TOGETHER THROUGH LIFE

ボブ・ディラン『TOGETHER THROUGH LIFE』

2009年5月27日発売 SICP2235〜6 ¥2,730(税込) 初回生産限定盤/解説・歌詞・対訳付

2009年5月27日発売 SICP2237 ¥2,520(税込) 解説・歌詞・対訳付

2009年6月10日発売 SICP2250〜2 \4,410(税込)
完全生産限定盤/ポスター&ステッカー付/解説・歌詞・対訳付/日本語字幕付

『TOGETHER THROUGH LIFE』について

南部情緒漂うロマンティックな新作

「I love you pretty baby」と言う歌いだしで始まるディランの新作は南部情緒漂うロマンティックな新作だ。2006年『モダン・タイムス』以来、およそ3年振りとなる今作は、スタジオ録音作としては33枚目となる。当初、新作は‘09年の秋と伝えられていたのだが、映画への楽曲提供がキッカケとなり一枚のアルバムとして結実。その映画とは、オリヴィエ・ダアン監督『My Own Love Song』で、車椅子の生活を余儀なくされた元歌手と、彼女の友人が南部へ車で向かうのだが、互いの生活に襲いかかった悲劇に対して支え合いながら旅する道程が描かれているという。そんな予備知識を持って今作と向き合うと、合点がいく部分が多い。たとえばジャケットに使われた写真を見ると、この車は南部に向かって走っていると思えなくもない。抱き会う二人は男女か、男同士か、いずれにせよ愛し合う二人の写真に『ズッと一緒に』と言うタイトル。音楽スタイルの点では、ブルース・タッチの曲やテックスメックス風の曲など南部生れの音楽が並んだ構成となっている。よってその映画がディランの創作意欲を大いに刺激したばかりでなく、新作の方向性までをも示唆したと考えて間違いないだろう。

大変珍しい事だが、ニューアルバムの発売前にディランはインタビューを行った。その中で彼は「ぼくの歌を聴く人たちは様々で、意見も多彩。初期の作品が好きだと言う人もいれば、もう少し後の作品が好きだと言う人もいる。キリスト教時代のものが良いとか、90年代の歌が良いという人もいたりして、最近はその曲がいつ創られたかなんて事にこだわらなくなってきたような気がする。歌そのものをストレートに感じ、受け入れるから、強い思い入れで勝手にイメージをふくらませたりはしない。歌の中に邪悪な占星術師が出てきたとしても、それで世の中がどうにかなっちまうなんて思う人はいない。歌をそのまま、拡大解釈せずに受け取られるようになり、そしてぼくは自由になれた。」と語っている。今作での、音楽を心から楽しんでいる姿と通じる発言であり、この充実した作品の背景を知る事が出来る。そして、「新作は、ロマンティックな面が際立っている」とも語っている。

曲目解説

1. ビヨンド・ヒア・ライズ・ナッシン

今作のスタートを飾る曲が「この先には何もない」というタイトルで、思わずニヤリとしてしまうが、中身は意味深なラヴ・ソング。愛にまつわる事柄が寓話的に語られるのだが、心地良いグルーヴ感が味わえる曲で、奔放なヴォーカル、ブルージーなギタープレイと絡みつくアコーディオンの音色が耳に残る。ツアーメンバーをリズム隊に据えた安定と一体感のある軽快な演奏は見事で、ライヴ録音ではないかと思わせる程の出来になっている。

2. ライフ・イズ・ハード

マンドリンとスティールギターで緩やかに始まるスローテンポなバラード。一語一語をかみ締めるようなディランの歌唱法は、寂寥感が滲み出ており胸に迫るものがある。「あなたがそばにいないと/人生はとても厳しい」という事実を認める歌であるからだ。映画『My Own Love Song』のエンディングで使われる予定の歌であるが、映像が思い浮かぶつくりになっている。

3. マイ・ワイフズ・ホーム・タウン

妻帯者なら、殆どの人が共感するだろう、妻の実家や町を訪れたり滞在する事がどんなに苦痛な事か。そんな世俗的な風景から一歩踏み込んで作られたこの歌は、物騒なムードを孕んでおり、狂信的で保守的で貧困がはびこっている不毛の南部の田舎町が透けて見えてくる。凄みを利かせたディランのヴォーカルは、マディ・ウォーターズを思わせるほど太く男らしく存在感あるものになっている。

4. イフ・ユー・エヴァー・ゴー・トゥ・ヒューストン

テキサスへ向かう人への忠告や願い事が、ストーリーテリング的に次々と語られていくといったスタイルの歌。テキサスのアチコチには怖い所もあるし、わたしの女もいたし、行きつけの店もあった。そこへ行ったらわたしの代わりによろしくと歌うのである。既に離れてしまった、懐かしきテキサスを、愛情をもって描き、旅心をくすぐる出来上がりになっている。

5. フォゲットフル・ハート

緩やかなテンポで愛の喪失を訥々と描く。ややもするとアルバムの中で埋没してしまいそうな歌ではあるが、控え目な演奏をバックに聴かせるディランのヴォーカルは大変雄弁で、その表現力に驚かされる。

6. ジョリーン

男として落とすべき女が目の前に現れ、その女を手に入れると高らかに歌い上げた曲で、ブルース・タッチの軽快なリズムに乗せてディランの挑発的なヴォーカルが引き立つ。こうした曲を聴いていると、自らのヴォーカルの居場所を見つけたような、居心地の良さそうなディラン節にぐいぐいと惹かれてゆく。

7. ディス・ドリーム・オブ・ユー

今作のサウンド面で大きな特徴であるアコーディオンとヴァイオリンをフューチャーした、メロウな歌。夢見る事、それも君の夢を見る事で生きているわたし。夢なのか現なのか、危うく不確かな心象風景が穏やかに歌い紡がれる。

8. シェイク・シェイク・ママ

スタイルや歌詞に散りばめられたキーワードなど典型的なブルースで、聴き所はディランの力強いヴォーカルにある。こうしてブルースに没頭して歌っているのを聴くと、雑念を捨て去り音楽そのものを吹っ切れたように楽しんでいるディランの姿が浮かんでくる。なんと活き活きとして躍動感のあるヴォーカルであることか。

9. アイ・フィール・ア・チェンジ・カミン・オン

チェンジと言う言葉を目にすると過剰反応する昨今であるが、そうした先入観無しに聴くべき歌。曲としての完成度は高く、バンドの演奏も申し分ない。どこかで聞いたことのある馴染み易いメロディが、ヴァイオリンの音色もあって独特の懐かしさを醸し出しており、ゆったりとしたグルーヴが素晴らしい。今作を代表する曲の一つである。

10. イッツ・オール・グッド

ロマンティックな新作を締めくくるのは、皮肉に満ちた歌詞のアップテンポなブギウギスタイル・チューン。ギターのリフとアコーディオンが印象的でディランは、まくし立てる様に、世の中の惨状をあげていきながら、すべてよしと結んでいる。もちろん、投げやりに諦めているわけではなく、怒りの表現としてである。

クレジットなど

作詞は、ディラン作の「ディス・ドリーム・オブ・ユー」を除き、全てディランとロバート・ハンターとの共作
作曲は、ディランとウィリー・ディクソンの共作「マイ・ワイフズ・ホーム・タウン」を除き、全てディラン
プロデュースは、ジャック・フロスト(ディラン)名義
録音は2008年10月頃、カリフォルニアで行われた模様
ミュージシャンは、ハートブレイカーズのマイク・キャンベル(g)、ロス・ロボスのデヴィッド・ヒダルゴ(アコーディオン)、ディラン・バンドのトニー・ガーニエ(b)、ジョージ・リセリ(dr.)、ドニー・ヘロン(g)らが参加している

BIOGRAPHY

1941年、ミネソタに生まれたボブ・ディランは大学を中退してニューヨークに向かい、カフェでフォーク・ソングを歌い始めます。プロデューサーのジョン・ハモンドの目に留まり、'62年にレコード・デビュー。他人が取上げた「風に吹かれて」のヒットにより、まずはソングライターとして知られるようになります。公民権運動やベトナム戦争で揺れるアメリカにおいて彼の歌はプロテスト・ソングとして若者から支持を得てゆきます。やがてロックの要素を取り入れ表現の幅を拡げていった彼は、ビートルズと並ぶ影響力と人気を得るに至ります。定型に押し込められる事を極端に嫌う彼は、カントリーに接近したり、映画、フェスティバルやライヴに出演、キリスト教に傾倒した時期もあったりと話題に事欠かない60年代と70年代を過ごしましたが、この時期には数多くの名作アルバムも残しました。80年代末から開始したツアーは現在も続き、'97年には新作がグラミー最優秀アルバム賞に選出されるなど長きに渡って活躍。未だに話題多き、ポピュラー音楽界の最も重要なアーティストの1人です。

5月27日 同時発売

紙様、ディラン・・・
デジタルリマスターされ、待望の紙ジャケット第三弾!

  • 新しい夜明け SICP2006 ¥1,890(税込)
  • 偉大なる復活 SICP2008 ¥2,835(税込)
  • 地下室(ザ・ベースメント・テープス) SICP2010 ¥2,835(税込)
  • ディラン&ザ・デッド/ライヴ SICP2014 ¥1,890(税込)

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