B.E.D.
About GOTA



 GOTAこと屋敷豪太氏を語るとき、MUTE BEATやMELONなど、80年代の日本で先鋭的だったバンドのメンバーであったことを第一に言うのは、あやまりではない。でもそれ以上に特筆すべきなのは、90年代以降のイギリスにおける音楽シーンで、多大な功績を残したミュージシャンであり、プロデューサーであることだ。手掛けた仕事を見てみよう。質はもちろんのこと、何よりも驚くのはその量である。常に数多くのミュージシャンたちから求められる人物、それがGOTAなのだ。



 一体、彼の何がそんなに魅力なのか? それを理解するためにもここでは本人によるエピソードを紹介したい。



 88年のこと。GOTAは、それまでの日本での活動を停止し、単身ロンドンへ渡る。以前MELONのレコーディングで滞在したとき、その自由で多くの価値観が混在する街に強い魅力を感じていたのだ。また行ってみたい。そんな衝動的な渡英だった。具体的な仕事のあてはなかった。だが、まもなく彼に2本の電話があった。



「一本の電話の主は、以前からの友人であるネリー・フーパーだった。その頃、彼はSoul II Soulのファーストアルバムを制作していたんだ。で、『手伝ってくれよ』と言うんで、軽い気持ちでスタジオに行ったらプログラミングをやることになって、手伝うどころか、結局ベースとドラムまでやった(笑)。それが『Back to Life』だったんだけど、それから僕はSoul II Soulの曲をプログラミングすることになったんだよね。もう一本の電話の主はティム・シムノン。彼も以前から友人だったんだけど、会いに行ったら、彼のバンド Bomb the Bassの欧州ツアーに出ることになった(笑)。当時、知り合いなんていなかったのに、たまたま知ってた二人から連絡があったのはラッキーだったね。あれがあったからその後もロンドンで生活することになったんだ」



 また、こんなエピソードもある。90年頃になると、GOTAはかなりの人気プロデューサー/プログラマーとして多忙を極めるのだが、91年、転機がやってくる。Simply Redへのレコーディング参加だ。さらに彼は、正式メンバーとして93年まで活動をともにする。



「最初は、グルーヴ・アドバイザーとしてスタジオに行ったんだ。でもミック(・ハックネル)ら、メンバーは僕に何ができるか知らない。だから、まずさっとサンプラーで音を作ったんだ。そこから彼らとも打ちとけることが出来て、アルバムもいい作品に仕上がったんだけど、その流れで何十万ものお客さんを迎える彼らのワールドツアーにドラマーとして参加することになっちゃった。正直、えらいことになったって思ったよ(笑)。でも、いろいろといい勉強になったね」(註:Simply Redは最新作「Home」でもGOTA氏が、共同プロデュースをしている。当時から変わらぬミックのGOTAへの信頼が見受けられる)



 どうだろう。こうした話にGOTAのミュージシャンとしての技術的なセンスやクオリティの高さが確かなものだったとしても、それ以前に、人がいいというか、ラッキーというか、大きな仕事も飄々とこなしてしまうというか、そんなGOTAの純朴な素顔が見受けられるのではないか。



 ここで彼が過去に参加したり、手掛けた作品を聴いてみよう。再評価、著しいMUTE BEATの初期作品、全世界で850万枚を売ったSimply Redの「Stars」、彼自身のソロ、Soul II Soul。どれでもいい。90年に藤原ヒロシ氏とプロデュースした小泉今日子さんの「No.17」もある。それらを何枚か聴けば、ある共通項が見出せるはず。「美しいメロディと明るさ」である。思わず耳を傾けたくなる心地よさ。音楽が本来、音楽としてある幸せ。あたたかみ。それらこそGOTA氏の音楽家として、プロデューサーとしての魅力だろう。そして、それは誰もが彼に感じる人間性にもつながっているに違いない。







About B.E.D.



 さて現在、GOTAは、ここ数年にわたる仕事上のパートナー ジミー・ゴメスとともに、B.E.D.という新たなプロジェクトを立ち上げた。誰かのプロデュースでも仕事でもなく、プライベート的な気持ちで作ったアルバムだという。以下もGOTA自身の言葉だ。



「普段、音楽の仕事で疲れたら、スポーツとかで発散する人がいるけど、僕の場合はやはり音楽なんだよね(笑)。ロックで疲れたら、アンビエントやって癒したり、その逆もあったり。ジミーも同じ。だからこの作品はそんな風に、自分自身、楽に作っているね」



 だからというわけでもないが、音楽的にも力みの抜けたもののようだ。



 「もともとは最近いいCDがリリースされないんで、自分でも聞きたくなるようなアルバムつくろうよっていうことではじまったんだけど。- この作品には、色々な意味で僕らの(GOTAとJIMMYの)人生観が投影されていると思う。JIMMYも公私共にいろいろあったみたいだし、俺も15年間ロンドンで過ごしてきて、いろいろな事があったしね。そんな生活の中から、飛行機に乗るんじゃなくて、バスで旅する良さ-つまり、飛行機に乗ってしまうと見えないものが

バスに乗ることによって見れるみたいな-に気付いたんだよね。 そんなところから、(プレイヤーの)ボタンを押すだけで、それだけでスローなテンポに自分を持っていってくれるような物を作ってみたくなったんだ」(GOTA)。そして、もう一つ表現したかったのが、

「イギリスと日本のテンポ感の違い」だと言う。

「イギリスの何が良いかって、それは『個人個人がもっている時間の流れ』なんだよね。そんなところをこのアルバムから感じ取ってもらえればうれしいね。」

 

 常に誰かとの出会いの中から、新しいもの、価値あるものを作り出してきたGOTA。いまなお精力的に活動し続ける彼の視線の先には、将来に出来上がる予定の音楽の姿が見えているのかもしれない。