アゼリン・デビソン


カナダ東部、“赤毛のアン”の舞台として知られるプリンス・エドワード島のさらに東に位置する雄大な土地がケープ・ブレトン。

ここのグレース・ベイという町で生まれ育った一人の少女が今、世界に羽ばたこうとしている。

彼女の名前はアゼリン・デビソン。




1990年生まれ、ことし高校に入学するアゼリンは、その印象的な眼差しと、外見からは想像できないほどのパワフルな歌唱で、今やカナダの新世代歌手のナンバーワンと目される存在にまでなった。



アゼリンが初めて注目されたのは1999年にケープ・ブレトンで働く炭坑夫達の抗議集会で歌った「ザ・アイランド」がきっかけだった。炭坑を閉鎖するという政府決定に抗議する集会でアゼリンは彼らのふるさとを題材に取った見事な歌を披露、そのピュアで真っ直ぐな美声はその場に居合わせた全ての人々を感動させた。少女の歌に耳を傾けながら、互いに肩を組んで目を潤ませる聴衆−大の大人達を涙させた9才の少女の話はたちまちカナダ全土に広まっていった。



翌2000年にはカナダ全土に放映された“イースト・コースト・ミュージック・アウォード”にも出演、その模様をみたカナダの首相、ジャン・クレティエンはアゼリンを称して“次のセリーヌ・ディオン”と絶賛したのだった。その後もアゼリンにはイベントやテレビ出演などが相次ぐ。2001年にはデビュー・アルバムとなるクリスマス作品集『The Littlest Angel』を地元のレコードレーベルからリリース、“イースト・コースト・ミュージック・アウォード”の最優秀ポップ・アーティストにノミネートされている。同時に初のツアーも行い、ノバスコシア全域で成功を収めた。



ケープ・ブレトン島があるこのノバスコシア、“ニュー・スコットランド”という意味合いを持つように、18世紀頃にはケルト民族の大がかりな入植があり、ケルト文化の影響が非常に強い地域だ。音楽、そして歌は人々の日常生活において非常に重要な位置を占めており、絶対音感の持ち主でもあるアゼリンはそのような環境の中で子供の頃から歌を歌って育った。

いまだに雄大な自然がその姿を残すこの地域で生まれ育ったアゼリンの声は、例えて言うならば無限の可能性を秘めた原石である。まだなんの色にも染まっていない、彼女のピュアで自然体の才能は聴く人の心の奥底に眠る“輝き”を呼び覚ましてくれる。



アゼリンのデビュー・アルバム『スウィート・イズ・ザ・メロディ』は北米及びカナダでは2002年の10月8日に発売された。このアルバムには「ライズ・アゲイン」「ゲッティング・ダーク・アゲイン」などといった、ケープ・ブレトンに深く流れるケルト文化の影響を受けた曲の数々が収録されている他、マイク・オールドフィールドのヒット曲「ムーンライト・シャドウ」のカヴァーや人気ロック・バンド、トラヴィスの「ドリフトウッド」のカヴァー、さらには彼女が名声を得るきっかけとなった「ザ・アイランド」も収録されている。カナダが誇るアイリッシュ・フィドルの名手、ナタリー・マクマスターも3曲で参加している。



同作は北米でヒットを記録し、イースト・コースト・ミュージック・アウォードでアゼリンは最優秀女性シンガーを含む2部門でノミネートを受けた他、カナダのCBCやアメリカのPBSなどといったテレビ局で特番も組まれた。

日本ではTV-CMに「ムーンライト・シャドウ」が起用され、アゼリンの名前は一躍広まった。本人も2003年にはプロモーションのために日本を訪れ、得がたい経験を数多くした。



そうやって、プロモーションなどで世界各国を巡るうちに、アゼリンの胸に芽生えつつあった一つの思いがあった。

「自分の音楽を創りたい」

人が書いた歌を歌うだけじゃなく、自分で書いた歌を歌ってみたいというアゼリンの思いはどんどん膨れ上がっていった。また、様々な経験をする中で段々自分が求める音楽というものが見えてきたのだった。

そしてファースト・アルバムのプロモーションが一段落すると、アゼリンは早速次回作に意識を向け始めた。既に詩を書き綴っていたアゼリンはそれを作品としてまとめ始める。

「家で歌詞を書いてみては、それをもとにギターで色々と試してみたの。レコーディングはトロントでやったんだけど、一緒に曲を手がけてくれたみんなと合流して、私のアイディアを元に膨らましていったの」

信頼できる仲間に手ほどきを受けながら、アゼリンはそのソングライターとしての個性を伸ばしていった。



この頃、アゼリンの元にもう一つ嬉しい話が舞い込んでくる。アゼリンがギターを弾くことを聴きつけたフェンダー・ギターが、エンドースメント・アーティストになってほしいと持ちかけてきたのだ。

「フェンダーから初めてもらったギターはニルヴァーナのカート・コベインが使っていたのと同じジャグ・スタング・モデルだったの。もう最高!もちろん私のは右利き用だったけどね」



そして完成した11曲はいずれもアゼリンが作詞、そして作曲で関わったものばかり。サウンドはポップ/ロック色が強くなっているが、非常にアーシーな雰囲気で、驚くほどまっすぐな作品ばかり。まるで成長を続けるアゼリンの“今”が伝わってくるかのようだ。歌詞の世界から見えてくる揺れ動く少女の繊細な心情は、シンガーからアーティストへ、少しずつ階段を上り続ける彼女の姿と重なって限りなくリアルな響きを持っている。

「曲は全部、私自身が体験したことや、親しい友人の経験に根差しているの。ごくごく日常的なことばかりだからきっと聴いてる人にも伝わりやすいと思うわ」

「私にとって支えてくれるファンはとても大事なの。確かに前作から比べたらかなり変わったと思うけれど、結局私は私自身でしかないのよ!」