただけで、観客は大喜びだ。バンドが一瞬プレイをやめるハーモニカ・ブレークも入る。左手でハーモニカを持ち、体を斜めによじりながら右手をマイクスタンドに添える姿はセクシーだ。「ビヨンド・ヒア・ライズ・ナッシン」でもその雰囲気は続いた。ボブがピアノでメロディアスなリフを弾くと、すかさずチャーリーもギターでメロディアスなリフを弾く。おなじ曲でも、毎回すこしずつちがった風に聞こえる。不動のセットリストでも、かまわない。「ホワット・グッド・アム・アイ」も優しさを込めたパワフルなヴォーカルで歌われた。
「ウェイティング・フォー・ユー」でボブとチャーリーがシンコペーションを効かせたジャムを展開する。サウンド全体のヴォリュームが大きくなったせいか、ボブのピアノのタッチが強くなったように聞こえる。次の曲に移る前、ボブはステージ右端に移動して水を口にした。ステージが小さいので、観客の見える位置に水がおかれている。ボブがピアノに戻ると「デュケーン・ホイッスル」がはじまる。軽快な曲に観客も歓声をあげる。ボブは両膝を曲げ、上体を大きく前にかがめて、リトル・リチャードやジェリー・リーのようにピアノを叩き、ビッグ・ジャムが展開する。今夜の列車はどこに向かうのだろう。
ここから1部の山を迎える。いつものように赤みがかった照明の下で「ペイ・イン・ブラッド」がはじまる。ボブは両足を大きく開いてマイクスタンドの前に立ち、片手でスタンドを持ちながらポーズを決める。ほんとうにかっこいい! 短いハーモニカのイントロで「ブルーにこんがらがって」がはじまる。ややスローなテンポで、ヴォーカルの自由度がますます高まっている。「あなたのために、ぼくの魂が書いたような詩」と歌う箇所にゾクッとさせられた。こんな歌い方ができるのはボブだけだ。ハーモニカソロのあと、ピアノに移って曲は終わる。1部の締めくくりは「ラヴ・シック」。スチュのエレクトリックギターが鋭いリズムを刻む。アップシング、伸びのある低音、濁声、自由な歌い回しをするボブを見ていたぼくは、このパフォーマンスをワイルド・ボブと名付けた。今夜のチャーリーのギターソロは最高だ。「アリガトウ。すぐに戻ってくるよ」ボブは、そう言ってステージから去っていった。
(ブレーク)
過去、ボブが札幌でコンサートをおこなったのは、1997年日本ツアーの最終日の2月24日、1回だけだ。客席2300人の厚生年金会館で開催されたこの時のコンサートでは、世界で初めて歌った「ヴィオラ・リー・ブルース」を含む15曲だったが、今夜のセットリストと重なる曲は3曲しかない。当然かもしれない。あれから17年という年月が経過したのだから。今回は収容人数は前回とそれほど変わらない2000人。しかし、客席で鑑賞するコンサートと、ライヴハウスで体験するコンサートでは、臨場感がまるでちがう。今夜のボブは、あの時よりもずっと若い。観客の年齢層も若い。ボブが現役のトップアーティストであり続ける証だろう。
2部も3連チャイムを合図にスチュがエレクトリックギターを弾きながら登場する。1曲目は「ハイ・ウォーター」。ボブは濁声や鼻にかかった声をうまく混ぜながら、いつもよりも崩した自由なヴォーカルを聞かせる。会場の音響のせいもあるが、切迫感は薄れたものの、不気味さが高まるパフォーマンスだ。チャーリーが効果的なリフを演奏する。「運命のひとひねり」がハーモニカのイントロではじまった。ここでもアップシングを混ぜながらニュアンスを込めたソフトなヴォーカルを聞かせる。一転してヘヴィな「アーリー・ローマン・キング」。ボブのピアノとチャーリーのギターの掛け合いが興奮を生む。最後はジャム演奏。それにしても今夜のチャーリーのギターはいいリフを奏でている。
左手に持ったハーモニカで短いイントロを吹いた後、ボブが「フォーゲットフル・ハート」をうたい出す。右手でマイクスタンドを持って立つボブの姿は、じつにセクシーだ。たしかに彼女のドアは開いていたときもあったのだと、思い込みたい男の心情が切ないほど伝わってくる。大騒ぎをしていた観客も、食い入るようにボブに視線を集中させ、聞き耳を立てる。感動が会場を埋め尽くす。続いて軽妙な「スピリット・オン・ザ・ウォーター」がはじまる。アップシングを取り入れながら、ボブはピアノの低音部ですてきなリフをたたき出す。やがて「ドレミファソラシド~ドシラソファミレド」と音階を練習するようなリフをくりかえす。よほど気に入ったのか、このリフを何度も何度も、10回近く演奏した。曲の最後はビッグジャム演奏で締めくくった。
「スカーレット・タウン」は、ボブがストーリーテラーとしての本領を発揮するパフォーマンスを展開する。はたしてスカーレット・タウンに希望はあるのだろうか? それとも終末を迎える最期の地なのだろうか? 歌の途中でボブは一瞬シャドーボクシングをするようなポーズを取ったように見えたのは、ぼくだけだっただろうか。「スーン・アフター・ミッドナイト」は、やはり甘いポップスの調べに聞こえる。チャーリーがゆったりとしたリフを奏で、ドニーがペダルスティールで雰囲気を高める。ボブもソフトなヴォーカルを聞かせる。だが、歌の内容は甘いラヴソングではない。
2部を締めくくる「ロング・アンド・ウェイステッド・イヤーズ」は、今夜も強烈だ。ややスローなテンポで、ボブがポーズを決めまくりながら歌う。片手でマイクスタンドをつかみ、片手を腰に当てる。お得意のポーズだ。「シェキナ・ベイビー・ツイスト・アンド・シャウト」の下りで大歓声がわき起こるのもいまや恒例となったようだ。最後は、もちろん「どうだ」と決める。最高!
アンコールは「見張り塔からずっと」と「風に吹かれて」の不動の2曲。音響のちがいからか、スチュがナイフのように鋭く刻むリズムギターが強調されないので、かなり雰囲気が変わって聞こえる。ボブもいつもとちがうリフをピアノでたたき出す。「風に吹かれて」はいつもにも増して自由度が高まっている。ボブのヴォーカルもピアノも今夜の気分に合わせて、自由に操られているように聞こえる。まさに、フリーホイーリン・ボブといったところだ。
最後の整列でも、バンドメンバーたちは不動の姿勢を保っているが、ボブは落ち着かなさそうに、ゆらゆらと体を動かし、観客の反応を確かめようと視線をあちこちに向ける。こうして、17年ぶり2度目の札幌公演が終了した。明かりのついた会場には、ストラヴィンスキーの「春の祭典」がBGMで流されていた。(菅野ヘッケル)
(ボブとは関係ないが、会場のゼップ・サッポロにはやや不満が残った。客の入退場、ドリンク購入に時間がかりすぎる。人でごった返す一階通路に設営された喫煙所は、改善してほしい。2階にほとんど人のいない通路があるのに)
Bob Dylan
April 13, 2014
Zepp Sapporo
1. Things Have Changed
2. She Belongs To Me
3. Beyond Here Lies Nothin'
4. What Good Am I?
5. Waiting For You
6. Duquesne Whistle
7. Pay In Blood
8. Tangled Up In Blue
9. Love Sick
(Intermission)
10. High Water (For Charley Patton)
11. Simple Twist Of Fate
12. Early Roman Kings
13. Forgetful Heart
14. Spirit On The Water
15. Scarlet Town
16. Soon After Midnight
17. Long And Wasted Years
(encore)
18. All Along The Watchtower
19. Blowin' In The Wind
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