'70年作品。トゥリーズは女性ヴォーカルのセリア・ハンフリーズを中心とした英国の5人組のグループで、今作は彼等のセカンド・アルバムになります。フォーク・クラブに出入りし歌い始めるようになったセリアは身近な仲間達とフェアポート・コンンベンションをまねてバンドを結成します。彼等の作品は英国の田園風景を思わせながらも奥行きのある幻想的な面も兼ね備えており、中にはプログレッシヴ的展開を見せる曲も。しかしながらベースにあるのはトラッド・フォークで、今作は前作『ジェーン・ドゥロウニーの庭』に引き続きトラディショナル・ナンバーとオリジナル曲をバランスよく取り入れ、若々しさや瑞々しさはそのままながら一段と飛躍した演奏を聞かせる出来上がりとなりました。尚、少女が庭で水を撒いている極めて印象的なジャケットはヒプノシスのストーム・ソージャースンによるもので今作の価値を一層高めています。オリジナルのUKアナログ盤は希少価値が非常に高く現在でも極めて高値で取引されています。 |
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トゥリーズは1969年ロンドンで結成、1972年に活動停止と、その足跡を音楽史にほとんどとどめないまま消滅した。以来、『オン・ザ・ショア』の伝説は過去35年の間に、人知れず、ゆっくりと大きくなっていった。2006年春、アルバムの1曲「ジョーディ」が人気ポップ・ユニット、ナールズ・バークレイにサンプリングされる。ラドブローク・グローヴのレコード店マイナス・ゼロの店主に勧められ、プロデューサー、デンジャーマウスがリード・ギタリストのバリー・クラークとドラマーのアンウィン・ブラウンによる幻想的で美しい雰囲気に満ちたプレイをバックトラックに使い、ようやくこのアルバムが再び日の目を見ることになったのである。『オン・ザ・ショア』再浮上のタイミングは抜群だ。2006年6月、「フォークこそ新たなレア・グルーヴだ」と、ロンドンの情報誌『タイム・アウト』は高らかに宣言している。もっとも、ニュー・フォーク・ムーヴメントの吟遊詩人気取りたちは見せかけだけの、ただの懐古趣味のインディー・ロッカーに過ぎなかったが、『オン・ザ・ショア』は違う。このアルバムにおけるサイケデリックとフォークの融合はだれも耳にしたことのない、まさに無比と言うしかないものだった。アルバムを支配する奇妙で、超俗的で、不気味とも言えるほどの二律背反性を感じさせる雰囲気は、決して他者のまねを許さない、唯一無二の存在感を今も保ち続けている。 |