ボブ・ディラン 2014年4月5日 Zepp DiverCity第5夜ライヴレポート by菅野ヘッケル

2014.04.07



見逃すな、この奇跡。世界がうらやむ日本限定特別公演ZEPPツアー!
東京5日目4/5(土)、東京はちょうど折り返し地点。

菅野ヘッケルさんからの第5夜ライヴレポートです!!

【ボブ・ディラン、2014年4月5日Zepp DiverCity5日目ライヴ・レポート】

ボブ・ディラン
2014年4月5日
Zepp DiverCity 

3夜連続公演の3日目、しかも午後5時というかなり早い開演時間なので、どうだろうと思っていたが、まったく関係なかった。回を重ねるごとに、自由度が増してきているように感じる。どんどんよくなってくる。ディランのコンサートは日によって、当たり外れがあると、よく言われてきたが、そんなことはない。今回の日本ツアーはいまのところ外れの日は1日もない。すごいな。

5時過ぎ、場内の明かりが落とされ、いつものようにスチュがアコースティックギターでリフを弾きながらひとりで暗いステージに登場する。そう、今回のツアーでは開演前の会場内にBGMも流されない。注意事項のアナウンスもない。2010年のときは、ケルアックの朗読テープが流されたように記憶している。また、古いモノクロのドキュメントフィルムが上映されたこともあったが。とにかく開演時間になると突然場内が暗くなり、ギターの音が聞こえ始め、残りのミュージシャンたちが所定の位置につき、最後にボブが現れ中央のマイクスタンドの前に立ってショーがスタートする。

今夜のボブは2日目に着用していた白いカントリースーツのジャケットにサイドに銀色の刺繍が入ったズボンの組み合わせだ。ダークグレーのスペイン帽をかぶっている。毎回衣装を変えていたが、おなじジャケットが登場したということで、日本ツアーには4種類の衣装を用意してきたのかな? バンドメンバーは黒のスーツ。

1曲目はもちろん「シングス・ハヴ・チェンジド」。「人々はおかしい、時代も変だ。以前は気にしたけど、何もかも変わってしまった」オープニングにふさわしい。気分がいいのだろう「チェーーーンジド」と引き延ばして歌う。2曲目の「シー・ビロングズ・トゥ・ミー」は今夜も力強いマーチのように響く。伸びのある高音、艶のある低音、押しつぶした濁声など巧みに声を使い分ける。歌の最後はワイルドなハーモニカも聞かせてくれる。ドキュメント映画『ドント・ルック・バック』のタイトルが取られた65年の代表作のひとつなので、だれもが知っているはずだが、それなのにまるで初めて聞く新曲のように感じたファンもいるだろう。次の「ビヨンド・ヒア・ライズ・ナッシン」ではチャーリーがピアノを叩くボブの指の動きを確認しながら、かなり自由なギターを演奏する。ドニーがエレクトリックマンドリンで軽快さを味付けする。

さて、問題の4曲目。昨夜はパニックを引き起こした「ハックス・チューン」だったが、今夜は定番の「ホワット・グッド・アム・アイ」が復活した。ニュアンスをこめたアップシングを取り入れたこの歌は、まるで部屋のなかのすぐそばで歌ってくれているような気分にさせてくれる。次に新作『テンペスト』から「デュケーン・ホイッスル」が登場。この歌ではエンジン音を轟かせて疾走する列車の様子が浮かんでくるようなジャム演奏が展開する。続いてあまり知られていない2002年の「ウェイティング・フォー・ユー」が歌われる。トニーがストリングベースを弾き、ボブのピアノ、チャーリーのギター、ドニーのペダルスティールが優雅なワルツを奏でる。そして代表曲「ブルーにこんがらがって」を「どうだ」と言わんばっかりに自信たっぷりに、やや崩して歌う。一転してヘヴィな「ペイ・イン・ブラッド」。『テンペスト』から2曲目だが、ボブも調子を上げてきたのだろう、やや崩して歌う。じつにいい。 「血で支払うよ。おれのじゃないけど」と言うが、だれの血なんだろう。1部を締めくくるのは「ラヴ・シック」。スチュのカッティング演奏、ドニーのマンドリン、チャーリーの解き放されたようになリードギター、凄みと不気味さがどんどん増幅しているように感じる。ボブが「……メドウ……ウィンドウ……シャドウ」とわかりやす韻を踏んで歌う箇所が好きだ。「サンキュー。すぐ戻ってくる」休憩前のことばが、どんどん簡単になってきた。

(ブレーク)
2007年に『ディランを唄う』というディラン公認のカヴァーアルバムを発表した和久井光司さんと話をした。彼は" 「ピアノが自由でいい。ヴォーカルも自由でいい」と絶賛していた。たしかにボブは自分のやりたいようにやっている気がする。90年代にボブはエレクトリックギターでソロをよく演奏した。そのときは単音の3連音が特徴だったが、今回のピアノでもしつこいぐらいに3連音が演奏される。こんなピアノを弾く人はいない。だからボブは自分でピアノを弾くのだろう。94年に幸運にもボブと話す機会があったが、「ぼくが弾いてほしいと思うようなギターを弾くミュージシャンがいない。だから自分で弾く」と語ってくれたことを思い出した。そういう意味でも、チャーリーはボブの理想のギタープレーヤーかもしれない。ボブが弾きたいと思うギターを彼は代わって弾いてくれる

2部は当然「ハイ・ウォーター」で始まった。それにしても音がいい。各楽器の分離がいい。ライヴ会場なのにレコードを聞いているような錯覚を覚えるくらいい音で聞こえる。この歌の終わりは、ストップ&リスタートを取り入れたビッグエンディングだった。『血の轍』の収録曲「運命のひとひねり」ではみごとにコントロールされたヴォーカルを聞かせてくれた。歌詞の一部が書き換えられたかな? しつこいほどに繰り返されるハーモニカも聞き応えがある。つぎは『テンペスト』から3曲目となる「アーリー・ローマン・キング」。力強いこのブルースでもボブの3連音を強調したピアノ演奏が印象的だ。チャーリーがピアノのそばまで近より、ボブの指の動きを確認しながら呼応するフレーズをギターで演奏しているように見える。これにドニーのラップトップが加わりかけ合いの演奏に体が揺さぶられる。

これまでのセットリストでは、ここでぼくの大好きな「フォゲットフル・ハート」が歌われたのだが、今夜は代わって「ハックス・チューン」が歌われた。昨夜世界で初めてライヴで歌われ、ぼくをふくめて多くのファンが驚き、一瞬パニックに陥った歌が2夜連続で登場というわけだ。ラスベガスを舞台に活躍するプロのポーカーギャンブラーを主人公とする映画『ラッキー・ユー』のエンディングロールで流れる美しい曲だ。ライヴでもレコードとそれほど変わらないアレンジで歌われる。入念にリハーサルをおこなったはずなので、1回しか歌わないのはもったいない。昨夜のできに満足したのだろう、だから今夜も歌ったのだと思う。もちろんこの歌もいいが、「フォゲットフル・ハート」もどこかで復活させてほしいと思う。

「スピリット・オン・ザ・ウォター」は軽妙なジャズのように響く。ボブの自由度はさらに増していく。3連音に加え、お得意のディセントスケールのようなピアノも演奏する。このあと『テンペスト』から続けて3曲が歌われる。まず、「スカーレット・タウン」。ぼくは思わず「いい声だね」と心のなかでつぶやいていた。低音も出せる。やはりアップシングで歌うのはコントロールされたテクニックなのだ。一部のファンが指摘するように、けっして低音が出なくなったのでアップシングで歌うわけではない。それにしてもスカーレット・タウンはどこにあるのだろうか? ミスティック・ガーデンにあるのだろうか? 

「スーン・アフター・ミッドナイト」はチャーリーが弾く甘い低音を強調したギターがロマンティックな雰囲気を高める。2部を締めくくる「ロング・アンド・ウェイステッッド・イヤーズ」は今回の日本ツアーのハイライト曲になりつつあると思う。数年前までは「やせっぽちのバラッド」がコンサート本編を締めくくる曲だったが。これからは「ロング・アンド・ウェイステッド・イヤーズ」だ。ボブの手の動きが一段と派手になり、観客も盛り上がる。まさにパワー全開の熱演だ。決めポーズを取るボブも満足しているだろう。

アンコール1曲目は「見張り塔からずっと」。何度聞いても飽きない。途中でボブのピアノとチャーリーのギターが押し殺したようなミュートで掛け合い演奏を繰り広げ、しだいにヴォリュームを上げていき、最後はフルスロットルで終える。観客の興奮もピークに達する。そして最後は「風に吹かれて」。これまでとちがって今夜は1番の部分はすべてハーモニカで演奏した。最後はピアノの位置からステージセンターに出てきて終えた。最後の横1列に並ぶあいさつは、全員が並ぶ前に明るくなってしまったので、整然というわけにはいかず、かなりバラバラになってしまった。これも愛嬌だ。ボブはめずらしく、右手をかすかに振ってファンの声援に応えた。1日休養を取り、7日からは4夜連続でコンサートが続き、東京での公演はすべて終了する。 (菅野ヘッケル)

Bob Dylan
April 5, 2014
Zepp DiverCity




Act 1
1. Things Have Changed
2. She Belongs To Me
3. Beyond Here Lies Nothin'
4. What Good Am I?
5. Waiting For You
6. Duquesne Whistle
7. Pay In Blood
8. Tangled Up In Blue
9. Love Sick

(Intermission)

Act 2
10. High Water (For Charley Patton)
11. Simple Twist Of Fate
12. Early Roman Kings
13. Huck's Tune
14. Spirit On The Water
15. Scarlet Town
16. Soon After Midnight
17. Long And Wasted Years

(encore)
18. All Along The Watchtower
19. Blowin' In The Wind
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