ボブ・ディラン 2014年4月4日 Zepp DiverCity第4夜ライヴレポート by菅野ヘッケル

2014.04.07



見逃すな、この奇跡。世界がうらやむ日本限定特別公演ZEPPツアー!
東京4日目4/4(金)、雨のZEPP DiverCity。あっと驚く全世界初披露「ハックス・チューン」演奏!

菅野ヘッケルさんからの第4夜ライヴレポートです!!

【ボブ・ディラン、2014年4月4日Zepp DiverCity4日目ライヴ・レポート】


ビッグ・サプライズ! あまり知られていない2007年の隠れた名曲「ハックス・チューン」が、今夜ライヴで初めて歌われた

4日目のZepp DiverCity、7時過ぎに場内が暗くなり、いつものようにスチュが弾くアコースティックギターのリフが流れるなか、メンバーたちがステージに現れ、最後にボブがめずらしく左手から歩いて出てきた。今夜の格好は、前夜とはちがうがおなじような白いスーツ。ズボンのサイドにシルヴァーの刺繍が入っている。これで4日間ともステージ衣装を変えてきたことになる。初日は黒だったが、あとの3日間は春を意識したのか微妙に異なる白っぽい衣装で登場した。あいかわらず、スペイン帽をかぶっている。昨年秋のヨーロッパツアーでは帽子をかぶっていなかったが、今回の日本ツアーでは帽子をかぶることにしたようだ。おしゃれだな。

1曲目はもちろん「シングス・ハヴ・チェンジド」。ステージ中央のマイクスタンドの前で、アップシングを取り入れながら歌う。今夜も調子がいいようだ。2曲目の「シー・ビロングズ・トゥ・ミー」では、ブレークを入れたハーモニカ、だれにも真似のできない得意のフレージングなども聞かせてくれる。これまでの3日間を見て、日本ツアーも固定セットリストでおこなうものと決め込んでいたので、いつもの「ホワット・グッド・アム・アイ?」を飛ばして3曲目に「ビヨンド・ヒア・ライズ・ナッシン」を歌ったときに、一瞬「あれ、今夜はどうしたのかな? もしかしたらぼくの好きな『ブラインド・ウィリー・マクテル』を歌ってくれるかもしれないな」ぐらいに思っていた。それにしてもいい音がいい。スチュの刻むアコースティックギターのリズムが小切れよく響き、ボブもシンコペーションを効かせたピアノを演奏する。ボブのリズム感のよさに圧倒される。つぎは「ウェイティング・フォー・ユー」。ボブとチャーリーの掛け合いが美しい。トニーが弓を持ったままウッドベースでリズムを刻んでいるのに気づいた。曲のエンディングはストリングベースだったのだ。つづいて「デュケーン・ホイッスル」。ピアノ、ラップトップ、ギターが重なって警笛のような効果をだしながら力強く列車は走っていった。この時点でぼくは、今夜は1曲少なくなるのかな、と思っていた。

6曲目、美しい調べが流れてきた。過去3日間には登場しなかった何か新しい曲であることはすぐに気づいた。歌詞の一部からタイトルを割り出そうと聞き耳を立てるが、わからない。中央のマイクスタンドで歌っていたボブは、途中からピアノに移る。まだ。何の曲かわからない。パニックだ。ディランの歌ならほとんどわかると思い込んでいたが、無理だった。休憩時間になって、まわりのディラン通の何人かに教えてもらおうと聞いても、だれもが知らないという。もちろん観客のなかには、すぐにわかった熱心なファンもいただろうが、とにかくインターネットであれこれ調べた結果、ようやく「ハックス・チューン」だったと判明した。40年前にも似たような経験をした。1974年1月3日、シカゴでぼくは初めてディランのコンサートを見た。まだ若かったが、それなりにディラン通を自負していたぼくだったが、オープニング曲がわからない。周りに聞いても知らないという。このときは数週間後にようやく「ヒーロー・ブルース」だったことを知った。時代は変わった。いい時代になったものだと思う。

「ハックス・チューン」2007年の映画『ラッキー・ユー』のサウンドトラックに収録されている歌で『ザ・ブートレグ・シリーズ第8集:テル・テイル・サインズ』も入っている。ボブはほんとうに不思議な人だ。自分のアルバム収録曲ではなく、あまり知られていない歌を、しかも世界で初めてライヴで歌ったのだ。2003年の映画『ヤァヤァ・シスターズの聖なる秘密』のサウンドトラックから「ウェイティング・フォー・ユー」を歌ったり、もちろんオープニング曲の「シングス・ハヴ・チェンジド」も2000年の映画『ワンダー・ボーイ』の主題歌だし、ボブの選曲基準はまったくわからない。どうせなら、サウンドトラックシリーズで『ゴッズ&ジェネラルズ』から「クロス・ザ・グリーン・マウンテン」とか、『ノース・カントリー』から「テル・オール・ビル」とかも歌ってくれないかな、とぼくは叶わぬ夢をいだいている。

ショックが残ったままだったが、コンサートはつづく。ポーズを決めまくる「ペイ・イン・ブラッド」、やや崩して、執拗なピアノリフを繰り返す「ブルーにこんがらがって」、1部を締めくくるノリノリの「ラヴ・シック」で、ボブは満足そうな表情を浮かべているように見えた。「サンキュー。すぐ戻ってくるよ」短いことばを残してステージから消えた。休憩時間には会場で見かけた著名人からコメントをもらうつもりだったが、今夜はそれもできなかった。

2部は順当に「ハイ・ウォーター」ではじまった。ボブが頭を上下に揺らしてリズムを取る。友人がヘッドバンギング・ボブみたいだねとつぶやく。たしかにそんな風にも見える。「運命のひとひねり」では、アップシングを混ぜながらじつに優しいヴォーカルを聞かせてくれる。また、力のこもったハーモニカの熱演も聞かせてくれた。ピアノブルースの「アーリー・ローマン・キング」ですごみを見せたあと、つづく「フォーゲットフル・ハート」は一転して苦悩に満ちた男の心が切々と伝わってくるような説得力のあるヴォーカルで観客の心を打つ。トニーのストリングベース、ジョージのボンゴ、ドニーのヴァイオリン、そしてボブのハーモニカ、すべてが完璧だ。良質なPAのおかげで、ことばのひとつひとつが聞き手の心にしみわたる。「スピリット・オン・ザ・ウォーター」は、だみ声を混ぜながら軽快に歌う。歌詞に呼応するように観客の反応も高まる。ここでもスチュがアコースティックギターで刻むリズムがアクセントとなっている。ボブのコンサートは何回も見てきたが、これほどいいサウンドで楽しめる機会は滅多にない。 「スカーレット・タウン」は歌詞が6番まである長いバラッドだが、ライヴでは3番の歌詞を省略して短くしている。昨年のヨーロッパツアーとちがって、ピアノから解放されたボブはマイクスタンドの前で片手を延ばすジェスチャーを取りながらヴォーカルに専念する。結果、みごとなまでにストーリーが伝わってくる。「スーン・アフター・ミッドナイト」では、甘いサウンドと脚韻を踏むヴォーカルが心地よく響く。2部を締めくくるのは「ロング・アンド・ウェイステッド・イヤーズ」。ボブの表情がすこし遠くに離れるとわからないほど、極端に薄暗いステージ照明だったが、この歌でようやく一般的な明るさになる。それでもピンスポットは用意されていない。明るくなったステージ中央に、両足を大きく広げてボブが立っている。格好いい! 短いメロディを何度も繰り返し、両腕を広げたり、頭でリズムを取ったり、ボブにしては派手な動きを見せる。観客の声援も一段と大きくなった。歌い終えると、ひとことも発せずにステージから消える。2部の終了だ。

もちろん観客はアンコールを求めて、大声を出し、拍手を続ける。アンコールはいまのところ定番の「見張り塔からずっと」「風に吹かれて」の2曲だが、ボブのことだからどこかでべつの歌に突然変えるかもしれない。アンコールは観客を盛り上げるためにサービス精神を発揮するミュージシャンが多く見られるが、ボブはちがう。ボブはパワフルな伝わるヴォーカル力を持っている。伝える力こそアートだボブはその日のコンサートで自分の歌がどれだけ伝わったか、最後に確認するためにバンドメンバーといっしょにステージに横一列に並んで、客席を見回し、反応を確かめるのだろう。だから、ことばを発するとか、手を振るといった、あいさつはいっさいしないまま、ステージから去って行く。ありがとう、と叫ぶのは観客だ。

会場を出たところで、伊藤さんという親子連れに声をかけられた。父親はボブを見るために山形から、東京に住む息子を誘ってきたという。4年前のツアーもふたりで見たという。息子の友也さんは高校生のときに初めてボブを見て以来、虜になったと語ってくれた。いつも感じることだが、ボブのコンサートはじつに幅広い年齢層の客が集まる。そんななかに親子連れも多く見かける。ボブの歌が時代を超えて、世代を超えて支持されている証だろう。同時に、ボブがノスタルジーとは無縁の進化を続けるアーティストだから、若い新しい人をも魅了する。そしてひとたびファンになった人は、ボブから離れられなくなってしまう。(菅野ヘッケル)

Bob Dylan
April 4, 2014
Zepp DiverCity, Tokyo




Act 1
1. Things Have Changed (Bob center stage)
2. She Belongs To Me (Bob center stage with harp)
3. Beyond Here Lies Nothin' (Bob on grand piano)
4. Waiting For You (Bob on grand piano)
5. Duquesne Whistle (Bob on grand piano)
6. Huck's Tune (Bob center stage then on grand piano)
7. Pay In Blood (Bob center stage)
8. Tangled Up In Blue (Bob center stage then on grand piano)
9. Love Sick (Bob on center stage)

(Intermission)

Act 2
10. High Water (For Charley Patton) (Bob center stage)
11. Simple Twist Of Fate(Bob center stage with harp)
12. Early Roman Kings (Bob on grand piano)
13. Forgetful Heart (Bob center stage with harp)
14. Spirit On The Water (Bob on grand piano)
15. Scarlet Town (Bob center stage)
16. Soon After Midnight (Bob on grand piano)
17. Long And Wasted Years (Bob center stage)

(encore)
18. All Along The Watchtower (Bob on grand piano)
19. Blowin' In The Wind (Bob on grand piano with harp then center stage)
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