【ライヴ・レポート】新たな歴史を刻んだロイヤル・アルバート・ホールの3日間。

2013.12.02

新たな歴史を刻んだロイヤル・アルバート・ホールの3日間。

by 菅野ヘッケル

 

じつに47年ぶりだ。ボブ・ディランがロンドンのロイヤル・アルバート・ホールでコンサートをおこなった。観客のひとりに「ユダ!(裏切り者)」と叫ばれ、ステージ上のディランは「おまえはうそつきだ。おまえなんか信じない。でかい音で演奏しよう」と「ライク・ア・ローリング・ストーン」を歌い始める。1966年のイギリスツアーでの有名な事件。実際にはマンチェスター公演での出来事だったが、一般的には『ロイヤル・アルバート・ホール』として伝わり、後にブートレッグ・シリーズでも発売された。あれから47年、ディランは2013年秋のヨーロッパ・ツアーをロイヤル・アルバート・ホールの3日連続コンサートで締めくくった。

 

今年は7月にディランの『アメリカーナラーマ:フェスティヴァル・オブ・ミュージック』を数回見たし、ヨーロッパはあまり好きじゃなかったのでどうしようか迷っていたが、ロイヤル・アルバート・ホールのチケットが数時間で完売したといった情報が耳に入ると、やはり見ておかなければならないと思って初めてのイギリス行きを決断した。しかしチケットは完全売り切れだ。頼りのソニーミュージックを通じても無理だという。それでも、どうにか3日間のチケットが入手できた。合法的ダフ屋とでもいえばいいのか、イギリスでは転売が許されているのだろう、やや割高ではあるがネットでも購入できた。

 

3日間のコンサート、初日はエクセレント、2日目はアベレージ、最終日はエモーショナルと結論できる。とくに初日はこの数年間でも最高のパフォーマンスだった。オープニングの「シングス・ハヴ・チェンジド」から最後の「ロール・オン・ジョン」まで、すべてが完璧だった。

 

1871年に開場したロイヤル・アルバート・ホールは、直径約80メートル、高さ40メートルの楕円形劇場で6000人を収容する内部はアリーナ席、1階ストール席、2、3、4階ボックス席。5階ストール席、6階立ち見席、さらにステージ後方のコーラス席に分かれている。ステージ裏には天井まで届く巨大なパイプオルガンも設置されている。このため、ステージの天井はかなり低く抑えられている。開演前には、このパイプオルガンにディランの「アイロゴ」が投影されていた。また、ドーム天井にはキノコを逆さに吊るしたような音響効果装置もぶらさがっている。

 

7時35分、場内が暗くなりステージ左手からスチュ・キンボールがアコースティックギターを弾きながら登場する。なにやら聴いた事があるようなリフが演奏される中、残りのメンバーが、そして最後に黒いロングコートを着たボブが登場し、ステージ中央のマイクの前に立つと、すぐに「シングス・ハヴ・チェンジド」を歌い始めた。あいかわらず照明は驚くほど暗い。街灯のような6本の明かりがステージを照らしているが、ボブの表情は暗がりに埋もれてよくわからない。むしろバンドのメンバーたちのほうが明るく照らされている。ボブの調子は良さそうだ。ヴォーカルもクリア。いつものように左手を腰に当て体全体でリズムをとりながら、時折膝を曲げるダンスを交える。聴き手の想いも加わって、最初から引き込まれる。ボブはステージセンターに立ったまま2曲目の「シー・ビロングス・トゥ・ミー」を歌いだす。かなりヘヴィーなリズムにのせて60年代の代表曲を歌う。この歌は47年前のこの会場でも歌われた。歴史の重みとボブの歌の普遍性を感じる。この曲でボブはハーモニカの演奏も披露した。観客は大歓声をあげる。みんなボブのハーモニカが好きだ。夏まで使っていたハーモニカ専用マイクはなくなり、ヴォーカルマイクだけだ。結果、ボブはあまり動き回らなくなった。2曲を歌い終えたボブはステージ右手のピアノに移り、「ビヨンド・ヒア・ライズ・ナッシング」「ホワット・グッド・アム・アイ?」「デュケーン・ホイッスル」「ウェイティング・フォー・ユー」を歌った。映画『ヤー・ヤー・シスターズ』のためにつくったあまり知られていない「ウェイティング・フォー・ユー」がセットリストに加わっている。さらにステージ中央に移動して「ペイ・イン・ブラッド」、ピアノに戻って「ブルーにこんがらがって」、ふたたびステージ中央に移動して「ラヴ・シック」。この3曲は1部のハイライトだ。

 

夏のヨーロッパ・ツアーで大きく変わったことのひとつは、コンサートが15分間の休憩をはさんで1部(9曲)と2部(8曲)&アンコール(2曲)に分けられたことだ。おかげで1部の終わりにボブのことばが聴けるようになった。「サンキュー・フレンズ。短いブレークをとるけど、15分で戻ってくる」。今年になってからメンバー紹介もしなくなっていたので、歌以外でボブのことばが聴けるのはめずらしい。

 

きっかり15分、会場内が暗くなりステージ左手からスチュがエレクトリックギターを弾きながら登場する。続いてほかのメンバーが、最後にボブが姿を現し、ステージ中央に立ってダニーの弾くバンジョーのイントロで「ハイ・ウォーター」が歌われた。ピアノに移って感動的な「運命のひとひねり」、力強い「アーリー・ローマン・キングズ」と続く。ここから2部のハイライトが始まる。トニーがストリングベースを弾き、ステージ中央に立ったボブが「フォーゲッタフル・ハート」を歌いだす。会場にだれもいないかのような静寂が広がり、観客はひとことも聞き漏らしたくないと言わんばかりにステージのボブに集中する。「ドアは永久に閉ざされてしまったのか、もっともドアがあったとしてことだが」ボブが最後の歌詞を歌い終わると、今夜一番の大きな拍手喝采がわき起こった。すぐにピアノに移ったボブは「スピリット・オン・ザ・ウオーター」を歌う。前曲の余韻に浸るひまもなく、ボブが「ピークが過ぎたと思っているのか?」と歌うくだりでは観客が大声で「ノー!」と応える。次は神秘的な「スカーレット・タウン」、続いて唯一ステージ後方に雪模様のような照明が投影された「スーン・アフター・ミッドナイト」、そして2部を締めくくるパワフルな「ロング・アンド・ウェイステッド・イヤーズ」。ここで初めて照明がやや明るくなり、ボブの表情もどうにか見える。

 

いつものようにステージ前方に、ボブを中央にバンドメンバーたちが横一列に並んで、観客に別れを告げてステージから去っていった。興奮した観客はアンコールを求めて拍手声援を投げかけ続ける。すぐにアンコールが始まった。まず、ピアノを弾きながら「見張り等からずっと」を歌う。最後は「風に吹かれて」だろうと思っていたら、ステージの上でボブとトニーが何やら相談している様子が見えた。そして大きなサプライズとともに「ロール・オン・ジョン」が歌われた。2日前のブラックプールのコンサートでライヴ初登場した曲だ。ロンドンの初日ロイヤル・アルバート・ホールの魔力がボブにレノンを思い出させたのかもしれな。この歌を聴いているとき、リムジンの後部座席で会話をするボブとジョンの映像が頭に浮かんできた。最後にふたたび横一列に並んで、観客に別れを告げると9時50分、ボブはステージを去っていった。

 

ぼくは毎年ボブのコンサートを見ているが、ここ数年間でロイヤル・アルバート・ホールの初日はトップにランクできる最高のできだった。今年のネヴァー・エンディング・ツアーから、ボブは固定セットリストを採用するようになった。しかも最新アルバム『テンペスト』から6曲も選んでいる。ただし、ローマの2公演は、まったく異なるセットリストでおこなった。もしかしたら、『コンプリート・アルバム・コレクションVol.1 』の発売を意識したのか? とにかく、レアな曲が歌われるだけで満足した時代は終わり、その日のできによって観客の満足度が変わるというわけだ。今回のヨーロッパ・ツアーはこれまでのようなロック色やブルース色、ジャムバンドの要素が薄れ、洗練された芸術的なショーに変わってきている。ボブのピアノが主体となり、トニー、スチュ、ジョージが揺るぎのないリズムを叩き出し、派手さはないがチャーリーとダニーが、的確な短いリフを加える。現在のバンド構成は最高かもしれない。

 

「やあ、ヘッケル。こんなところで何やってんだ?」2日目のコンサート終了後、久しぶりにステージドアで出待ちをした。もちろんボブはアンコールを求める観客の声援が響いている間に、ホテルに戻ってしまうことはわかっていた。でもバンド・メンバーたちはちがう。数十人のファンが集まっていたが、1時間近く待っていると、帰り支度を終えたトニー夫妻が出てきて、ぼくを見つけて声をかけてくれた。「最高だったよ」短い会話をかわした後、満足感に満ちたぼくは歩いてホテルに向かった。

 

もうひとつエピソードを書いておこう。最終日のアンコールを終え、横一列に並んで声援に応えていたとき、ボブは数歩前に出て、最前列の何人かのファンと握手を交わした。めずらしい光景だった。おそらく今年のツアー最終日、47年ぶりのロイヤル・アルバート・ホール、コンサートのできの満足感などが組み合わさり、ボブも感情的になったのかもしれない。エモーショナルな一瞬だった。

 

今年は『アナザー・セルフ・ポートレイト』『コンプリート・アルバム・コレクションVol.1』が発売されたし、来年はおそらく『コンプリート・ブラッド・オン・ザ・トラックス』も発売されるだろう。また、毎年年末になると、来日のうわさも流れてくる。はたして、実現するのだろうか?


SETLISTS at Royal Albert Hall, London, England

Nov.26

 

Set 1:

1.Things Have Changed

2.She Belongs to Me

3.Beyond Here Lies Nothin'

4.What Good Am I?

5.Duquesne Whistle

6.Waiting for You

7.Pay in Blood

8.Tangled Up in Blue

9.Love Sick

 

Set 2:

10.High Water (For Charley Patton)

11.Simple Twist of Fate

12.Early Roman Kings

13.Forgetful Heart

14.Spirit on the Water

15.Scarlet Town

16.Soon after Midnight

17.Long and Wasted Years

Encore:

18.All Along the Watchtower

19.Roll on John*

(*27,28日は19曲目のRoll On JohnがBlowin' in the Windに変更)


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