Aimee Mann / @#%&*! Smilers
2008/09/24発売
<初回盤のみボーナスDVD付>
「Freeway」「31Today」のビデオクリップを収録
All songs written by AIMEE MANN
except: 12 by AIMEE MANN and GRANT LEE PHILLIPS/
9 music by AIMEE MANN and lyrics by AIMEE MANN and GRETCHEN SEICHRIST
Produced by PAUL BRYAN
Musicians:
AIMEE MANN - ACOUSTIC GUITAR, BOWED ACOUSTIC
PAUL BRYAN - BASS AND BACKGROUND VOCALS
JAY BELLEROSE - DRUMS
JAMIE EDWARDS - KEYBOARDS
ロサンゼルス在住のシンガー・ソングライター、エイミー・マンはそう語る。7枚目のソロ・アルバム「スマイラーズ」に収録されている、エイミーが丹精込めて書き上げた13曲には、成功や名声などの輝かしい光からは程遠いところにいる人々の精神生活が描かれている。ものごとの意味を求めて路上を彷徨う者たちもいれば、ショットグラスの中に見いだす者、テレビに映し出される青いトランス状態に身を委ねることによって見いだす者もいるが、そのような状態からの解放は金を支払うことによってやってくると信じている者もいる。エイミーは埃っぽいダウンタウンのボクシング・ジムというたそがれの世界に通うパンチ・ドランカーから、一度は一攫千金を当てたものの金運が一転急降下し帰郷した人物まで、いつもアメリカン・パイの一番小さな分け前にしかありつけないように思われる人々の、簡潔かつ鮮やかなポートレイトを描きあげている。ソウルフルで愛着を感じさせる曲たちは、何故かどこまでも希望に満ち楽観的である。エイミーはこう語る。
「ナルシスト、パフォーマー、エキセントリックな人々、知ったかぶりの人々…そういう人達のことを書いていると、世の中や自分に関する真実を認識するのに役立っている気がするの」
タイトルの「スマイラーズ」は、エイミーが長い間用いていたフレーズに由来する。今日私たちの回りに見られる、揺るぎなくハッピーで、キラキラと輝き、笑顔を絶やさないポップ・カルチャーを皮肉った表現である。
「ある記事に書いてあったんだけど、文化の違いに関わらず、人間が最も反応する唯一のものは、笑顔のイラストなんですって。ある友人と一緒によく笑っていたのよ。真っ先に『さあ、笑って!』と言うタイプの人って、オフィスにもその辺にも必ずいるじゃない?その手の人にいつも言われるのよ。『どうしてもっと笑顔になれないんだい?』なんてね。それで、その手の人たちをジョークで“@#%&*スマイラーズ”って呼ぶことにしたのよ。“@#%&*”には好きな卑語を入れたらいいわ。誰もがそういう人の存在を知っていると思うしね」
アルバムはその笑顔の裏にある、もっと深くもっと本心に近いものを追求していく。「スマイラーズ」は、美しいメロディや、陳腐をはるかに超えた洞察力の優れた歌詞を書くポップ界きっての個性派ソングライターとしてのエイミー・マンの立ち位置を改めて保証してくれるものとなるだろう。
「スマイラーズ」はコンセプト・アルバム「フォーゴトン・アーム」(2005年)と、季節限定発売だった「アナザー・ドリフター・イン・ザ・スノー」(2006年)の2作をリリースしたこの2年間の間に制作された。
「コンセプト・アルバムをやったら、今度は曲同士にあまり繋がりのないアルバム作りに立ち戻ってみたくなったのよ。追い求めるヴィジョンがあった訳じゃなかったから曲を書き続けてみたら、そのうちアルバムが一人歩きするようになったの」
彼女はまるで作家やジャーナリストがストーリーにアプローチするかのように、アルバム制作にアプローチしたのだ。キャラクターを見いだし、彼らの琴線に触れるものを知り、何かしら明確なものが浮上してくるまで、書いたり推敲したりを繰り返した。曲の多くは2007年に行われたリハーサルで、彼女とプロデューサーのポール・ブライアンとともに気に入ったサウンドに落ち着ける作業を行っていった中でさらなる進化を遂げている。
これまでのエイミーはやや寂しげでゆったりとしたサウンドを得意とする傾向があったのに対し、「スマイラーズ」ではさらに芳醇でスケール感の大きいサウンドにトライ、これまでに馴染みのなかったタッチも用いている。
「以前のどのアルバムとも違う音にしようとしたの。今回は違う味にしたかったから、エレクトリック・ギターの代わりにディストーションのかかったウーリッツァーやクラヴィネット、アナログ・シンセサイザーなんかを使ったのよ。リズム・セクションは豊かでオーガニックな音にして、その上に細かく織り合わされたキーボードの音を載せたの。それから、曲によっては本物のストリングス・セクションを起用したり、ホーン・セクションのアレンジを施したりもしたいってことも分かっていたわ」
彼女の簡潔な言葉で書く印象的な歌詞は、その豊かなアレンジにより、よりいっそう魅惑的な相乗効果をかもし出す。「スマイラーズ」の制作にあたり、彼女とブライアンはリハーサルでアイデアを洗練させ、スタジオ作業を1曲あたり1〜2テイクと簡潔に保つことにより、音が自然発生する余地をある程度残すことを望んだ。「そうすることで曲の新鮮さが保てるのよ。その方が本当の意味で音楽を体験してもらえるから。生命のあるリアルなものをより身近に感じてもらえるようにね」
「スマイラーズ」はマンのキャリアにおけるユニークな創作過程も反映している。「ザ・マグノリア・サウンドトラック」が成功を収め、アカデミー賞、ゴールデン・グローブ賞、グラミー賞にノミネートされた以降、エイミーの音楽とキャリアは新たな方向に向かった。
「『マグノリア』は、私の音楽や映画に対する考えを変えたのよ。ソングライティングを違う角度から見るようになったの。『フォーゴトン・アーム』は架空の映画に対するサウンドトラックみたいなものとして書いたのよ。ソングライティングの見方としては良かったわ。自分の頭を離れて、他のキャラクターの頭に入り込めるからね。いつも自分のことばかり書いていなくても済むし」
その感覚は解放的なものだった。そして、マンの新しい作品の大部分に、CDから飛び出てくるような、鮮やかで、実際に見た話を伝えているかのような感覚を与えたのだ。
「スマイラーズ」のオープニング曲は〈フリーウェイ〉。シンセサイザーを多用した、カーズに近いポップ・ソングのこの曲は、クリーンになって過去を断ち切るためにロサンゼルスにやってきたドラッグ中毒の友人にインスパイアされたものである。
〈シンガー・イントゥ・スターマン〉は、午後のクロスワード・パズルや、アン・セクストンが“rats”(ネズミ)という単語からアナグラムで”stars”(星)という単語を作った詩をヒントに生まれた。彼女はこのように説明する。「賛美を受けるにふさわしくない人を賛美するという歌なの」
〈ルッキング・フォー・ナッシング〉は、彼女が通うジムにいる数人の元ボクサーたちにインスパイアされたという。「歳を取って、それを追いかければ自分が幸せになるとずっと思っていたものを追いかけるのをやめる、人生の一時期について」の曲である。「空中ブランコの棒を手放して、まだ誰にも受け止めてもらっていない状態ね。地面にたたきつけられてしまうかも知れない、そんな状態」
〈フェニックス〉は、世界や、こじれてしまった恋愛関係を目の前にしたときの愛の無力さを深く掘り下げる曲。「断ち切り時や逃げ時を見極めるのは難しいこと」と主人公は歌う。「傷ついた心と楽しみのバランスを取らなければならないから」
〈ボローイング・タイム〉という曲は、そこはかとなく恐ろしさを感じさせる「白雪姫」風おとぎ話のように展開する。“針が彼女の小指を刺した / 彼女は血が連れてくる小さな子供が欲しいのだ”ハリウッドにおける最近の子供たちのゆく道に対する警告のようなストーリーの響きもある。
〈31トゥデイ〉はエイミーによると、わずかに自伝的であり、ボストンで若手アーティストとして暮らしていたときに抱えていた不安感を振り返っているという。「あの曲は、歳を取っていくことに対する不安感や、今よりしっかりしなくちゃダメだと思ってしまう気持ちをとらえているのよ」曲の主人公はこのように歌っている。“午後ギネスビールを飲みながら / 暗いねぐらに身を隠す / こんな人生になるはずはないと訳もなく思っていたのに / 今頃はもっといい人生を送っているはずだと思っていたのに”
〈ザ・グレイト・ビヨンド〉は外の世界や自然を、冒険の対象としてではなく、社会からの暗い逃避先として捉えている。
〈コロンバス・アヴェニュー〉と言う曲はサンフランシスコにある同名の通りにヒントを得た、中毒者の哀しい野心を完全に理解しようとする曲であり、このように問いかけてくる。“今のあなたにとってコロンバス・アヴェニューとは何? / 人生を成功させることに挫折した場所? / 腰砕けになって 逃げ出した場所?”
そして〈リトル・トルネード〉と(アメリカに古くからあるビールから題名を取った)〈バランタインズ〉は、問題を抱えた人々や、彼らが起こし得るカオスや癒しのポートレイトである。〈メディシン・ホイール〉はエイミーの姉妹である、画家兼アーティストのグレッチェン・サイクリストの書いた詩が基盤となっている。
「スマイラーズ」に収録されているもう1つの曲〈トゥルー・ビリーヴァー〉は、グラント・リー・フィリップスとの共作。カフェ・ラルゴ(注:ロサンゼルスにあるクラブ)の仲間であり、型破りなシンガー・ソングライターの彼は、エイミーと「アナザー・ドリフト・イン・ザ・スノー」ツアーを共にした。「この曲のさわりとコーラス部分を温めていたんだけど、そこにグラントが、曲を怪談にするという素晴らしいアイデアを持ち込んでくれたのよ」
これまでの熱狂的なエイミーのファンたちは、「スマイラーズ」が期待通りの美しい旋律に溢れていることに気づくだろう。新しいファンたちは、彼女の選ぶ簡潔な言葉の力強さに心を打たれるだろう。「スマイラーズ」は、比類なき曲職人の歓迎すべき復帰作なのである。