イル・ディーヴォ・オフィシャル・インタビュー

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2011年6月の来日の際の予告通り、12月にニュー・アルバム『ウィキッド・ゲーム』のプロモーションのために再来日を果たしたイル・ディーヴォ。前回の来日時から自信作と語っていただけに、最新アルバムは進化するイル・ディーヴォ・ミュージックを象徴する見事な内容となった。また、ワールド・ツアーの一環として、3月には待望の来日公演も決定している。まさに、絶好調の4人が来日時に語った最新インタビューをお届けしよう。


Q: 予告通りニュー・アルバム『ウィキッド・ゲーム』はすごい内容になりましたね。例えば、私の従弟の子供があなたたちのファンになったりして、ファンの層も広がってきたと思いますよ。

セバスチャン(以下S):確かにファン層が広がってきたことは実感しています。若いオーディエンスも増えたし、男性のファンも多くなってきました。男性がガールフレンドと一緒に私たちのコンサートに来てくれると、そのまま私たちのファンになってくれたりします。今度のアルバムが幅広い層に支持されているのは、「ウィキッド・ゲーム(メランコニア)」や「フォーリング・スローリー(テ・プロメト)」を入れるなど、選曲の影響も大きいと思います。私の印象ですけどね。意識的にファン層を広げるために選曲したわけではなく、単にいい曲を選んだ結果なのですけどね。

Q: デビュー作に入っている「マイ・ウェイ」のような、比較的年齢層が高い人に支持されるスタンダードだけでなく、色んな層に受ける選曲が絶妙ですね。

S:ありがとう。

Q: タイトル・チューン「ウィキッド・ゲーム(メランコニア)」のオリジナルのアーティスト、クリス・アイザックとは実際に会いましたか。

カルロス(以下C):ノー、まだ会っていないです。会いたいですね。

S:オーストラリアにいる時、会うチャンスはあったのでけど、実現しなかったのです。

C:当初クリス・アイザックは私たちが彼の曲を取り上げることを快く思っていなかったようですが、彼のお母さんが私たちのファンで、アイザック家はイタリア系だから、イタリア語で歌うのならいいのではないかと提案したらしいのです。それでイタリア語でレコーディングしたら、本人やお母さんから祝福してもらえました。

Q: その祝福はメールできたのですか。

S:メールじゃなくて、レコード会社経由で聞いていました。もっとも、どういう経緯で祝福してくれたのかファジーな部分もあったのですけど、数か月前にオーストラリアに行った時、あるジャーナリストが私たちの前にクリス・アイザックにインタビューしていて、そのことについて本人の言葉を聞いていたのです。その後、彼が私たちをインタビューして教えてくれたのです。

Q: 前の公式インタビューでは、ウルスが「アダージョ」について説明してくれましたが、同曲だけでなくすべての曲がサプライズです。

ウルス(以下U):本当に? なぜサプライズなのですか?

Q: どの曲もカヴァーであったり元のメロディがあったりするのに、オリジナルの魅力を活かしつつ進化させているからです。

U:ありがとう、とっても興味深い意見です。ニュー・アルバムのレコーディングでオーケストラの指揮をしてくれた若いスウェーデン人のカール・ヨハン・アンカルブロムが私たちの音楽を「21世紀のクラシック音楽だね」と評してくれたのですが、興味深い意見だと思いました。クラシックの音楽家が書いた音楽がクラシックで、現在のソングライターが書いた音楽がポップ・ミュージックという明確な分類がありますが、クラシック・アーティストが書いた作品しかクラシック音楽になり得ないのか、それはおかしいのではないかと思うようになりましてね。クラシックだって、誰もが聴きやすいポピュラー・ミュージックにならなくてはいけないとね。アーティストとリスナーがお互いに音楽を通して共感出来ることが大切ですよね。私たちは3人がクラシックの勉強をしているけど、イル・ディーヴォの音楽はポップ・ミュージックとして浸透していますね。ニュー・アルバムはそんな私たちの立ち位置(世間的なジレンマ)を示すもう一つのクラシック・ミュージックだと自負出来ます。私たちはこのアルバムを通して様々な人々の心に到達出来ます、強く明確にね。私自身の希望を言えば、イル・ディーヴォの音楽だけでなくこれまでのクラシック音楽がもっとポピュラーになってほしいと思います。クラシカル・ミュージックは面白い時期に来ていますね。クラシカルの基盤がある作品をさらにオープンに出来る時期だと思うのです。

Q: 素晴らしい曲の一つ「クライング(ジョーランドー)」は、レベッカ・デル・リオのオリジナル音源を使っているのですか、それとも新しい録音なのでしょうか。

デイヴィッド(以下D):彼女と一緒にスタジオに入ったわけではないのですけど、昔の彼女の音源ではなく、新たにレコーディングしてもらいました。

Q: これから彼女とステージで共演する予定はあるのですか。

C:彼女とはアメリカでライヴ・パフォーマンスを行った時、バック・ステージで挨拶しています。2012年にアメリカで行うツアーではぜひ共演したいですね。LAあたりで実現させたいです。

S:「クライング(ジョーランドー)」は私にとっても特別な曲です。レベッカは今回イル・ディーヴォのために新たに歌ってくれました。彼女のヴォーカルをフィーチュアしたオーケストラの伴奏を聴きながら歌った時、心に響くような感動が生まれましてね。とても信じられないような感情が彼女の声に込められているんですね。レベッカには18歳でガンのために亡くなった息子さんがいて、その写真を前にして歌ってくれたそうです。本物の苦痛を込めた感情表現は信じられないぐらい感動的ですね。

Q: 日本のステージに彼女を連れてきてほしいですね。でも、すみれさんとも歌ってほしい。

S:そう、すみれとも歌いたいですね。

Q: 同じ曲でもレベッカとすみれと、フィーチュアしたシンガーによって違う印象を受けますね。

D:そうですね、私たちの場合、一つの曲でも色んな言語を使って表現するようにしています。様々な言語でトライしてみて、そこからベストの作品を選ぶという方法ですね。すみれと共演した(「クライング(ジョーランドー)」の英語ヴァージョンも満足出来る内容ですが、(レベッカと共演した)スペイン語ヴァージョンには、何か違う感動が生まれました。私たちの作品に異なる言語を取り入れているのには、そのような理由があるからです。私たちの歌声に何か特別な感動を生む要素があるんですね。

Q: これまでは名曲のカヴァーに混じってイル・ディーヴォが初めて歌うオリジナル曲もありましたが、今回の『ウィキッド・ゲーム』は、カヴァーであったりクラシックの名曲のメロディに基づいていたりする曲を主体にしていますが、特別な理由はありますか。

U:イル・ディーヴォがニュー・アルバムを作るニュースがミュージック・シーンに流れると、ソングライターたちから新曲の売り込みはよくあるのです。彼らは次の「マイ・ウェイ」を狙っているわけですからね。今回も200曲あまりの候補が上がり、アルバムにふさわしい曲を吟味することになりました。カヴァーが中心になったのはその結果であって、意識してオリジナル作品を排除したのではありません。

Q: 前作まで大活躍したプロデューサーのスティーヴ・マック(※スーザン・ボイルのプロデュースでも活躍)やクイズ&ラロシのクレジットが消えましたね。

D:我々がこれまでのアルバムの音楽表現を成長させる過程で、スティーヴ・マックは大きな貢献をしてくれました。アルバム『プロミス』ではアルバム全体のイメージ作りで大きな役割を果たしてくれましたね。今回他のプロデューサーを起用したのは、もう一度私たちの音楽表現で最良の方法は何かを自問自答するために、候補の数名のプロデューサーを起用して最初のレコーディング・セッションをした結果です。もっとも、『プロミス』に参加してくれたパー(パー・マグノソン)やデイヴィッド(デイヴィッド・クルーガーとはまた組むチャンスはありましたし、新しく参加してくれたカール・ヨハン・アンカルブロムは同じデモでも私たちが望んでいた新しい表現を提供してくれました。カール・ヨハンを起用した最初のアルバムですが、彼の才能はデモ・テープの段階で開花していたのです。映画音楽のスコアのように、私たちの表現にぴったりだったし、映画的にドラマティックだった。それで彼と組むことにしました。その成果はあったと思いますね。新作を作る前の彼はもっとも遠い存在でこれまでのプロデューサーとはまったく違う存在だったのに、『プロミス』とは違うイル・ディーヴォ・ミュージックを表現してくれました。

Q: アルバムにハイライトでカップリングされたDVDやその完全版のDVD映像作品『ライヴ・イン・ロンドン』では、2011年8月にロンドン・コロシアムのライヴ・パフォーマンスを収録していますが、この時に披露した新曲もパーフェクトな内容ですね。もうこの時期に新しいスタイルが表現確立されていたということですね。

C:私たちが一曲レコーディングする際は、ツアーでどのように表現するのかもポイントにしてリハーサルしています。皆さんが想像しているほど長い時間ではないですよ。一緒に試行錯誤しながら作り上げることは私たちにとって楽な作業ですね。バラードのハーモニーは私たちにとってお手の物ですからね。だから、ロンドン・コロシアムで披露した新曲は、自信を持って披露しました。

Q: 話を伺っているだけで、2012年のワールド・ツアーに期待してしまいます。

S:ツアーの演出家と話し合ったコンセプトは、「シルク・ドゥ・ソレイユ」やセリーヌ・ディオンのラスヴェガスのショーにリンクするイメージです。プロダクション自体はシンプルだけど、ものすごくエレガントな内容にしたいですね。イル・ディーヴォとオーケストラの共演という点ではこれまでと同じですが、声の構成からライティングまで、これまでとは違った新しい表現を目指すつもりです。今のイル・ディーヴォ、イル・ディーヴォの声に期待してもらいたいですね。

Q: 来日公演を楽しみにしています。

S:ありがとう、ところでチケットはどうするのですか?

Q: もちろん、手に入れますよ。

S:ハーフ・チケットのサービスで?

Q: それもいいかな。

S:すいません、つい冗談を言いたくなって…。

Q: いいですよ、そのユーモアのセンスを気に入っていますから。

S:ありがとう!

一同:(笑)

(インタビュアー:村岡祐司 2011年12月16日東京にて)

ウィキッド・ゲーム

イル・ディーヴォという名の社会現象は、この春ロイヤル・アルバート・ホールにてクラシカル・ブリット・アワードの栄誉を手にした。自らの名を冠し、マルチ・プラチナ・アルバムに認定された2004年のデビュー作で初めて存在を世に知らしめて以来、4人が他の追随を許さない成功を収めてきたことが、「アーティスト・オブ・ザ・デケイド(この10年を代表するアーティスト)」賞によって証明されたのだ。その後イル・ディーヴォは「アンコール(原題:Ancora)」、「オールウェイズ―SIEMPRE―(原題:Siempre)」、「プロミス(原題:The Promise)」とナンバー1アルバムを連発してきたが、彼らはそのすべての過程において、その芸術的使命を忠実に守ってきた。それは自分たちの持つ音楽への情熱や、一つのグループとして音楽を熱く信じる気持ちを世界と分かち合うことである。

数々の記録を打ち破ったクラシカル・クロスオーヴァー・カルテットを構成するスイス人テノールのウルス・ブーラー、スペイン出身のバリトン、カルロス・マリン、フランス人ポップ・アーティストのセバスチャン・イザンバール、アメリカ出身のテノール、デイヴィッド・ミラーが初めて一同に会したのは2003年。音楽プロデューサーのサイモン・コーウェルが、グループとして音楽のマジックを起こす力のあるたぐいまれな才能を持つシンガーを4人求め、徹底的なサーチを行った結果である。

イル・ディーヴォはその鮮烈なデビューを飾ってから6年の間に、レコーディング・アーティストとしてもパフォーマーとしても成長し続けた。そして世界中に何百万といるファンたちも、彼らと音楽という旅を共にしている。

2,500万枚を売り上げ、ゴールド・ディスクやプラチナ・ディスクに150回認定され、200万枚以上のコンサート・チケットを売り上げ、アメリカのビルボード・トップ200チャートで初登場1位を獲得した唯一のクロスオーヴァー・クラシカル・アルバムとなった「アンコール」を持つイル・ディーヴォは、その栄光に安住しても許されただろう。しかし、彼らは決してそんなことをしなかった。「私たちは常に上を目指しています」とウルスは強調する。「もっと高いところを。何か新しいことをするときは、前よりいいものにしたいのです。今のところずっとそうできていますから、とても満足していますよ」彼は新作をこのように語る。「前よりずっとシリアスでずっと成熟した内容になりました。私たちがデビューしてからというもの、僕たちのようなことをやろうとする人々が続出しました。だからこそ私たちは変わる必要があったのです。そうしないと私たちにとってもオーディエンスにとっても面白くなくなってしまいますからね」

さて、アーティストとして新たな挑戦を受け入れるイル・ディーヴォの決意に沿うように、彼らの音楽人生は新たな展開を迎えようとしている。カルロス、デイヴィッド、セバスチャン、ウルスは、この1年半をレコーディング・スタジオで過ごし、アルバムの制作に取り組んできた。11月に発売されるこの作品は、彼らのたぐいまれな物語の新たな一章を書くこととなる。セバスチャンによると、4人はセッションに臨むにあたり、それぞれ自問したという。「『どうすればより良いものを作れるだろう?』と考えました。イル・ディーヴォを新しいプロジェクトとして考える試みだったのです。このグループは時間的にも情熱的にも創造力的にも、私たち全員にとって大きな投資ですからね」

カルロスは新作のレコーディング・プロセスについてこう説明する。「信じられないほどの進化を感じ取ることができます。私たち一人一人を結ぶ絆も、4人のコンビネーションがマジックを生みだす力も、今まで以上に強くなっていますよ」ウルスは、クリス・アイザックの1989年のヒット『ウィキッド・ゲーム』のドラマティックで印象的なカヴァーや、ロイ・オービソンの名曲『クラシック』の衝撃的に美しいヴァージョンが収録されているという新作の音楽的・コンセプト的ヒントを与えてくれた。「サミュエル・バーバーの『弦楽のアダージョ』を改作したものをレコーディングして、新しいコーラスを付け加えました。信じられないほどドラマティックになりましたよ。アルバム全体もそんな感じです。クラシックの弦楽曲やピアノ曲に根ざした素材に手を加えてみました。例えばもう一つの新曲は、ベートーヴェンの『月光ソナタ』が基になっているんですよ。ハーモニー的にもいっそう興味深いものになるはずです」

ものを分類しなければ気が済まない者たちにとって、イル・ディーヴォの登場は当初悩みの種となった。イル・ディーヴォの音楽はどう説明すればよいのだろうと戸惑ったのだ。あれはオペラだったのか?ポップ・オペラ?ミュージカル・シアター?しかし、イル・ディーヴォを分類化しようという試みは、毎回愚かな駆け引きに終わってきた。そうしようとすることは、彼らの行いの主旨や、各メンバーが持ち寄ってくる才能の本質からずれることになってしまうのだ。ウルスはクラシックの声楽の教育を受けているが、10代の頃はヘヴィ・メタル・バンドをやっていたという(今も情熱的なギタリストである)。セバスチャンはイル・ディーヴォ以前もポップに根ざしており、フランスのシングル・チャートの頂点を極めるとともに、このジャンルに引き続き傾倒しているが、近年は俳優としても活躍している。カルロスはミュージカル・シアターやベルカント唱法にほぼ一生分の情熱をつぎ込んでおり、10歳になるまでに2作のアルバムを発表している。オペラの特訓を受けたデイヴィッドは、近年はオペラとミュージカル・シアターの両方で活躍しており、ブロードウェイではバズ・ラーマン脚本の「ラ・ボエーム」の主役を務めている。彼らのバックグラウンドをほんの一部知るだけでも、イル・ディーヴォがたぐいまれな多彩さ、経験、献身、造詣の持ち主であることが分かる。

デイヴィッドによると、人間は感情で音楽に反応し、その音楽の分類にこだわるよりも心を奪われる傾向が強いのだという。イル・ディーヴォの新作では、4人のシンガーが「勿論クラシックのテクニックを使っています」という。「そして何より、映画的な、ドラマティックな方向に転換しているのは確かですね。オペラ的方向性が増していると言えるでしょう」。しかし、だからと言って彼らの音楽がオペラのみ、ポップスのみ、何かのみになっている訳ではないとデイヴィッドは付け加える。イル・ディーヴォはむしろ「コミュニケーション、感情、情熱」がすべてなのである。ウルスはこう言って笑う。「いずれにせよ、境界線が曖昧になると純粋主義者は苛立つでしょうが、曖昧にするのはいいことだと思いますよ」

新作の発売を心待ちにしている彼らは、今にも駆け出さんばかりである。そして彼らは、ファンから絶えず受けている愛情と忠誠を忘れない。「それが一番の成果だと思うからです」とセバスチャンは語る。「ファンのみなさんに会えるというのは、どんな賞よりも大きいですよ。しかも7年も経ってもまだ居てくれるのですから」デイヴィッドにとって、イル・ディーヴォが他と一線を画す理由は「僕たち4人の声が織りなす色の多彩さ」だという。彼らの声や“色”が感情、美、力を伝え、彼らが留まることを知らないことこそが、イル・ディーヴォとそのファン達が音楽という旅を続けることができる理由だと彼は信じている。ウルスは、彼ら自身と同様ファンにも喜んでもらえる新作ができたといい「最高傑作だと思いますね」と誇らしげに顔を輝かせる。ならば仕事に戻るのが待ちきれないだろうと思うが、その言葉がカルロスは気に入らないらしい。「これは仕事ではありません」とほほ笑むと、彼はこう言った。「情熱なのです」

「ウィキッド・ゲーム」は2011年11月、ついに発売される。

メンバーによる楽曲解説

Wicked game / ウィキッド・ゲーム
ウルス:「新作のタイトル曲『ウィキッド・ゲーム』は、言うまでもなくクリス・アイザックのカヴァーです。僕たちはイタリア語で録音して『メランコニア』というタイトルを付けました。実はクリス・アイザックのお母さんがイタリア出身で、彼からお母さんのためにということで特別に頼まれました。カヴァー・ヴァージョンに自分らしさを加えようとするとき、原曲のアーティストが認めてくれるとすごく幸先がいいですね。レコーディングはスウェーデンのスタジオで行いました。確か12月頃のことです。気温はマイナス20度くらいでしたが、かなりホットに仕上がったと思いますよ!このアレンジで、曲全体が新しい局面を迎えたと思いますね。ヴォーカル的にも全力を出し切った、とてもエキサイティングでドラマティックな曲になりました」

Crying / クライング
セバスチャン:「『クライング』はとても特別な曲です。ある日家に帰ると、『プリズン・ブレイク』を見ていた妻が『ねえ、すてきな曲が流れていたのよ。あなたにきっと合うと思うわ』と言うので『そうか、じゃあかけてみてくれ』と返しました。ビデオではレベッカ(・デル・リオ)がア・カペラで歌っていて、とにかく美しい響きでしたね。親密な雰囲気の曲で、途中でとても力強くなるところも僕たちにぴったりだと思いました。レベッカはこの曲を録音するとき、癌で亡くなった息子さんの写真を持っていたそうです。そういう話を聴くのはとても悲しかったですね。確かかなり若くして亡くなったはずですから。その息子さんの写真を持って歌った彼女の声からは、愛情と苦しみが強く感じられました。とにかく本当に、本当に特別な曲です。彼女の声を聞くだけで心が豊かになった気がしました。彼女と一緒に歌うのがとても自然な流れに思えました」

Don’t Cry For Me Argentina / アルゼンチンよ、泣かないで
カルロス:「『アルゼンチンよ、泣かないで』も、僕たちのお気に入りの一つです。個人的にも気に入っていますが、それは勿論、自分が過去に色々なミュージカルをやってきたことからきています。これはアンドリュー・ロイド・ウェバーがエヴァ・ペロンの人生を描いたミュージカル『エビータ』からの曲です」

デイヴィッド:「『アルゼンチンよ、泣かないで』のどこが特に気に入っているかといえば、イル・ディーヴォが通常歌うような曲の範疇を大いに超えているところですね」

カルロス:「この曲をレコーディングすることになったときは、勿論かなり驚きましたよ。元は女性向けに書かれた曲ですから、誰も僕たちがこの曲をやるなんて予想もしませんからね。でもとても楽しかったですよ。この曲も僕たちらしく仕上げられましたし、僕たちなりのやり方で一緒に作っていくことができました。全体のアレンジもヴォーカルのアレンジも、我ながらよくできたと思います。出来上がりにはかなり誇りを持っていますし、満足していますよ」

デイヴィッド:「イル・ディーヴォのスタイルはそもそもがドラマティックですから、こういう非常にドラマティックな曲を与えられることで、いっそうそのステージが高まる気がします」

Dov’e L’amore / ドーヴェ・ラモーレ
ウルス:「『ドーヴェ・ラモーレ』はイタリア語で“愛はどこに?”という意味です。サミュエル・バーバーの『弦楽のためのアダージョ』をモチーフに書かれています」

セバスチャン:「何世紀も前に書かれたかのような響きがする曲ですね。クラシックな曲をモダンにアレンジし直したような」

ウルス:「このアルバムの中でも個人的なお気に入りのひとつです。音楽的にとても興味深い内容なのですよ。とても静かに始まってものすごく大きい音になる、とてもドラマティックな展開をする曲でもあります。僕たちは今回のアルバムへの収録にあたって、今までやったことがなかった、4人でのユニゾンを試みました。通常は4人が4つのパートを歌うハーモニーが効果的だったりしますが、4人が全員同じメロディを同じ音域で歌うというのは、実際にやってみたら、非常にパワフルなものになりました」

セバスチャン:「歌っていてとても楽しい曲ですね。ブリット・アワードで歌ったときは、我ながら鳥肌が立ってぞくぞくしましたよ」

Falling Slowly / フォーリング・スローリー
セバスチャン:「『フォーリング・スローリー』は以前から大好きだった曲です。『ONCEダブリンの街角で』という映画で広く知られるようになった曲で、何てすてきな曲だろうと思いました」

ウルス:「アルバムには緩急が必要だと思うのです。10曲もあれば、アップテンポな曲も少しは必要だということですね。この曲はその役割を十分に果たしていると思います」

セバスチャン:「とても繊細な曲ですね。大仰なエンディングや壮大なハーモニーがあるわけではありませんから」

ウルス:「とにかくメロディがとても美しく、それを美しいアレンジが支えています。僕たちもできるだけきれいに歌ったので、そのように仕上がっていると思います。3分半の間、美しい音楽をご堪能いただければ」

Come what may / カム・ホワット・メイ
デイヴィッド:「『カム・ホワット・メイ』はこのアルバムの中でも個人的に好きな曲のひとつです」

カルロス:「この曲は特にアレンジが格別ですね。オリンピックで使われているアレンジにかなり似ているということで、例えば(ロンドンの)コロシアム劇場で公演したときには、この曲をオープニングで歌いました。フィナーレの部分が壮大な発表をするときのようで、素晴らしいアレンジになっています」

デイヴィッド:「この曲は聴いてすぐに惚れ込みました。『アンブレイク・マイ・ハート(レグレサ・ア・ミ)』をレコーディングすることにした時と同じような気持ちになりましたね。この曲には何か本当に特別な魅力があることを確信したのです。僕たちがきっと本当に美しいヴァージョンを作ることができるだろうと。ええ、出来上がりにはとても満足していますよ」

Senza Parole / センツァ・パローレ
ウルス:「『センツァ・パローレ』はベートーベンの『月光ソナタ』に基づいて書かれたインストゥルメンタルの名曲をアレンジしたものです。長い間親交のあるスウェーデンの作曲家ヨルゲン・エロフソンが『月光ソナタ』から素材を引き出し、ポップ・ソングを作り上げました」

セバスチャン:「『センツァ・パローレ』は『グラディエーター』のような映画で使われていてもおかしくない曲ですね。そんなイメージをずっと持っていましたから、とても雄々しい気持ちでスタジオ入りしました。すると、前作に比べて、アルバムのすべての曲が新しい高みへと引き上げられたのです。とても男らしく力強い曲で、カリスマ性のあるところがとても気に入っています」

ウルス:「僕たちの声に合う曲ですね。普段からやっている4人のアレンジがこの曲にもぴったり合いました。ドラマティックでメリハリのある素晴らしい曲をアルバムに入れられることになりました」

Stay / ステイ
セバスチャン:「『ステイ』は…そうですね、シェークスピアズ・シスターのヴァージョンのデモテープが送られてきたのを思い出します。オリジナル・ヴァージョンです。素晴らしい声の持ち主だとは思いましたが、この曲をアルバムで取り上げるかどうかはあまり確信が持てませんでした。曲の”uh-oh”の部分をどうやって歌うかというのもありましたし、恐らく歌わないだろうとは思いましたが、それでうまく行く自信もありませんでした。どんな感じになるのか、とにかく見当がつきませんでしたね。ところが、『フォーリング・スローリー』の時のような大きな奇跡がここでも起こったのです。このアルバムには退屈だと言える曲がひとつもないと思っています。本当に力を注ぎましたからね。『ステイ』はシンプルであると同時に魅惑的な曲でもあります。僕たち一人一人の声がよく表れていると思います。今までやったどの曲とも違うものになりましたね。とても気に入っています」

Sempre Sempre / センプレ・センプレ
デイヴィッド:「『センプレ・センプレ』はこのアルバムに入れるにしては予想外の曲だった気がします。レコーディングを始めた当初はなかなかうまくいかず、様々なことを試みながら相談し直したり作り直したりして、ようやく心から満足できるものに仕上がりました。アルバムの中に緩急を生みだすのにとても役立っていると思いますね。『タイム・トゥ・セイ・グッバイ』や『カム・ホワット・メイ』のように壮大なクラシック風の曲もあり、『センプレ・センプレ』のようにもっとポップス寄りの曲もあることで、バランスが取れていると思います」

Time to say Goodbye / タイム・トゥ・セイ・グッバイ
デイヴィッド:「『タイム・トゥ・セイ・グッバイ』は象徴的な曲です」

カルロス:「素晴らしい曲ですよ。何も言うことはありませんね。個人的には『誰も寝てはならぬ』などと同等に考えています」

デイヴィッド:「聴いての通り、確かに僕たちは正統派クラシックの世界とは一線を画しています。あれはあのままでパーフェクトですからね。ですが、『タイム・トゥ・セイ・グッバイ』はクラシックとよく似た雰囲気を持っているからこそ、僕たちの声の豊かな部分を思い切り発揮することができたと思います」

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